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96、美少年ジジイの話 2


「前から百年も経っているのに今更、勇者召喚ですかっ?」

 驚いて聞き返せば、そうじゃと忌々し気に美少年ジジイが頷きます。


「百年が経ち、ヤサカが(ほどこ)した神罰という脅しの効果が薄れたんじゃよ」

「つまりまた魔国の鉱山の利権を狙って侵略戦争を起こそうと?」

「ああ、今回はヨウガル国が強く計画を推し進めているようじゃ。先の戦争で自力では回復出来ぬほどに国力が落ちてしまっておるからな。このまま座して死を待つよりは、危険を冒しても勝負に出るしかないからの」

 美少年ジジイの話にため息しか出ません。


どうしてそう安易な手段に走りますかね。

それより国そのものを担保に周辺諸国から借金をして、それを元に経済改革をした方が時間は掛かりますが確実なのに。

何より人が死ぬことがありません。


「国を担保とは…物凄いことを考えるの」

 私の話に呆れ顔を浮かべる美少年ジジイ。

「じゃがそんな不確かなものに金を出す国があるかの?」

「それは大丈夫です。この世界で一番のお金持ち国家が出してくれますから」

 断言する私に、美少年ジジイの顔に盛大なハテナマークが浮かびます。


「そんな国がどこに…」

「魔国ですよ」

「は?」

 おおう、世にも珍しい美少年ジジイのポカン顔。


「魔族には『弱き者は守る者』という考えが浸透してますからね。今回の旅で魔国に太めのパイプも出来ましたし。口利きくらいならいくらでもしますよ」 

 不本意ながら竜人国では『食の伝道師』

魔国では『救国の姫』または『カレーの賢者』という二つ名が(まか)り通っていて、ちょっとした有名人になりましたからね。


しかしながら…救国の姫はまだ分かる。

健康診断と言う概念は、この世界ではセンセーショナルだったようですから。

ですがカレーの賢者…これ付けた奴、出てこいや。

ちょっと建物の影でお話しようじゃないか。

もう少しマシな名があったでしょうがっ。



「…それにしてもじゃ。元が取れそうもない国に金を貸してくれるものかの?」

 不信満載な美少年ジジイにとっておきの根拠を教えます。

「ヨウガル国の『妖の森』には転移魔法陣がありますから」

 妖の森とは私が住む死の森に似た魔獣の生息地ですね。

まあ、そこに棲む魔獣はB、Cランクですから危険度はグッと下がりますけど。


「転移魔法陣じゃとっ?」

「ええ、稼働すれば一気に物流が加速します。そこで上手く立ち回ることが出来れば借金返済なんてすぐですよ。…ということで根回しお願いしますね」

 そうやって確実な儲け話を持ち掛ければ、勇者召喚なんて博打を打つ必要は無くなりますからね。

この腹黒ジジイならヨウガル国の中枢への伝手も持ち合わせているでしょうし。


「恐ろしいの。武力でなく口先きだけで相手の内部崩壊を(いざな)うとは」

 人聞きの悪いことを言わないでいただきたい。

話し合いで済むなら、それに越したことは無いでしょう。


「じゃが正直、助かる。この話をすればヨウガル国の方針も変わるじゃろう。しかしまだ神国が残っておる」

「ですよね。そもそも勇者召喚をしようと言い出した馬鹿は誰なんです?」

 私の問いに美少年ジジイの優美な眉が露骨に寄せられます。


「…120年前の教皇・ガニメデスじゃよ」

 嘆息と共に伝えられた名に思わず聞き返します。

「随分と長生きなジイさんですね。…同じ【時止めの呪】仲間ですか?」

「あんな奴と一緒にせんでくれ。奴は自らその呪を掛け、長きに渡り陰から神国を支配しておるのじゃ」


「つまりラスボスってことですね」

「らすぼすとやらが何か分からんが…奴がすべての元凶である事は確かじゃ。奴は人族、それも神に最も近い存在の神官こそが一番尊い者である。故にその頂点に位置する自分が世界で一番だと信じて疑っておらん」


