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002_スノゥっていったい…

 道中の騎士や魔導士たちの会話から、この人たちは以前この森に入った王子様の落とし物を探すために来ていたそうだ。そして、オレの上で寝ているこのスノゥが探し物のエキスパートで連れてこられたらしい。

 その探し物が見つかり、さあ帰ろうと森の外へ向かっている途中でオレに出くわしたというわけだ。


 鬱蒼と茂った森の中を2時間ほど歩きようやく開けた場所へ出ることができた。

 それにしても、歩きにくい森の中を延々と歩き続けたわけだけど、全然疲れていなんだわ。元の世界は一応力仕事もしていたわけだけど、基本インドア派でこんな整備もされていない森の中を歩こうもんなら1時間もしたらクタクタになりそうなもんだけど、この明らかに人外の体のおかげなのだろうか。


 ぐるりと見渡すと右側の奥、地平線とまではいかないがかなり遠くに町のようなものが見える。草原の中ほどには糸のような道とその上にゴマ粒のようなもとが見える。馬車だろうか。


「あの、ヴァンエント殿、起きていらっしゃいますか?」


 森を抜けると隊長が寝ているスノゥに声をかけた。


「おきてるよー」

 

 あ、起きてたの。


「馬車の方を出していただけますでしょうか?」

「ばしゃー?」


 馬車を出すというのがよくわからんが、眠そうに体を起こしたスノゥが下りるのかと思い体を下げようとしたら、背中がふと軽くなった。

 あれ?と思うのもつかの間、ふわりと目の前にスノゥが降り立った。飛び降りたのではなくこれは明らかに魔法だ!風魔法なのか浮遊専用の魔法があるのかわからんが魔法だ!すげぇ!

 オレが密かにスノゥの魔法に感動していたわけだが、さらに驚くことになった。

 スノゥがスイっと手を宙に振ると何もないところからヌッと馬の頭が出てきた。そしてそのまま前へ進むとどんどん馬の胴体が出てきて、馬が引く馬車も出てきた。

 おおおお!空間魔法的なあれか!あれ?でもああいうのって生き物入れられたっけ?少なくともオレが今まで見てきたラノベにはなかったけど…。どっちにしてもすげー便利そう。


 二頭立て馬車に御者として1人が前に乗こんだ。


「えーと、ヴァンエント殿は馬車とジン殿、どちらに乗られます?」

「ジンに乗るー」


 そういいながらポテポテと戻ってきてフワリと浮かぶと先ほどの定位置に戻った。


「ずいぶんお気に召されたんですな。しかし門が近くなってきたらせめて体を起こしておいてくださいね。そして一緒に門番に説明をお願いします」

「えぇ~、面倒くさい…」

「ヴァンエント殿のペットでしょう?飼い主の責任です」

「んー」


 しぶしぶ返事をしたスノゥに隊長さんはやれやれといった感じだった。

 そうして全員が乗り込むと馬車は進み始め、オレは徒歩よりも速度が上がった馬車に合わせ付いて行った。

 この隊長さんの慣れた対応らして、普段からスノゥは面倒くさがりというか自由というか、こんなんなんんだろうな…。

 スノゥは立場が高そうだけど、わがまま放題とか偉ぶっていたりとかではなさそうなのは良かったな。やっぱ貴族とか王族とかそういう人たちって、そういう感じのが多いイメージがあるからさ。

 オレとしてはその辺のことも含め暇つぶしと情報収集として会話がしたいのだが、たまに話しかけても「んー?」とか「あとでねー」とかしか返ってこないもんだから、とりあえず聞きたいことリストを頭の中でまとめるしかなかった。


 森を抜けてからさらに1時間弱。遠目に見えていた町の門が見えてきた。門には入国?のための列ができている。

 そういえば、なぜ裸(毛皮)一貫の獣のオレが時間が分かるのか。それは森の中を歩いている時、スノゥは相手にしてくれないと諦め、とにかく自分にも何か能力がないのかと、ゲームやラノベの知識をもとにあれやこれやと小声で試していたところ、自分のステータスとマップが表示されたのだ。そのマップの端に時間もあったのだ。

 そして、そのオレのステータスはこうだ。


名前:ジン

年齢:25歳

種族:魔獣

性別:雄

職業:ペット

属性:地 無

スキル:マップ 鑑定

称号:死を免れた異世界人 魔導師のペット


 まぁ、いろいろ突っ込みたいところはあるが、性別とか称号とか…。

 とりあえず、他は置いておいてオレが一番気になったのが「鑑定」だった。

 異世界系のラノベでにおいて、これはチートスキルなのでは!?と期待した。期待したんだ。

 試しに前方を歩いていた騎士の一人をこっそり鑑定してみたら【人間の男】としか出なかったんだ…。見りゃわかるって。人がだめでも素材採取に役立つのでは?とあたりの草木を鑑定し見ると【草】とか【木】とか、だからそりゃ見たらわかるっつーの。

 驚くほどの役立たずスキルだった。

 まぁ、マップがあるだけでも不幸中の幸いと思うしかない。というか、無理やりにでもポジティブに考えなきゃやってらんない。


 人の表情までわかるほどの距離に来るとオレの上で寝そべっていたスノゥは体を起こし座り、馬車の速度を徒歩と同じくらいまで下げ、隊長さんと5人の騎士が下りてきて、オレの前に隊長、左右に2人づつと背後に1人囲うようにし歩き始めた。

