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014_歌が聞こえる

 しばらくの間、スノゥとクレリアさんがあーでもないこーでもないと話をしていたが話がまとまると、クレリアさんが席を立った。

 荷物をまとめ始めると、来た時に案内してきた騎士がやってきた。離れたところでずっと待機していたようだ。

 そうして再び騎士の案内でクレリアさんは帰っていった。もちろん帰り際にオレにも挨拶をしていってくれた。

 魔獣だからと言って邪険にすることもなく、いい人だった。ただイケメンなのが気に食わないが…。イケメンで優しくて仕事ができるって、モテ要素しかない。


「クレリアがジンの装備を優先して作ってくれるって言っていたから、そう時間は掛からなそうだよ」

『それはありがたい!服を着たらもう少し色々見て回りたいなー』

「まずは冒険者ギルドまでの道で顔を覚えてもらわなきゃね」

『冒険者ギルド?』

「うん。そこに自由に行けるようになれば誰かしらにくっ付いて町の外に出られるよ」

『そうなったらかなり自由度が増すな』


 冒険者ギルドかー…。楽しみだな。動物…というか魔物?とかを殺すのには抵抗はあると言えばあるけど、実際にギルドで冒険者を見たら憧れのほうが勝ちそうだ。さすがに自分の爪で…ってのは無理でも剣や魔法が使えれば簡単な討伐依頼とかならやってみたいな。

 …ってギルドに行ってもないのにすでにちょっと心動いてる。現実味が少し湧いてきたからかな。


「それじゃあ、僕このあと少し呼ばれているから行ってくるよ」


 そう言うとスノゥはノロノロと歩いて行った。そのスピードで行ったら目的地まで何十分かかるのやら…。多分途中で誰かが迎えに来て引っ張っていかれることだろう。


 残された俺はというと、スノゥに頼んで用意してもらった紙とペンであるものを作る。

 それは単語の書かれた意思疎通カードだ。

 身振り手振りや雰囲気等でも伝わることもあるが、そうじゃないことも多い。

 文字は読めても書けないから、辞書を見ながら日常で使えそうな言葉を紙に書いていく。ちょっと英単語カードを作っていた学生時代を思い出す。


 【ありがとう】

 【ごめんなさい】


 これは人として必要だね。一応頭を下げるだけでも通じるだろうけど、気持ちは大事だ。あとは…。


 【どこですか?】


 かな。人とか物とか色々なものと組み合わせられるし。まずは、主人であるスノゥの名前は必要だ。場所に関しては施設的なもんはマップで分かるけど、細かいのは分からんから、トイレか?でもオレが使えるようなとこそうそうないよな。ちなみに、屋敷では初日にスノゥが屋敷の隣に増設してくれた。

 …うん。その辺の細かいのはその時々で書こう。

 あ、初対面の人用に自己紹介は必要かな。


 【ジンと言います。よろしくお願いします。】


 …微妙?分からん。【ご主人様はスノゥです。】必要か?


 【魔導師スノゥのペットのジンです。】


 …なんか…違う気がする。いや、あってるけど。


 【名前はジンです。】ってのと【よろしくお願いします】は分けておいた方がいいな…。そして【保護者は宮廷魔導師のスノゥです】ってので…いいか。んで後でスノゥに見せて確認しよう。


 そんな感じで悩みつつ役に立ちそうなものや、よくわからないものを書いて過ごした。




 日が傾いてきたころ、もう書くものも思いつかなくて、いつものごとく草の上でゴロゴロしているとスノゥが帰ってきた。

 帰ってくるなりオレの隣で同じく寝転がる。


 平和なひと時だ。ていうか、オレ、ずっと平和な感じするけど。


 遠くからはいろいろな音が聞こえる。

 訓練場の方からは剣を打ち合う音、メイドさんたちが掃除をしたり談笑したりする声。鳥の鳴き声や葉の擦れる音。

 なんだか眠たくなってくる。


 夢うつつにうつらうつらとしていると、不意に静かだけれど優しく響くように歌のようなものが聞こえてきた。


 ハッとして体を起こすが目視できる場所にはスノゥしかいない。どこから聞こえてきたのか。再び耳を澄ませるとやはり静かにどこからともなく歌が聞こえてくる。

 きれいな歌声なのに、なんだか物悲しく感じる。


「…ジン…聞こえてるんだね」

『…スノゥはこれ誰が歌ってるのか知ってるのか?』

「……とても長い年月を生きると、意志を持って話すことができるようになる植物がいるんだ。この歌はそんな大樹が近いうちに消えてしまう仲間のために歌っているんだよ」

『樹の歌…?』


 鎮魂歌ってことなのか…。

 


 黄昏時の静かな時間。


 遠く遠く響く小さな歌。


 人々の談笑る声や働く音。




 だいぶこっちの生活にも慣れてきたけれど、少し、元の世界が恋しくなった。

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