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004_オレの実態

 翌日、朝食を済ませると城とはまた違う大きな建物の場所へスノゥはオレを連れてやって来た。

 そこは剣士や魔法使い、武道家から薬師などに至るまで、多種多様な役職を育てる世界でも群を抜く学院だという。学院には人間ばかりではなく、獣人族やエルフにドワーフ、極々少ない数ではあるが天使など、見た目に違いのわかる者達も少なからず通っていて、広大な寮が完備されているという事もあって、学院がまるで一つの街のような錯覚を覚えるという。

 学院の門をくぐってからすでに20分以上歩いているが目的の場所には着かないらしい。その間、授業のない生徒たちから向けられるオレへの視線…。スノゥは学院には召喚科の生徒が召喚獣を連れ歩いていることがあると言っていたが、そんなのは見かけない。

 だが街中とは違って、すれ違う生徒たちはたまに驚いて身を引く子がいるものの、騒いだりするような様子はない。中にはキラキラとした目で見つめてくるようなのもいる。多分、それが召喚科の生徒なんだろうな…。でもごめんな…オレ召喚獣ではないんだ。


『なぁ、なんでみんな見てくるだけで声は掛けてこないんだ?スノゥならここの生徒と年齢変わらないくらいだろう?』


 特に召喚科らしき子達は話しかけたそうな雰囲気を出している。まぁ、話しかけられてもオレは召喚獣ではないのだから、スノゥも答えようが無いだろうけど…。


「んー?まぁ、外見はそうだけど、この服の紋章がこの国のものだから…対人用の結界みたいな?」

『なるほど…?じゃあ、皆からしたら王族みたいなもん?』

「ん~…というか、王族の臣下とか?護衛兵とかも国の紋章が入ったマントを身に着けているけど、王族ではないでしょ?」

『ああ、そういやそうか』


 どっちにしても王族と関わりのある人物相手においそれと話しかけられはしないわな。と、思っていたら生徒の一人がスノゥの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。


「スノゥ!!なんでお前がこんなとこにいんだよ!しかも厳ついもん連れてんなー!」


 角がある…。肌は浅黒く白髪で…鱗の尻尾…。ドラゴン?龍?


「ユンは…また実習の手伝い?」

「か弱く可愛らしいスノゥが魔獣を引き連れているとより一層可憐さが際立つな」


 そういいながらユンと呼ばれてた男はスノゥの手を取り軽くキスをした。なんつーきざな男だ。こいつはオレの敵に違いない。


「暇なの?」

「今度また城下でデートしよう。スノゥが好きそうな店見つけたんだよ」


 スノゥの手を握りしめたまま会話を続けるがスノゥも気にした様子がない。慣れた様子からこいつはいつもこうなんだろうな…。イケメンだから許されるのか?許し難しイケメン。


「暇なら冒険者ギルドの仕事受けてあげなよ。この間もギルマスが困ってたし」

「ああ、街中より緑あふれる自然の中でデートってのもいいよな」

「ジン、この人は龍族のユー…ユー…バン、ユー…、ユン」


 なんか長い名前があるらしい。


『いやいやいや、なんか親しげなんだから覚えておいてやれよ…』


 親しげっつーか、もはや会話は成り立っていないけど。


「お?なんだ?この魔獣何語しゃべってんだ?」

『え?』

「ユン、ジンが言葉しゃべってるの分かるの?」

「はっきりと言葉としては聞き取れないが、下級龍と話しているときのような…獣語っぽい感じだけど…」

「ジンは会話できるよ。ただこっちの言葉じゃないから通じてないだけで」

「こっちの言葉って、翻訳魔法は?」

「翻訳魔法にない言葉だから」

「ほー…、ずいぶん面白いもん拾ったん…、あっ俺行くわ!デートの話はまた今度な!」


 龍族の男、ユン?は突然そう言うと逃げるようにその場を去っていった。


『何だったんだ?』

「あ、ミラツァエル卿…」


 ユンが去っていったのとは逆の方を見ると全体的に白い姿をした背の高い人物がいた。背には四枚の翼がある。天使だ。あまり天使系の話には詳しくなくても知ってるぞ。位が高い方の天使だってことぐらいは。

 そして、若干予想はしていたが男だった!顔は恐ろしいくらいきれいだけど、体がどう見ても男だ!くそ!美女に会いたかった!


「ヴァンエント君。あなたは召喚士でも獣使いでも無かったはずですが?」


 コツコツと靴音を建て近づいてくる天使を見ていると天使もこちらにちらりと目を向けた。

 目が合ったその刹那、ぞっと寒気をおぼえた。本能的にこの人には逆らってはいけないような…。


「そうだね。ジンはペットだから」

「まったく…昨夜伝達があったときは、たかがペットと思っていましたが…」

「とりあえずどこかで話がしたいんだけど」


 ミラツァエル卿は短くため息をつくと踵を返し歩き出したので、オレたちはその後を追った。

 ほどなくして資料や授業で使うのであろう物に溢れた部屋に案内された。物に溢れてはいるがちゃんと整頓されているのは見てわかる。


「それで、話とは?面倒ごとは御免ですよ」

「もちろんジンのことなんだけど、ジンってどういう存在なのかなーって」


 オレの後ろへ回るとグイッと背中を押しミラツァエル卿の前へ押しやる。やめてほしい。この人怖いんですけど…。

 美形の真顔は迫力があるし、明らかに煙たがられている。


 とりあえずスノゥはオレと出会った時の経緯とオレ自身が話したここへ来るまでの状況を軽く説明した。面倒くさがりなスノゥだから端折って説明するのではないかと心配だったが、意外と要点をまとめてわかりやすく話してくれた。


