010_おちょくられた
◇◇◇ 翌日 ◇◇◇
「ジーンー、起きてるー?」
朝、そろそろ起きようかと寝床でゴロゴロしていると、ドアをノックしながらスノゥが呼ぶ声が聞こえた。
『起きてるぞー』
オレの返事を聞くなりドアを開け中に入ってくると、スノゥはふと何かに目を向けまっすぐにそれに向かっていった。
クマのようなぬいぐるみだ。
それを手に取るなり寝床に座る俺の前に置きオレの手を勝手に添えた。
「…うん。似合う」
『………』
「今度これで肖像画描いてもらおう」
『…それは…やめて戴きたい』
「じゃあ、ジンそっくりなぬいぐるみを作ってもらって…」
『…なんか用があって来たんじゃないのか?』
部屋に来るなりスノゥのペースだ。
とりあえず、ほっといたら本当にオレのぬいぐるみを作りそうなので、早々に話を反らしてみた。
「昨日言ってた錬金術師の人からさっき連絡があって、丁度明日こっちに来る用事があるみたいで、その時についでにここにも来てくれるって」
『おお、思ってたより早いな!』
「完成までには時間かかると思うけどね」
『それは…そうだな…。でも早く来てくれればその分早く作ってもらえるだろ?』
「それもどうかな?予約もいっぱい入ってると思うし…」
『う…、それもそうか…。腕がいいならその分顧客も多いよな…』
「…服だけなら近所の仕立て屋さんにも頼めるけどね」
おい!!
ぼそっと言ったけど、魔獣になってからオレの耳はいいんだぞ!しっかり聞こえたぞ!
ジトーとした目でスノゥを見るが相変わらず飄々としている。
「……」
『……』
「じゃーん」
無言で見つめあう状態になったと思ったら、突然スノゥはそんなことを言いながら何も書かれていない紙をオレに見せてきた。
しかしワザワザ含みあるように見せてきたからには何かあるのかとジッと見ていると…。
「そんな見ても何も書いてないよ」
『………』
おちょくっとんのか…。
いつも以上に意味が分からん。
「怒った?」
無言で呆れていると、スノゥはオレの顔を覗き込むように首を傾げ聞いてきた。
というかそう聞いてきたということは、おちょくっていた自覚はあるんだろう。
しかし、オレは自分で言うのもなんだが穏やかな性格だ。そっとやちょっとじゃ怒らんぞ。
『弟ができたような気分になってた』
これは本当だ。実年齢は上だとしても行動や言動の所為で時折見た目よりも幼く感じるくらいだし、手のかかる弟ができた気分だ。実の弟とはまるで違うが、飾らないスノゥの性格に心地よささえ感じる。
「じゃあ今日からは僕のお兄さんとして紹介することにしよう」
『……ややこしくなるからやめて…』
スノゥの言動は何が本気かわからないが、こういうことは普通にやりそうだ。とうか絶対やる…。
付き合いはまだ短いがその辺は分かって来たぞ。
スノゥは適当なことを言いつつも、その適当を貫き通そうとするやつだ。
そのあたりとても子供っぽく感じる。
「今日はお休みもらったから、一緒に遊ぼう」
本当にいつでもなんでも唐突で自由な奴だな…。
『遊ぶって何するんだ?』
側にいるときはだいたい本を読むか昼寝しているかしか見たことがないし、この世界の娯楽にどんなものがあるのか知らないけど、スノゥが遊んでいる姿がいまいち想像できない。
「森に果物狩りに行こう」
『果物狩り?でも街から出てもいいのか?』
「グラストヴァルクが管理している森でヒューゴ隊長が一緒ならいいって」
更には管理している森には転送魔法陣があり、城から森の神殿へ一瞬で行けるらしい。だからオレでも目立たず街の外に出ることが出来るとのことだ。
余談だが、その転送魔法陣というのはこの大陸の主要都市には必ずあり、許可証さえあれば誰でもいつでも行き来が可能だそうだ。
とは言っても、制限はあるらしい。そうでなければ城に誰でも転移で入ってこられることになる。一般人用、軍人用、冒険者用、貴族用、王族用…ほかにも色々と細分化されているらしいが、スノゥにはスノゥ専用の許可証が与えられていて、それは使用前に宰相から許可を貰わないと発動しないらしい。
ただ、スノゥは本気になれば空を飛んで一気に国外まで飛んでいけるから形式的なものに過ぎないとのことだ。
ふむ…。便利な世界だがやっぱり穴はあるのか。
◇◇◇
スノゥを背に乗せ城内へ入っていく。奇麗で広くて格式高い城内を闊歩する魔獣…それを遠巻きに見る城内で仕事をしている人たち。
せめて小型化出来たりすればいいのにな…。
なんとも居心地の悪さを感じながらスノゥの言うとおりに城内を進んでいく。
ベルサイユ宮殿とかってこんな感じなんだろうか…。いや、あれはルーブル美術館だったか?ちらっとTVで見た記憶しかないから分らんがヨーロッパの城って感じだな。
ゲームでこんな世界の城内を歩いたことはあるが、実際に目の当たりにすると迫力がまるで違う。
「あ、王妃様」
『え…』
完全にお上りさん状態で辺りをきょろきょろとしていたら、突然スノゥの口からそんな声が聞こえてきた。
前方に周りよりも明らかに気品ある女性が見えたと思ったら、王妃様かよ。
…心の準備できてないんですけどー!?
