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乙女ゲームな設定の話

拗らせヒロインの婚活事情~悪役令嬢は仲人になりたい~


「玉の輿が嫌だというわけじゃないんです」


 彼女……ヒロインであるエイミーは、真面目な顔で言った。

 それをやはり真面目な顔で、侯爵令嬢ガートルードは聞いていた。


「むしろ愛が生まれるなら歓迎です! 今世の母にも楽をさせてあげられますし」


 今世というからには、前世もある。

 エイミーは乙女ゲーム仕様の世界への転生者だ。

 役どころはヒロイン。


 対する侯爵令嬢は、いわゆる攻略対象の王子の婚約者で、悪役令嬢の役どころである。

 こちらも転生者だ。


 ガートルードも記憶を取り戻してからは、婚約破棄から続く破滅を回避するべく頑張ってきた。

 婚約破棄されなければいいが、されたとしても破滅は避けたいところである。


 現在、攻略対象者である実兄や婚約者の第一王子のナイジェル、またナイジェルの側近候補である他の攻略対象とも良好な関係を築いている。

 このままいけば、多分大丈夫だ。


 だが、ここは乙女ゲーム仕様の世界。

 勝負はヒロインと攻略対象者が出会ってからだった。


 だから『学園』への入学後、ヒロインのエイミーがどう動くのかを戦々恐々と見守っていた。

 そう、ずっと見守っていたのだ。


 ヒロインであるエイミーは誰の攻略にも動き出さなかった。

 むしろ攻略対象者から逃げ回っていた。


 今、こうしてガートルードとエイミーが向かいあっているのも、ナイジェルの乳兄弟で未来の側近である伯爵子息サイラスに追いかけられているのを見かねて空き教室で匿ったからだった。





