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英雄への小さな一歩

 転生から10年の歳月が流れた。


 人間同士の争いや戦争。天災による飢饉が度々起こるが身近で際立って大きな事件は起きず平和に過ごしている。


 戦争や飢饉があって平和なのかとも思うが過去を振り替えればまだまだこれからだろう。


 産まれて数日後には姉や兄に会った。その頃には目が産まれて直ぐより見えるようになっていた。姉や兄は父と母に似て将来有望な外見をしていた。魔力的にも子供ながら中々の物を持っている。姉は5歳、兄は4歳の年子だ。


 俺が3歳になる頃には母の中に妹が出来ていた。


 父と母はかなり仲が良い。民には厳格な姿だが、家ではしょっちゅう一緒にいる。


 そして俺の父であるレイズ・バルトはどうやら貴族らしく、小さな領地もあり日々領民と共に開拓に明け暮れている。

 母であるエリシアも父レイズを支えながら日々幸せに過ごしている。


 かく言う俺はと言うと日々身体に無理が無い程度に身体を鍛えている。後は森の中を走り回り体力続くりだ。これが何気にしなやかで柔軟な良い筋肉を作ってくれる。


「シリス様今日も狩ですかい?」


「はい。期待していてください」


「気を付けてくださいね」


 領民達が気軽に話しかけてくる。この10年で魔力や気のコントロールを鍛えた。赤子から魔力負担を掛けていけるのは転生の強みだ。

 魔力回路は負担を掛ければ掛ける程徐々に強度を増す。

 魔力は限界まで使えば微量だが魔力量を増すことが出来る。

 これは今後の戦闘にはかなりのアドバンテージができる。強者へも届く一撃を放てる様になる。

 身体の筋肉は鍛えすぎると身体の成長を阻害してしまう。そうすると今後背が伸びないし、したい動きも出来なくなる。過度な訓練は身を滅ぼす。急いである程度の力は手に入れたいがなかなかそうもいかない。これもまた転生したせいか。


 普段着にショートソードを腰に下げて背には小さなリュックを背負い、日課のように自然体で森へと足を踏み入れる。


「今日はこっちにするか」


 10年の研鑽。いや正確には5、6年の研鑽。まともに動ける様になったのは4、5歳。じっくりと時間を掛けて身体を動かし魔力を鍛えた。

 今では大人と同じ位には動ける。魔力を使えば大人以上に動ける。それほどには成長した。


 前世には記憶なんて無かった。

 鍛えるべき道標も無かった。

 英雄と呼ばれたのも40を過ぎていた。

 それほどの研鑽と地獄を乗り越えた経験が今を最上へと導いてくれる。


 獣道を抜けて森の中に入っていく。

 生き物の気配を探して探索する。

 今日も獲物は猪か鹿。後は魔物を狙う。

 魔物はこの世界では動物が魔力によって変質したものと、ダンジョンから這い出たもの達。それに魔力溜まりから自然発生したものの3種類の魔物がいる。

 会ったことは無いがドラゴンなんかもいるらしい。


「ギヤァァァァ」


 甲高い獣の遠吠えが響く。

 あまりここじゃ聞かない遠吠えだ。


「魔力がここまで届くなんて」


 強い。


 気配が感じ取れないほど遠くからの遠吠えでここまで魔力を飛ばせるなんて。こんな奴が町まで行ったら大変なことになる。

 父さんが見つければ恐らく瞬殺だろう。だが、見つけれなかった時が大変だ。それに恐怖は直ぐに広がる。二次被害で怪我人が出かねない。

 よし、様子だけでも見に行くか。


 森の中を駆け、数分で魔物の元へと辿り着く。


 魔物は体長5メートルはある鳥の魔物ヒスティック。

 見た目は綺麗な緑色の鳥で温厚な性格だが、戦うとなると危険で暴れだすと手がつけられない。


 こんな所に巣を作ってたなんて。目撃したって話も無かったはずだけど。


「くそぉぉ!」


「ヤメロォォ!!」


 ヒスティックの前には武器を持った数人の男女の冒険者と思われる人達がいる。

 必死に戦っているが、既に防具はボロボロ。致命傷は負っていないがあれでは長くはもたないだろう。


 ヒスティックはその綺麗な黄緑色の羽毛が高値で売れるし、肉も美味いらしいからよく狙われるらしい。だが、空を飛ぶ魔物は強さ的に割りに合わない事が多い。例に漏れずヒスティックも強い。

