006_ポンコツじゃなかった
暫くの間、大人しく人寄せパンダとなっていたが、昼時となり人が食堂に集まってきたことで解放された。
その後レグさんとスノゥの屋敷の庭で食事をして、レグさんは仕事へ戻っていった。
この屋敷はスノゥが許可した人物しか入れないようになっているため、オレならば入れるとのことだったけど、家主がいない家に入るのはペットとしては抵抗があるため、昨日同様に庭先で日向ぼっこをしながら寝転がることにした。
…こっちに来てからまだ2日目だけど、すでにニート感あふれている。
文字の勉強でもなんでも、とにかく早くやることを始めなければ、ただ食って散歩して寝るしかやることがない。
宝くじで大金を得たならそういう生活を送りたいと思うけど、今のオレはただのペットという名の居候だ。
しかもご主人様は自分より年下で働いているのだ。まぁ、まじめに働いているかは、いささか疑問に思うが。
もう一度自分を鑑定してみる。
名前:ジン
年齢:25歳
種族:魔獣
性別:雄
職業:ペット
属性:地 無
スキル:マップ 鑑定
称号:死を免れた異世界人 魔導師のペット
属性が耐性か使える魔法かわからんが、どっちだったとしても属性を活かすなら戦闘系になるのだろうか?
…ウサギとか鶏とかでも狩れと言われて狩れるかと聞かれれば、オレは生まれも育ちも都会っ子だ。猟銃とか弓矢とかで射貫くなら出来そうだけど、近接はちょっとなぁ…。
そもそも軍用犬がいるならそういうところに所属になった場合、前線に連れていかれそうだからヤダな。怖いじゃん。
そうなると生産職か採集系…。
元の体なら器用さには自信ある方だったけど、今のこの手じゃな…。日常生活には支障ない程度には使えそうだけど、細かい作業には向いてないのは明らかだ…。
出来るとしたら大工とかの力仕事部分のみだな。
そしてオレのポンコツ鑑定は、よく考えたらゲームでも一度見知ったものしか正しい情報が出ないというものもある。ちゃんと勉強したり調べたりすれば、もっと使えるものになるかもしれない。
そうなれば採集系の仕事にはもってこいだ。
うん。第一候補は鑑定の検証をしたのちに採集の仕事だな。
属性に関してはこの世界の理次第になるけど、やっぱり戦闘系は避けたい。
ゴロゴロとしながら色々と考えていたら、いつの間にか眠っていた。
目が覚めると腹の上でスノゥも一緒になって寝ていた。
起こすのも可哀そうだし、もうしばらくこのままゴロゴロしてるか…。
それにしてもこれが男か…。今朝の天使といい異世界というか、人間以外の種族ってのは美形の巣窟なんだろうか。
名前:スノゥ=ルナ=ヴァンエント
年齢:不明
種族:精霊族
性別:男型
『増えた!?』
無意識に鑑定をかけた結果、しっかりとした詳細が表示されたことに驚いて思わず半身を起こし声が出てしまった。
その拍子にスノゥが転がり落ちそうになったが反射的に手を出して落下させずに済んだ。
「ん~?どうしたのー?腕でも増えたー?」
スノゥのことを聞いたから更新されたのか…?いや、でもそれなら職業も表示される…よな?
ふと側の木を鑑定してみた。
【グラスギリ:瘴気や虫を寄り付けない】
知らん情報も出るようになっとる…。ポンコツスキルじゃなかったのか…。
しかし…ということは…どういうことだ?
「…どうかしたの?」
返事をするのを忘れて考え事をしていたら、スノゥがオレの顔を覗き込んできた。
『ああ、いや…』
そもそも鑑定スキルって一般的なものなのか稀有なものなのか…聞いてもいいものだろうか…?
