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少し時間が取れなかったので、とりあえずの更新です。後日、多少文章に修正が入ります。
「もう少しで里の結果内に入りますよ、マリスさん」
チャイチェが待ちきれないとばかり、嬉しそうな笑顔を浮かべてそう囃し立ててくる。
「チャイチェ、気持ちは分かるけどあんまりはしゃがないの」
そんな彼女に口では苦言を呈しつつも、目を細め微笑ましそうにしているテュケー。
マリスは数分前とは見違えるほど明るい二人のの様子に思わず苦笑してしまいそうになった。
マリスはテュケーとチャイチェの案内の元、二人が暮らすエルフの隠れ里へ向かって道なき道を掻き分けて歩いていた。
マリスの失言後、暫く空気は冷え込んでしまっていたが、生来の乏しい表情をしてありありと伝わってくるマリスの焦りようにに溜飲が下がったのか、それとも恩人にこれ以上は無礼だと思ったのか。何とか矛を納めてくれた二人から、ぜひ御礼をしたいので隠れ里までお招きしたい、という提案が出されたのだ。
今日の宿すら当てのない──正確には一つだけ思い当たるふしが無いでは無いが、出来ればまだ使いたくないマリスにとってはまさに渡りに船の話だったので一、二もなく即同意して今に至っている。
(しかしこの状況、俺とジェイルが共犯の自作自演だったらどうするつもりなのか。命を落としかけたばかりの割りには迂闊過ぎるだろう)
マリスとジェイルが無関係であるという証明は何も成されていないにも関わらず、率先して自らの種族の本拠地へ招き入れようとしているテュケー達を見ていると、この子たちは大丈夫なのだろうかと心配になってきてしまう。
(この能天気とも言える危機感の無さはエルフの種族的特徴なのだろうか、それとも目の前を行く若いエルフ二人が特別抜けているのだろうか。もしくはエルフにしか分からない、会ったばかりの俺を絶対的に信頼出来る根拠が何かあるのかもしれないな)
テュケー達の後を追いながらも、割りと真剣に失礼な考察に及んでいるマリス。と、そこに自身への興味深げな視線を感じとりテュケーへ目線を向ける。
「何かあったか?」
「あ、いえ、そうではないんです。すみません」
訪ねるも曖昧な表情で首を横に振るテュケー。
「ただ、ほんの数半刻ほど前まで自分が死にかけていたことが信じられなくなってくるほどの治り具合でしたので、どのような魔法を使ったのたろうと、ついじろじろと見つめてしまいました」
テュケーはここに来るまでの雑談で、倒れて直ぐに意識を失っていたと語っていた。恐らくそれほどの重傷を負っていたという実感が無いのだろう。
「そんな深手の傷を複数箇所同時に一瞬で、しかも傷跡すら残さず治してしまうなんて、マリスさんは凄まじい回復魔法の使い手なのですね」
身体の各部を確かめるように触り、賛辞の言葉を送ってくれるテュケーだったが、エルフ種にしては珍しい見事なプロポーションを持つ彼女のその仕草は、健全な若き青年には少々刺激が強く、マリスは目のやり場に困ってしまう。
「それに空を飛んでこられた時も見たこと無いくらい速かったですもんね! マリスさんは魔法の達人なんですね!」
続いてチャイチェもニコニコと笑いながら手離しに絶賛してくる。彼女もここまでのちょっとした雑談で気が解れたのか、最初の人見知りは何処へやら。話し出してものの五分程で、テュケー曰く何時もの明るさを取り戻してしまった。
「そうでもない」
(何故なら魔法系スキルなんて一つも持っていないからな)
内心でそう付け加えつつ、二人がかりの誉め殺しに冷静に答えるマリス。それを謙遜と受け取ったのか、チャイチェはキラキラと特撮ヒーローを見る幼子のような羨望の眼差しを注いでくる。
「自分の力をひけらかさないなんて、マリスさんって大人なんですね!」
隣に立つと自分の腹までの高さしかない少女の無邪気な憧れを、間接的な嘘を言って騙すことで汚してしまっている事実。それがぎゅうっと心を良心の呵責が強烈に締め上げてくる。
(仕方がない事とはいえ、実は機巧術だ、とはっきり言えたらどんなに楽か)
機巧術──魔法術と対を成すスキル郡であり、彼方がファンタジーの申し子とするなら此方はSFの落とし子だ。一部の種族のみが体内で精製することの出来るナノ因子、それをナノマシンに注入し操ることで様々な現象を引き起こす技術。魔法術との一番の違いは魔力さえあれば発動する魔法術とは異なり、ナノ因子とナノマシンの両方を必要量用意しなければならないというデメリットが上げられる。ただしその分、全てのスキル発動が思考のみで可能という独自の強みも持っている。
(機巧兵、機巧王ハーロット、ナノ因子持ちは恐怖の対象。まだ詳しくは聞けていないが、散りばめられたワードからは機巧術への嫌悪や恐怖を感じる。魔法使いということにした方が無難な筈だ)
「見えてきましたよ。あれがエルフの里です!」
一人、精神的苦痛に耐えていたマリスの耳へ待ち望んだ吉報が飛び込んだ。やっと人里にたどり着ける、と落ち込み気味だったテンションが急速に上昇していく。
テュケーの指差す先、目線を遠くに置くと木と木の間にぽっかりと何も無い空間が存在していた。そこには闇も光もなく、ただ何処かへと繋がっていそうな扉に見えなくもなかった。
「設置型転移か?」
「流石、よくお分かりですね」
(ゲーム内でも似たようなグラフィックだったからな)
あまりに広大なマップを行ったり来たりするのに各地で死ぬほど利用していたのだ。見間違える筈はない。
「では詳しい説明は省きましょうか?」
「いや、俺が知るものと同じものとは限らない。説明をお願いしたい」
「そうですか、では説明させて頂きますね」
「おかえりチャイチェェェェェェェェェェェッ!!!」
テュケーが説明を始めようとしたその時、ポータルから一人の完全武装したエルフ種の美青年が、何故か自分の側に立つ少女の名前を呼びながら勢い良く飛び出してきた。
感想よろしくお願いします。