下っ端の俺氏、雇い先のボンボンに罪を擦り付けられて裁判にかけられる……んだが、実はボンボンより身分が高かった件。
※暴力要素があります。
※ちゃんねる形式ではないネラー王国物語ですが、チャット形式の部分があります。工夫はしたつもりですが、読みにくかったらごめんなさい。
ネラー王国の始祖は異世界から召喚された勇者の一団である。類まれな知性と発想と神から与えられた力で勇者たちは故郷の技術をこの国にもたらした。
上下水・ガス・電気に始まり、通信インフラも整備され、レンガ造りの街中でありながら、最先端のテクノロジーに溢れた国なのである。
そしてその技術の恩恵を(自称)最大限に受けているのが、大貴族グリューベルガ侯爵の三男坊、ラスティである。
彼は日がな一日自室にこもって心躍るネットゲームの世界に没頭している。学校を優秀な成績で卒業し、武芸に秀でた彼は色んなところから引く手あまただったのだが、ゲームが大好きな彼はそれをすべて蹴り、株取引で金を稼ぎながらネットゲームライフに身を捧げる選択をした。
だが、そんなラスティの計画に親の雷が落ちた。
「いい加減にせんかラスティ!! 日がな一日ゲームをしてお前には貴族の自覚がないのか!! 少しはベンハウゼン侯爵のご子息アントンくんを見習いなさい。彼は社交パーティをかかさず、あちこちに出かけて見識を広げているんだぞ!!」
愛用のステッキをへし折る勢いで握りしめ、実父ロンネルドが叫ぶ。うしろで夫を「まあまあ」となだめている美女が母親である。
「アントンのことでしたら見当違いですよ。彼は馬オタクです。社交パーティは『馬を愛でる会』で、参加者は全員同じような人間です。僕も誘われましたが馬をそこまで愛せないので断りました」
ラスティが反論するとロンネルドは顔を真っ赤にする。
「くぅ……とにかく!! 貴族に生まれたからには民のために尽くせ!! 趣味など二の次だ!! お前のゲームにかかる費用の出所はどこだと思っているんだ?! 民の血税なんだぞ!?」
「血税を使うわけないじゃないですか。投資とゲームの賞金で間に合ってます」
部屋から一歩も出なかった彼だが、ありあまる時間を有効活用して小遣い稼ぎをしていたのである。
「それならよろしい……わけないだろうが!! 小遣いを自分で賄ったとしてもお前は貴族の義務を果たしていない!! そもそもお前は民の暮らしが分かっていないのだ!! それがわかれば、いかに貴族の責務が大切か思い知るだろう。いいか、庶民の戸籍を用意したから貴族ではなく一般市民として生きてみなさい!!」
激高するロンネルドにラスティは「うぇ」っと変な声を出した。
「ち、地方となるとどんな地方なのでしょうか。ネラー王国以外は通信回線が整っていないので国境周辺は勘弁してください」
ラスティにとって電波と電気は必須。あれなくして生きていけない。狼狽えるラスティを見てロンネルドはため息を吐いた。
「まったく!! 心配するところはそこなのか?! フン、安心しろ。お前の行き先はフェルディトス男爵家領のベルベ地方だ。田舎街だが気候もいいし自然豊かでいいところらしいぞ」
ロンネルドの言葉にラスティは少しほっとした顔をした。王都から遠いが国境近くというわけではなく、ちょうど中間地点である。
「ネットができるなら文句はありません!! さっそく荷造りします!!」
ラスティは喜色満面で答えた。今まではひっそりと音量を小さくしてゲームをしていたが、田舎なら土地も広いだろうし問題ないだろうと高をくくった。
スキップしながら去る息子を見てロンネルドは額を抑えて嘆く。
「どうして喜ぶんだあいつは!! くそ、転んでもただで起きない奴め!!」
激高しながらもちょっと嬉しそうなロンネルド。その瞳には息子に対する愛しさが満ちている。
世間の荒波にもまれて立派な男になってくれとロンネルドは心の中で祈るのだが、そんな父親の心を知らず、ラスティは機嫌よく荷造りをしていた。
■
夜遅く引っ越し先に付いたラスティはまっさきに通信環境を整えた。
荷解きをそこそこにパソコンを取り出してすぐにゲームブラウザを開く。愛用のガン・コントローラを右手で握り、ログイン画面を出す。
大貴族でありながら全く貴族らしくないラスティだが、最近のネラー王国の都市部にいる若い貴族はそんなものである。ネットゲームの世界に身分の差などなく、あるのはアバターの強さのみ、それゆえラスティはなんの戸惑いもなくこの田舎町にすっかり溶け込んだのである。
機械に強いラスティはちょこっとした機器の修理や、端末の操作方法を教えたりして、ご近所との仲はすこぶる良好だった。
しかし、職場環境は最悪だった。
父のロンネルドは息子が苦労しないようにと領主の息子の側近の職を用意したのだが、その領主の息子が救いようのないアホ息子だったのである。
「都会で職にあぶれた無能を俺の側近にしろだなんて父上は何を考えているんだ。俺の側近は貴族じゃないとなれないというのに!!」
