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今回も短いです。何とか遅刻は防ぎました(笑)。
「いやー、マリス殿には本当に感謝してもしきれないですなぁ。いくら言っても足りないくらいですよぉ」
(その話はもう四回目だからいい加減言い足りて欲しいんだが)
赤ら顔で強制的に肩を組んで此方へ肉薄してくる同性の美形というのは、当人同士にその気がなくても貞操の危機を感じさせるものなのだな、と嬉しくない新発見をマリスはした。
場所は村の中央広場の左に構えた大衆食堂『夜明けの風見鶏邸』。村の入り口に着き、広場で集まった住人達に紹介されるやいなやここへ連れ込まれ、歓迎の宴という名の強制参加飲み会と相成ったわけである。
周囲を飲めや歌えやとどんちゃん騒ぎしている数十人のエルフ達に固められ、先程から同じような感謝の言葉を投げ掛けられている。
(もはや全員三周はしているが、どうなんだこれは)
本当に感謝してるのか、怪しんでいるマリスへまた別の赤ら顔のエルフが近寄ってくる。
「おや、マリス殿。酒がなくなっておりますよ」
だからなんなんだろうか。抗弁する間もなく満面の笑顔でまた並々と注がれていく葡萄酒。このようにしてマリスの盃はさっきから三時間乾くことがない。全員が全員、ドワーフかと見紛うばかりの酒乱ぶりである。
(リアルぼっちにこの飲み会はキツいな)
自宅で一人、嗜むこともあるがこんな大勢での飲み会に参加したことなど覚えている限り片手で数える程度しかない。おまけに初めての土地で勝手が分からず、マリスは周囲の陽気な雰囲気を他所に一人だけ今一乗り切れなかった。
「一番チャイチェ、歌いまーす!」
「二番テュケーも歌いまーす!」
「三番ティグ、踊りまーす」
注がれたのだから口をつけておくかと、一口飲んだその時に飛び込んできた聞き覚えのある声に、思わず噴き出しそうになる。慌てて見ればやはり、先程まで傍で比較的に理性を保って飲み食いしていた三人組にほかならない。周りの酔っぱらい共からの黄色い歓声が飛ぶ。
「いいぞー、やれやれぇ!」
「チャイチェちゃん可愛いー!」
「テュケーお姉さま素敵ー、抱いてー!」
「ティグさん相変わらず色男だねぇ!」
「よっ、里一番の盛り上げ屋!待ってました!」
(……ああ、いつもこんな感じなのか)
歓声からの情報で察するマリス。ブルータスお前もかと言いたくなる。ノリノリに熱唱して躍り狂ってる三人をジト目で見る。視線に気付いたのか、両手で一生懸命手を振るチャイチェ。
(…………まぁ、可愛いからいいか)
素直にそう思っていると、チャイチェの様子に気付いたティグも全力で此方へ手を振ってくる。
(…………まぁ、気持ち悪いな)
イケメンと言えど、許されないこともあるんだよな。マリスにとっては非常に新発見の多い実りある飲み会は、深夜まで続いた。
「……はぁ」
うちに来てー、うちに泊まってーと幼児のように引っ張ってくるチャイチェを何とか振り切り辿り着いた客人用の空き屋──中世風な二階建ての一軒家。その二階寝室にてマリスは、大きく溜め息をついた。
(疲れた)
この身体に纏った装備には精神耐久度を上げるスキルも常時で発動している筈だが、やはり気疲れには効くものではないようだ。
(人間らしい感情を失いたい訳ではないんだから、それはそれでいいんだけど)
ただ今後もあの感じが続くのかと思うと、果たして馴染めるのかと不安に駆られてしまう。憂鬱な気持ちで用意されたベットへ転がる。
装備は外さない。というか外せないのだ。基本的にゲームの装備なんてステータス画面から選択して自動装備するものである。自分で着る方法なんて知らないし、もし脱いだとして仮に着方が分からず装備が壊れてしまえばそこでマリスの冒険は終了だ。文明人としては外を駆け回り薄汚れた服でベットに横になるのは若干の抵抗があるも、機巧術で最低限の清掃は行っているから、と自分を誤魔化した。
そのまま目を閉じる。
(今日は本当に色々なことがあった。情報は脳内メモリに保存済みだから、後で時間を見つけて整理しよう)
何もまだ始まっていない、何もまだ分かっていない。そんな状況ではあるが今はとりあえず襲いくる睡魔に身を任せて寝てしまいたかった。
それから暫くして。
キィッ
〈睡眠中に屋内へ来訪者あり。味方と識別出来ず。装備者への要覚醒を伝達!〉
(なんだなんだどうした!?)
白竹からの要請が脳内に飛び交い、強制的に覚醒させられた。ベットから跳ね起き、ドアの方へ意識を向ける。
「おーい、マリス君。まだ起きてるかい?」
一階から呼び掛けてきたのはティグの声だった。
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