 さて、時間としては少し前のことである。


「ありがとうございました、ガートルード・ウィズダム様」

「いいえ、お礼には及ばなくてよ」


 ガートルードはお礼を言うエイミーを見つめた。


 二人の間にはなんとも言えない空気が漂っている。


「……でも、貴女、何をなさったの? サイラス様にあんな風に追われるなんて」

「いえ! 何も……!」


 必死の表情でエイミーは首を振る。


「ただ……わたしの落としたハンカチを、拾ってくださって」


 そう言って、エイミーは項垂れた。


 ハンカチを拾ったことが何故追いかけられることに繋がるのかと、他の者なら思ったはずだ。

 しかしガートルードは違っていた。


 ――サイラスとの出会いイベントだわ。


 サイラスは攻略対象の中で難易度が一番低い。

 わかりにくい地雷もないし、好感度も上がりやすかった。


 そして実際の王子様よりも王子様然とした金髪碧眼の甘く麗しい容姿、長身とそれに見合ったすらりとしたバランスの良い体躯。

 普段は優しく穏やかで、でも好きになったら一途で情熱的な性格。

 頭脳も優れ、剣と魔法の両方に秀でた魔法騎士。

 血筋は地味な伯爵家の四男と微妙なところだが、そのおかげで貴族の庶子で庶民育ちのヒロインとの結婚にも強い家族や親戚の反対はない、という設定だった。


 それに血筋はどうあれ、母親は王子の乳母でサイラスは未来の王の同い年の乳兄弟。

 出世は確定したようなものだから、血筋の微妙さは結婚へのハードルを下げるためのものでしかない。

 ほとんどチュートリアルかという低難易度と完璧な設定の、初心者向け攻略対象者。


 それが、サイラス・クルックシャンスだ。


 ただあまりにサイラスの難易度が低いことで、逆に他の攻略対象者の難易度を上げる結果になっていた。

 他の攻略対象者を狙っても、サイラスの難易度が低すぎて先にサイラスの好感度が上がり過ぎてしまい、希望のキャラを落とせないという結果になりがちだったのだ。


 そのサイラスから逃げていた……


 つまりエイミーの狙いはサイラスではないし、そしてナイジェル王子でもないということか、とガートルードはホッと内心で胸をなで下ろした。


 ここで王子のナイジェル狙いではないとガートルードが断定したのは、サイラスルートを途中まで進めてからじゃないと王子ルートに入れないからだ。

 そしてサイラスの好感度が上がりやすく攻略しやすいため、その煽りを受けてナイジェル王子は最も攻略しにくい。


 そしてナイジェル王子が攻略されなければ、ガートルードは婚約破棄まではされない。

 他のルートでも悪役令嬢として顔を出してはいたが、婚約者のナイジェル王子を奪われなければ破滅は回避できるはずなのである。


 その時、ガートルードは気が緩んだ。


「なら、誰か他にお好きな人がいるのかしら?」


 できればここで狙いは誰か聞いて、もっと安心したかった。


「いいえ」


 だが、その問いかけにエイミーはおどおどと首を振る。


「……誰もいませんの?」


 その疑問にエイミーはしばし黙った。

 そして何か決意したかのように、きっと顔を上げる。


「ガートルード様。ガートルード様はどうしてわたしの好きな人が気になるのですか?」


 問い返されてガートルードは言葉に詰まる。


「わたしが誰を狙うか、それがガートルード様に重要なことなのでしょうか」


 問い詰める姿勢には強い意思を感じて、ガートルードは顔には出さなかったが動揺した。


「それは、あのサイラス様を袖にするのですもの、強く心に決めた人がいるのだと思うでしょう?」


 ガートルードも、少しエイミーが自分の同類……転生者ではないかと疑っている。


 サイラスからの逃げ方が必死だったからだ。

 捕まったら人生が決まると思っているほどの勢いで逃げていた。


 サイラスルートは本当にイージーモードなので、ルートに入らないためにはゲームでも完全に接触を断つつもりでプレイする必要があったことをガートルードも知っている。


 だが、違っていたら正気を疑われる話だ。

 口にするにはリスクがある。


 正直に答える勇気はなくて、とぼけることにする。


「それだけですか?」

「それだけですわ」


 だが追求の手は緩まない。


「……ガートルード様はご存じなのではないですか?」

「……なにを?」

「…………」


 エイミーは半眼になってガートルードを見つめている。


「……わたし、少し気が変わりました。せっかくですからサイラス様とお知り合いになって、そのコネでサイラス様と親しい方ともお知り合いになって、玉の輿を狙おうかと……」

「ちょっと待って!」


 言外にナイジェル王子を狙うと言われて、ガートルードは慌てふためく。


「お……落ち着いてちょうだい」

「わたしは落ち着いてます。ガートルード様がお話してくださったら、もっと落ち着いて考えられると思います」


 エイミーはにっこり笑い、ガートルードは眉根を寄せる。


 そのイイ笑顔に、どっちが悪役だ、とガートルードは言いたくなった。





 そうしてお互い探り合った結果、転生者であることを確認。

 どちらもゲームの知識は同等にあった。


 そしてエイミーにゲームにいたイケメンたちを攻略する気がないことがわかった。


「わたし、一目惚れとか信じないんです」


 ガートルードには乙女ゲー者にあるまじき発言なような気がしたが、エイミーはその辺前世から今世を通じてかなり拗らせているようだった。


「そもそも、恋から信じられないというか」

「待って、そんななのに乙女ゲームして楽しかったの?」


「そりゃあ、二次元と三次元は違いますよ」

「……そういうものですの?」


「そういうものです。三次元の男は、信じられないんです」

「ど、どうして?」


 エイミーはちょっと恥ずかしげに告白する。


 今世の彼女は紛うことなき美少女だが、前世の彼女は顔面スペックがやや低かったらしい。


「自分で言うのもなんですけど、めちゃくちゃ不細工ってわけではなかったんですが……とにかく地味で顔は印象に残らないタイプでした。だけど胸だけはやたら大きくて、顔が地味なのも手伝って、誰も胸しか見ないんですよ」


 視線がとにかく胸にしかいってないというのは、わかるものらしい。


 ガートルードの方は前世も今世も『人並みよりやや小ぶり』なので、その辺は「そうなの」としか答えられなかったが。


 そして痴漢もセクハラもあったが、とにかく胸だった。

 男にも口説かれたが、全員おっぱいフェチだった。


「中学の早い内に気が付いたんですが、おっぱいフェチと女で穴があればなんでもいいってくらいの男しか近付いてこないんですよ……」

「そ、そんなことないんじゃなくて?」


 エイミーは遠くを見て「フフフ」と笑っている。


「どうにもそれを引き摺っていまして。どんな男に口説かれても、昔はこの人胸しか見てないんじゃないかとか、今だとこの人顔しか見てないんじゃないかとか、ヤりたいだけで女なら誰でもいいんじゃないかとか思ってしまいまして……しかも今世の母がほら、一目惚れだとか言われて父にコマされて捨てられたでしょう……?」


