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71、ローズさんの親友


『ルゼの街が見えてきたでー』

 サンダー君の声に背中にいる全員が前方を見つめます。


眼下に広がるのはサクルラ国の王都に負けぬ規模の街です。

ラグの街と同じで白い石と黒い木を使って作られた町並みは、水墨画のような気品を漂わせています。


いつものようにサンダー君に近場の森に降りてもらい、そこからは陸路でルゼの街を目指します。

「…あれって」

 街道を進んでいたら、6対6で睨み合っている2つの集団に遭遇しました。


どちらも竜人ですが片方は青い鱗で、もう一方は緑と赤の混成チームです。

似たような皮鎧を着て、その胸にはガリウスさまの所に居た神殿を守る兵士…神兵の紋章があるので彼らもそうなのでしょう。

ですが神殿にいるはずの神兵さんがどうしてこんな街道で、睨み合っているんでしょうか?


「天下の往来を塞いで何をしている」

 そうウェルが声を掛けると混成チームの方は申し訳なさげに道を開けますが、逆に青チームの方は邪魔をするなとばかりに此方を睨んでいます。


「ふん、エルフに人族か。矮小な者共は道の端を行けば良いだろう」

 小馬鹿にした様子で此方を睥睨(へいげい)する青のリーダー。

「やめろっ。竜人族の品位を落とすような真似をするなっ」

 それを(いさ)める混成チームの緑のリーダー。

「矮小な者を矮小と呼んで何が悪いっ。我ら竜人よりも強き者など居りはしな…」

「魔族はどうなのです?」

 被せるように問いかければ、青のリーダーが忌々し気に私を見降ろします。


「あのような自国から一歩も出ぬ引き籠もり共など恐れる必要はないっ」

 引き籠もりって…随分な言われようですね。

でも竜人国と交流があるといっても、やはり魔国側からのアクションは無いようです。

やはり仲介役をお願いして正解でしたね。

この調子だと、いきなり訪ねていったら門前払いだったでしょうから。


「とにかくっ、この場は我々水青隊が仕切る。お前たち風火隊は街に帰るがいい」

「だから何故そうなるっ。ローズ様の御友人の出迎えは我らがイブ様から命を受けたのだぞっ」

「お前たちよりも我々の方が優秀だからに決まっておろう」

「先の模擬試合でたまたま一勝多かっただけだろう。それで優秀とは笑わせる」

 混成チームの赤の副リーダーぽい人がそう言い返せば、たちまち青チームの者達が気色ばみます。

これは完全に一触即発状態ですね。


ですが気になることを言ってましたね。

ローズさまの御友人の出迎えって…私たちのことですか?

