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9、特許申請

「し、失礼。つい興奮して」

 ようやく正常に戻ったジェレミーさんでしたが、時すでに遅し。

既に周囲は黒山の人だかりです。


「とにかく、この丸薬の製造方法についての特許申請を」

 アーステアにもあるんですね、特許制度。


ジェレミーさんの説明によると、申請した特許が認可されるとそれに対しての使用料が発生するそうです。

ですが一度使用料を払えば、支払い者はその特許技術を永続的に使用可能。

手数料としてギルドからその2割がピンハネ…いえ、差し引かれます。


使用料を払わずに特許技術を勝手に使うと、投獄や奴隷落ちなどの厳しい処罰が待っているため、大抵の人はきちんと払うので取りっぱぐれの心配はないそうです。


もちろん払うのは営利目的で使う人だけです。

個人で使う分には支払う必要はありません。


嬉々として書類の準備をし始めたジェレミーさんに、私はゆっくりと首を振ります。


「必要ないです。知りたい人がいたら無料で教えますし」

「それはダメだっ。知識はすべての者の財産だ!」

 背後からの突然の叫び。

誰かと思ったらマロウさんでした。

イケメンが目を吊り上げて此方を見てます。


「特許制度は発明者に発明の独占を認める一方で、代わりにその発明を公表してそれを基に新たな技術開発を促進する制度でもあるんだ。

口伝えで教えるだけでは、その知識の広がりは高が知れている。

それではせっかくの発明が死んでしまうだろうがっ」

 うーむ、確かに(おっしゃ)る通り、ぐうの音も出ません。


「すみません、私が浅慮でした。特許申請をさせてもらいます。

ところで特許使用料の相場は幾らくらいでしょうか?」

「製薬技術ならば、だいたい100,000エルから300,000エルだ」

「でしたら10,000エルで。これは絶対に譲りません」

 私の言葉に誰もが驚きを隠せないようで、呆然としてます。


「相場の10分の1だと!?」

「ええ、誰もが手軽に丸薬を作れるようになるには、これくらいがちょうど良いでしょう」

 にっこり笑う私に、横から誰かが抱きついてきました。


「あんたって子は…ホントもう最高っ!」

 カレンさんでした。

えらく感激した様子で、豊満な胸をグイグイと押し付けます。

分かりましたから、ちょっと勘弁して下さい。

このままだと窒息しそうです。


というか、マロウさんもカレンさんも被っている猫が逃げ出してますよ。

完全無欠なイケメンと美女だと思ったんですが、こっちが素でしたか。


ちなみに回復丸は何と200,000エル、金貨20枚で買い取ってもらえました。

新製品なので御祝儀だそうです。


何だか物凄い騒ぎの中、用意された申請書にサインして。

これでやっと終わりと思ったら、どっこいそうは問屋が卸さなかった。


私が使う【脱水】の魔法は誰も見たことがなく(神様の贈り物ですしね)

すわ、新魔法かっ…と今度は魔法担当の人がフィーバー状態。

何でも新しい魔法の申請は国内外でも、ここ30年無かったとのこと。

そりゃあ興奮もしますわ。


ちなみに【水出し】はノーカンです。

似たような魔法が他にもあるそうなので。


発動の魔法陣は描けるかの問いに、もちろんイエス。

勉強しましたからね。

最初の例題に自分が使える魔法を選ぶのは当然の理ですし。


で、皆さんの前で描いてみせたら 試しに発動させた誰もが成功。

しかも使用MPは1のみ。

どうやら神様の加護は私自身にではなく魔法そのものに付与されていたようです。


王都の魔法省に申請して新魔法と認められたら、此処でも特許が発生するとかで。

もう面倒臭いので魔法の使用料も10,000エルにしようとしたら。

製薬だけでなく、他にもいろいろと使える汎用性の高い魔法の使用料がそれではあまりに安すぎる。

相場の混乱を招くから止めてくれと魔法担当の人に平伏され。

せめて100,000エルでと、ガチ泣きされました。



そんなこんなでやっと解放されたと思ったのに。

「グエッ」

 何故かマロウさんに襟首掴まれて商業ギルドのブースに連行されました。


「さて、次はうちの番だ」

「えっと…何がです?」

「まずはその頭に付いてるヤツだ」

「簪のことですか?」

 小首を傾げながら引き抜いてみせたら、いきなり取り上げられました。

というかマロウさん、完全に猫を放し飼いにしたんですね。

私に対しての当たりがメッチャ強いです。

 