 エイミーには高い魔力があったので今は父親の男爵家に引き取られて学園に入っているが、どうやら母親を一度捨てた父親にも思うところがあるようだ。


 とにかく色々拗らせている。


「そんなわけで攻略する気はありませんが、母に楽をさせたくて、学園には入りたかったんです。宮廷魔術師になるには、学園を卒業するしかないものですから」


 目指すは男女平等な職である宮廷魔術師で、男には見向きもしないつもりだった。

 初めから、攻略対象者は全部避けるつもりだった。


 しかし――


「なのに、避けたはずのイベントが、他の場所で起こったんです……っ」

「そんな……っ!」


 エイミーの血を吐くような告白に、ガートルードも愕然とする。


 それはシナリオという名の運命の強制力なのか。

 もしもそれがナイジェル王子にも発動したら、ガートルードも破滅を避けきれない。


 どうしたらいいのか。


 二人で考え込む。


「……一人身なのが悪いのではないかしら」

「どういうことです?」


「わたくしの知っている限り、このゲームに逆ハーレムルートはなかったわ。一人のルートに決まれば、他の攻略対象とは疎遠になるでしょう? どうなの? 絶対に独身を貫くつもりなのかしら?」


「いえ……独身主義ではないんです。ただ攻略対象者たちは、わたしのことをちゃんと知って好きになってくれるわけじゃないでしょう? お仕着せのシナリオ通りに当たり前の反応だったり、優しさだったりに決まった反応をしているだけですから。……シナリオが終わったら目が覚めるんじゃないかと思うんですよ。だから」


 信じられない、というわけだ。


「攻略対象者たちは駄目なのね。なら……それ以外なら?」

「ちゃんとわたしを知って好きになってくれるなら」


 顔を見合わせ、ごくりと互いに息を飲む。


「でも正直自分一人じゃ、恋人を作れる気はしません。なんせ筋金入りの喪女なので」


 しかもお友達から始めて、お互いに知り合って好きにならないといけない。

 彼女は拗らせているのだ。


 なんという残念美少女……と苦いものを噛み殺しつつ、ガートルードは頷いた。


「……わかりましたわ」


 それが破滅を避ける道ならば。

 ガートルードも決意した。


「貴女にどうにかして、お相手を斡旋しましょう!」





 そして話は冒頭に戻る。


「玉の輿がいやだというわけじゃないんです。むしろ愛が生まれるなら歓迎です! 今世の母にも楽をさせてあげられますし」


 身分は問わない。

 身分が上の貴族でも、下でもどちらでもいい。


 だがエイミーの身分は男爵の庶子の令嬢なので、下は準男爵か騎士爵、そして庶民しかないが、身分が下でも相手から望まれないことはあるだろう。


 もっとも、そこはわかっているようだった。


「もちろん下町育ちが嫌な人に無理にというつもりはありません。後、わたしに見た目以外の価値を認めてくれる人は嫌じゃありません。利用価値があるとか、あちらが庶民で逆玉だとか」

