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87、おいでませ、屋台街(魔国編)2


屋台街から侯爵家に戻って、まずは今日得た情報を整理します。


物価は大体把握しましたし、新しい物を出すのなら既存の店との争いも起きないでしょう。

ですが屋台街を回って何より驚いたのが魔族の人達の気質の良さ。


魔国では弱者は守るものという考えが根付いているので、それは人族にも当て嵌まるようで。

勇者病の原因となった勇者については思うところはあるようですが、同じ人族の私が町を歩いても、目は引きますが恨み辛みをぶつけてくる人はいませんでした。

不思議に思ってそのことを口にしたら。


「だって人族って弱い上に百年足らずで死んでしまうんだろう?。そんな者達をどうにかしようだなんて考えるだけで魔族としては死ぬより恥ずかしい事だもの」

 とサミーが教えてくれました。

どうやら戦闘能力最下位の人族は、魔族から見たらか弱くて寿命の短いハムスターのような存在と捉えられているようです。

それを虐めるなんて人として終わっているということですね。


ちなみに弱者保護の精神は低所得者にも適用されていて、魔国では収入に応じて多種類の助成金制度が利用でき生活が保障されています。

何しろ数多くの鉱山を有しているお金持ち国家なので財源は豊富ですから。

(鎖国中も竜人国経由で鉱石の輸出はしてましたからね)

ただしそれは働いているのが大前提。

働かざる者、食うべからずという訳です。

身体能力が高い魔族に長期療養が必要な病人は皆無ですし、怪我をしても簡単に治癒してしまうので働けない人はまずいませんから。

よって魔国では貴族はともかく庶民にはニートもヒッキーも存在しません。

親が扶養してくれるのは成人前までなので、成人になっても働かない者は飢え死にまっしぐらですからね。




「では何を売るか決めましょうか。意見のある人は手を挙げて」

 そう声を掛けると空かさずウェルが挙手します。

「和食屋が良いと思うっ」

 いや、そんな拳を握り締めて意気込まなくて良いから。

でも煮物好きのウェルからしたら当然の言ですね。


「僕はアイス屋かな。前に食べたクッキーを砕いて混ぜたミルクアイスが凄く美味しかったから」

 続いてサミーがそう言えば。

「私はケーキ屋さんだわねー、特に生クリームとベリーのが良いわ。それとフィナンシェは外せないわね」

 ですからイブさん、笑顔で手の平を此方に向けてもフィナンシェはもうありませんと言ったはずですよ。


「アンナレーナさまは何が良いですか?」

 店主は彼女ですからね。

やってみたいことがあるなら優先しますよ。

「そうですね…」

 少し考えてから毅然と顔を上げます。

「食べた方が元気になる物を売りたいですわ」

 おお、さすがは少しでもベナアレスさんの力になりたいと薬師を目指しているだけはありますね。

早速、医食同源を実践したいようです。


「でしたら…スムージーはどうでしょう?」

「それは何ですの?」

 聞きなれない言葉に誰もが頭の上に盛大に?マークを飛ばしてます。

「スムージーはですね、凍らせた果物や野菜等を使ったシャーベット状の飲み物のことです」


水分を絞ったジュースと異なり、素材のすべてを有していて食物繊維も併せて摂ることが出来ます。

それに加熱処理されていないのでビタミン等が壊れませんし、あまり加糖しないのでジュースよりダイエットに適しオシャレで健康的な飲み物と言われてますね。


例として野菜嫌いでも手軽に飲める、小松菜、りんご、みかん、ミルクを使った美肌に良いグリーンスムージー。

ビタミンたっぷりな苺&クランベリーとミルクのスムージー。

イソフラボンが多く摂れる豆腐とバナナのヨーグルトスムージー。

フルーツの甘さにパセリの苦味がマッチした、ビタミンと食物繊維豊富で美容と健康に良いりんご、キウイ、ヨーグルトとパセリのスムージー。

食欲がない時のお手軽メニュー・バナナとアボカドのダイエットスムージー。

生酵素を摂って消化アップでダイエットなマンゴー&オレンジスムージーなど。


作り方は超ー簡単。

材料を凍らせてミキサーにかけるだけ。


早速、手持ちの果物や野菜を【冷凍】してミキサー魔法の【粉砕】を掛けて試作品を作ります。


「美味しいですわ。ミルクはあまり好きではないのですけど、こうして果物や野菜と一緒ですとたくさん飲めますわ」

「うん、僕も好きじゃなかったけどこれはさっぱりして飲み易いや」

「身体に良いって聞くとさらに美味しく感じるわね」

「うむ、美味いぞ」

 どうやら好評のようです。


「これにサンドパンを付ければ手軽な軽食になりますし。甘めのパンもスムージーの自然な甘さとよく合います」

「甘いパンなら誰もが喜ぶと思いますわ。それでまいりましょう」

「では出すのはスムージーと菓子パンで」

「決まりだね」

 嬉しそうに宣言するサミーに全員が頷きます。

それでは準備が整い次第、スムージー屋を開店させましょう。



「凄いですわ」

「うん、初めて見るものばかりだね」

 アンナレーナさまとサミーが目を丸くして私が作ったパンを眺めています。

間食としてジャムや果物を挟んだりシロップを掛けたりしますが、基本的にパンは主食として料理と一緒に食べます。

なので魔国には総菜パンや菓子パンは存在しません。


で、作ったのが定番のアンパン、クリームパン、ジャムパン。

他にもチーズ蒸パン、メロンパン、チョココロネ、ベリーデニッシュ、スイートポテトデニッシュ、アップルパイ、チーズクロワッサンをお屋敷の料理人さん達に協力してもらい一通り作ってみました。