「まったくもってけしからんことでございます!!バレリオ様!!」
腰ぎんちゃくその一、リオーネがもみ手で頷く。
「バレリオ様がご所望なら、その平民をこの俺がぶっ潰してやりますぜ!」
腕力自慢の腰ぎんちゃく、ピエトロが鼻息荒く言う。
「まあ待て、潰すのはいつでもできる。ゴミクズでも場合によっては役に立つかもしれない。それまではせいぜい使ってやろうじゃないか」
にやりとバレリオは笑う。
こうしてバレリオによるラスティいじめが始まった。
本来なら側近として護衛や補佐をするハズだったのだが、ラスティに与えられた役目はなんと荷物持ちだった。
卒業以来、ゲームのコントローラより重いものを持ったことがないラスティは毎日が重労働である。それに何より、バレリオがうっとしいことこの上ない。
「あの、これって持ち歩く必要があるんですか?」
ラスティの目前には重そうな鉄製の防具がこんもり入った木箱である。戦争時ならいざ知らず、平常時にこんなもん持ち歩く必要性など見当たらない。
「バカヤロー!! バレリオ様が運べといったら運ぶんだ!!」
ラスティの顔にピエトロの拳が入る。
モロに食らってラスティは吹っ飛んだ。
『教官の拳より全然軽いけど、いてぇな……』
学校の対人戦を思い出しながらラスティは久しぶりの痛覚の刺激にうんざりする。
ピエトロはラスティが吹っ飛んだことで満足したのか、さっさと行ってしまった。
地面に転がっているラスティを助け起こしたのは通りすがりのヨハン爺さんで、誰かが呼んでくれた医師がすぐに手当てをしてくれた。
「お前さんも災難じゃのう。領主さまは良い方なのだが、バレリオ様は貴族以外を人間扱いしない方なんじゃ。悪いことはいわん。転職した方が良いぞ」
医師の言葉に他の人も頷く。
口には出さないが、この町の人たちは何らかの形でバレリオの被害にあっているらしい。
面倒くさがりのラスティだが、世話になった人たちが困っているのを見過ごすタイプではない。
『とりあえず、同期の奴らに視察に来るよう頼んどくか』
学校卒業後、引きこもりニートだったラスティだが、ネトゲ世界で学友たちとはしっかりと繋がっている。ラスティはさっそくその夜にゲームにログインし、チャットでいきさつを話した。
ラスティのHNはコタツムリである。ゲーム登録時、コタツを使っていたからである。
グループチャットに参加してくれたのは、王太子(HN:味付け玉子)、王太子の婚約者(HN:背脂豚骨)、騎士団長の娘(HN:騎士団子)、宰相の息子(HN:ネクラマンサー)の四人である。
王太子を筆頭に全員が大貴族で身分がとてつもなく高い。
幼稚園からの幼馴染なので気のおけない仲間なのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
味付け玉子:
ベルべ地方の暮らしは慣れた?
コタツムリ:
まあね。
自然豊かでメシがうまいし、夜更かししても文句言われないの快適ww
けど、領主の息子がアホすぎてマジでヤバイ
ネクラマンサー:
コタツムリ氏が教育してあげればいいでござるよ。王立学園首席卒業の底力を発揮するでござる。
コタツムリ:
あー無理無理。
話が通じるタイプじゃない。
俺、身分を隠して住んでるんだけどさ、俺が何か言うと「平民ごときが逆らうなっ!」って側近にブン殴らせるんだよなー。
騎士団子:
ほう、私に膝をつかせたお前が吹っ飛ばされたのか。興味あるな。
背脂豚骨:
まあ、それほどお強いのでしたら軍にスカウトしたくなりますわね。もちろん、性根を叩きなおした上でですけども。
コタツムリ:
身バレ防止のために抵抗しなかっただけだよ。騎士候補すら無理なレベル。期待させてごめん。
背脂豚骨:
残念ですわー。
というかザコならわざわざ監査を差し向けずとも、あなたが懲らしめればよいのではなくて?
大理卿騎士の称号は持っていますでしょ? れっきとした王の代理なんですから堂々と薔薇の御紋の印籠をかざして裁きなさいな。
地方の長官ごときが逆らえる身分じゃなくてよ。
味付け玉子:
コタツムリ持ってないよ
背脂豚骨:
は?
背脂豚骨:
うちの父上が「年は若いがアイツに与えようと思う」って言ってましたわよ。
味付け玉子:
コタツムリが蹴ったんだよ。
僕の書いた推薦状ムダになっちゃったよwww
背脂豚骨:
なんですって?
コタツムリ:
俺前々から言ってたじゃん。卒業したら引きこもりニートになるって。
ネクラマンサー:
有言実行……漢でござるなwww
目的がゲスだけどwwww
味付け玉子:
僕、お前のそういうとこ好きwwww
背脂豚骨:
ロイヤルデューティーを忘れるなんて貴族の風上にも置けませんわよ!
お前のお父様に言いつけてやるんだから!!!
コタツムリ:
俺、庶民に落とされたんでロイヤルデューティーないですww
背脂豚骨:
口八丁手八丁うっとしい奴!
