表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/124

85、結婚とは家と家の繋がりです


フリオレア侯爵家問題。

それは魔国で10年に1度行われる武闘大会に関わりがあります。


この大会は魔王を決めるだけでなく貴族の序列を決める大会でもあるそうです。

好成績を上げれば爵位も上がり、反対に下がれば最悪、爵位を返上しなければならないとか。

出場資格はその家の当主と決まっていてその為にどの家も修練に余念がなく、次代の育成にも力を入れているそうです。


しかしながらフリオレア侯爵家にはアンナレーナさましかお子様がなく、次期当主に据える婿を取らなくてはなりません。

そこで白羽の矢が立ったのが魔王さまの実子であるサミーです。

潜在魔力はバツグンで、将来においても立派に侯爵家を守ってくれるだろうとのことで今回の縁談となりました。

その後押しをしたのが魔王さまの初恋の君への想いなのは言わずもがなですが。


ちなみにサミーの2人のお兄さんは既に結婚済み。

魔王は世襲ではないのでそれぞれ公爵としての地位を武闘大会で勝ち取り、今は自分の領地で奥さんや子供さんと暮らしているそうです。



現実問題としてベナアレスさんが婿に入って、侯爵家を守ってゆけるかということなんですが。

そこには抜け道とい言いますか、別な方法があります。

魔国では武闘だけでなく、各職種にも10年ごとに似たような大会があり。


その一つが文官たちによる実力試験&入職試験。

此方も試験結果によって退職させられたり、新たに職を得たり出来ます。


その2年後にあるのが鍛冶や工芸などの職人たちの実技試験。

結果によって職人のランクが上下します。


さらに2年後、農家による作物の品評会。

これも出来の良さによってその家のランクが決まります。


そのまた2年後にあるのが医師や薬師たちの試験と実技。

この百年の間はベナアレスさんのお父さんがトップを維持しているそうで、次がベナアレスさん、3位がベナアレスさんのお兄さんだそうです。


商人にはそういった大会はありませんが、売り上げが多い者が上位者と見られるのは何処でも同じですね。


こうしてみると魔国は常に競い合う真の実力主義社会なんですね。

世襲ということに胡坐を掻いて努力を怠る王族や、職を得たらそれ以上のことはしない役人には爪の垢でも煎じて飲んでほしいくらいです。


話が逸れましたが、つまり爵位を維持してゆくのは武闘だけではないのです。

ベナアレスさんの実力なら、医師として十分に侯爵家を守ってゆけるそうです。

ただ今まで武門を誉としてきた現当主の御令嬢のお父さまがそれを受け入れるかどうかは未だ不透明。

此処はベナアレスさんに頑張って説得してもらうしかありません。



で、魔王城から戻ってすぐに御令嬢と待っていたベナアレスさんによく言う『お嬢さんを僕に下さい』+ 土下座をやってもらいました。

始めは『お前のような者に大事な娘はやらん』な(てい)でしたが、その大事な娘の涙の懇願と夫人の『生きてくれているだけで幸せだった娘を、もっと幸せにしてあげたい』という援護射撃についに陥落。

渋々ではありますが2人のことを認めてくれました。


その後で差し入れたプリンア・ラ・モードを爆食しながら『娘がお嫁に行っちゃうよ~』と号泣し出したので。

(婚儀はしても実際に夫婦になるのはサミーが成人してから…つまり23年後のことなので、まだ実感がなかったそうです)


「お嫁には行きませんよ。お婿さんが来るだけです」

 と突っ込んだら。

『そういう問題じゃないっ』と拗ねられて、さらにクリームあんみつを追加することになりましたが、これでフリオレア侯爵家の問題は無事解決しました。



此処をクリア出来たら、次はベナアレスさんのヒューリー家の問題です。

こっちはこっちでいろいろと面倒臭いことがありました。


ヒューリー家は優秀な医師を何人も輩出してきた名門です。

幸いにしてベナアレスさんは次男なので婿に行くのは問題が無いのですが、長男であるテレスさんがブラコンな上に、どうやら自分よりも試験結果の良いベナアレスさんを当主にと望んでいて此方もこの結婚に素直に頷くとは思えないそうです。


何でも早くにお母さんを亡くされ、仕事が忙しいお父さんに代わってテレスさんが幼いベナアレスさんを育てた為に兄弟と言っても完全に親目線で、妻になる人に対しての基準はメッチャ厳しく今まで何人もの令嬢が相応しくないと断られたとか。


