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001_ペットになりました

 オレはさっきまで動物園のライオンの飼育小屋の中で掃除をしていたはずだ。

 それが突然まばゆい光に包まれ、気が付いた時には森の中でファンタジー系の映画で見かけるような鎧やマントを羽織った騎士達に鉾や剣の切っ先を向けられ囲まれていた。

 後方にはローブを着た魔法使いのような恰好をした人たちもいる。

 ”異世界召喚”という言葉が頭を過った。

 しかし、そうだったとしてこの状況はなんだ?勇者召喚や死んで転生や神様のミスですっ飛ばされた…とかではなく、突然見知らぬところに放り出されたと思ったら、今にも殺されそうなんですけど…。

 もしかしてオレ絶体絶命?


『あ、あの!オレは、その、なんというか…!』


 状況がよくわからないがとにかくオレには敵意がないと手を上に挙げ話をしようとするが、自分の声とは程遠い低く、くぐもった声が出た。

 そのうえ手を挙げよとして視界に入った自分の手…。

 短い薄茶色の毛が生え、指には鋭い爪、人と似ているが明らかに人とは違う形をした獣のような手。

 そして自分の体を見下ろすと見慣れた自分の体はそこにはなく、手と同様に獣の姿をしていた。


『え…?なんで…、オレは…』


 じりじりと騎士たちは間合いを詰めてくる。

 下手に動けば殺されると思ったが、そもそも怖くて動けない。

 夢ならば覚めてほしい。

 異世界召喚ならばチートな力で命だけは助けてほしい。

 真っ白になってしまった頭には命乞いの言葉すら出てこない。


「============」


 緊張状態の中、オレの視界の外から落ち着いた、どこかのんびりしたような声が聞こえてきたが、日本語ではなかった。

 自動翻訳もないのかよ!召喚物の定石だろ!

 騎士たちで隠れて見えないが後方にいた人物が何か言葉を交わすと、騎士たちは警戒態勢を崩さぬよう道を譲るように横へ移動した。

 オレは動いたら殺されるという思いもあり、ゆっくりと視線だけを声の方へ向けた。

 声の主と思われる人物はローブを着てグレーの瞳に青みがかった銀色の長い髪を後ろに結い、耳は短いがエルフの様に尖っている。エルフではないのかハーフとかなのかこの世界の基準は分からないが、周りにいる人たちは普通に人間と同じ耳をしているので、人間ではないようだ。

 しかしそれよりも何よりも言えることはとにかく可愛い。美少女だ。


「============」

「============」


 騎士がまだ何か言っているが、オレには言葉が通じないために全く分からない。

 異世界物なら最低限の翻訳機能は欲しかった…と思うが、明らかに呼ばれてきた感じではないオレにはチートの類が無くても仕方がない…のか?

 いや、よく分らんが実は強いとかあるか?体デカいし、獣っぽいし…。来たばっかりで何一つわかっていないんだ。もしかしたら秘められたチート能力があるかもしれん。が、今ここで殺されてしまってはチートも何も意味がなくなってしまう。

 とにもかくにもオレは少女が救いの女神であってくれと願うばかりだ。

 そして少女はゆっくりと近づいてきてオレ自身が気味が悪いと思ったオレの手に触れオレの顔を覗き込んだ。


「ボクの言葉、通じるよね?」

『わ、わかる!!通じる!!』


 一気に不安が吹き飛んだ。

 言葉が通じる。

 それだけでどれほどの安心感を得たことか。

 思わず大きな声で前のめりになると、騎士たちの武器が一斉に迫った。

 少女はその様子に面倒くさそうに振り返ると騎士たちに一言二言声をかけ武器を下ろさせると、再びオレの方に向き合った。


「ボクはスノゥ。魔導師のような研究者のような…エルフのようでそうでもないような人。キミは?」


なにやらよくわからない自己紹介だったが今は気にしないでおく。


『オレは仁。高野内仁(こうのうち じん)

「コーノーチジン?」

『あ、いや、ジンでいい…です』

「ジン…はこの世界の人間…生き物?じゃないよね…?」

『わかるのか!?』


 スノウ曰く、オレが現れる瞬間に感じた魔力のゆがみがこの世界のものと違っていたとのことだ。

 そしてやはり異世界ファンタジー特有の翻訳魔法は存在し、魔法使いじゃなくても翻訳魔法のかかった魔道具があれば種族によって秘匿にされている言語以外は言葉の違う国でも会話が可能らしい。

 しかし異世界の言葉は論外。異世界の人間であるオレの言葉はこちらの翻訳魔法では翻訳されず、通じないそうだ。

 ならばなぜスノゥには異世界の言葉が分かるのかと尋ねると、スノゥ特有の能力らしく、翻訳魔法とは違い聞いたことのない言葉を耳にするとその言語が自然と頭に流れ込んでくるため、相手と同じ言葉をそのまま話せるようになるため、オレの言葉がこの世界では聞いたことのない言葉だったため、異世界から来たと結論付けたのことだ。