一般人だとごり押しができないからやりにくいったらありゃしないわ。
背脂豚骨:
取り合えず、人はそっちに送りますけど日数はかかりますわよ。ベルベ地方、辺鄙過ぎて飛竜の発着場ないんですもの。
コタツムリ:
地理的距離はしゃーないよなー。
コタツムリ:
あ、ごめん、そろそろ寝ないと明日に支障がでるわ。
落ちる。おやすみー
味付け玉子:
おやすみー
背脂豚骨:
おやすみなさいませ
ネクラマンサー:
おやすみでござる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チャットを終わらせたラスティは泥のように眠った。
明日もバレリオによる過酷な労働が待っているからである。
■
今日も今日とてラスティはバレリオの下僕である。
しかし、なぜかバレリオは機嫌がよく、気味の悪い笑みを浮かべるだけでラスティを蹴るわけでもなく、怒鳴ることもなかった。
気味の悪さに身震いしていると、なにやら届け物がバレリオに届いた。
「バレリオ様。ご注文の品が届きましたぞ。お気に召すと良いのですが……」
目が落ちくぼんだ、怪しげな男が大きな箱を従者にもたせて応接室にやってきた。四人がかりで持つ箱はとてつもなく大きく、例えるなら馬車一台分の大きさである。
『おいまさか爆発物か? こいつテロでも企んでいるのかよ』
ラスティが身構える中、バレリオは怪しい手つきで観音開きの箱を開けた。
「ムッホー!!!! かっこいいー!!!!!!」
バレリオが叫び、ラスティは青ざめた。
中にいるのは絶滅危惧種の炎狼である。
口から炎を吐く大型の獣で、自然保護区でのみ存在する希少種である。いかつい見た目に反し、基本的には穏やかだが、驚いたりパニックになったりするとところかまわず炎を吐き散らして逃げ惑う、非常に扱いが難しい動物なのである。
ラスティはサァっと血の気が引く。
逆にバレリオは興奮して得意気な顔素をした。
「ハハッ!! やっぱり俺様ほどの男となるとペットはこれくらいじゃないとなあ。平民のお前じゃ一生かかっても見ることができないレアなんだぜ。俺様に感謝して土下座しな!!」
「さすがバレリオ様!! 貴族の中の貴族でございます!! オラ、平民。さっさと頭を下げて『バレリオ様。ありがとうございます』とお礼申し上げろ!」
リオーネはラスティをぎろりと睨みつける。
しかし呆然とするラスティは土下座することはなかった。
「ふざけんなド平民!! バレリオ様に礼も言えねえって言うのか! 俺が礼儀を叩きこんでやる!!」
ピエトロが腕をぶん回してラスティを殴る。
『ここで抗議してもどうせ取り合ってくれないだろうな……。背脂豚骨にあとで伝えよう。さすがに炎狼だったらすぐに手配してくれるはずだ』
吹っ飛ばされながらラスティは考えた。
バレリオたちはラスティが吹っ飛ばされたのを見て、せせら笑いながら退室した。
ぼこぼこにされたラスティはいつも一定時間うずくまる。正直、ピエトロたちの打撃は軽いのですぐに立てるのだが、そんなことをすれば奴らの場合、ヒートアップして面倒なことになる。
大人しくやられたフリをすると、バレリオたちは満足して去っていくのだ。
ちなみに、一つだけメリットがある。
むしろ、このメリットのためにやられてると言っても過言ではない。
「ラスティさんっ! ああ、今日もひどくやられましたね……。助けられなくてごめんなさい」
スカートをひらひらさせて駆け付けてくれるのはメイドのメラニーである。淡い色の柔らかな髪を後ろで束ね、丸みのある大きな目が魅力的な女性である。美人というより、可愛らしいのだ。
「大丈夫だから気にしないで下さい。それに、下手に止めてあなたが折檻されでもしたら大変です」
一度、ラスティを心配したとある従僕がピエトロにぶん殴られたことがある。それ以来、ラスティは「大丈夫だから手を出さないで」と言っている。わざとやられているのに二次被害が出たら申し訳ない。
「ラスティさん……。すみません。お役に立てなくてごめんなさい」
メラニーは救急キットを出し、手際よくガーゼに消毒液をつけてラスティの傷口に当てていく。
メラニーの柔らかい手が触れるたびにラスティはドキドキする。手当てのためとはいえ、メラニーはかなりラスティに近づいてくるのだ。
メラニーのシャンプーの香りがふわっと鼻腔をくすぐるとラスティはめまいがする。
時折、メラニーと目が合うと恥ずかしがりながら笑うのがとてつもなく可愛い。
『メラニーさんごめん。ほんとはわざとやられてます……』
心の中で謝りながら、ラスティは幸せに浸る。
学生時、ラスティは強すぎてむしろ相手をふるぼっこにする側だったため、救護のお姉さんに介抱されている同級生を羨ましく見ていたのである。
しかし、その極楽タイムも長くは続かない。
治療に時間がかかると他の使用人が心配してラスティを囲むからだ。
「ラスティ。大丈夫か? ベッドの準備はできているから俺が運ぶぞ」
と言ってくるのは大柄な従僕。
「何かして欲しいことはあるか? そうじゃ、薬湯をせんじてやろう」
と心配するのは老齢の執事、
「あたしはかゆを作ってくるよ。まってな!」
と言ってくれるのはメイド頭である。