ならば此処はアンナレーナさまの頑張りどころ。

翌日、当主のヒューリー氏とテレスさんに診察という名目でフリオレア侯爵家に来ていただきました。

そこでアンナレーナさまとテレスさんの2人で、どうしたらベナアレスさんが幸せになれるかをじっくりと話し合ってもらいました。

そうしましたら大好きな弟と愛する恋人の話で大いに盛り上がり、気付けば戦友のような間柄に。


聞けば今までベナアレスさんに近付いてきた女性は、その地位や名声が目当てな者ばかりだったとか。

なのでちょっとテレスさんが色目を使えば、すぐに此方に乗り換えて来たそうで。

ちなみにテレスさんはベナアレスさんによく似ていて、イケメン度はさらに上の美男子です。


そんなテレスさんの誘惑にもビクともせず、その前で滔々とベナアレスさんの良いところを語る御令嬢の姿はまさに神ってた…とはテレスさんの弁です。

おかげで『アンナレーナ嬢なら必ずベナアレスを幸せにしてくれる』との太鼓判をいただきました。

良かったです。


余談ながら現当主のヒューリー氏は付き添いの私との医療談義に忙しく、結婚話は完全放置してました。

当然ですが勇者病であるインフルエンザの情報には前のめりで食い付いてきましたね。

で、当時の状況などが聞けて『時止めの呪』の事も判りました。


インフルエンザの猛威が国中に吹き荒れる中、ヒューリー氏を筆頭とした医療団はある決定を下しました。

それは患者に身体時間が止まる時止めの呪を掛けることで、病状の進行を止め感染を防ぐというものでした。


これを聞いた時、感激のあまり思わずヒューリー氏の手を取って上下に振り回してしまいましたよ。

まさにノーベル医学生理学賞ものの凄い英断です。

確かにこれなら新たな患者は出ませんし、進行が止まっている間にいろいろと手を打つことが出来ます。


「それで勇者一行にも時止めの呪を掛けたんですね」

「おお、そんなことになっていたのか?」

「え?感染源の勇者たちを封じるつもりだったのではないのですか?」

「疑いはあったが確定ではなかったからな。それに当時は患者がいる地域全体に呪法を掛けて回っていたので、巻き込まれたのかもしれん」


つまりとばっちりで美少年ジジイはあの姿のままってことですか。

御愁傷さまです。


その後、20年ほど掛かりましたが何とか勇者病の治療法を確立させ、時止めの呪を解いて回りながら治療を続けて、漸く10年前に撲滅を確認するまでに至ったという訳です。

本当にお疲れ様でした。


身体能力が高い魔族は今までは病気とは無縁の種族でしたが、勇者病によって病気の怖さを知ることになりました。

で、今後のことを考えて国民全員に『健康診断』を義務付けることを進言しておきました。

これならば受診した時に病気についての知識も得ることが出来ますし、受けることで自分の状態が知れて安心出来るでしょうから。

ですがそうしましたら…。


「素晴らしいっ、トワリア殿はまさに救国の姫だっ」

 とヒューリー氏がメチャ感激し、さっきの私のように両手を掴んで振り回した後、息子たちを放り出して王城にすっ飛んでいってしまいました。

早急に健康診断のことを医療団に教えて法案化を進めるのだそうです。

某テニス解説者のように熱ーい人のようです。

頑張って下さい。



とまあ両家の問題は解決したのですが。

まだ今回の件の一番の障害となる魔王さまが残ってます。

何しろ一国の王が推し進めた婚儀ですからね。

これを撤回させるには正当な理由が必要になります。


その方法を考えていたら、嬉しい知らせが飛び込んできました。

「トアの友達だって人が王城に来たんだ。竜人の神官とエルフの剣士なんだけど」

 そう言ってサミーが迎えに来てくれました。

思ったより早い到着でしたね。


「無事か、トアっ」

「良かったわぁ、トアちゃんっ」

 案内された部屋に入るなりウェルに抱き着かれ、イブさんに頭を撫でられました。

サンダー君とキョロちゃんとマーチ君はさすがに入れてもらえず外で待っているそうです。

すぐに会いに行きましょう。


「すまぬ、トア。私が傍に居ながら」

「あれは仕方ないよ。まさか転移結晶を投げてくるなんて誰も思わないもの」

 取り出したのが短剣とかだったらウェルの対処も違ったのでしょうが。

それにあの状況でしたら自分が逃げる為に使うと思うのが普通です。

元々が緊急避難用の魔道具ですしね。


「しかしトアを守れなかったのは事実だっ、私がもっとしっかりしておれば…」

 後悔の言葉を綴るウェルの手を握りながら気付いたことを問うてみます。

「それよりちゃんと食べてた?何だか痩せたみたいだよ」

「そうなのよ、あれからトアちゃんが見つかるまではって何も口にしようとしなくて…困った子よ」

 苦笑しながらのイブさんの報告に驚いてウェルの顔を見返します。


「何やってるのっ、ちゃんと食べなきゃダメじゃないっ」

「次に食べるのはトアが作った物と決めておったからな」

 しれっとウェルが物騒なことを言ってくれます。

ずっと私が見付からなかったら飢え死にでもする気だったんですかね。

でもウェルなら遣りそうで怖いです。


「と、とにかく座って。すぐにご飯を出すからっ」

 近くのテーブルの上にアイテムボックスから取り出した料理を並べます。

空の胃にいきなり重い物は良くないので、お酢を使った鶏のさっぱり煮とポトフとウェルの大好物のホクホクで味しみしみの肉じゃがです。


「…いただきます」

 私に教えられた通りに両手を合わせた後、物凄い勢いで料理を口に運んでゆきます。

「凄いわねぇ」

「本当にお腹が減ってたんだね」

 その様に感心しきりなイブさんと驚いているサミーにはベリー大福とうぐいす餅と日本茶もどきを出します。



おや、部屋の隅で控えていたメイドさんの一人が急いで退出してゆきましたね。

新しいお菓子の出現を魔王さまに報告に行ったんでしょう。

王城の料理人さん達には【脱水】を教えて生クリームの作り方やスポンジケーキ等のレシピは渡し済みなので、前に食べたお菓子はいつでも作ってもらえるはずなんですけどねー。


魔族の人達のスイーツに対する情熱は本当に半端ないです。

後で絶対に強請(ねだ)られるでしょうから多めに用意しておきますか。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