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75、突撃、ウチの晩御飯


「たくさんありますからどんどん食べて下さいね」

 まだ夕食には大分早い時間ですが竜舎内にある食堂で、そこの料理人さん達に手伝ってもらいながら地球産の料理を振舞います。


力が付くようにとかつ丼、牛丼、親子丼、ピザにラザニア、チーズキッシュ、スペアリブ、魔猪の角煮、コッケ南蛮、ロールキャベット、ミートローフを作りました。


さっきの試合ではウェル一人に完封負け。

高いプライドを完膚なきまでに粉砕され、そのうえバリスさんから容赦なく戦い方の問題点を指摘され、メッチャ叱られたようですね。


食堂に来た時は全員の眼は虚ろ、足元すら覚束ない様子でしたが初めて見る料理と空腹を刺激する匂いに、たちまち顔に生気が戻ってきました。


「はい、どうぞ」

「お、おう」

 差し出された器を手に取るなり、勢い良く口に運びます。

それから数秒後。

「う、美味いっ!辛くないのに美味いぞぉっ」

 一人がそう叫ぶと、皆が我先に受け渡しカウンターへと殺到。

「ちゃんと並べ、馬鹿者っ!」

 ですがバリスさんに叱られ、慌てて列を作り始めます。

なんだか騎士団長と言うより小学校の先生みたいです。


「お代わりっ」

 うん、今日もウェルは通常営業…いえ、動いた分だけいつもより食べてますね。

「お、俺もっ」

「私もですっ」

 そんなウェルに負けじと竜騎士さん達も出された料理を忙しく掻っ込んでいます。


「此方にはスィーツも用意してありますから」

 そう声を掛けると、女性の騎士さん達が中心となってスィーツコーナーへとやって来ました。

「…これは?」

 初めて見るお菓子に興味津々のようです。


「サクルラ国で流行っている物ですよ。端からシュークリーム、プリン、それにチョコムースです。食堂に新鮮なミルクと卵がたくさんあったので、それを使って作ってみました。【脱水】で少し水分を飛ばして生クリームにして持ってきたチョコとで完成させたチョコムースはたぶん竜人さん達の口に合うと思うのですが。旬の果物を添えて召し上がって下さいね」


 石みたいに硬いクッキーやゴリゴリの飴菓子が主流の竜人国では、こうした柔らかなものは初体験なので皆さん恐る恐る口に運んでゆきますが。

「っ!」

「え?」

「うぅっ」

 驚愕の表情を浮かべた後、何故か全員が号泣し始めたんですが。

特にチョコムースを食べた人は膝から崩れ落ちてそのまま魂を半分何処かに飛ばしてます。

大丈夫ですか?


「お、美味しいぃぃ!」

「こんなの初めてっ」

「食べたらすぐに消えてしまったのっ」

 次に上がった歓喜の叫び。

そんなに美味しかったんですか、良かったですね。


すっかり和気藹々となった食堂で聞かれるままにサクルラ国の話をしました。

他にどんな料理があるとか、特に女性陣はおしゃれ情報を知りたがって(しき)りに聞いてきました。

女性のおしゃれに掛ける情熱はどの種族も同じですねー。

ついでにさっき歌った千本の桜をリクエストされましたので歌いましたよ。

もちろん魔力は乗せない普通の歌です。

それでも食堂中が大盛り上がりでした。




「いろいろとすまんな、世話になった」

 修練場を去る時、見送ってくれたバリスさんがそう言って頭を下げます。

「いえ、お役に立てたのなら何よりです」

 笑顔で首を振る私に、真摯な眼差しを向けてバリスさんが言葉を継ぎます。


「竜騎士隊…いや、俺ら竜人を見てどう思った?」

「どう、とは?」

「人族のあんたの忌憚の無い意見が聞きたい」

「成人したばかりのただの小娘ですよ。それが人族代表のように取られるのは気が引けますが」

「何処がただの小娘だ。ウェース大陸で名を馳せるマリキス商会の取締役、さらに数々の特許取得者である賢才だろう」

「おや、さすがは国防の要たる竜騎士団長。私の情報は既に入手済ですか」

 まあ判っていたことですがね。

最初からこの人の狙いはウェルでなく、その護衛対象である私だと。


パワーランキング最下位の人族なのに魔国に向かう。

その常識はずれな行動を隠れ蓑に、竜人国を調べに来た間諜ではないかと疑っていた訳です。

でも裏からこっそりではなく正面から堂々と確かめに来る辺りは、やはりプライドの高い竜人さんですね。

卑怯な真似は竜人としても騎士としても出来なかったんでしょう。


「言っておきますが、竜人族は私にとって商売をする相手…お客様です。それに此処に来る前に立ち寄ったラグで、御神祖さまがどれほど竜人族を愛しているかを目の当たりにさせていただきましたからね。彼の方を悲しませるような真似はしませんよ」