ちなみに、ラスティの扱いに彼らは何度も止めようとしてくれるが、止まらないのがバレリオという男である。
彼は父親が不在であることをいいことに贅沢三昧の生活を送っている。
金が足りなくなったら領民から巻き上げ、はては麻薬密売にも手を出している。
だが、そんな生活長くは続かない。
王都から十日間かけて送られた書簡を見てバレリオは青ざめた。
中は王立騎士団が領地に異常がないか視察に訪れるというものである。もちろんバレリオの父親も同行して。
「ひぃぃぃー!!! 親父が戻ってくるってどういうことだよ!! 事業立ち上げに三年間は留守にすると思ってたのに!!」
領主は領民の生活向上のため、商会を立ち上げるべく王都で必死に働いているのである。バレリオが悪に染まったのは育て方が悪かったのではなく、彼本来の資質である。頭が良ければ悪のカリスマになれたかもしれない。
「く、くそ……悪事がバレちまえば親父にどやされる。下手すりゃどっかの修道院に預けられちまうかもしれん。どうすりゃあ……。そうだ!! ラスティの奴に罪を被せればいい。何しろあいつは屋敷に出入り自由だし、俺にくっついていたからな。俺の威光を笠に好き放題やっていたことにすればいい」
「なるほどさすがはバレリオ様!!」
リオーネが声を弾ませる。
「俺が取り立てた奴らにはラスティに命令されたと言えばいいんですね!?」
ピエトロの顔に笑顔が浮かぶ。
「はははは。俺の様の計画に狂いなどないのだ!!」
バレリオはそういって高らかに笑い、さっそく騎士を集めてラスティの家に向かわせた。
■
「ラスティ・ベドム。公金横領および保護動物売買、麻薬密売の疑いで逮捕する!!!」
コワモテの騎士に叩き起こされ、ラスティが面食らっている中、あれよあれよと身体に鎖を巻き付けられ、そのまま護送車にぶち込まれた。
口に猿轡をかまされ、助けを呼ぼうにもモゴモゴとしているだけである。
状況を理解できないままラスティが引き出されたのは高い塀に囲まれた広場で、闘技場のような円形の台の上に無理やり座らされた。
前方には長い机が置かれ、そこに立派な顎髭の壮年の男と身なりを整えたバレリオが椅子に座っている。
顎髭の男はラスティをちらっと見たあと、バレリオに話しかけた。
「ふむ。この男が諸悪の根源であっておるのか?」
「はい父上。彼は街で行き倒れていた浮浪者でして、哀れに思った私が拾い上げて側仕えとして雇ったのです。信用しておりましたので資産の管理を任せておりました。……彼の本性を見抜けなかった私の不徳とするところです」
目に涙を浮かべ、バレリオは顎髭の男……領主に向かい、嗚咽交じりで話す。
「しかし、バレリオ。執事や従僕からはお前がやったと言っておるぞ。そこの者を日常的に暴行し、虐げていたのではないか? 今も頭と腕に包帯を巻いておるし……」
領主はじとっとバレリオを見つめる。
バレリオはキラキラとした目を向けて答える。
「この男は人を誑し込むのが上手いのです!! 私を悪者に仕立て上げ、すべての罪をかぶせようとしていたのです。幸い、リオーネとピエトロという心強い仲間がいたため、私は陥れられずに済みました。彼らの友情に感謝です」
バレリオはぽろぽろと涙をこぼし、手を合わせて天を仰いだ。
クサすぎる芝居だが、領主はとても感動したらしく目頭を押さえて体を震わせた。
「おお……!! 今まで騎士爵や準男爵を見下していたお前がそんなことを思えるようになったなんてわしは嬉しい!!」
息子の成長にむせびなく父親にキラキラとした眼差しを送る息子の姿は感動的ではあるが、生贄にされているラスティにとってはうっとしいことこの上なかった。
ひとしきり泣き終えた領主は、ギロッとラスティを睨みつけた。
「バレリオの純真に付け込んで悪事を働くとは言語道断!! 鉱山での労働を言い渡す!! 期間は10年じゃ!! 己のしでかしたことを反省せい!!」
判決が下ったが、ラスティは猿轡をされているので反論ができない。フガフガと声にならない声でもがいていると、バレリオが叫んだ。
「父上。この者は口が達者です!! 猿轡を説けばまたもや口車に乗せられてしまうので閉廷といたしましょう!! すぐにこの者を鉱山に送るべきです!!」
「バレリオ。お前の言うこともわかるが、最後に謝罪の言葉だけでも述べてもらおうではないか。」
領主は立ち上がり、ラスティの近くまで来ると、手ずからラスティの猿轡を外した。
ラスティはようやく拘束から放たれ、大きく息を吐いた。
その時である。
領主がラスティの顔を覗き込んだのだ。
「ひぃっ……!!」
壮年の男に見つめられるという初体験にラスティは悲鳴を上げた。
しかし、それよりももっと大きい声をあげたのは領主の方だった。
「ひいいいいいい!!!!!!! こ、このお顔はっ……王立学園124期首席卒業のグリューベルガ侯爵のご子息でベルディール伯爵ではありませんか!!」
領主は叫ぶや否や、ラスティの前に平伏した。
「お前たち、何をボサっとしておる!! はやく頭を下げろ!!!! というかその前に手枷と足枷を外さねば!!!」
領主は大慌てでラスティの枷を外し、再びぺこぺこと頭を下げ始めた。バレリオはあまりの事に呆気にとられ、口をあんぐりと開けている。
「お、お前……貴族なのか……?」
唯一発した言葉がそれである。