「え? それは構いませんの?」


「構いません。愛がまったく生まれそうにないくらい、それだけっていうのは困りますが。何事にも利点は必要です。体目当てじゃないのは理性的でいいと思います」

「り、理性的……そういう言い方もあるのかしら」


 高魔力で成績優秀ならば、宮廷魔術師の道はひらけていると言っていいだろう。

 宮廷魔術師なだけで収入的には一生保証されたようなものだし、功績をあげればそこから叙爵の道もある。


 そこの価値に目をつける男は、逆玉というよりヒモ希望じゃないかという気がガートルードにはするのだが……


 ガートルードは内心「やっぱりこの娘、拗らしてる」と思う。


 それを押し隠して、ガートルードは頷いた。


「大体わかりましたわ。探してみましょう」





 まずは相手選びから。


 前世はともかく今のエイミーは美少女だ。

 ゲームのヒロインとしては攻略対象者から囁かれる「可愛い」以外に褒め言葉はなかったし、設定に美少女とは書かれていなかったが、当然の如くイラストは美少女だった。


 だから転生したこの世界の彼女も美少女だ。


 顔面スペックはかなり高い。


 胸は人並みより大きいくらいで、巨乳というところまではいかない。

 だが脱がせば美乳だろうという予測が、外見からでもつく。


 他のボディラインも柔らかい曲線で、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。


 あんなに外見コンプレックスを拗らせていなければ、恋人の一人や二人あっという間だろうとガートルードにも思われた。

 成績も優秀なわけで、そうすると残念なところはやはりあのコンプレックスだ。


 そこは隠さねばならない。


 コンプレックスに影響を受けた性格も無問題とはいかないが、彼女も普段は猫を被っている。

 その猫が剥がれなければ大丈夫だろう。


 ただ、問題は。


「わたくしの知り合いには適当な人物がおりませんわね……」


 ガートルードの知り合いとは、男女ともに全員高位貴族だ。


 しかもそこには七人の攻略対象がすべて含まれる。

 もともと男性の知り合いなど少ないのに、七人抜いたら残りの数は僅かしか残らない。


 あとは自宅の使用人。


 ただし上級使用人には跡を継げない下級貴族の第二子以降の子弟もいるが、庶民上がりもそれなりに多い。

 エイミーは侯爵家の従者だったら十分と言うかもしれないが、いきなりそこに行くのはどうかと考える。

 まずは釣り合うところからだ。


「騎士か、年齢相応の下位貴族の子弟ですわね」


 自分の直接の知り合いにいないならば、伝手を辿るしかないだろう。


「お兄様なら、どなたか」


 兄に頼んで、最終学年の実技の見学という名目で……と考えて。


 ガートルードの二つ上の兄ジェラルドは、学園の二学年上にいる。

 ちなみにジェラルド自身は攻略対象なので、エイミーの恋人候補からは外れる。


「でもお兄様自身に近付いてはいけないのね……難しいわ」


 よく考えると、学園の中では七人の攻略対象を避けるとほとんどの男性のいる場所を避けることになる。

 そう簡単には避けきれないから、エイミーはサイラスに追いかけられる羽目になっていたわけだ。


 じゃあ、もう、学園から離れるしかない。

 やっぱり従者か。


 それが一番簡単そうだとガートルードは考えた。


 攻略対象を避けるとなると身分相応な相手を斡旋するのは難しいと伝え、侯爵家に仕える若い従僕の誰かでは駄目かと持ちかけたところ、エイミーは二つ返事で了承した。

 たとえ庶民でも、庶民でありながら安定した収入があることは素晴らしい、と。


 では次は、具体的に見繕わねばならない。


 そのために、ガートルードの客としてエイミーを屋敷に訪問させた。

 サロンでお茶をしながら、二十代前半までの従僕を中心に使用人に次々と用を言いつけ呼びつける計画だった。


「――まず見た目しかわからないけど、気に入った人がいたら教えてちょうだい。知り合えるようにするわ。希望はある?」

「年は同じから上がいいです。ショタはちょっと」


「上はどの辺までかしら」

「二十代でしょうか。ダブルスコア越えてなければ、まあ……」


 安定を考えると二十歳は超えているのがいいのかしら? とエイミーが考えているときだった。


「ガートルード、お友達が来ているんだって?」


 と、兄のジェラルドがサロンに入ってきたのは。


「僕たちも仲間に入れてくれるかい?」


 たち、と言う通り、ジェラルドには連れがいた。


「エイミー、お隣いいですか?」


 ……サイラスだった。


 ガートルードもジェラルドとサイラスが休日にいっしょにいるほど仲が良かったなんて、初めて知った。

 少なくとも家に招いているのは初めてのはずだ。


「え、ええ……」


 二人とも愕然としてしまって、二人の同席を拒むことができず、カクカクと頷くのが精一杯のうちに丸テーブルで向かいあっていた二人の両隣に椅子が運ばれてきて、そこにジェラルドとサイラスが腰を降ろす。