 人々はオレの姿を見ると驚き数歩身を引いたり、冒険者風の人たちは身構えたりするが隊長さんが


「この魔獣は魔導師殿が従えた従魔だ。恐れる必要はない」


 と全体に聞こえる大きな声で説明してくれた。それでも門を通るために前列に近づくと前列にいた人たちはかなりオレから距離をとるように離れていった。

 もちろん街中でも注目の的だ。

 ただ、スノゥがオレの上に座っているおかげか「人を大人しく乗せているから本当に大丈夫なんでしょ」的な声が時折聞こえてくる。


「ジン、目立ってるね」


 他人事の様にスノゥが言う。


『当たり前だろ…。ここがどういう世界かはまだ良くわからんけど、オレみたいなのがいたら怖がって当然だろ…』

「住むなら獣人が多いところとか、従魔が多い街とかの方がいいかもねぇ」

『で、今はどこに向かってんだ?』

「お城の敷地内にある僕の部屋だよ」

『城…。やっぱ城なのか…。スノゥってお偉いさんなの?』

「ん~?一般人だよ」

『一般人は城に住みません』

「不思議だね~」


 いや、不思議だねーじゃないでしょ。ようやく会話をしてくれるようになったけど、どうにもスノゥとの会話は要領を得ない。

 こちとら見知らぬ土地どころか見知らぬ世界で、頼れる相手が一人しかおらず不安でしょうがないというのに…。


「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。この国は安全だし、色々な研究者がいるからジンのことを助けてくれる人は沢山いるから、もしかしたら元の世界に戻る方法とか、人間に戻る方法とかも見つかるかもしれない」


 スノゥがオレの不安を見透かしたかのように突然そんなことを言い、オレの背を撫でた。

 驚いた。のらりくらりと自由人だと思っていたが、ちゃんとオレのことを考えてくれていたようだ。

 不安がすべて消えたわけではないが、この世界でもなんとかやっていけそうな希望が見えてきた。



◇◇◇◇◇◇



 城への門をくぐるとスノゥは陛下や宰相様にオレのことを説明をすべく、隊長さんに引きずられるように城の中へ入って行ってしまった。

 そしてオレは一緒にいた魔導士のうちの2人に連れられスノゥの住まいとなっているという塔の前まで連れてこられた。


「ここがヴァンエント殿の私室になってる建物だ」


 広い敷地内をグルっと回り込むように裏の方まで回ると、手入れされ庭園あり、その一角に城から廊下が伸び離れの様に建った大きな屋敷があった。屋敷といっても城の外観に合わせてあるので城全体からすると倉庫のような感じに見えなくもない。

 入り口はオレでも余裕で通れそうな大きさで、テラスもある。広さは日本の一般的な戸建ての4~5軒ほどだろか。


「この周辺はヴァンエント殿の関係者くらいしか来ないけど、あまりここからは離れないようにね。いくら城内の皆にジンは安全な魔獣だと説明したところで、魔物に耐性のないメイドや庭師は腰を抜かしちゃうからさ」


 コクリと頷いて答える。

 そりゃそうだ。いくら飼いならされた犬だって、人によっては恐怖の対象だ。まして今のオレは3メートルくらいある獣だもん。元のオレが今のオレに出会ったらチビる自信あるわ。


「それにしても本当にこちらの言葉がちゃんと通じるみたいで安心したぜ。ヴァンエント殿は変わり者だから、慣れるまで振り回されるかもしれないけどな」

「だよな。てかもうすでに振り回されてる感あるけど」

「確かに、突然ペットになった挙句に行先が城だもんな」


 魔導士二人が代わる代わる話す。二人とも30前後くらいの男だ。片方は短髪で赤茶色の髪で、魔術士のイメージとは少し違う体格のいい男で、もう一人はショートカットの薄茶色の髪で細身の男だ。

 城内にちゃんとオレのことが伝わるまで、オレを一人で置いておけないからスノゥが来るまで側にいてくれるらしい。


「ああ、そうだ、ヴァンエント殿は大雑把にしか自己紹介しないだろうから、軽く説明しておいた方がいいな」


 おお!ありがたい!

 オレはコクコクと頷く。


「ジンの言葉は我々には分らんが、万が一にもわかる奴がいたらまずいから、これから話すヴァンエント殿のことは機密事項だ。いいな?」


 そう前置きをしてスノゥのことを教えてくれた。

 スノゥは精霊たちと契約をせずに従えることのできる精霊族といわれる種族だという。しかしその精霊族はすでに数百年も前に全滅したとされていて、その末裔だとのことだ。文献にもほとんど残っていないらしく、詳しくは何もわからない。スノゥ自身も生まれて間もなく人間の女性に拾われて育てられたらしく、出生は分かっていないらしい。

 それでも精霊族というのは先祖の知識を全てではないが受け継いで生まれるらしく、今は失われた魔術や知識を持ち、さらには危険な力も持っているとのことで、国が保護し何不自由ない生活を約束する代わりに、魔術の発展や知識を提供することになっている。といっても強制ではなく、言いたくないことや、教えたくない知識は無理に聞き出したりもしないと、かなり優遇された措置をされているらしい。

 スノゥが城なら大丈夫と言ったのはスノゥ自身が保護されているからだったのか…。オレの境遇もスノゥが説明してくれれば保護対象にしてもらえるかもしれない。


「しかしなぁ、ヴァンエント殿の魔術や知識は素晴らしいんだが、いかんせん大雑把でな」

「そうそう、魔術の使い方とか、「イメージしてグッとしてバっとする」って意味わかんねーの」

「それをちゃんと聞き出すのが難しいんだよな」


 …オレの説明…ちゃんとしてくれているよな?

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