「まあね。わけあって庶民の身分になってるけど、親はグリューベルガ侯爵で間違いないよ」
ラスティが言うとバレリオはその場で泡を吹いて失神した。
自分よりはるかに高い身分の男を日常的に虐待していた事実に気づき、その恐ろしさに耐え切れなかったのである。
リオーネとピエトロはぺこぺこしながらラスティに謝ってきた。
「大変申し訳ありません!!! ご理解いただけると思いますが、すべてバレリオの命令でした!! 私は逆らえなかったのです!!」
「すんませんでした!! 俺だってやりたくてやったわけじゃねえんです!!」
慌てふためく二人にラスティは失笑しか出ない。
「まあ、とりあえず弁明は取調室でやりなよ。お前らの言い訳が通用するかどうか知らないけどさ」
ラスティが言うと彼らは青ざめた。
大掛かりな悪さはバレリオ主導だが、彼らもバレリオの威光を笠に好き放題やっている。せいぜい豚箱で反省してくれとラスティは思った。
「ベルディール伯爵。この度は愚息がまことに失礼いたしました。本当にお詫びのしようがありません……!!」
領主はペコペコと米つきバッタのように謝っている。
「今回、俺だったから大事に至らなかったけど、これが一般人だったら取り返しのつかないことになってたからね。息子を盲信せずに信用できる監視を付けた方がいいよ。もしくは密偵を放つとかね」
ラスティがため息交じりに言うと領主は力なく項垂れた。
自分の父親と同い年くらいの人にそうされるのは居心地が悪く、ラスティは足早にその場から去った。
外に出ると町の人や屋敷の人が大勢集まっており、ラスティの無事が分かると皆が安堵した顔になった。
「ラスティさん、良かったです!! 領主さまが助けて下さったんですね!……あなたが捕えられたと聞いて私、とても心配しました」
メラニーがラスティに抱き着く。
さすがに中の騒ぎはここまで聞こえていなかったらしく、領主がバレリオの嘘を見抜き助けたと考えているようだ。
『本当のことを言っても混乱させるだけだし、本当のことは言わない方が良いな』
ラスティはそう考えて騒動の内容は伏せた。
「メラニーさん。心配させてごめんね。みんなもありがとう!」
ラスティが頭を下げると皆から喝さいが起った。
色んな人に抱き着かれて祝いの言葉を貰った。
その後、領主代行は親戚筋の優秀な人間が行うことになり、ベルベ地方の生活はがらりと変わった。
ラスティは領主代行の側近として忙しいが、まっとうな上司のもとでいい汗を流し、夜はネットゲームに興じるハッピーライフを送る。
たまにメラニーが訪ねてきて食事を作ってくれるので、休みの日にレストランに招待してお礼をしたりとプライベート面でも充実している。
一方、捕まったバレリオ一味だが脱走して指名手配犯になっている。万が一、仕返しにやってきても勝てる自信はあるので、ラスティは特に気にしていない。
■
一台の馬車に揺られ、バレリオとリオーネ、ピエトロは期待に目を輝かせている。とても脱走犯の態度には見えない。というのも、彼らは脱走中、とある紳士にスカウトを受けたのである。
「実は王都のさる貴族があなた方とお会いしたいと仰っているのです。ご多忙だとは思いますが、どうかいらして下さいませんか」
紳士の申し出にバレリオは一も二もなく頷き、自分にも運が向いてきたと狂喜乱舞した。
「ベルベ地方なんて田舎町でヘタ打ったところで王都で巻き返せばこっちのもんだぜ。ゆくゆくはラスティよりも上の身分になってまたこき使ってやる!!」
「土下座させられた仕返し、たっぷりとしてやりましょう!!」
リオーネが声を上げ、ピエトロが頷いて指を鳴らす。
三人がラスティへの復讐に燃えている間、馬車はとある屋敷に着いた。
王都の地理はわからないが、手入れの行き届いた森林が見えることから、郊外にある狩場かもしれないと思った。
古いが手入れの行き届いた洋館はどれもかしこも一目見て最上級とわかる調度品で溢れていた。キョロキョロとあたりを見回すバレリオたちは明らかに不審者だったが、紳士は特に咎めもせず、突き当りにあるひときわ大きな扉の前まで連れて行った。
「この中でとある方々がお待ちです。お三方だけでどうぞ」
紳士に促され、バレリオは襟を正して扉の取っ手を掴む。輝かしい未来への扉のように感じられ、バレリオは胸が高鳴った。
緊張しながら中に入るとカーテンが閉め切られた白い部屋に四人の人間が立っていた。シャンデリアが照らす彼らは、バレリオが今まで見たことがないくらいに美しかった。
「やあ、バレリオくんだったね。初めまして、僕はジエンだよ」
初めに口を開いたのはすらりとした長身の少年だった。癖のない金髪をゆるく黒いリボンで束ね、穏やかな笑みを浮かべてバレリオに眼差しを向ける。
「わたくしはロザッタですわ。ジエンの婚約者ですの」
やや釣り目気味の勝気そうな少女が冷ややかな目でバレリオを見た。黄金色の髪をいくつも巻き、大胆に開いたデコルテからは豊満な彼女の白い胸が見える。格の高いドレスほど露出が多いものだが、彼女の迫力のある美しさについつい眩暈がしそうだった。
「私はジュリアス、ジエンの友人だ」
黒髪の少年がノンフレームのメガネをくいと指で押し上げながら声をかけた。