 スノゥこそがライトノベルにおけるチートキャラなのではないだろうかと、疑いたくなる。


「まぁ、異世界の言葉が翻訳されたところで、今のキミは人の言葉にすらなってないから通じなかっただろうけどね」


 その口ではまともに発音できないでしょ?とスノゥはオレの獣のように突き出た口を左右から両手のひらで挟みコネコネする。


『じょあ、スニョウには何れ通りてるんら?』

「ん~…、根性?」


「==========?」


 いつの間にか警戒状態が解けていた騎士が、話し込むオレとスノゥの会話に入ってきた。

 するとスノゥはオレが安全であると示すためかオレの胸元に抱き付き、騎士たちに何やら言っている。

 至福の時である。

 このタテガミが無ければ少女のぬくもりを感じられたであろうに実に惜しい。でもいいにおいがする。嗅覚も獣のように鋭くなっているのかもしれない。


「というわけで、ジンは今日から僕のペットね」


 スノゥの香りをひっそりと堪能していると、突然そんな言葉が飛び出してきた。


『ぺ…ペット?』

「それとも、このまま1人で生きていく?」

『ペットでお願いします!ご主人様!』


 それはもう即答した。未知の世界で謎の獣の姿で1人で生きていくのと、美少女のペットとして生きていくのならば、選択肢などあってないようなものだ。

 こんな姿になってしまったが、美少女のペットととして可愛がってもらえるならばむしろ本望!あ、先に弁明しておくが、オレは別にロリコンではない。きっと誰でもこの選択肢を与えられたら二つ返事でペットを選ぶだろう?そうだろう?


 騎士たちは明らかに困惑しているが、スノゥは気にした様子もなく、オレから離れるとどこからかネックレスを取り出し、オレの手首に巻き付けた。


「後でちゃんとしたの作ってあげるけど、翻訳魔法のかかった魔道具だよ」

『おおお!マジっすか!ありがとうございます!』

「ジンの言葉は通じないけど、こっちの言葉は分かった方がいいでしょ」

『一生ついていきます!』


 やはりスノゥはオレの救いの女神だ!神様可愛い少女をありがとう!オレは心の中で天を仰いで感謝した。


「あの…ヴァンエント殿…、本当にペットにされるのですか…?」


 騎士は呆れたように問いかける。言葉遣いや今までの雰囲気からしてスノゥの方が立場が上なのか、皆スノゥの動向を見守る状態になっている。


「うん。今日から僕のペットだよ。名前は『ジン』いじめちゃだめだよ」

「はぁ…。しかし、陛下に許可を得てからの方が宜しいのでは…?」


 陛下!陛下っつたか!?陛下って国王陛下!?てか、スノゥってまさか王族!?あ、いや、それなら名前の後に王子とか殿下とかつけて呼ぶか…?バン…なんとかって呼んでたけど、苗字っぽかったしな…。でも少なくとも王様と関係があるってことだよな?現代日本出身のオレには貴族とか王族とかの決まりはよくわからんが、気軽にペットになるって決めちゃったけど、まさか城に住むとかじゃないよな…?


「面倒くさいことは隊長さんに任せるよ」

「いやいやいや、流石にこれは…」

「それじゃ、そろそろ帰ろう。ジン、乗せてー」


 そういってスノゥがオレの肩?をポンポンと叩くので、オレはスノゥが乗りやすいように伏せてやった。そしてスノゥが乗ると四つ足で立ち上がる。四足歩行になってまだ数十分だが、当然ながらこの体では2足歩行より安定する。 

 スノゥはオレの背に乗ると座るのではなくうつ伏せで抱き着くように寝転がった。


「もふもふ…」


 どうやらオレのタテガミがお気に召したようだ。人のまま能力もなく放り出されていたらスノゥもオレに興味は示さなかっただろうと思うと、この姿で良かったとさえ思う。

 オレ自身にはチート能力がないかもしれない代わりに、もふもふ好きのチート能力を持った美少女がいる元に、もふもふ姿で飛ばされたのは不幸中の幸いだ。


「えぇと…ジン?我々の言葉は分かるんだよな?」


 先ほどスノゥに隊長と呼ばれていた人物が確認するようにオレに話しかけてきた。オレの言葉は通じないらしいので、とりあえずうなずいて答える。


「そ、そうか。先ほどはすまなかったな…。では、これから我々はグラストヴァルクへ帰還する。後ろをついてきてくれ」


 コクコクと頷く。

 オレとしては色々と聞きたいことが山ほどあるのだが、スノゥ以外にオレの言葉は通じないし、当のスノゥはもはやオレの上でくつろぎモードだ。仕方なく騎士たちと一緒に黙々と歩き付いて行くしかなかった。



投稿は不定期になるかと思いますが、よろしくお願いします。

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