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投稿されてないというね……。


すいませんでした。


(もうすっかり夜だな)


 真っ暗な大森林の茂みを掻き分け、依人は二人のエルフ達と別れた地点へ向かっていた。


 あの盗賊の話が余りに興味深すぎる内容ゆえについ話し込んでしまい、こんな時間にまでなってしまった。大森林は完全に夜の帳に包まれている。


(もうあの子達は待っていないだろうな)


 白竹の探知系は今日は店仕舞いである。装備品のスキル使用可能回数を回復させるアイテムがインベントリから取り出せないことをすっかり失念して今日は使い過ぎてしまった。なので行ってみるまで本当にいるのか、いないのか確かめることも出来ない。


 結果、依人は律儀にも徒歩でその地点までゆっくりと戻っている最中なのである。


(ん?)


 その方向からボンヤリとした緑色の光が木々の狭間からチラリと覗いている。


(もしかして)


 無い無いとは思いつつも、淡い期待を胸にその光を目印に真っ直ぐに進んでいく。木々を躱して先に行く度に光は徐々にはっきりとしたものになっていく。


(間違いない。これは魔法陣の放つ魔力光だ)


 緑ということは風系統の魔法だろう。そしてその系統と最も相性が良いとされている種族を今日の夕方、依人は助けたばかりだった。


 やがて光を遮るのは目の前の木一本のみとなる。その横を通り抜ければ期待通り、緑の魔力光を放っている魔法陣を前後左右の四方に展開させたエルフとダークエルフが、緊張した面持ちで此方を見つめていた。


(まさか本当に戻ってくるまで待っているとはな)


 自分から言ったこととは言え今日、襲撃されて死にかけた場所で長時間待っていろと見知らぬ他人に言われて実際に待つものがどれ程いるだろうか。


(とっくの昔に隠れ里とやらへ帰ってしまっていると思ったが)


 先程の盗賊から得られた情報を早速活用すべくエルフの隠れ里について体内のナノマシンへ転写した記録を脳内で読み上げておく。


「すまない、ずいぶん待たせてしまったようだが男は取り逃がしてしまった」


 エルフというこの世界では希少な種族からの情報収集。その第一声は、先ずは謝罪から入ることにした。いくら愛想を振り撒けない廃人ゲーマーとはいえ、礼儀を欠くつもりはない。敬語が出来ないのはデフォルトなのであしからず。


「いえ、お気になさらないで下さい。危ないところを救って頂いただけで充分感謝しております。むしろこちらこそ、命を助けて頂きながら御礼の一つもお伝え出来ず誠に申し訳ありませんでした」


 テュケーはパチンッと指を鳴らして四枚の魔法陣を消し去ると、依人の元へ近付き深々と頭を下げた。遅れてその後ろを付いてきたエルフの少女も合わせてペコリと頭を下げる。


「そうか。そう言うならば此方もあまり気にしないようにする。そちらの謝罪も受け取ることにしよう」


「はい、ありがとうございます」


 答えながらも思考は今さっきの四枚の魔法陣を並列思考で分析する。恐らくは風系統の結界魔法。敵からの気配遮断と防御力を併せ持つタイプのようだ。汎用性のある高レベルの風魔法。


(それを長時間維持していたとすると、このテュケーという少女は思っていたよりもレベルの高い魔法使いなのかもしれない)


 敵対するつもりはいまのところが、何かの拍子に戦闘を開始せざる終えない状況もあるかもしれない。交渉相手の力量を正確に分析するべく考察していると、此方を見つめていたエルフの少女と目が合った。


「どうかしたか?」


 余りにじーっと見つめているので訊いてみると、何でもない何でもないというようにブンブンと激しく首を振り無言でテュケーの影へ隠れてしまった。


「こら、チャイチェッ! 命の恩人に向かってその態度は何なのッ!」


 エルフの少女──チャイチェの行動をテュケーが叱り自分の背後から彼女を引っ張り出そうとしているが、チャイチェも大したもので体格差を活かしてちょこまかとテュケーを翻弄し頑なに依人の前に出ようとしない。


