表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

1-4

またもギリギリですみません。


(逃げたか。俺よりレベルが低かったってことなのか? だとしたらどうやって分かったんだ? こっちの隠蔽を突破出来るほどの看破系スキルか? いや人物鑑定じゃそこまで高レベルとは出てなかったはずだ)


 色々と疑問は尽きないが先ずは目の前の問題から手をつけるべきか。依人は鎖に囚われている小柄な少女へと近付く。


 肩まで伸びる金の髪、エメラルドグリーンの瞳、透き通るような白い肌と端正な顔立ち。何より上向きにピンと尖った両耳が特徴的な彼女は、恐らくゲーム時代にも存在したエルフ族だろう。


 空からの参戦という怪しげな乱入者に警戒しているのか表情は固い。一応はっきりと助けに来たと宣言した訳だが、襲撃された直後にいきなり信用は出来はしないだろう。最悪の場合、食物連鎖よろしくより強大な捕食者が現れただけだとすら思われていそうだ。


「怯える必要はない。その鎖を外すだけだ」


 出来るだけ優しい声を出して宥めようとするが、思ったよりも感情の乗っていないものしか出ない。緊張から口調も何処と無く高圧的な雰囲気になってしまっている。


(見知らぬ他人と話す機会の少ないゲーム廃人にはこれが限界だ)


 そう自嘲しながらも素知らぬ顔で、少女を縛る鎖の発生源である地面の魔法陣へ触れる依人。


(光系統の拘束魔法。確かエルフは光系統が弱点なんだっけか)


[魔法阻害(マジックジャマー)用ナノウィルス『神秘喰い(ミスティックイーター)』起動。超短期自壊設定にて微量散布]


 白い魔法陣が依人の触れた地点を中心に灰色に染まり出し、その輝きを瞬く間に失っていく。そして数秒ほどでそれは魔法陣そのものを染め上げた。


 パキッ


 軽い音とともに魔法陣は砕け散り、少女を縛る鎖も消失する。


「テュケー!」


 解放され自由を得ると少女は依人に礼を告げることもなく倒れ伏すもう一人の少女に駆け寄った。


「テュケー! しっかりして、テュケー!」


 ウェーブのかかった長い銀髪に黒い肌、そしてエルフの少女と同じく尖っている耳。恐らくはダークエルフの少女──テュケーにすがりつき泣きじゃくる少女。


 その光景を軽く無視された形の依人は若干、心にくるものを感じながら見つつも、今はそれどころではないと気を引き締め直した。


「すまんが、ちょっと退いてくれ。彼女の治療がしたい」


 言うやいなや一刻を争う緊急事態なので、と誰にも届かない言い訳を心中でしテュケーの名を呼び続ける少女を無理やり引き剥がす。テュケーの状態をスキルで確認する。


[人物鑑定EX起動。範囲を全身の損傷箇所と出血量、生命力(HP)に絞って詳細鑑定]


〈全身に魔法による裂傷みられ右則腹部と左大腿部、右則頭部により深い裂傷あり。同箇所周辺での複雑骨折もみられる。出血多量にて生命力枯渇寸前。生命維持のため緊急の治療を要すると判断〉


「助けられるの!?」


 結構な力で乱暴に扱われたことも気に止めず、必死の形相で身を乗り出し友人の命を救えるのかと依人に詰め寄る少女。


「ああ、問題無い。だから少し集中させてくれ」


 人の生き死にに立ち会うという初めての経験から出てしまった温度の無い声に、少女はびくっと怯え依人から距離をとるもテュケーのことを心配そうに見つめている。少女を他所にテュケーの頭へ指の先でそっと触れる。


[医療用ナノワクチン起動。体内での増血作用と自然回復力(オートヒール)急性増進剤(ハイブーストドラッグ)生成作用を設定し少量散布]


 すると先程とは変わり淡い緑の光にテュケーの身体が覆われ、まるで巻き戻し映像のようにみるみるうちにその傷が癒えてゆく。


(医療用スキルもきちんと効果が作用している。その検証が出来たのだから、ここへ来たのはやはり正解だったな)


 またも言い訳めいた思考を一人してしまう自分に思わず苦笑する。自らの手で息を吹き返したテュケーと、それを見て無言で涙を流している少女。この光景が見れただけで良かった、と無意識に思ってしまったお人好しな自分が何とも気恥ずかしく思え、つい誤魔化そうとしてしまった。


(さて)


 目的の一つである医療用スキルの実践は果たした。あとはもう一つの目的を果たすことにしよう。


(逃げられると思うなよ、情報源)


 着地時のどさくさに紛れ男に散布した追跡用ナノウィルス。脳内マップに写し出されているその追跡信号(ビーコン)に意識を向ける。


 情報は喉から手が出るほど欲しい。しかし視界の先で全快し意識を取り戻したテュケーと、お互いの無事を確認し抱き合う少女達にあまり負担は強いたくない。何よりこの緊迫した状況でいきなり話をしようとしても、直接的な言い方しか出来ない自分への不信感や不安感を煽ってしまうかもしれない。一旦時間を置いた方がいいだろう。


「俺は男を捕らえに行ってくる。お前達には幾つか聞きたいことがあるのでここで少しの間だけ待っていて欲しい」


 相変わらず単刀直入で愛想の無い言葉を吐くと、依人は男を追い森へと身を翻した。



感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