012_子供って正直
湖沿いにちょろちょろしていたら結構スノゥたちから離れていたみたいだ。
時折魔法や弓矢がオレの横を通り過ぎ前方に落ちる。走りながらだからか命中率は低いようだ。
さっき矢にも魔法をとか何とか言ってたし、当たってもさすがに死ぬことはなさそうだけど、当たれば痛いだろう。痛いのは嫌だ。
だからオレは子供たちから全力で逃げる。
『スノゥーっ!たいちょーさーん!!助けてくれー!!殺されるー!!』
オレが必至で訴えるも、2人はただこっちを見るだけで動かない。まさか追いかけっこでもしているだけとか思ってないよな?普通に魔法とか矢が飛んできてるの見えてるよね?
スノゥたちのそばまで来るとオレはすぐに2人の後ろに隠れた。さすがに隊長さんやスノゥが前に居たら攻撃してこないだろう。万が一攻撃してきても隊長さんが何とかしてくれるに違いない。
すると隊長さんがオレやスノゥを庇う様に一歩前に出て子供との間に入ってくれた。
「おっさん!それはオレたちの獲物だぞ!」
男の子の中で一番年下と思われる子がそう怒鳴る。
「お前たちは本気でこの魔獣を狩れると思っているのか?」
「オレたち相手に逃げ出すような魔獣だろ!弱いに決まってる!」
子供に弱いって言われた…。
一目散に逃げだしたオレが悪かったのかな?でもこの様子だと襲い掛かるふりをしたらしたで反撃して来たに違いない。
でも素手同士だった負けないぞ!そっちは剣とか弓とか魔法とか卑怯じゃないか!
「魔法や弓矢がいくつか当たっていたが傷の一つでも付いたか?」
え?当たってたの?
見える限りで背や尻を見てみるが傷はない。そもそも痛くもかゆくもない。
「そ…それは…」
「それと、この魔獣は宮廷魔導師であるスノゥ殿のペットのジン殿だ」
隊長さんはそう言って隊長さんよりも少し後ろにいたスノゥの方へ体ごと振り返る。
「宮廷魔導師…?って俺たちと大した変わらない子供じゃないか」
「まってダグラ!確か数年前に最年少で宮廷魔導師になった子供がいるって聞いたことあるわ」
あ、世間的には子供ってことになってるのか…。精霊族の生態は秘密らしいからな…。
「でもそんな人が子供相手に逃げ回る魔獣をペットにしてるのか?」
「ペットなら強さは関係ないんじゃないの?」
「見掛け倒しもいいとこじゃね?」
…言いたい放題だな。別にいいけど…ちょっと悔しい…。
「ジンは優しいだけだよ」
子供たちのやり取りを黙って聞いていたスノゥが口を挟んできた。
「ジンは小鳥だって傷つけない優しい魔獣だから。誰も傷つけないのも強さだよ」
「さすがはヴァンエント殿!その通りですな」
おお、二人が俺を庇ってくれた。
「傷つけるよりも守ることの方が難しい。守るために逃げるも勇気だ。本来、ジンのような魔獣は手負いであれば身を守るために捨て身でも君たちを襲うことを選ぶ。お前たちが無傷で助かったのはジン殿が相手だったからこそだ。次同じことがあった場合は如何にして逃げるかを考えるべきだ」
ちょっと恥ずかしいというか罪悪感。オレ、そんなつもりで逃げたんじゃないし。自分で言うのもなんだけどただのヘタレだし…。
「君たちは冒険者?」
「そうだ!俺がリーダーのダグラ!」
一番年上で生意気そうな赤い髪の少年が答えた。すると隣にいた姉御肌な剣を持った女の子がダグラの脇腹を肘で小突いた。
「ちょっと!あんたさっきから目上の人に対して偉そうに喋ってんじゃないわよ!私はミアです。半年くらい前からこの辺りを中心に活動をしています」
ミアがそういうとちらっと少し後ろにいる子たちにも挨拶を促した。
「僕はケニーです。エルフと人のハーフです」
弓と魔法を使っていた少年はそう言いながらジッとスノゥを見ている。多分、自分と同じハーフだと思っているから気になるのだろう。
「オレはタロ…」
無口なタロは熊の獣人族と人族のハーフらしい見た目は人と変わらないように見えるが、どことなく熊っぽい。体が一番大きく盾を持っている。
そして最後に、俺を最初に見かけて尻もちをついて怯えていた子。
「リ…リンです」
熊の子の後ろに隠れるようにしている。リンは一番年下で、まだ魔法使いの見習いだそうだ。そしてこの子はオレが怖いだけではなく、単純に人見知りで気弱なのだろう。
子供たちが全員自己紹介を終えると隊長さんが改めて自己紹介をする。
「私は王宮騎士団団長、ヒューゴ・ライグストだ」
ん?団長?隊長じゃないのか…?てことは隊長さんって軍隊の一番偉い人だったの?