涼し気な目元は冷たい印象よりも知的さが出て、ミステリアスな魅力に溢れていた。
「わたくしはジョセフィーヌです」
最後にあいさつしたのは細身の可憐な少女だった。すらりとした長身ではあったが、柔らかな銀髪をそのまま垂らし、小顔と猫目気味の目があいまって愛らしい印象を受けた。
四人の誰もが洗練された雰囲気で、バレリオの鼓動は一気に早くなった。
『この迫力、かなりの身分のある人間だな。こりゃあラスティへの復讐も思ったより早くできそうだな』
バレリオは嬉しさのあまり喉を鳴らす。
「どうかしたのかい?」
ジエンに尋ねられ、バレリオは首を振った。
「皆様方の高貴なオーラに委縮しておりました。ところで、わたくしめに何の御用でしょうか。矮小なる身でございますが、皆様方のためでしたらなんでもする所存です」
バレリオが丁寧にお辞儀をすると笑いがロゼッタから漏れた。
「失礼。その言葉、とても嬉しいですわ」
ロゼッタは妖艶な笑みをバレリオに向けた。バレリオはついつい胸元に視線を向けてしまう。抗いがたい吸引力があるのだ。
鼻の下が伸びそうなバレリオだが、ジエンの咳払いでハっと正面を向いた。にこりと微笑むジエンと目が合ったのでホっとする。
「バレリオ殿、我々はあなたとプライベートな付き合いをしたいと願っていてね。ところが、誰一人譲ろうとしないから、君に選んでもらおうと思ったんだ」
穏やかな笑みを浮かべてジエンは話す。
「で、どうかな? この中の誰とプライベートで付き合いたい? ああ、もちろん変な意味じゃないよ? 友人としてってことさ」
ジエンはバレリオが誤解しないように弁明する。
バレリオは一瞬『え、もしかして男と付き合えってこと?』と身構えたが、ジエンの言葉にホっとした。
『それにしてもこんな高位貴族からプライベートでの付き合いを求められるなんて、俺様はやっぱりすごい男なんだなぁ。クク、ラスティをいたぶるのが今から楽しみだぜ』
バレリオは心の中で笑いが止まらない。
今すぐにでも声を上げそうになるのを必死でこらえた。
「あの、わたくし待ちきれませんの。早く決めて下さいませんか?」
鈴が鳴る声で言ったのは可憐な美少女、ジョセフィーヌである。
バレリオはすぐさま手を胸に当て、頭を下げた。
「失礼いたしました。あまりにも光栄な出来事に、夢かと疑った次第です」
「……誰にするか決まったか?」
ノンフレームメガネの男がバレリオに視線を向ける。冷酷そうな眼差しにバレリオは背筋が凍る。
『こいつはヤダな。なんか怖いもん。ジエンはいい奴そうだけど俺よりイケメンはムカつくからナシ、残るはロゼッタとジョセフィーヌだけど……いくら巨乳でも気が強そうな女はナシ。ジエンから寝とってもよさそうだけど、やっぱりジョセフィーヌみたいに可憐な女がいいな。言うこと聞かせやすいし』
バレリオは頭の中で色々と考えた結果、ジョセフィーヌに決めた。
「その、ジョセフィーヌさんとお友達になれたらと思います」
自分至上一番のキメ顔で言うと、場の空気の温度が一気に下がった。しかしバレリオは自分に選ばれなかったロゼッタ達の嫉妬だと勘違いした。本当は気味が悪くて引いただけなのだが、見当違いの誤解をしたバレリオは前髪をかき上げて言った。
「どうか皆様、嫉妬の心をジョセフィーヌさんに向けないようにお願いします。私としても苦渋の決断でした」
「……バレリオくんが決めたのなら仕方がないね。僕たちは約束通り引き下がるよ。代わりに、君の部下たちは僕たちで好きにするからね」
ジエンが言うとジョセフィーヌが頷いた。
リオーネとピエトロは期待に胸を膨らませている。騎士爵、準男爵の彼らにとって高位貴族とのツテはそれだけで価値がある。
彼らは媚びを売りながら部屋を退室するジエンたちの後を追った。
扉が閉められ、バレリオはジョセフィーヌと二人っきりである。
色っぽい期待にバレリオは体中が熱くなる。
しかし、性急すぎては幻滅されるかもと紳士を気取った。
「ジョセフィーヌさん。これで私はあなたのものですよ」
膝をついて彼女の手を取るとジョセフィーヌはにこりと微笑んだ。
「バレリオさんと一緒に遊びたいと思います。その、肌と肌を合わせる遊びです……」
ジョセフィーヌの震える声にバレリオのにやつきが止まらない。
「構いませんとも!! あなたがすること、私はなんでも受け入れましょう!!!」
勢いのあまり、バレリオはジョセフィーヌに抱き着いた。……ハズだったが、バレリオの腕は彼女を捕えることはなかった。
身をひるがえしてバレリオの手を避けたジョセフィーヌはドレスを胸元から片手で勢いよく引き裂いた。
現れたのは彼女の素肌ではなく、黒々とした襟詰めの軍服だった。
地方住いのバレリオですらその色の意味をしている。王立騎士団の中でもエリート中のエリート、黒衣騎士団の制服なのだ。主にテロリスト鎮圧等にあたる特殊急襲部隊である。
眼球がこぼれんばかりに目を見開くバレリオにジョセフィーヌは冷酷そうな笑みを浮かべた。
「さあ、遊ぼう。私を楽しませろよ」
ジョセフィーヌはさっきの可憐な姿とは似ても似つかぬ凶悪面でバレリオに襲い掛かった。右ほおにジョセフィーヌの拳がめり込む。ボキっと嫌な音ともに奥歯が砕かれる
「これはロゼッタの分」