「これでどうやったら髪が纏まるんだ?」

「それはですね…」

 興味津々といった様子の受付のお姉さん達の前で実演してみせます。


アイテムボックスにあった別の簪も出し、レクチャー開始。

皆さんすぐにやり方を覚え、キャッキャッと楽しそうに互いの出来を褒めあっています。


「よし、売れる」

 ボソッと呟かないで下さい、マロウさん。

しかも物凄くエグイ笑顔で。


「で、お前が着ている服だが」

「お前ではなくトワリアです。もしくはトアと呼んで下さい」

「分かった、トアだな」

 大仰に頷いてから、私の襟元に視線を向けます。

「その形状の襟は初めて見るが、それも?」

「遺憾ながら…私が作りました」

 

 簪もセーラーカラーも地球の知識なので私が特許を申請するのは可笑しな話ですが、出処を言うわけにもゆかず渋々認めます。


「そうか」

 私の返事にマロウさんが満足げに頷きました。

だからその笑顔は止めましょうよ。


気が付けば魔法のように簪とセーラーカラーの特許申請用紙が私の目の前に。

「使用料は1,000エ…」

「あぁ?」

「…5,000エルでどうでしょうか」

「まあいいだろう」

 どうやら合格のようです。


「ですが本当にいいんですか?」

「何がだ?」

「所詮は素人の手慰みですよ。お金を取るようなものでは」

「馬鹿か、お前は」

「ですからトアですって」

 (さげす)むように此方を見てから、マロウさんが (おもむろ)に口を開きます。


「確かに素人の作品には1エルの価値もないが、完成度を上げて高級素材で作れば十分商品になる。そうやって付加価値を付ける為に居るのが職人だろうが」

御説御尤(ごせつごもっと)も。商品になった物を買う日を楽しみに待つ事にします。 

それでは私はこれで」

 目の前の書類にサインをし、早々に立ち上がろうとしたら。


「待て」

「まだ何か?」

「さっさと出せ」

「は?」

「お前みたいな爆弾娘の持ち札があれだけのはずがないだろう」

「爆弾娘って…」

 とんでもない二つ名を付けないでいただきたい。

 

「ネタは上がってる。(とぼ)けてないで早く出せ」

 何処の横暴刑事ですか。

ですが何か出さないことには帰してもらえそうにありません。

渋々とカバンから石鹸を取り出しました。


「シャボワールか、だがこれは…手触りも香りも既製品とはまるで違うな」

「それの元は…これです」

 取り出したオリーブもどきをマロウさんが凝視してます。

「クルルの実か、家畜の餌を使ったのか?」

 呆気に取られるマロウさんの前で【脱水】でオイルを絞ってみせます。


「こんな風に良質の油が取れるんです。実を塩や酢で漬けてピクルスという食材に加工しても美味しいですよ。油は食用としても使えますがハーブと強アルカリ性の薬品を混ぜれば石鹸を作ることが…」

「ちょっと待ったぁぁっ」

 おっとぉ、いきなりカレンさんの乱入だぁ。


「薬品が絡んでいるなら、この件は薬師ギルドの管轄よ。商業ギルドは引っ込んでいてちょうだい」

「シャボワールは生活用品だから扱いは商業ギルドだっ」


両者一歩も譲らぬ構えのまま睨み合っております。

果たして私はいつ解放されるのでしょうか?


キョロちゃん、ごめん。

まだまだ時間が掛かりそうです。






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― 新着の感想 ―
[一言] 特許品を一般に流行らしたいと安く特許を売り出しても買った人が作った品を安く売るとは限らないよね。
[良い点] 確かに、現実世界でも発明者が良かれと思って特許を取らなかったら粗悪品が出回って混乱が生じた事がありました。 [一言] 同世代だけあって、ギャグセンスが一緒だ(笑)。
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