「あら?あらあらあらー」
「お、王妃様!」
スノゥの声に振り返った王妃様はオレたちに気が付くなり、迷いなく近寄ってきた。
その後ろを慌てるように護衛と思われる騎士が追ってくる。
「王妃様、そんな近付かれてはいけません!」
騎士が止めようとするのを気にも留めずあっという間に目の前に来た。
「まぁー、話には聞いてましたが大きな猫ちゃんねぇ」
…猫ちゃん。猫ちゃんでいいんすか?
「かわいいでしょ?」
いや、まて!可愛くはないだろう!それに王妃様相手にオレの上から話しかけてていいのかよ!普通降りるもんじゃないのか!?かしこまるもんじゃないのか!?
「触ってもいいかしら?」
「王妃様!いけません!」
「ジン、いいよね?」
とりあえず今のオレには頷くしかできない…。声を出して王妃様に怖がようもんなら、周りにいる警備の兵士たちにすぐにでも切り殺されそうだ…。
オレが頷くのを見て王妃様はそっとオレのタテガミに触れる。
「あらぁ、思っていたよりもずっと柔らかいのですね」
「ふわふわでしょ。ジンの上でお昼寝するの気持ちいいよ」
…スノゥ…俺はお前が怖い。なんで王妃様相手にタメ語なんだ…。貴族制度のない日本から来た俺でもそれが不敬に当たることぐらい知ってるぞ。場合によっては死刑だってあり得るだろ…。
スノゥがそれほど特殊な種族だとしても礼儀は必要だろ…。
「それは素敵そうですね。私もそのうち便乗させていただこうかしら」
上品に笑う王妃に対して先ほどから隣にいる騎士がオロオロしているのが見てわかる。
王妃様もスノゥに負けず劣らず自由な人っぽい…。
そして王妃様はいつまで撫でているつもりだろうか。
「ジンといいましたね、お食事はいつも何を食べているのかしら?」
「人と同じものだよ。普通の魔獣と違って生肉とかは嫌みたい」
「あら、でしたら甘いものなんかも食べられるのかしら?」
「ジン、甘いの好き?」
これはお菓子かなんかくれるフラグか?
コクコクと頷いて見せる。
こっちに来てから甘いものと言えば果物くらいしか食べていない。甘いものは好きだ。給料日にはコンビニケーキなどではなくちゃんとしたケーキ屋で買って贅沢をしたもんだ。ケーキとポテトチップにコーラは最強の贅沢だ。
「でしたら今度一緒にお茶でもしましょう。リリアンの作るお菓子はとても美味しいの」
「うん。お菓子好き」
「それでは、エルとも相談して近いうちに…。今日はどこか行く予定なのですよね?足止めしてしまってごめんなさいね」
そう言って最後に王妃様はオレの頬を両手でモフモフし去っていった。
お菓子、今じゃないのか…。ちょっと残念だ。
しかし感じのいい王妃様だった。高飛車な人じゃなくて良かった。でもスノゥのタメ語はダメだと思うぞ。
スノゥが国の監視下に置かれていると聞いたときは正直あまりいい印象ではなかったが、王妃様があんな感じであれば居心地も悪くないだろう。
「それじゃ、行こうか。ヒューゴ隊長が待ちくたびれちゃう」
そうして再び城内を進み、地下へ入り少し進むとすぐに魔法陣のある広間へと出た。
魔法陣の手前にヒューゴ隊長がビシッとした姿勢で待っていた。
周りには他に誰もいないし人を待つ時ぐらいもう少し楽にしていればいいのに…。
オレたちに気が付くや否やピッと軽く拳を胸の前にあてがった。
「お、ヴァンエント殿!お待ちしておりましたぞ!」
「お待たせー」
広間へ入るとスノゥはオレから降り魔法陣へ向かう。オレもそれについていくとヒューゴ隊長がオレの前にやってきてカードのようなものを差し出してきた。
「これはジン殿の仮の許可証だ!えーと…タテガミにでも結ぶか?」
「手首のマントにでも入れておいて」
「なるほど。そうですな!」
そういうとヒューゴ隊長はオレの手首に巻かれたマントを解き、落ちないように中の方に巻き込んだうえで再び結ばれる。
「それじゃあ、しゅっぱーつ」
スノゥの合図とともに魔法陣が光を放ちオレはまぶしくて目を閉じた。
主人公はまだすっぽんぽん。




