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016_犬とお散歩

 今日は朝食を食べ終わるや否や、見計らったかのようにレグさんがやってきてスノゥを連れて行ってしまった。

 職場が近くて、お迎えまで来るようなところに住んでるのって便利だけど、オレなら気が休まらないな…。


 スノゥを見送るとオレは自室から初級魔法について書かれた本とクッションを手にテラスへ出た。

 テラスにもオレ専用の丈夫な机が用意されている。

 クッションを背にして座り、本を開く。実にシュールな光景だ。今度オレ専用ティーセットでも用意してもらうか。


 クッションに座り本を片手にお茶をたしなむ魔獣。


 地球だったらTV局が取材にくるような絵面になるな。そのうち服も着る予定だし。

 そういえば…、昨日は服のデザインとかエンチャントを決めるので時間を使いきっちゃって結局錬金術については全然聞けなかったな…。

 やっぱとりあえず錬金術は魔法と並行して本で勉強することにするか。教えてもらうにしても、予備知識があるのとないのとじゃ手間が違うだろう。


 


 しばらくすると、以前食堂で出会ったマリーさん(005話に登場)が訪ねてきた。


「ご機嫌いかがですかジン様!」

【おはようございます】


 オレはさっそく昨日作っておいた単語カードで挨拶をした。


「わぁ!ジン様は文字もご理解されているのですね!というか本を読まれているだなんて、流石はヴァンエント様のペット様です」


 マリーさんはまるで神様にでも祈るかのように両手を胸の前に組みきらきらとした目をこちらに向けてきた。正直ちょっと怖い。


【どうかしましたか?】


 これは「何か用か?」という意味で通じるだろう。


「はっ!そうでした!実は今日はですね、私がお世話している軍用犬たちと一緒にお散歩にでも行きませんか?というお誘いに参りました!」


 散歩か…。本はいつでも読めるし、ここのことは色々と知っていて損はないだろう。それに犬たちと一緒とはいえ女性からの誘いを断るなど勿体ない。


【お供します】


 コクコクと頷き返事をすると、マリーさんの笑顔がより一層笑顔になった。なんだかこちらまで明るい気分になってくる。


「では、まずは獣舎までご案内致します!」


 オレは開けっ放しだった窓を閉めるとテラスの手すりを乗り越え外へ出た。

 元気よく歩き出すマリーさんについていく。

 そのついでにマリーさんはオレが知らないであろうと思う場所を簡単に説明しながら歩いてくれる。このお城の人たちは皆優しく親切だ。

 知らないところを歩くときはマップを表示して歩いている。マリーさんが紹介してくれると、その場所の名前がちゃんと表示されるようになる。マップを閉じていても自動マッピングはされるようだけど、このマップが広がっていくのを見ているのがなんとなく嬉しい。


「あの建物が獣舎になります。あそこには犬のほかにも鳥と馬がいます。あと、私は場所を知らされていませんが、どこかで飛行竜も飼育されているそうです」


 飛行竜か…見てみたい。というか無理だろうけど乗ってみたい。

 異世界に来たらやってみたかったことランキングに入ってる。

 ちなみに一番はもちろん魔法だ。


 犬の獣舎に付くと10頭ほどの犬たちがマリーさんを待ちわびていたかのように柵の中でぐるぐる回ったり飛び跳ねたりしている。躾が行き届いているのかたまに鳴き声が聞こえるだけでワンワンと騒ぐようなことはない。


「はーい、皆お待たせー!今日はおっきなお友達を連れてきましたよー!」


 …なんか某公共放送の歌のお姉さんを思い出した。それか保育園。

 大きなお友達と言われるとオタクと言われている気分になる…。


 そういえば今更だけど犬たちは体の大きなオレを見ても怯えたりしないのかと思ったが、そんなことはないようだ。異世界の軍用犬ともなればオレサイズの魔物なんかとも戦ったりするのかもしれない。だったらオレ程度に怯えていたら軍用犬なんて務まらないだろう。


「あ、マリーさん、お疲れ様です!その子が例の魔獣ですね」


 犬の獣舎の中から掃除用具を持った小柄な女性が顔を出した。耳だ。レトリバーみたいな逆参画に折れた犬耳がある。獣人だ。年齢的にはまだ17~8といったところだ。


「おつかれ、アンナ。ジン様だよ。ジン様、あの子は私と一緒にこの子たちのお世話をしているアンナと言います」

「アンナです!よろしくお願いしますです!」


【ジンといいます】

【よろしくおねがいします】


 オレは2枚のカードを見せる。するとマリーさんの時同様、胸の前で手を組みものすごくきらきらした目でこっちを見てくる。


「すごいです!ジン様はお言葉だけではなく、文字まで理解されているんですね!」

「そうなのよ!意思疎通が完璧でこんなに立派な魔獣はほかにいないわ!」


 マリーさんがガバっと抱き着いてくる。

 そりゃ…自分元人間ですから…とはもう口が裂けても言えない。


「これからお散歩へ行かれるんですよね?私もご一緒してもいいですか?」


 アンナはマリーさんにではなくオレに向かって言う。なのでオレは別に誰が一緒でも構わないのでコクコクと頷く。両手に花だ。モテ期到来だ。

 というか散歩ってどこ行くんだろう。城の敷地内なのだろうか。城壁は何キロあるのかわからないが、沿って一周するだけでもかなりいい運動になるだろう。


 マリーさんとアンナが犬たちにハーネスを着けていく。


「では、参りましょう!ジン様は私たちから、あまり離れないようお願いしますね」


 そういうとマリーさんはとアンナで5匹ずつリードを持ち歩き出す。

 少し歩いたところに柵に囲まれたドッグランのようなところへと来た。犬10頭には少々狭そうだ。


「ジン様、このゲートを潜る際、少々目眩のような違和感を覚えるかもしれませんがまっすぐお進みくださいね」


 ゲートとはこの入り口のアーチの事だろうか。何か魔法が掛かっているのか?考えても分かりっこないからとりあえず頷いておく。

 マリーさんがゲートについている柵の扉のカギを開けると犬たちが、待ってましたと言わんばかりに入っていった…が、入った途端消えた。

 こっち側と入り口の間に何か膜?のようなものがあるのか通るたびに波紋が広がる。


「さあ、ジン様もどうぞこちらへ」


 マリーさんが変なことをするはずがないと思いつつも、未知のものに飛び込むのは少々気が引ける。 ソロッと手を伸ばすとやはりシャボンの膜に手を突っ込んだような感触がある。引っこめると波紋が揺れる。


「この先はヴァンエント様がお造りになった空間ですので危険はありませんよ」


 オレが躊躇っているのを見てマリーさんがオレの肩をポンポンとする。

 スノゥが作った空間…ってことは、あれかな…初めてこっちに来た時にスノゥが馬ごと馬車を出した空間魔法…。

 馬でも平気で通れるんだから、元人間で今凶悪(に見える)魔獣であるオレがためらっていたら格好がつかない。

 オレは意を決してゲートを潜った。

 瞬間何かフワッというかグニャっというか、変な感じがした。貧血にはなったことないけど、貧血ってこんな感じなんだろうか…?

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