「…そうか御神祖さまにお会いになったか」

 何やら感慨深げに呟くと、改めてバリスさんが私を見ます。


「ならば余計に御神祖さまが認めたあんたの意見が聞きたい。この国を見てどう思った?」

「…そうですね。遠慮なしにぶっちゃけさせてもらうなら」

 一つ息を吐いてから、竜人国に来て感じたことを口にします。



出会った僅かな人に対してだけですが、基本竜人は大らかで素直な人が多いと思います。

これは天敵たる存在が近くにいないという環境が長く続いた故に培われたものなのでしょう。


ですが尊いドラゴンの末裔だという強烈な自負とそれに相応しい力と魔法。

そんな種族として完璧に近い存在だからこそ、他の種族を下に見がちで他に対する興味も薄い。

しかも建国の頃から大きな変化がなく、その為に暮らしや考え方が停滞して個々が快適に暮らせればそれで良いと個人主義が蔓延しています。


個人主義が悪いとは言いませんが、それに固執すると力を合わせて何かを成すということが不得手になります。


つまり個人でも組織にも『ほうれんそう』が出来ていないのです。

大抵のことは一人で何でも解決出来てしまう力を持っていることがそれに拍車をかけてますね。

でもどんなに有能でも一人ですることには限界があります。


ウェルとの戦いが少しでも彼らの中に変化を及ぼし、力を合わせることや協力するという大切さを分かってもらえたら良いなと思います。


でもまあ、あまり心配はしていません。

満面の笑顔で食事をしている竜騎士さんや私が作る料理を好奇心いっぱいの眼で見つめていた料理人さん達。

彼らは停滞からの変化を歓迎していました。


それに他に興味がないのなら、興味を持ってもらえるようにすればいいだけです。

幸いにも食に関しての興味は旺盛のようですから、商会の商品が竜人国に入ってくるようになれば自然と他国へ目が行くようになるでしょう。


世界は広く、そこには多種多様な文化と価値観があり。

竜人族より優れたものを持つ種族もいると判れば、他種族を下に見てお山の大将を気取っている場合ではない事も知ると思いますから。



「…確かに遠慮なくぶっちゃけたな」

 感心と呆れの混ざった顔をしてバリスさんが大きく首を振ります。

「だが貴重な意見だ。我々では気付くことのない点ばかりだからな。感謝する」

「参考になったのなら良かったです。どうぞ竜人国首相とその側近の方々によろしくお伝えください。首相の弟であるバリスザンド竜将軍さま」

「…何故それを」

 顔色を変えたバリスさんにニッコリ笑顔でお答えします。


「食事の時に竜騎士の方々に聞いたら、皆さん笑顔で教えて下さいました。将軍の武勇伝に始まり、その為人(ひととなり)や最近入り浸っている酒場の踊り子との…」

「わ、分かった。その先は言わなくていいっ」

 慌ててストップをかけるバリスさん。

いろいろ聞いてしまったことは、すぐに忘れますから大丈夫ですよ。


「美味しい物を食べて気分が良いと口も滑らかになるのはどの種族も変わりませんね。ですが叱らないであげて下さい。口止めしなかった将軍のミスですし首相の弟なのに偉ぶらない最高の上司で騎士だと絶賛されてましたよ。愛されてますねー」

「あいつら…」

 思わず苦笑を浮かべてからバリスさんは私に確認します。


「竜人国に仇なす事はないのだな」

「はい、お客様に誠実でない商人は成功しませんし。その前に私は薬師です。患者さんの笑顔を守るのが務めと心しておりますので」

「その言葉、信じよう」

「ありがとうございます」

 敬意を込めて淑女の礼を取れば、バリスさんも大きく頷きます。


「ウェル殿にも感謝を。よくぞ竜騎士たちの傲慢を正してくれた」

「いや、あれは傲慢ではあるまい。自らの力に自信を持つのは良いことだ。その使い道を誤らぬ限り」

「諫言、この胸に刻もう」

 2人して騎士の礼を交わすとバリスさんは竜舎へと戻ってゆきました。



「すっかり遅くなっちゃったね。キョロちゃん達が待ってるから早く帰ろう」

「そうだな」

 頷くウェルに改めて感謝を伝えます。

「今日は本当にありがとうね」

「礼には及ばん。トアが喜んでくれたら私も嬉しい」

 やっぱり漢前ですねー。


「やっと見つけたわ。何処にいってたの?」

 そんなウェルと神殿に向かって歩いていたら、今度はイブさんに捕まりました。

「竜騎士さん達の竜舎ですけど」

「ああ、そういうこと。竜将軍のお眼鏡に叶ったのね」

 それだけですぐに行った訳が分かったようです。

さすがはドラゴン、天然ですが頭の回転は高速ですね。


「で、イブさんの御用は?」

「神官長があなた達に会いたいって」

 しれっと言ってますが、またとんでもないことを。

ガリウスさまが火州のトップだったように、竜人国では政治家より神官の方が権威が上なのです。

つまり私達に会いたがっている神官長は、実質この国のトップという訳です。


これは伺わない訳にはゆきませんね。

もう一頑張りしましょうか。






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