ダンジョンは危険です③
「何よ・・・あれ・・・あんなの階層主クラスじゃない!!」
「階層主って改装ごとの階段の入口を守ってるやつだよな?二階層の主なんてとっくに討伐されてるんじゃ・・・」
「バカなの?ここはダンジョンなのよ!階層主だって時間が経てばもう一度生み出されるに決まってるでしょ!!」
突如僕らを襲った轟音の正体は、たとえ知らない者であったとしても階層主だと確信させるような大きさのミノタウロスだった。
ミノタウロスとは二足歩行する牛のような見た目で武器を操ることも出来る魔獣だ。
ダンジョンでは主に十階層に生息している。
ただ今僕の視界に映っているミノタウロスは他とはかなり違った。
本来のミノタウロスがおよそ2.5メートル程の大きさなのに対してこいつは5メートル程の巨体だ。
こんなデカブツどうやって倒せばいいのだろうか・・・
そもそも逃げ切れるのだろうか?
「しょうがない・・・クロガネを呼ぼう」
名付けによって忠誠を誓われたが実際クロガネは僕より強い・・・それも圧倒的に。
最初からそうだったのにレオの手によってさらに強化されている。
この現状を打開するならクロガネの存在は必須事項だ。
「クロガネを呼ぶって・・・どうするつもりなのよ」
「従魔は主の元へ瞬間移動をするスキルを手に入れるらしい、それを使う」
「それじゃあ早くしてよこのままじゃ見つかっちゃう」
「もう見つかってると思うんですけど・・・」
---来い・・・クロガネ!!---
《エラー従魔クロガネは〈召喚転移〉を取得してません》
持ってないのかよ!!
これシリアス醸し出して遊んでる暇ないんじゃないか?マジで死ぬ気がしてきたぞ。
「逃げ道とかない?」
「無理よ逃げてもたくさんの魔獣に遭遇するだけだわ・・・それに階段はあいつの居る方なんでしょ?逃げるだけ無駄よ」
「それもそうか・・・」
敵は明らかに僕らより強く、逃げ道もない。
今まで何度か死にかけたことはあったが殺されそうになったのは初めてだ。
「さてどうしたものか」
正攻法で行くなら僕が前衛でリアとエミリーが後衛なんだが、前衛一人でこいつの相手をするにはバフをかけられる後衛が必須だ。エミリーは防御系専門だしリアは攻撃魔法を使うがバフは無理・・・どう考えても勝てる見込みが無い。
「時間になっても私達が戻らなければ先生達が探しに来てくれるんじゃないですか?」
「それでも二階層までは来ないだろ一階層での演習の予定だったんだぞ?」
「地面に穴が空いてるのを見れば先生も落下した可能性を考えて降りてきてくれるでしょ」
「それなら時間稼ぎをするだけでいいから楽なんだけど・・・」
「リア後ろです!!」
「へ?うわぁ!」
突如リアを襲った大剣、それはミノタウロスが持っていたものだった。
移動してきたのではなく投げられたもので乱暴なものだったため当たらなかったが、今のが接近された攻撃であったならリアの首は飛んでいただろう。
「二人とも下がって!!」
〈氷結輪〉の凍結能力によって氷の壁を生成して距離をとる。だがミノタウロスは氷の壁をいとも容易く破壊し突っ込んでくる。
スピードはあまり無いようだが、パワーはかなりのものだ。今の装備だとかすっただけで死ぬ可能性もある。
俺一人であれば〈速度操作〉で逃げることも出来る。だがこのスキルは速度操作なんていう名称にも関わらず自身の移動速度しか制御出来ないのだ。リアとエミリーが居るのに使う訳にはいかない。
ミノタウロスの拳がゆっくりと迫り来る・・・遅い・・・
ミノタウロスの腕に向けて〈雷撃刃〉の電撃を放つ。魔力抵抗力の弱い者であれば全身が麻痺して倒れ込む威力のものだが、ダメージが入った様子はない。
魔装の完全段階である〈全身武装〉を使用できていれば今の攻撃で終わっていただろうが、今の僕が出来るのはその前段階〈移動武装〉までだ。
〈移動武装〉は魔装の位置や形状を魔力の制御によって操作するもので威力を上げるものではない。
入学までの半年でかなり強くなったつもりだったがダンジョンに挑むには早かったようだ。
「何してるの?ミノタウロスに雷魔法は効かないわよ!!」
「は?」
「ミノタウロスは雷属性に高い魔力抵抗力を持ってるんです!それに加えて皮が分厚いので今の私たちの魔力では火力が圧倒的に足りません」
「そんなのどうやって倒すんだよ!!」
弱体化した分身体とはいえドラゴンを倒した魔装による攻撃が効かない時点で無理ゲーだと思うのだが・・・
「魔法が効かないんだから物理攻撃に決まってるでしょ!皮が厚いと言っても私たちの魔法が通りづらいってだけで剣とかは通るから頑張ってよ!」
「お前らは?」
「私達は魔法専門だもの無理よ」
「さいですか」
<ファントムナイフ>を逆手に持ち少し屈める。
相手の攻撃に合わせて脇を切るカウンター戦法、投げられた大剣をこいつが回収していないからこそとれる戦法だ。大剣を持った相手にカウンターを狙えるほどの技量と度胸は残念ながら持ち合わせていない。
次の瞬間ミノタウロスの角が宙を舞った。
それをやったのは1人の少女だった、そして僕はその少女を知っている。
「やっほーユキくん久しぶりー」
その少女は・・・カエデだった