「真性の馬鹿ですね。だいたい『信じる者は足元を(すく)われる』ってよく言われているのを知らないんですかね」

「…初めて聞いたの。じゃが真理じゃな」

「そもそも神国が搾取してる祝福料。あれこそ諸悪の根源です。宗教家が金儲けしてどうするんだって小一時間ほど問い質したいですね」


ちなみに祝福料とは。

どの大陸に行くにしても必ず通る神国を通過する人や荷物に掛かるお金のことです。

神に代わって祝福を与え、道中の無事を祈る。

確かに最初はそれが目的で支払われるお布施のようなもので。

払うのは任意でしたし、料金も少額でした。


ですが120年くらい前から、その金額が徐々に高額化してゆき。

昨今では1人につき 5,000エル。

荷物は馬車1台に 20,000エルが掛かります。


しかもそれを嫌って海路で運んだ荷や人に、神の祝福を受けぬ不浄なものという難癖をつけて糾弾する始末。

おかげで平民はともかく、醜聞を嫌う貴族に納めるような品は必ず神国を通らなければならなくなり。

物価高騰の原因であり、物流の障害ともなっています。


まあ『信者と書いて(もう)けると読む』とも言いますし。

宗教とお金が絡むとロクな事にならないのは世の常ですけど、それにしたってこれはあんまりです。



「なので次の一手として…兵糧攻めを行いたいと思います」

「…何をする気じゃ?」

「転移魔法陣のことを大々的に喧伝するんです。メルさんの話だと魔法陣は光魔法が使われているそうなので、神国の教義から言えば、それは神からの贈り物ってことになりますから使用に関して文句は言わせません。ならばそれは神国のものとか言い出したら、神の恩恵を横取りする冒涜者と

言い返せば良いだけです」


「それで兵糧攻めか。転移陣が稼働すれば神国に高い祝福料など払わずに済むようになるからの」

「ええ、そもそも神に仕える者が贅沢してどうするんだって話です。清貧という言葉を噛み締めてほしいですね」

「確かにの」

 頷く美少年ジジイに、さらに畳みかけます。


「転移陣の稼働には神国の召喚陣の破壊が必要と言い添えれば、神国以外の国からの圧力が思いっきり掛かりますからね。多少は抵抗しても最終的には従うしか無くなるでしょう。お金が絡んだ時のポテンシャルの高さはどの民族も一緒ですから」


「しかしそう上手く行くかの」

「行かせるんですよ。確かにその教皇のクソジジイが大人しくしているとは思えませんから、何かしら手は打ってくるでしょう。それを(ことごと)く叩き潰します。その為には人手がいるのでギルマスには早々に【時止めの呪】を解呪してもらいます」

 エルフ随一と謳われた魔導師を使わない手はありませんからね。

キリキリ働いてもらいますよ。


「そんなことが出来るのかの!?」

 私の言に美少年ジジイの顔に驚きが広がります。

「ええ、解呪のエキスパートが近くに居ますから」

 信じられないとばかりにこっちを見る美少年ジジイ。

確かに解呪は闇魔法の中でも最上クラスなものですからね。

誰もがそうホイホイとは出来ません。


「いったい誰じゃ?」

「魔国の王子さまですよ」

「は?」

 そのまま見事に固まってしまった美少年ジジイ。

まあ気持ちは分かります。

ですが本当のことですよ。

何しろサミーは人化の術が示す通り、闇魔法に関しては魔国でも5本の指に入る天才ですから。


「…旅の同行者が2人増えたとは聞いておったが、まさか魔国の王子とは」

「近いうちに連れてきますね、素直な良い子ですよ」

「いや、もう…開いた口が塞がらんとはこのことじゃな」

「でしたら閉めましょうか?残りの1人は人化してますが、その正体は光龍です。あとよく私の側に居る飛びトカゲは雷竜ですね」

「…………」

 ついに無言になった美少年ジジイ。


そんな責めるような目で私を見ても知りませんよ。

私が勧誘した訳じゃありませんからね。


「何かあったら魔王軍と竜騎士の皆さんも参戦してくれるそうですが、私としては穏便に済ませたいと思っています」

「…切にそう願いたいの。じゃがトアちゃんがその気になったら簡単に世界征服が出来るのぉ」

「そんな疲れそうなことしてどうするんですか。商会の運営だって大変なのに、世界の面倒までみるのは御免ですよ」

「ほっほっ、さすがはトアちゃんじゃ」

 私の言葉に嬉しそうに頷くと、楽し気に美少年ジジイが聞いてきます。


「ワシに出来ることはすべてしよう。その間、トアちゃんは何をする気じゃ?出来たら大人しくしていてほしいものじゃが」

「そうですね、差し当たってすることは…腐れ勇者の捕獲ですかね」

「は?」

 おお、本日2度目のポカン顔。


「作戦に横槍でも入れられたら面倒臭そうなので、その前に捕獲しときます」

「そんなことが出来るのか…と言いたいところじゃが。その顔だともう手は打ってあるようじゃの」

「ええ、美味しい餌付きの釣り針を仕掛けておきました。上手く釣れると良いんですが。ま、それがダメでも別の手を考えてますし」

「…カナメもとんでもない相手を敵に回したものじゃ、可哀想にの。お手柔らかに頼むぞい」

「はい、取り敢えず五体満足での捕獲はお約束します。心は多少、折り砕くかも…ですけど」

 ニッコリ笑う私の前で、何故か美少年ジジイが冥福を祈る言葉を呟いてます。

失礼な、捕まえたら少しばかりマジ説教してやるだけです。


そこっ『勇者、逃げて。超逃げて』とか言わない。


では捕獲作戦開始とゆきましょうか。






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