 狙うのは中位以上の冒険者だ。

 ヒスティックは空を飛ぶ魔物の中では弱いが、弱い訳ではないのだ。


 見たところこのパーティーは中位程度には実力がありそうだし、連携もしている。だが、ヒスティックに立ち向かうには足りない。


 かく言う自分も一人で立ち向かったとしても勝てる事はないだろう。いくら転生したとは言え10歳と言う歳では決定打に欠ける。いくら大人と同程度に動けようとも、中位に迫るパーティーの冒険者程には強くない。

 知識がある。経験もある。だが、身体が足りない。


 身体が足りない分は知識や経験で補う。だが、この世界には俺の世界に無かった理がある。


 それが特異能力(スキル)だ。


 スキル【思考加速】を意識することで意図的に思考をさらに加速させる。

 俺は他にもスキルを複数持っている。

【空間認識強化】【脳処理能力強化】【成長加速】【限界突破】【自己再生】【女神に見初められし者】だ。これに【思考加速】を加えた7つが俺の初期スキル。


 俺のスキルは常時発動型スキルだ。だが、スキルを意識することで更にスキル能力を上げたり、効率的に使うことが出来る。

 攻撃に使えるスキルがあると少しは楽だったんだが、無いものは仕方ない。


「ハァァ!!!」


 剣士の鋭い一撃がヒスティックに入る。鮮血が宙を舞う。

 予想外の一撃にヒスティックがパーティーから距離を取る。


 剣士の一撃は恐らくスキルによるものだろう。一撃の重みに比べて剣技が不十分だ。【剣術】スキルがあれば剣技がもっと綺麗だ。

 俺の父であるレイズ・バルトはスキル【剣術】を持っているが、スキルに傲らずひたすらに剣を磨いた父の剣は見事としか言いようがない。

 そんな父の剣とは比べられないが、ヒスティックに一太刀入れた剣士の剣は【剣術】スキルがあるにしては頼りない。

 恐らく斬撃を強化して放つタイプのスキルだろう。


「僕はシリス・バルト。この領主レイズ・バルトの息子です。助太刀します」


「待て!助太刀は良いから助けを呼んでくれ!」


「ヒスティックを野放しにはできません!それにそちらも満身創痍です!逃げるタイミングを見つけるか撃退しましょう!」


まさか助太刀に入っていらないと言われるとは思わなかったが、普通子供が来れば逃がすか。


目標は撃退。今の戦力ではそこが限度だろう。

だが、久々の格上との戦闘に血が騒ぐ。武者震いが止まらない。早く戦えと心が叫ぶ。滾る気持ちを押さえつけてまずは一歩前に進む。


ショートソードを抜く。ヒスティックを狩るには心許ない。

まずは出来ることをやる。魔力を操り、ショートソードを魔力で覆う。イメージは前世の剣だ。


この世界はスキルがあるせいか魔力操作をあまり重視しない傾向だ。だが、俺の元居た世界同様に魔力はあらゆる物を強化してくれる。


魔力と気と言う力は元を辿れば生命力に行き着く。生命力。つまりその者の生きる力なのだ。その力を注がれれば強固になるのも通り。


イメージが強固でそのイメージに魔力を合わすことが出来れば絶大な効果を発揮する。

魔力を研ぎ澄ます。

魔力を圧縮し、濃密な魔力を作り出しイメージに乗せていく。


倒す。殺す。逃がしはしない。


意識も力に変えて。


「行くぞ」



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