「だ、団長!?まじかよ!」
「ダグラ!」
隊長さんが凄い人と知ってダグラが叫ぶとすかさずミアの鉄拳が落ちる。この二人はいいコンビのようだ。
「仲良しだね」
「よくねーよ!」
「よくありません!」
テンプレ的夫婦コンビだな。
オレが静かに事の顛末を見届けていると、先ほどからジーッとこっちを見ている視線に気が付いた。熊の子の…タロ?って言ったか?
警戒されているのだろうか…。
「あの…」
無口なタロが口を開いた。
「その…魔獣…。触ってみても…いいですか?」
その言葉にスノゥがこっちを向いた。スノゥはオレをペットと言いつつもちゃんとオレの意思を組んでくれる。
『えと…いいけど…』
「触ってもいいって」
オレが答えるとスノゥがそう伝え、不安そうにするリンに見守られるようにタロが近づいてくる。
タロがオレの腕に触れる。
「…かっこいい…」
この子いい子!
なぜかこの姿になってからの周りの反応は「怖い」か「かわいい」という両極端なものばかりだった。
「あの…自分もいいですか?」
遠慮気味にエルフのハーフ…ケニーが言った。断る理由もないので承諾すると興味深げにオレの周りを一周してからタテガミを梳くように撫でた。
二人がそうしているとダグラやミアも興味を持ち、最終的にはリンさえもやってきた。
魔獣なんて普通そう簡単に触れるものじゃないから触ってみたいのだろう。
オレも動物園で何度ライオンに触ってみたいと思ったことか…。でも絶対に安全というわけではなかったから触ることはできなかった。
そうこうしているうちに何故か昼ご飯も一緒に食べることとなった。
「ジンって人みたいに座って手で食事するんですね…」
オレがみんなと一緒に、所謂スコ座りのように座ってサンドイッチを手にもって食べていると、ミアが不思議そうに呟いた。
「しかも肉じゃなく、野菜の入ったサンドイッチ…」
ケニーはそこが気になるらしい。まぁ、オレって見るからに肉食獣だもんな…。
ちなみに、オレが手にしているサンドイッチはオレ専用に大きめサイズで作ってもらっている。
「かわいい…」
リンが言った。結局かわいいに落ち着くのか…。逆の立場ならオレもそう言いそうだから何も言えない。
「ジンは人の言葉や常識を理解しているから仲良くしてあげて。僕はあまり外に連れ出してあげられないから、この森で仕事するときにたまに連れて歩いてもらったりしてくれたらいいな。その時はちゃんとペットの散歩代理として依頼料も払うよ」
「ジンなら大歓迎するわ」
「どうせなら一緒に戦ってくれたらもっといいんだけどなー」
「採集の依頼だったら高い所のとか取りやすくなるんじゃないかな…?」
スノゥと子供たちは見た目的に同年代だからかあっという間に打ち解けた。というかスノゥの性格もあってのことだとは思うけど。
そして、オレが今後外出しやすいようにと子供たちに取り計らってくれたが、それと同時に子供たちへの支援でもあったんだろう。
一番上のダグラが15歳で下のリンが11歳で、全員同じ孤児院の出身だと言っていた。
普段自由奔放で適当なスノゥだけど、要所要所で大人顔負けの配慮が覗くのはやはり年の功なんだろう。