間髪を入れず、左ほおに拳が入る。そして蹴りが胸に入った。バキバキっと鈍い音がする。
「これはジエンの分、そしてジュリアスの分だ」
「どう……いう意味……だ……」
床に転がらされたバレリオは血反吐を吐きながら、ジョセフィーヌに真意を聞く。彼らと全くの初対面なのになぜこんな仕打ちを受けるのだろうか。
「君がベルベ地方で好き放題やってくれたラスティは私たちの友人なんだよ。他の三人も君を殴りたくて仕方がなくてね。選ばれた私は運がいいよ」
靴音を響かせてジョセフィーヌはゆっくりと近づいてくる。
「ゆ、友人……? そんな……」
バカなと言おうとしたが、ラスティの正体を思い出してバレリオは口を噤んだ。あんな冴えない奴が大貴族だなんて今でも信じられないし、あんな奴のせいで自分がこんな目に合っていると思うと腹が立って仕方がなかった。
無言になるバレリオの顔をジョセフィーヌは覗き込む。
「そうそう。ラスティは仕返ししてくれなんて一言も言っていない。アイツは自分のことに無頓着だからお前にされたこともとくに気にしていないんだ。だがな、友人である我々は違うんだよ」
ジョセフィーヌの顔は笑顔だった。
しかし、目は全く笑っておらず、ギラギラと刃のように鋭い眼差しでバレリオを見つめる。口角が上がった唇は残酷な悪魔のように禍々しかった。
「ひっぃ!!! お、俺は悪くない!! あいつが悪いんだ!!! そ、それにこんな暴力沙汰をしていいと思っているのか!? 騎士団が一般人に手を上げるなんて懲罰ものだぞっ!!」
バレリオが苦痛に喘ぎながら言うとジョセフィーヌはにこりと微笑んだ。
「ラスティを大勢で殴っておいてよくまあそんなことが言えるなあ。それに最初に言っただろ? プライベートで遊びましょうってな。肌と肌を合わせる健全な遊びだよ。お前のように一方的じゃない。避けてもいいし、何なら殴り返してもいい」
ぽきぽきと指を鳴らしながらジョセフィーヌは笑う。
「ふ、ふざけるなっ!! 本職の騎士に俺みたいな一般人が殴り掛かれるもんか!!」
「でもラスティは殴ったんだろ? あいつは黒衣騎士歴代最強の私に唯一膝を付けさせた男だよ。あいつを殴れる気概があるなら私なんてちょろいもんさ。ほら、実演してくれよ。ラスティをぶっ飛ばしたようにさぁ!!」
ジョセフィーヌは転がっているバレリオを思いっきり蹴り上げた。
バレリオが変な声を上げる。
「ガフッ!! ふ、ふざけるなぁ……!! 訴えてやるからなあぁあ!! 絶対豚箱にぶち込んでやるぅぅ!!! そうなりゃ身分剥奪だぁああ!!!」
バレリオは叫んだ。
しかし、ジョセフィーヌの攻撃は止まない。
「別に構わない。お前が二度とあいつに手を出さないようにできるなら、身分剥奪なんて安いもんさ。それに、剥奪されても武功を立てて復帰してやるよ!!」
そこからはもはや一方的だった。
ジョセフィーヌは無表情でひたすらバレリオに殴打を加えた。一見我を忘れているようだが、気絶しないギリギリを攻め、長く苦しむようにするのも忘れない。
その姿は鏡の向こうでジエンたちが見ていた。
鏡はマジックミラーになっており、ジョセフィーヌの華麗な技を余すところなく見学できる。
リオーネとピエトロは猿轡をかまされ、恐怖に震えながらそれを見せられていた。
ショーが終わり、ジョセフィーヌは汗を手の甲で拭う。
見計らったようにロゼッタがタオルを持ってやってきた。
「楽しいショーでしたわ。これに懲りて二度とラスティに悪さはしないでしょう」
ロゼッタの言葉にジョセフィーヌはにこっと微笑む。
「そう願うさ。まあ、もしこれでも懲りなかったら今度こそ息の根を止めてやる」
ジョセフィーヌの過激な言葉を誰一人止めず、むしろ同意を示すように笑みを浮かべる。
彼らはラスティと違い、重責を背負うべく育てられた人間である。それを嫌だと思ったことはないが、騙し騙される残酷な世界で彼らの心は日々荒んでいった。
そんな中、ラスティの奔放さは彼らにとって救いだった。
彼のおかげでゲームの世界を知り、自由になれる居場所を見つけられたのだ。
身分柄、彼らは友達が極端に少ないし、信じられるものも限られる。
だからこそ執着も人一倍強くなってしまうのだ。
それはもう、過激なほどに。
■
ラスティは今日も気ままに生活する。
ゲーム画面にログインするといつものメンバーがそろっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コタツムリ:ちーすww
味付け玉子:ちーす。最近どう?
コタツムリ:とっても平和w あと俺そろそろ彼女出来るかもwww
味付け玉子:お、良かったじゃんww
ネクラマンサー:うらやまけしからんでござる!!
騎士団子:彼女だと?
コタツムリ:そうそう。バレリオの屋敷にいたメイドさんよ。癒し系っていうのかな。とにかく可愛いの!! いい雰囲気だから今度、告白しようかなって思ってさ。
騎士団子:そうなんだ……。
ネクラマンサー:騎士団子殿、元気ないでござるな? 空腹でござるか?
背脂豚骨:豚切。ところで久々に王都で会いませんこと? パーティーのセッティングをしますわ
コタツムリ:お、いいじゃんいいじゃん。それじゃ、彼女連れて行くわ!!
背脂豚骨:内輪でやりたいので今回は遠慮して下さる?
