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その3、サキュバスに出会う


今回よりサキュバスが登場します。

今後レギュラーか準レギュラーになる予定?




 アパートの部屋に戻ってみると、関口の手にあの透明な箱があった。

 中にミニ魔王城が入った小箱である。


 と、その小箱は、スーッと関口の手のひらに入り込んでいく。


「あ」


 関口が叫んだ時には、体内に消えてしまった。


「それで、いつでも城に出入りできる。便利だぞ」


「うーむ……」


「では、行くか。一緒に付き合え」


「いや、ちょっと待った……!?」


 部屋を出ようとする魔王を、関口はあわてて止める。


「なんだ?」


「いや、その姿で出ると目立つというか……」


 何しろ銀髪に赤い瞳。しかも猫のような縦長をした瞳孔。


「そうか。では、ちょっと変えるか」


 言うなり、魔王のそれは茶髪に変化した。顔にはサングラスをかける。


「そういや、あんた名前は……?」


 関口に与えられた知識に、魔王の名前はなかった。


「まあ色々あるが、パーピヤスとか呼ばれていた。パーさんとでも呼べ」


(変なの……)



 そういうわけで、近くのファミレスに入ることになった。


 関口は今いちものを食べる気持ちになれなかったが、


「これとこれと、これ。あと、これも」


 魔王はどんどん料理を注文する。

 普通に考えて、少女一人は食べる量ではないが――相手は人外だ。


 ピーク時もでもないので、料理は割とすぐにきた。

 魔王は料理を平らげ、酒まで飲む。


 一緒にいる関口がゲンナリして、さらに食欲を失うほどだった。


「こっちはこっちで割といけるな」


 メインの後は、デザートにケーキだのパフェを山ほど喰らった。


「ふう……」


 ようやく落ち着いた後、ドリンクバーのコーヒーをゆっくり飲む。

 関口に持ってこさせたものだ。


(どこに入るんだ、あれだけの量が……)


 その食欲に呆れ果て、関口が何も言えなくなっていた時だった。


「相席いいですか?」


 鈴を転がすような美声が響いた。

 関口が振り返ると、そこに見知らぬ女が立っている。


 美女だ。


 やや褐色目の肌をして、異国風の雰囲気と姿。

 しかし、どこの何人かというと、ちょっとわからない。


 が、その美女を見た途端に、関口は立ち上がりそうになる。


 美女の頭に、角のようなものを見たからだ。

 背中に翼、後ろには尻尾。


(サキュバス――?)


 関口は与えられた魔力によって、一瞬で相手の正体を看破してしまったのである。


「いいぞ」


 魔王が言うと、美女は関口の隣にひょいと座った。

 なれなれしい態度だ。


「そうかあ。なるほど、あなたが……」


 美女は魔王を見て、何か納得するようにうなずいていたが、


「こっちに来たばかりで相談があるんですけど」


「そっちに聞け」


 魔王は顎をしゃくって関口のほうを示した。

 自分は席を立ち、ドリンクバーのほうへ向かう。


「あんたが、代理の人?」


「まあ、そうです」


「なるほどね。私はマイトナ。少し前にこっちへ来たばかり」


「困ってるんですか?」


「んー、そうでもないけど。せっかくだから、代理へ相談してみようと」


「……」


「何か良い仕事ないかな?」


 知識によると、魔族たるサキュバスは人間よりもはるかに強く、優れている。

 大抵のことはできるだろうが……。


(しかしなあ……)


 関口は、周囲の視線が集まるのを嫌でも感じ取ってしまう。

 異国風の、輝くような美女に対して、みんな注目している。


 こんなモノを下手な場所に放り込むと、トラブルの元になりそうだ。

 そもそも、異世界から来たサキュバスには戸籍も何もない。


(いや、それはどうとでもなるのか……)


 魔王の魔力と使い魔を駆使すれば、そのへんの雑事はどうにでもできる。

 まあ、役所の書類を誤魔化すなど容易たやすいと言えば容易い。

 経歴などどうとでもでっち上げられるのだった。


「どっか住む場所とか探してるんだよねー」


(白々しい……)


 こいつらサキュバスは人間のように衣食住に苦労しない。

 全て魔法や魔力でどうにでもできるのに。


「そっちで世話に慣れないかな?」


「……アパート借りれるようにしますよ」


「あら、そう。じゃ、お願い。後は、仕事とか」


(風俗でも何でもいけよ……)


 男の精気を喰らう魔物なのだから、お互いにWINWINの関係だろう。

 しかし、曖昧にするとしつこく絡んでくるのが予想された。


 関口は嘆息する。


 普通なら、こんな美女とお近づきになれるのは感謝感激だったろう。

 しかし、与えられた魔力や知識の副作用か、今いち楽しくはない。


 とはいえ、無視もできないのだ。

 これらの対処をするのが契約であり、仕事なのである。

 サキュバスたちは言うなれば、不法入国しているわけだ。


 関口は使い魔を飛ばして、あちこちの書類やら処理などをでっち上げた。


 使い魔。

 紫色の野球ボールくらいで、大きな目が一つあり、後ろに翼。

 魔王に命じられた雑務を行う小悪魔である。

 基本、こいつらに一言命令すれば万事片づく。


 どうやら、魔王はそういう命令すら面倒なようだった。



 そして、その日の夕方にはサキュバスのマイトナは、関口たちのアパートに入居。

 表向きは、とある国からの出稼ぎという形になる。


「さっそく、職探ししてくるわー」


 部屋が決まると、マイトナはさっさとどこかに行ってしまう。


「まあ、今回みたいな感じでどんどん相談に乗ってやってくれ」


「……でも。これ、各自に任せておけば良かったんじゃあ?」


「そうなったら、そうなったで面倒なのだよ。色々制約があるんだ」


 魔王はいつの間にか手に入れたタブレットで、ポチポチ遊びながら言った。







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