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ごめんなさい!
リアルが忙しすぎて2週間も休んでしまいました。続きを楽しみにされていた方々には本当に申し訳ありません!
「で、結局またこうなる訳か」
「「「我らユ~グ~ドはぁ、地と根の子ぉ、天に煌めく星のすぇっ!」」」
目の前で肩を組み赤ら顔で歌い呆けている三人組に心から感謝したのが、もう随分過去のことに感じられる。
最初は美味い美味いと皆でチャイチェの作った猪や鹿のジビエ料理を楽しみ、今後の仕事についてや里の風習について等の話しで普通に盛り上がっていたのだが、宴会開始から一時間もすれば御覧の有り様だ。
毎度のことながら、高貴なる森の民という一般的なエルフへの理想像は何処へ持っていけば良いのだろうか。
「マリスさ~ん、マリスさんも一緒に歌いましょうよぉ」
「…………はぁ」
「どうしました?」
溜め息が漏れるが、自分を慕い無邪気に腕に抱きついてくる少女をマリスが邪険に出来る筈もなく。
「…………どういう歌詞だ?」
絞り出すように小さくそう答えたのだった。
里に代々受け継がれてきたという歌をもはやヤケクソ気味のマリスを合わせ四人で大熱唱し、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎは夜もふける頃には終わった。
心底楽しそうにキャハキャハとはしゃいだエルフの少女達は、今は魔法で作った簡易ハンモックに二人仲良く横たわり、気持ちの良い夜風を浴びている。
ティグとマリスはそれをいつの間にか設置されていた折り畳み式のベンチに腰掛けて何とはなしに眺めていた。
「いやー、歌ったねぇ」
「…………そうだな」
落ち着いた今になって振り返ると精神的な支障を来しそうなので出来るだけ平静を装って返答するマリス。
「…………ありがとうね」
「別に対したことじゃない」
「そうでもないよ?」
謙遜を押し止める、思ったより真剣な声音に目を向ける。
「君が来てから、里は賑やかになった。若い子らは特に明るくなったように感じるよ」
里のエルフ達は、時折その陽気な態度を一転して閉塞的な様子を見せることがある。年配であればあるほど、それは顕著だ。隠れ里、という揺るぎない事実がそうさせるのだろうか。
「来客が珍しいだけだろう」
「それもあるけど、君のそのはっきりとした言動が小気味良いんだろうね。僕も含めて里の年長者達はどうしても含みを持たす言葉使いが多いから」
「そうか」
「色々と意味があってやってることなんだけどね」
「それは……」
(相手の言動からその真意を探るための訓練、か)
依然、里のエルフの一人がそう漏らしていたのを思い出した。この里はあまりに悪意に晒されやすい。若いうちからそういう輩への対処を身に付けることは生きていく上で必須なのだそうだ。
人間種どころか同種族からすら狙われている立場のこの里を守るためには仕方のないことだが、若く視野の狭いうちは中々理解を得られないのだろう。
「難しいねぇ」
「…………俺はここに来てからは、感謝されてばかりだな」
夜空を見上げるティグへ、自然とマリスはそう切り出していた。
「俺は本当なら、こんなに人から感謝されるような存在じゃない。元いた場所では、邪魔者扱いだった」
一週間を共に過ごしたからか、優しく接してくれたからか。異世界へ来て初めての発露。マリスの意思と関係なく気が付けば勝手に口が動いていた。
「……そうなんだ」
「親にすらマトモに世話を焼いてもらったことも無い。何時も何時も無視されてきた」
脳裏に浮かぶのはゲーム内アバター・マリスではなく、日本で生まれ育った自分。白く無機質な部屋、態度の悪い家庭用アンドロイド、レーション中心の簡素な食事。所謂、ネグレクト。
両親が死んで保護されるまでの十年間。思い返せば、その生活で唯一笑えることと言えば、家庭用アンドロイドの自分に対する設定が始末の悪いペットとして登録されていたことぐらいだ。
その後は、比較的マシな生活も送れたし、友人も多少出来た。今や成人した大人であるし、仕事を身に付け趣味も見つけて自立もしている。それでも、過去は常にマリスの影をついて回る。人としての根本に居座っているのだ。
だから。
「だから俺は、ここが好きだ」
優しくしてくれたから。美味い飯を食わしてくれたから。それがどれ程、尊いものかマリスはよく知っていた。
「そうかい」
目を瞑り、ただ空を見上げるティグ。それに習ってマリスも目を閉じ空を見上げる。
視界を遮ることで、少女二人の寝息や森を伝う夜風を一層近くに感じられる。そして風に運ばれてくる緑の薫り、それが何故か心を落ち着けてくれる。
「それは、良かったな」
暖かな優しい声に、何故だかちょっと泣きたくなってしまうマリスだった。
「ティグ、大変だッ! 早く来てくれッ! 山が、山が動いてるッ!」
翌朝、平穏はあっさりと食い破られた。
リアルが忙しすぎるので、今後は2日から3日置きに投稿していきます。
よろしくお願いします!