味付け玉子:えーなんで? コタツムリの彼女見てみたいしいいじゃない。
背脂豚骨:玉子。後でお話があります
味付け玉子:え、何? 怒ってる?
ネクラマンサー:怒りポイントが全く分からないでござる
コタツムリ:あ、そろそろ寝るわ! 明日犬(炎狼)の散歩があるの。
味付け玉子:あー。たしか結局街で飼うことになったんだっけ
ネクラマンサー:炎狼がコタツムリ氏に懐いたと聞いたでござる。保護区のレンジャーに向いているのでは?
コタツムリ:この子だけで手一杯よ。可愛いけどさ。それじゃあねー。
<<システム>>コタツムリさんがログアウトしました。
背脂豚骨:騎士団子。だからさっさと告白しなさいっていったじゃない!! 彼は鈍感だから単刀直入じゃないと分からないって言ったでしょ!!
騎士団子:いやだって今の関係を壊したくなかったというか……
味付け玉子: 話が見えないよ?
ネクラマンサー:なぜいきなり怒り出したでござる?
背脂豚骨:騎士団子、昔からコタツムリのこと好きだったのよ。「今日こそ言う!」っていうのを毎年バレンタインのときに言ってるけど、言ったためしがないわ。
味付け玉子:うっそ……!!
ネクラマンサー:初耳!!
背脂豚骨:ほらー。外野も気付いていないじゃない!! いい? 告白してないあなたに今何の権利もないのよ。コタツムリに彼女ができようが結婚しようが、あなたは友人枠でしかないの!! 同じ土俵に立ちたかったらさっさと告白しなさい!!
騎士団子:頑張る……
<<システム>>騎士団子さんがログアウトしました。
味付け玉子:勇猛果敢な騎士団子の弱気なとこ初めて見た。
背脂豚骨:あの子奥手だからね
・
・
・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから次の日、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・
・
・
コタツムリ:ちーすww
味付け玉子:やあ
ネクラマンサー:お疲れ様でござる。ところで、例のメイドとはどうなったでござるか?
コタツムリ:『ラスティさんは弟に似ていてついつい世話を焼きたくなるんです。あ、私、来月結婚するのでラスティさんも式にぜひ来てくださいね』とさ。
味付け玉子:wwwww
ネクラマンサー:wwwwwww
背脂豚骨:よっしゃあwwwwwwww
コタツムリ:草生やしすぎだろ!! 背脂豚骨お前何喜んでんだよ!!
背脂豚骨:あらおほほ。何もありませんわー!! いいんですのよあなたはそれで。
コタツムリ:ってあれ? 今日は騎士団子いねぇの?
背脂豚骨:ベルベ地方に向かってますわ
コタツムリ:へーそうなんだ。それじゃあ一緒に遊べるな! お、誰か来たようだ。騎士団子かな? ってことで落ちる!
<システム>コタツムリさんがログアウトしました。
背脂豚骨:今日こそうまくいきますように。
味付け玉子:成功するにカシオミニ。
ネクラマンサー:ならこの鉛筆削りを賭けるでござる。
背脂豚骨:友達の恋路を応援しようという気はないんですの!?
ネクラマンサー:気づいたのでござるが、これでもし騎士団子氏とコタツムリ氏がくっついたら、拙者のみボッチになるでござる……
背脂豚骨:婚約者希望が1ダースくらいいるのに何を言っているのかしら。それにあなた三次元に興味ないじゃない。
ネクラマンサー:そりゃあそうでござるけど……いつか二次元を三次元に呼び出すシステムを作るでござる!!
味付け玉子:バイオハイブリットロボットはダメなの? まだ研究段階だけどさ。好きな二次元嫁の性格をプログラミングして作ればいいじゃん。
ネクラマンサー:SO ☆ RE ☆ DA!!
<<システム>>ネクラマンサーさんがログアウトしました。
背脂豚骨:落ちるの早っ!
味付け玉子:それじゃ僕らも落ちるか。ね、今日の夜君の家行っていい? 映画見ようよ
背脂豚骨:まあ。それじゃあお夜食作って待っていますわね。
味付け玉子:わーい楽しみ!!それじゃあね。
背脂豚骨:はい。それじゃあまた。
<<システム>>背脂豚骨さんがログアウトしました。
<<システム>>味付け玉子さんがログアウトしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■
ラスティがベルベ地方に住み着いて半年がたった。
炎狼は力自慢を生かして重い荷物を運んでくれるのでとても助かっている。時折、騎士団子ことジョセフィーヌが訪ねてきては何か言いたそうにするのだが、ラスティは「言いにくいことなら言わなくていいぜー。落ち着いた時でいいからさ」と彼女の負担にならないように言っている。
「黒衣騎士の分隊長だもんなあ。ストレス半端ないだろうなあ」
ラスティはジョセフィーヌの気苦労を察してストレス発散できるよう、時間の許す限りゲームに付き合う。
多忙なジョセフィーヌは一晩泊ってさっさと王都に戻る。
そんな状況を知らされた背脂豚骨ことロゼッタはジョセフィーヌの恋心が成就するのはいつになるのかと常にソワソワしている。
しかし、王太子の方は「くっつかなくても幸せそうだからいいんじゃないかなあ」と楽観視している。
くすぐったい恋模様に振り回されながらも五人の友情は末永く続き、彼らの未来は笑顔に溢れたものになった。
それはもう、ネラー王国全土が幸せになるくらいに。
めでたし、めでたし。