でもそうだとしたら風体はともかく、種族さえも教えてもらえてないとかありえないんですが。

これはやはり命じた人が長命種の悪い癖の持ち主だからですかね。

うっかり忘れたのかも知れませんが、人をからかうことを生き甲斐にしているローズさんの類友の可能性が高いです。


「お取込み中、申し訳ありませんが少しよろしいですか?」

「何だ?」

 青リーダーに比べたらまともそうな緑リーダーに問いかけます。

「参考までにお聞きしたいのですが、わざわざ出迎えるように命じたイブさまとはどんなお方です?きっとお美しい方なのでしょうね」

 私の問いに緑リーダーが誇らしげに答えます。


「ああ、光竜族の出で金の髪に白銀の鱗がとてもお綺麗な方だ。だが見かけだけでなく、その心も美しくお優しくてな。天女とはきっとあの方のような方のことを言うのだろう」

 緑リーダーの言葉に混成チームだけでなく、青チームの誰もが深く頷いてます。

つまりそのイブって人に良いところを見せたくてこの騒ぎですか。



「どうする、トア?」

 此処で正体を明かすべきか問うてきたウェルに緩く首を振ってみせます。

「黙っていた方が無難かな」

 正体を明かしたらそれはそれで面倒臭そうです。

でもこのまま放置と言うのもさすがに気の毒なので。

キョロちゃんに乗り込み、走り出したところで両チームに声を掛けます。


「イブさまには私から出迎えのお礼を言っておきますのでご心配なく」

 言い終わるなりキョロちゃんがトップスピードでダッシュします。

途端に後方に流れ出す景色の向こうで何やら叫ぶ声がしていたようですが、きっと気のせいでしょう。

さあ、ルゼの街に入りますよ。

目指すは神殿、そこにいるイブさんです。



「ようこそ、私がイブですわ」

 ニッコリ笑顔で迎えてくれたのは、緑リーダーが話した通りの美人さんです。

追記するなら角は透明で、水晶みたいに光の加減によって虹色に輝きます。

白地に蒼い花が刺繍された袖なしのチャイナ服風の衣装がよくお似合いで、切れ長の金の瞳が興味深そうに此方を見ています。


「わざわざ出迎えを用意していただきありがとうございます」

 そう返したらキョトンとした顔を此方に向けます。

「何のことかしら?」

「え?だったら街道で待っていた人達は…」

「今朝方、神兵のリフ君に今日あたりローズの友達が来るのって言った覚えはあるけど」

 小首を傾げるさまは大変可愛らしいですが、どうやら今回の事は緑リーダーの勇み足のようですね。

それと話をした感じとフワフワした雰囲気で判りました。

ローズさんの類友どころか、イブさんは純度100%の天然さんです。

しかも…。


「お聞きしたいことがあるのですが」

「何かしら?」

「どうしてドラゴンの貴女が此処で神官をしているのですか?」

「と、トア。真かっ!?」

 驚いてイブさんを穴が開くほど見つめるウェルでしたが。

「…あら嫌だ、どうしてバレたのかしら」

 両手で頬を覆いながらあっさり認めたイブさんに唖然とした顔をします。


「判った理由は匂いです」

「私ってそんなに臭い?」

 困り顔で天然砲をぶちかますイブさんに、違いますよと手を振って否定して言葉を継ぎます。

「とても良い香りですよ。ただ私はずっとポロロの樹の近くに住んでいるので。その匂いと貴方から香るものがまったく同じだったからです」

「それなら納得ね」


ポロロの葉は、その匂いがドラゴンと同一な為にドラゴン以外の獣を避けさせる効果があることで有名ですからね。

サンダー君もそうですが、イブさんからは涼し気なペパーミントの香りがしています。

残念ながらアーステアにはペパーミントは存在せず、それが香るのはポロロの葉かドラゴンだけなのです。


「ところでローズさんは貴女の正体を」

「教えてないわ。だってドラゴンだと判ると誰も気安く話してくれなくなるんですもの」

 確かに火竜おじいちゃんへの対応を見ると、そうなるのも仕方ないですね。


「だから俄然トアちゃんに興味が湧いたわ。だって私のことを見破っただけじゃなく、その後も態度がぜんぜん変わらないんですもの」

「あー、それには訳がありまして。話すより見ていただいた方が早いですね。サンダー君~っ」

『なんや?』

 私の呼び掛けに、キョロちゃん達と一緒にいたサンダー君が羽ばたきながら窓から入ってきます。


『って、光竜のネエチャンやないかっ!』

「雷竜?あなた、こんなところで何をしてるの?」

『そりゃこっちゃのセリフや。それも人型になっとるし』

「結構イケてるでしょ。みんな美人だって誉めてくれるの」

 天然な答えを返すと、イブさんは人化している理由を教えてくれます。


「誕生してから三千年以上ずっとこの世界を見守って来たけど…。はっきり言ってただ生きるのって退屈の一言に尽きるわ。あまりに長く存在しているものだから、したいことや見たいものはほとんどやり尽くしてしまっているんですもの。だから人の中に混じることにしたの。人の営みって見ていて楽しいでしょ。だって私達ドラゴンの行動理由は『楽しいか』『楽しくないか』だもの」


『せやなー』

 イブさんの言葉にサンダー君も大きく頷きます。

『ワイもトアはんと一緒やと、おもろいことばっかで退屈とは縁なしやしなー。やること成すこと全部が新しゅうて、珍しゅうて、楽しんや』

「あら良いわね。私も雷竜と同じようにトアちゃんと一緒に居ようかしら。人族と行動を共にするのはアキト以来ね」

「はいぃぃ?」

 


聞いたところ、ヤサカさんの竜人の妻がイブさんでした。

ですが妻と言っても名目上のことで、2人は清い仲だったそうです。

ヤサカさんと居ると退屈しないので側に居ましたが、エルフの里に避難する時に別れたそうです。

理由は明白、隠遁生活は楽しくなさそうだから。


余談ながらドラゴンが人化するとその能力は大きく低下してしまい、ちょっと強い竜人くらいになるそうです。

そうなると命の危険も大きくなるため、滅多なことが無い限りドラゴンは人の姿を取ったりはしないそうです。

なので大抵はサンダー君のように飛びトカゲサイズで居ることが多いのだとか。



「なるほどね、それでトアちゃんの下に雷竜がいるわけね。だから私がドラゴンと判っても慌てなかったのね」

 サンダー君との出会いから、そのきっかけとなった腐れ勇者の話をするとイブさんは大きく頷いて、だけどと困ったように眉を寄せます。


「勇者の子がそんな事件を起こしていたとはね。魔王に負けて泣きながら逃げていった後で何があったのかしら?」

「泣きながら逃げていった?私が聞いた話と違うのですが」

「まあそうでしょうね。勇者の話のほとんどは人族目線で書かれたものだから」

「じゃあ勇者が腐った理由が何かは?」

「ごめんなさい。私はその頃サース大陸にいたから判らないわ」

 すまなそうなイブさんに、気にしないで下さいと返して考え込みます。


言われてみれば勇者の話は、すべてアリウス神国発信です。

真実を隠蔽して都合の良いように捏造することくらい簡単にやるでしょう。

ここはやはり魔国に行って聞くしかないようです。


「今日、伺ったのは魔国との仲介をお願いしたくて。腐れ勇者の件について当事者から話を聞きたいんです」

「ローズからの手紙にあったから知ってるわ。でも何故わざわざ仲介する必要があるの?魔国へなら勝手に行っても大丈夫よ」

「え?でも鎖国状態なんじゃ」

「ああ、それね。間違いだから」

「はい?」


 間違いって…どういうこと?

 





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― 新着の感想 ―
[一言] う〜ん。……レスバでまけたかな?
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