スノゥのことは信用してもいいと思うけど…。
『…あのさ、スキルとか魔法とかに鑑定ってある?』
「鑑定?真偽を見極める魔法のこと?」
『いや…それもできるけど、そうじゃなくて物の名前とか用途とか、人だったら名前とか種族とかプロフィールみたいなのがわかる感じの…』
「…そんなのがあったら権力者から犯罪者まで引く手あまただよ」
…鑑定の劣化版のようなものはあっても詳細が分かるようなものはないということか…。
オレ、チートはスノゥだと思っていたけど、オレにもチートになりえるスキルがあった!
といっても人の名前年齢種族に性別だけじゃなー…。やっぱ採取系か…。使い方次第だよな…。
「ジン…」
再び黙り込んでしまったオレにスノゥが声をかけてきたが、何やら先ほどと少し様子が違う。
『えっと…、どうした?』
「ジンの今の様子からすると、ジンはそういう魔法が使えるってことだよね?」
おうふ…。スノゥってばボケっとしているくせに鋭い!
「ジンには何が見えてるの?」
いつになく真面目な様子で聞いてきた。ただでさえスノゥはトップクラスの魔術師だというし…、この世界にないと思われる能力を持っているのはやっぱりまずいのかもしれない。
『昨日までは…種族と性別のみだったんだけど、さっき見たら名前と年齢、種族、性別って増えてて、木とかも昨日は木としか出なかったんだけど、今はそこの木とかだと【グラスギリ:瘴気や虫を寄り付けない】って…』
今頼れるのはスノゥしかいないし、今後のことを考えると正直に話しておくのが得策だ…。
まぁ、年齢に関してはスノゥは不明ってなってるけど…、これもどういうことなんだか…。
「増えたって情報のことだったんだね。そっか…」
そういうとスノゥは少し考えこんだ。
これを期に属性に関しても聞いてしまおうか…?それとも小出しにした方がいいだろうか…。
「もし、今後ボク以外に会話ができる相手が現れたとしても、その鑑定魔法のことは言わない方がいいよ」
『…やっぱり?』
まぁ、今の反応を見た時点で言いふらすつもりもないけど。
「さっきも言ったけど、年齢性別はともかく、名前は偽名を名乗る人には厄介な魔法だし、種族も…この国なら大概は安全だけど、希少な種族を探しだそうとしている人たちに捕まったら大変なことになっちゃう」
『希少な種族…?ってスノゥみたいな?』
「…そうだね。精霊族の秘密を知る人たちに、ジンの能力を知られたらジンを手に入れようとしてくるかもね。そして僕だけじゃなく、ほかの国で種族を偽って隠れ住んでいる人たちも見つけ出そうとしてくる。それにこの国に居れば安全とは言ったけど、そもそも国に…王族に知られたら、保護をしてもらえるだろうけど、監視がつけられるよ…僕みたいにね」
なんか…、衝撃の事実再びじゃね?スノゥが男だと知った時も驚いたけど、スノゥの種族ってそんなに狙われてるのかよ…。その上に国から監視って…。
『その…監視って…今も見られてるってことか?』
「…直接見ているわけじゃないよ。…これ」
そういって袖をまくってブレスレットを見せてくれた。金をベースに銀で細工が施され宝石があしらわれた豪華そうなものだ。正直スノゥにはあまり似合わない感じだ。
「これでボクのいる位置とか、使った魔法の種類とかが分かるようになってるんだよ。だから許可を得ずにお城の外に出ようとしたら直ぐに捕まっちゃう」
すげー自由奔放な子だと思っていたのに、少し可哀そうだ。いくら保護してもらってるとは言え、こんな…。
「…あ、そういえば部屋できたよ」
『部屋?』
「ジンの部屋」
そういってスノゥは屋敷の方へ行き扉を開けると手招きをした。
結構深刻な話をしていたと思うんだが…。
それにしても初日に比べたらいろいろと話してくれてよかった。
もしかしたら最初はなんだかんだでオレのことを警戒していたのかもしれない。