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ちょい既存話も手直ししました。
「」→台詞
()→思考
[]→思考による指示
〈〉→システム的なメッセージ
と分かりやすくしたつもりです。よろしくお願いします。
時間にして三十分ほどたっただろうか。距離にして約30キロは移動してきたはずだが、いまだに森の終わりが見えてこない。辛うじて視界ギリギリの地点に、山らしきものがぼんやりと見えている。
今日日、日本では見ることの出来ない雄大な自然ではあるが、いい加減見飽きてきた。その上、人里どころか人一人見つからない。
(広すぎるだろ。どこまで続くんだ。白竹の探査にすら何も)
〈南東2キロメートル先、人種族反応有〉
〈警告〉
突然、思考へ情報が割り込まれて来たため移動を中断。手近にある大木の陰に着地する。白竹による人物探査の結果、それと赤のイメージ映像。
(やっと引っ掛かったけど、警報スキルも反応してる。レッドカラーってことは)
戦闘状態。理解した時、ズンと重たくなる身体。心臓が早鐘を打ち出したのが感じられた。
(どうする)
スキルが使えるのは分かったが、流石にこの世界について何も知らない状態で戦闘現場に駆け付けるのは相応の危険が伴う。だが上手くすればその分のメリットが得られるかもしれない。
(ともかく情報が欲しいな)
[詳細報告]
〈南東2キロメートル先、人種族男性一名による拘束魔法系スキル一回の使用を確認。人種族女性二名と男性一名による戦闘状態と推定〉
(二対一の戦闘で先に仕掛けたのは男か)
〈女性一名は魔法により拘束されている模様〉
[三人の人種への殺害歴または略奪歴を確認出来るか]
〈人物鑑定EX施行。戦歴確認。女性二名に該当戦歴確認出来ず。男性一名該当戦歴確認〉
[その男の職業は分かるか]
〈スチール系スキル系統確認。盗賊認定〉
(ということは男が加害者、女二人が被害者の可能性が高いな)
恐らく現在、ここより南東2キロメートルの地点で女性二人が男性に襲われている。あくまで想像にすぎないが男性の方に襲うに足る大義名分などなく、単に自分の欲望を満たすために行っていることなのだろう。
(…………どうするべきか)
〈同地点での攻撃性魔法スキルの使用を確認。女性一名の生命反応低下〉
あまり悠長に考えている暇は無いようだ。頭の中で情報を改めて整理し直す。
自分の状態、状況、距離。その一つ一つを確認し暫し間、熟考。
(…………まあ、行かなくても良いよな)
結論としてはそうなった。
状況は大体把握出来た。被害者側がどちらなのかも何となく類推することは出来る。もしそれが当たっていれば一般的な感性を持つ依人としては女性側には同情してしまう事態になるだろう。しかし、だからなんだと言うのだ。
(俺に二人を助ける義理はない。此方だって良くわからない状況に巻き込まれてこの森で遭難してる最中なんだ。他人を助けている余裕なんてない。何れ森を抜ければもっとマトモな状況で人と会える機会はきっとある。何も無理して今ここで此方から接触しに行く意味なんて何もない。そこまでする必要性なんて何処にもないんだ)
精一杯の論理的な思考を積み重ねた、その上でぽつりと一言。
「ただ」
引っ掛かる。
脳裏をよぎるのはオタクである依人が見てきた数々の物語の登場人物達。彼らの勇姿と決断が何故か今、思い出される。
「ただ、そのー、なんだ」
ああ、顔が笑ってしまっているのが分かる。自分の馬鹿さ加減が面白いのだろうか。それとも無意識に顔が強張っているのだろうか。
「戦闘時のスキルの使用感は確かめた方が良いよな、うん」
[出力50%へ上昇。単身射出準備、目標南東2キロメートル手前]
異常な状況に置かれたせいで自分は可笑しくなってしまったのかもしれない。きっと何か勘違いしてるんだろう。
「それに、原住民から情報を得られる唯一のチャンスかも知れない。この後暫く人と会えないかもしれない」
[着地後即周辺の精密探査。武装展開用意。戦闘体制準備]
自分で作った論理と合理の重ね焼きを平らげ、誰でもなく迷う自分への言い訳を口にして。
「だから、行こう。助けに」
〈予測進路、障害物確認出来ず〉
[ハイジャンプ]
空へと舞い上がった。
感想お願い致します。