「僕にもお友達を紹介してくれる? ガートルード。サイラスは知っているようだけど」

「は、はい……こちらは、アビントン男爵家のエイミー様ですわ」


 愕然から茫然に移行していたエイミーだったが、そこでハッとして、更に青くなる。


「よろしく、エイミー嬢」

「……エイミー様、こちらは兄のジェラルド・ウィズダムですの」

「……よろしくお願いいたします。エイミー・アビントンと申します」


「サイラスから少し話は聞いていたけど、可愛らしい方だね」

「ジェラルド様」


 サイラスが恥ずかしげにジェラルドを咎める。

 二人の視線は、エイミーに注がれている。


 そんな中でガートルードとエイミーの視線が合った。


 がたり、とエイミーは立ち上がった。


「わ、わたし、お花を摘みに行ってまいりますっ」


 そんな切羽詰まった顔で言ったら遠回しな表現も台無しだが、男性陣は気にならないのかにこにこと頷く。


「わたくしもお付き合いいたしますわっ」


 ガートルードも立ち上がった。


「仲が良いんだね」

「そうですね」


 そう言って、二人はエイミーを追いかけるガートルードを見送った。





「これは罠でしょうか!?」

「違いますわ!」


 詰め寄るエイミーにガートルードは首を振る。


「うちに招待する以上お兄様にはバレていたかもしれませんけれど、お兄様とは先程が初対面でしょう」

「はい……」


 エイミーは悔しそうに拳を握る。


「ジェラルド様とも知り合ってしまうなんて……っ!」


「サイラス様がいっしょだから大丈夫よ。お兄様のルートの前にサイラス様のルートが進むだけだと思うわ」

「それなんにも慰めになってませんっ!」


 ガートルードとしては、ナイジェルさえ攻略されなければエイミーの相手はどうでもいい。

 いっそここで諦めてお兄様かサイラス様で妥協しないかしら、なんてちらりと思う。


 それに何か察するところがあったのか、エイミーはジト目をガートルードに向けた。


「……ガートルード様、何を考えていらっしゃいますか」

「いえ、何も」


「……わたし、急に子どもの頃に王子様に憧れてたことを思い出しました」

「えっ、待ってっ、やめてっ」


 またエイミーに伝家の宝刀を持ち出されかけて、ガートルードは慌てふためく。


「お、落ち着きましょう。……お兄様たちのいる前で使用人たちの品定めをするのはちょっとどうかと思うわ。また次回にいたしましょう。そうね……今度はお兄様の乱入を避けるために、お買い物にしましょうか。今までに誰か気になった人がいたら、その時に付き添わせますわ」


「……わかりました。長居して好感度上がると怖いんで、程々なところで今日はお暇しますね」


 エイミーは次の休みの約束を取り付けて、頷いた。





 だがしかし。


「ガートルード様、エイミー、偶然ですね」

「ぐっ偶然ですねっ!?」


「ガートルード様、罠じゃないですよね!?」

「罠じゃありません!」


「ガートルード様、エイミー、偶然ですね」

「サイラス様っ!? こんなところでなにを……っ」


「ガートルード様、わたしのこと売ってませんね!?」

「売ってません」


「ガートルード様、エイミー、偶然ですね」

「ままま待ってくださいっどうしてここにっ!」


「ガートルード様……」

「本当に売ってません」





 偶然も、三回越えると偶然じゃない。

 ヤツはストーカーだ、と、ガートルードは思っていた。


 エイミーはまだ認めていなかったが。


 ちなみに毎回違う従者をエイミーに引き合わせていたが、その次からは誰もが逃げ腰だった。

 多分、サイラスが何かやってる、とも思っていた。


 確証はないが、確信している。


 とりあえず、もうサイラスルートからナイジェルルートに移るには困難な好感度になっている気がするので……


「ガートルード様、次の人お願いします!」


 ――そろそろ本当にサイラスにエイミーを売ってみようかと思う、悪役令嬢だった。





どこかの密室のエイミー「ガートルード様ああぁ…っ! わたしのこと売りましたねぇええぇ……っ!!」



ガートルード「ふふ、いいことすると気持ちがいいですね」

出番のなかった王子「どうしたの? ガートルード」

ガートルード「サイラス様にとっても感謝されましたのよ。でもサイラス様ったら、監禁はいけませんわね。しばらくしたら出してあげに行かなくては」

出番のなかった王子「……?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] うっかりすると監禁兄弟の妄想が止まらなくなるので、歯止めをかけるべく別の話に感想を書こうと思います。 碓井様の乙女ゲーム話のヒロインは、基本的にお花畑一直線の転生者ではないので好きです(…
[良い点] ピンクな髪のヒロインに幸あれ [気になる点] 出番のなかった王子・・・ いつもなら 「友達をだしにいろんな男に声をかけまくるなんていけない子だね・・・」 「そんな悪い子にはお仕置きが必要だ…
[一言] ヒロイン諦めてサイラスとくっついて^_^; コレは、もうどうしようもなさそうだし(笑)
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