(嫌われたか)


 思えばこの少女の目の前ギリギリに物凄い勢いで着地というか、落下したのだ。危機的状況で自分に無言で迫ってくる人影、さぞ恐かったことだろう。チャイチェが怯えるのも無理は無い。


「えーと、確かテュケーだったか。その子がそう呼んでいた気がしたんだが」


「え、あ、はい。そうです」


 名前を確認され肯定するテュケー。


「構わないからあまり無理強いはしないでやってくれ」


 出来るだけ優しげに話そうしてみる。ジェイルとの会話で気持ちが解れたのもあってか、先程より幾分上手く話せている気がする。


 その様子をチャイチェがチラチラと親友の影から覗き見ている。別に好かれたい訳ではないが、強引にやってトラウマになって貰っても困る。これからのことを考えれば、もしかしたら長い付き合いになるのかもしれないのだから。


「失礼ばかりで大変すみません。普段は明るくて人懐っこい子なんですけど、今日まで異種族の方とはキチンとお会いする機会が無かったものですから人見知りしてるんだと思います。その、それに今日は色々ありましたから」


 最後の語尾に言葉を濁し、表情を曇らせるテュケー。自身が死にかけた時のことを思い出したのだろう。


「突然生き死にの現場に立ち合ったんだ。怯えるのは当然だろう」


「そう言って頂けると助かります。それで、あのー失礼ついでに申し訳ないのですが一つお尋ねしても宜しいですか?」


「なんだ?」


 突然の申し出に何を言われるのかと少し身構える依人。


「差し支えなければお名前をお聞かせ願えませんか?」


「んッ」


(しまった。そう言えばまだ名乗って無かったな。さて、アバター名と本名どちらの名前を使うべきか、それが問題だ。うーむ……)


 精神的には間違いなく自分は日本在住の二十一歳である依人本人なのは間違いない。しかしこの肉体は紛れもなくゲーム内で使い込んだマリスのもので。やはりこのビジュアルで日本名は名乗り辛いものがあるか。


「幾つか名前があるが、とりあえず今はマリスと呼んでくれ。家名は特に持っていない」


(先ずはただのマリスだけで通して行くとしよう)


「マリス様、ですか」


「様付けはよしてくれ、少しばかり気恥ずかしい」


 ゲーム内でなら()()()()()()()()()が流石に見ず知らずの他人に言われるのは勝手が違う。


「あら、そうですか。ではマリスさん、とお呼びしても?」


「そうしてくれると助かる」


「分かりました。それでは私達の方も改めて自己紹介させて頂きますね」


 上品な笑みを浮かべると、優雅というな仕草で会釈するテュケー。


「私の名前はテュケー・ララモントと言います。見ての通りダークエルフの流れを汲むものです」


 そして、と続け依人──マリスを見つめていて油断していたチャイチェの首根っこを引っ掴み自分の前に押し出す。


「此方の恥ずかしがり屋がチャイチェ・ララモントです。ほーらっ」


 しゃんとしなさい、とその背を叩くテュケー。


「親子、いや姉妹か?」


 同じ家名、二人の体格差を見て思わず口を吐いてそんな言葉を呟くマリス。


(種族は違うが、まあそういうこともあるだろう。テュケーは大分若く見えるがエルフは外見で年齢を判断出来ないしな)


「…………………………同い年の友人です」


 ヒュー、と冷風が吹いたような気がした。それも涼やかなんてレベルではなく、背筋まで凍り付くような極寒である。


「そ、そうか」


 テュケーの雰囲気の変貌振りに若干、どもりながらもなんとか返答する。助け船を求めてチャイチェの方を見るが、此方は此方で幼子扱いされたのが不満なのか拗ねたような雰囲気を醸し出している。


(女性相手は年齢に関わりそうな話題は避けるべき、か)


 自分のコミュニケーション能力の低さを嘆きながらも、かつてのゲーム仲間の発言は正しく金言だったのだな、と身をもって理解したマリスだった。




頑張ります

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