「という感じで元々は人間だったみたいなんだけど、こうなった理由かな?呪いの類ならいいんだけど…そういうのはミラツァエル卿のほうが得意かなって」

「……いいでしょう。ただし金輪際、面倒ごとは持ち込まないで頂きたいですね」

「善処するよ」


 眉根を寄せ小さくため息をつくとミラツァエル卿は一歩オレへ近づき両手の平をオレに向けて差し出した。


「手を出しなさい」


 言われるがままオレは両手を差し出された手の上に置いた。するとミラツァエル卿は目を伏せた。ふわりと両手が淡く光を放ち体の中を何かが流れるような感覚になった。ちょっとぞわぞわする。

 ほどなくして光が消えると今度は深くため息をついた。


「存在を知ってどうするおつもりで?」

「人に戻せるなら戻してあげたいかなーって」

「でしたら早々に諦めることですね」


 身もふたもなく言い放たれた。


「存在で言うならば、彼は所謂キメラのようなものとしか言いようがありません。体は一つの体として融合し出来上がったものです。分離しようものなら死に至るでしょうね」

「キメラ…って人も混ざれたっけ?」

「相性が良ければ理論的には可能でしょう。あとはおそらくドラゴン種の影響ですね。彼が向こうの世界でライオンに襲われる瞬間、偶然か必然か次元の狭間に飲まれたものと思いますが、まずはそこで融合することとなったのでしょう。そしてライオンの魂よりも彼の魂の方が適応力があり体の主に選ばれた…。ですがこちらに開いた扉がドラゴンと重なったのでしょう。諸説ありますが次元の狭間は魔力の乱れ、または龍脈の乱れのもとに現れるといわれています。今回はその魔力の乱れとして死の間近だったドラゴンの魔力が影響を及ぼしたのでしょう。そうして3つの生物の体がドラゴンの膨大な魔力によって新たな体として作り上げられた…というのが私の見解です」

「ドラゴンか…、そういえば角としっぽの一部がドラゴンだね」


 スノゥは今更ながらそんなことをいう。かくいうオレも角があるのは気になっていたが尻尾まではまともに見ていなかった。もともと尻尾なんてない人間だったから尻尾の存在を意識していなかった。


「本来の死を免れその体の持ち主として選ばれたのは運命か、…もしくは神の悪戯か」


 ミラツァエル卿は口の端を上げ嫌な笑みを浮かべる。オレの思い描いていた天使とはまるで真逆を行く。なんつーかあれだな…Sっ気がありそうな人だな。


「どのみち人になりたいというでしたら、死して輪廻転生するか、禁断の魔術でも使用して赤の他人の体を乗っ取るくらいしか手はありませんね」

「そっかー」

「あとは可能性は低いですが、地下書庫の未解読の書物であれば、また別の方法が見つかるかもしれませんし、あなたの知識と合わせれば新たな魔法を作り出せる可能性もゼロではないのでは?」

「ん~、まぁ、暇だしそれも面白そうだね」

「暇ではないでしょう。魔法省が聞いたら怒りますよ」

「小難しいのは面倒くさいんだもん…」

「それがあなたの仕事です。さぁ、用が済んだなら帰りなさい」

「はーい。またねー」

「または結構です」


 部屋を追い出されるように出た。

 それにしても、人に戻れる可能性が限りなく低いことが判明した。今はファンタジーな世界へ来た興奮とのと、特に不便がなさそうな生活が送れそうだから気にはならないけど、やはり元人間のオレとしてはきっとこの後いろいろと不便なことが出てくるだろう。出来れば街中とか見物したいし、店とかものぞいてみたいが、さすがにこの姿でそんなことは出来ないだろう。


「このまま地下書庫に…あ」


 スノゥが何かを言いかけ何かに気が付きオレの後ろへ隠れた。


『スノゥ?』

「見つけましたよヴァンエント殿!」


 声をかけてきたのは昨日オレと一緒にスノゥを待っていてくれた魔導士の短髪で赤茶色の髪の男だ。


「隠れても無意味でしょう。出てきてください」

「レグは朝見かけると面倒ごとばかりだからヤダ」


 レグさんというらしい。いい人っぽいし、今後もお世話になりそうだから話せないとしても覚えておかねば。


「それが私の仕事であり、あなたの仕事です諦めてください」

「じゃあジンを連れて帰ってから…」

「それは私が代わりますので、すぐに魔術塔のマーロの元へ行ってください。詳しい内容は彼から聞いてください」

「えー…。今すぐ?」

「すぐです」


 ショボショボとしながらスノゥはどこかへ向かって去っていった。きっと自業自得なんだろうけど、少しかわいそうな感じもする。


「ではジン殿も参りましょうか。といってもずっと屋敷周辺に居られるのも暇でしょうから、ジン殿が散歩できる場所を増やすべく、紹介もかねて案内いたしましょうか?」


 …なんだか昨日よりも話し方がやたらと丁寧になっている…。なんだかムズムズするから止めてもらいたいんだが…。でも伝えるすべがない…。

 いや、まてよ?声が言葉として通じないなら、文字ならどうなんだろうか?幸い手の形は人の時と大した変わらないし、飯を食う時にも大した違和感はなかったし、こっちの文字さえ書ければコミュニケーションは可能になる。


「ジン殿?どうされました?」

『ああ、いえ、とりあえず案内をお願いします!』


 通じないとしても気持ちの問題だ。言葉にして軽くぺこりと頭を下げた。


「えーと、案内するということでいいですか?」


 レグさんはオレがコクコクと頷いたのを確認すると「では参りましょう」と歩みを進めた。

 スノゥがいなくても出来ることとしてオレの当面の目標は文字を覚えることだ。

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