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短いです。多分、ここ数日の投稿は時間が作れたら直していく予定なので、その時は告知致します。
やり方は、一から建造するのとあまり変わらない。小さな大工は地質の調査と建物の組み上げだけを目的として開発されたナノマシンではない。もう一つの機能として、あえて死滅することでナノマシンの死骸が建材と同化しその質量を底上げすることも出来る。
銀の光は世界樹の構成要素を徹底的に調べ上げ、その光を散らすことによって、損なわれた部分を補うことが出来る訳だ。無論、通常の組み上げ作業しかしない建築に比べてスモールカーペンターに多大な消費を強いることは間違いないわけだが。
(だいぶ減ったな)
自身の身体と白竹に内臓されているナノマシン残量の目減りが如実に感じられげんなりするマリスであるが、それとは対照的に昨日と同じく両の手を振り上げてピョンピョンと喜び跳ねているチャイチェを見ていると、それも些細なことに思えてくる。
「ありがとうございます。マリス様」
「なに、これくらい対したことではない。」
畏敬の念を持って深々と頭を下げてくるラズリにそう返答するマリス。完全な強がりに過ぎず、今の段階でのこの消費は大変な痛手である。しかし単にあまり弱味を晒したくないこともあるが、何よりラズリの背後からバシバシ飛んでくる憧憬の眼差しがマリスにそう言わせてしまった。
「ではそのお言葉に甘えまして、此方と此方の物件についてもお願いしても宜しいでしょうか」
(え?)
続くラズリの言葉に一瞬、固まるマリス。脳裏には、誰が一件だけって言った? と此方を煽り散らしてくるティグの姿がありありと浮かんでくる。
もはやナノマシンに大した余裕は無いのだが、今さらやっぱり無理です、出来ませんとは中々言い出しづらいものがある。絶えず向けられている熱視線もそれに拍車をかけてくるのだ。マリスにはまたもや選択肢が無かった。
(上手いこと使われてるなぁ)
こき使われている自覚はあったが、こうも追い込まれてしまえば、拒否権も何もあったもんじゃない。完全に抵抗を諦めたマリスは首を縦に振るしか出来なかった。
「本日は此方で最後の物件になります。誠にありがとうございました。里長にもしかとお伝えいたします」
あれから都合五件ほど修復して回って、終わる頃には日も暮れ掛かるほどになっていた。修復を繰り返した小さな大工の残量は三軒ほどですっかり無くなり、仕方なしに戦闘用や清掃用のものを小さな大工に改修して消費する羽目になった。お陰で小さな大工以外のナノマシンもきっちりと一回り無くなってしまった。
(全く、酷い目にあった。特に五軒目に体育館とはなぁ)
脳内でナノマシン残量に意識をやり、事の発端となった親馬鹿エルフへの怒りを燃やすマリス。しかし。
(……………でも、あれだ)
三軒目に会った住人の年老いたハーフエルフの夫婦からは大層感謝されて涙すら流され、土産だと作物をこんもりと持たされた。
五軒目の体育館では幼年のエルフ達に感謝と親愛と共に囲まれて揉みくちゃにされた。チャイチェなどは幼年のエルフ達に自分達と変わらないねとからかわれて怒って追い駆けっこまでしていた。その様を見てマリスも大いに笑ったものだ。
(悪くはなかったな)
人に心の底から感謝される。それは人との関わりが希薄だったマリスの人生には今まであまり出会さなかったイベントだ。それを受けることが、何というかむず痒さと共に、こんなにも心地良いものだとはついぞ知る機会はなかった。
(笑って話して、泣いて)
こうやって自分は色んな関わりを経て、この里の一員となっていくのだろう。そう、肌で感じられたこの一日は、そう悪いものでもなかったなと、マリスは心より思うことが出来た。
「では明日もよろしくお願い致します」
それはそれとして、あの馬鹿は、近い内に必ず締め上げると誓うマリスであった。
感想よろしくお願いします。