これなら既存のパン屋さんと商品が被ることはありませんし、スムージーにも合うと思います。

出来上がった途端、味見と称して1種類ずつ侯爵さまに強奪されましたけど、まだ数はありますので料理人さん達も含めて関係者一同でスムージーと共に試食会です。

良かったものを3つ挙げてもらい、上位の物からお店に出してゆく予定です。


結果として

『ベリーとミルクのスムージー』『マンゴーもどきとオレンジのスムージー』

『青菜とリンゴに似たポップルのグリーンスムージー』『バナゴとアボカード

ヨーグルトのダイエットスムージー』の4種に決定。

色もピンク、黄、グリーン、よもぎ色と綺麗なので見栄えも良いでしょう。

と、此方は簡単に決まったのですが。


菓子パンの方は激戦でした。

誰もが1押しの物を頑として譲らず、それがどれほど素晴らしいかと激論を交わして漸く決まったのが以下の通り。

アンパン、クリームパン、メロンパン、チョココロネ、ベリーデニッシュ、チーズクロワッサンを作って出すことになりました。


出すものが決まったら材料の仕入れルートを確立して、スムージーを入れる容器にパン用の包装の準備に移動式屋台の製作が待っています。

それと役所と屋台を統括している連盟に出店の届を出さないといけませんね。

起業に必要な資金は侯爵さまから借り受けて、売上げから返すことになりました。

授業の一環とは言え、やる以上は利益が出るようにしますよ。

買って下さったお客様に喜んでもらうのが大前提ですけど。




「いらっしゃいませ~。魔国初のスムージー屋です」

「試しに飲んでみて下さいな」

「美味さは私が保証する」

 せっかくなのでメイドさんの姿で売り子をしてます。

アンナレーナさまはハイネックに裾も足首までの青いワンピース姿です。

(この格好しか侯爵さまからお許しが出なかったんですよ)

ウェルは青いブラウスに短パン、イブさんと私は同じ青のフレアミニのワンピース。

これに全員が揃いの白いエプロンとフリルの付いたカチューシャを着けてます。


「飲みもんはAのヤツでパンは5のをくれ」

「俺はCと2と6だ」

「私はDと1のパンをちょうだい」

 スムージーの効能を書いた板を掲げてあるので健康に良いと口コミで広がり、物珍しさと売り子が美人揃いなおかげもあって客足は好調で、飛ぶように商品が売れてゆきます。


ちなみに商品には全部記号や番号が振ってあります。

私もウェルもシュエール語が話せると言っても堪能という訳ではないので、早口でしゃべられると聞き取れないことがあります。

でもこれなら忙しい中でも注文の間違いを防ぐことが出来るので便利なんです。


その盛況の中、噂作戦開始です。


『フリオレア侯爵のアンナレーナ姫にはヒューリー家子息のベナアレスという想い人がいるのに無理やりサミュアレイス殿下と結婚させられそうになって酷く悲しんでいる。2人は真から愛し合っている恋人同士なのに』

 

という話をそれとなく商品を渡す時にお客さんに言って回ります。

この時に添えるのが『内緒ですよ』『絶対に誰にも言わないで下さい』との魔法の言葉です。

言うなと言われると余計に誰かに言いたくなるのは万国共通ですからね。

噂の足は速いですから3日もすれば魔都中に広がるでしょう。

こうしてしばらくはトライアル制度を申し込む下地作りに励む予定です。


そうこうしているうちに本日の営業は終了。

おかげさまで用意した分は完売しました。

買いそびれた人には丁重に謝罪して、また明日のお越しをお願いしておきました。



「大丈夫だったかい、アンナ」

 お屋敷には先にベナアレスさんが来て待っていてくれました。

「はい、楽しかったですわ」

 最上級の笑顔を見せるアンナレーナさまの姿にベナアレスさんが安心した様子で頷きます。


「今日は本当に素敵な経験が出来ましたの。聞こえてくる街の喧騒と聞いたことのない多くの笑い声。屋敷にこもっていたままでは知り得ませんでした。人々がそんな風に笑い合うこと、小さな子供がはしゃぐこと。彼の人達をベナアレスさま達が必死になって病気から守って下さっていたのですね。今日のことで民の暮らしやその命の重さなど、わたくしは本当に何も分かっていなかったことを知りました」

 そう言うとアンナレーナさまが私に向き直ります。


「それに気付くことが出来たのは全部トアさんのおかげですわ」

「それは私のおかげじゃなくてアンナレーナさまが勇気を出して外に出たからですよ。すべて貴女の努力の結果です」

「それでもです。わたくしを外に連れ出して下さってありがとうございました」

「私からも礼を言いたい。こんなに楽しそうなアンナを見るのは初めてだ。これからも私の妻として人々を共に守ってゆこう」

「はい、ベナアレスさま」

 頬を朱に染めて頷く様は真からに幸せそうです。

互いを見つめ合う視線の熱さにこっちまで当てられそうですね。

此処は静かに退散しましょう。

あの様子だと私達がいなくなっても気が付かないでしょうから。

どうぞお幸せに~。






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