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7、トスカの町

「早いところ何処かで身分証を作るんだな。あれば通行料は取られない」

「そうします」 

 門番さんの忠告に頷いてから、あのと問い掛ける。

「薬を売りたいんですが、薬師ギルドは何処ですか?」

「なんだお前さん、薬師かい?」

「まだ見習いですけど」

 小さく微笑む私に、言葉遣いが丁寧だから良い所のお嬢様かと思ったよと笑いながら門番さんが場所を教えてくれました。


「大通りをまっすぐ行くと十字路に出る。その向かって右角が商業ギルドだ。

薬師ギルドはその中にある」

 それでは初めての人間には判り辛いですね、聞いて良かったです。 

「はい、ありがとうございます」

 深々と頭を下げる私に、いいってことよと門番さんが照れた顔で笑い返してくれました。

「あー、それとな」

「何でしょう?」

 小首を傾げると門番さんがキョロちゃんを見ながら言葉を続けます。


「身分証がないなら使い魔登録もまだだよな」

「そうですね」

「だったらそいつは詰め所で預かってやるから、まずは身分証を作ってきな」

 怪訝な顔をする私に理由を教えてくれました。


「フェアリーバードは足の速い騎獣として人気だが希少でな、良くも悪くも目を付けられ易いんだ。

登録していても使い魔契約より強力な隷属の輪を付けられて盗まれることがあるくらいだ。ましてや未登録のヤツをほいほい連れ歩いていたら」

「盗んで下さいって言ってるようなものですね」

 先を続けた私に、門番さんは大きく首を縦に振った。


「この町は他に比べて治安は良い方だが、悪人が居ないわけじゃない。

用心するに越したことはないからな」

「はい、ありがとうございます」

 素直に頷くと、それに気を良くした門番さんがさらに言葉を綴ります。


「薬師ギルドに行くなら大通りとその脇の小路まではいいが、奥の裏通りに近付くのは止めておけ。若い娘ならなおさらだ。

それと屋台で食い物を買う時は青い表札が出てる所だけにしろよ。

無いのは無許可のヤツだからな。安いのは確かだが何を食わされるか判ったもんじゃない。後な…」


「それくらいにしておいてくださいよ、ボリスさん。

後が(つか)えてますって。お嬢さんだって迷惑すよね」

 延々と続きそうな話を、赤毛のお兄さんが笑いながら(さえぎ)った。

「おお、すまん。俺にも娘がいるんでついな」

 申し訳なさそうに門番のボリスさんが頭を掻く。


その様が小学校に上がったばかりの娘に懇々と登下校時の注意を申し渡してウザがられていた旦那と重なってほのぼのとしてしまう。

 

「いえ、両親が亡くなってからそんな風に言ってくれる人はいなかったので嬉しいです」

「そ、そうか。嬢ちゃんは良い子だな。頑張れよ」

 何故か鼻声になるボリスさん。涙もろい人みたいです。


「騎獣を詰め所に連れて行くなら案内するっすよ。あ、俺はサムっす」

 ちゃっかりと私の横に並んだお兄さん…サム君に名前を伝えようとして少し考える。

山田十和子では違和感バリバリだし。

だったら…。

「トワリアです。トアって呼んで下さい」


十和子とマリアの間を取って『トワリア』

うん、我ながら良い名だと自画自賛。


そこ、微妙な顔しない。

本人が気に入っているからいいんです。


「薬師ギルドで身分証を作ってもらったらすぐ帰ってくるから」

 門の裏手にある詰め所に案内してもらい、そこの空き地の隅でキョロちゃんに言い聞かす。

「それまでこれでも食べて待ってて」

 カバンからポロロの葉を一掴み取り出すと、途端にキョロちゃんが目が輝く。


最初、少しの量しか食べないので『遠慮しなくてもいいよ』って伝えたら、これで十分だって答えが返ってきて。

ポロロの葉は魔素の含有量が桁違いに多いので、ちょっとの量でお腹一杯になるんだって。

エコです。


風で飛ぶといけないので、ラップと呼ばれる大きな葉っぱを折って作った箱を取り出して、その中にポロロの葉を入れて足元に置いてあげる。


余談ながらこの箱、簡単な折り方で出来るし、そのうえ丈夫でシンプル。

使い道もいろいろで、小物入れやゴミ箱なんかに使えて超便利。

前世でも綺麗な色の広告で作ってはよく使ってました。

子供らには貧乏臭いと不評だったけど。


ちなみにラップの葉は、此方でも名前通り食品を包むのに使われている匂いを遮断し保湿効果もある優れものです。


「それじゃあ、行ってくるね」

『はーい♡』

 良いお返事のキョロちゃんのことををサム君に頼み、いざトスカの町へ。



「おおう、ファンタジー」

 大通りに出た第一声がこれ。

子供らがやっていたゲームそのままの世界が眼前に。


耳の長い美形さんはエルフかな。

おお、猫耳。あっちは…犬、いや狼かな。狐耳さんもいる。

ずんぐりした小柄なおじさんはドワーフだよね。

凄いお(ひげ)。胸まで伸びてる。

角と鱗のある人はドラゴニュートって言うんだっけ。

もちろん人族も老若男女問わず大勢います。


それにさすがは冒険者の町。

通りを行く人の多くが革や金属の鎧を着て、長剣や弓、棍棒みたいな物を持っています。


両脇に並ぶ石造りのお店の前には布製の日除けが掛けられ、その下にはさまざまな商品が並んでます。

八百屋さんに肉屋さんに…内陸だからさすがに魚屋さんは無いな。

あっちは道具屋かな。あ、服屋(ブティック)もある。

靴屋はどこだろう?…っと、いけない、いけない。

まずは薬師ギルドに行かないと。


完全におのぼりさんと化していた自分を(しか)り、十字路を目指して進みます。


着いた先は一際大きな建物。

中に足を踏み入れると入口すぐに受付があり、その奥には壁に沿って横長のカウンターが続いてます。

所々にベンチが置かれ多くの人が順番待ちをしている様子は大きな銀行みたい。


「本日はどんな御用でしょうか?」

 ぼんやり眺めていたら受付のお兄さんに声をかけられました。

これがまたアイドルみたいなイケメンさん。

やっぱり受付は其処の顔ですからね。美男美女を揃えるのは此方でも一緒だなぁ。


「はい。薬師ギルドに入会したくて(うかが)いました」

「…ギルドへの入会は14才からとなっておりますが」

 そうでしたか、タイミングバッチリでしたね。


「それは大丈夫です。今日で14になりましたから」

 私の答えに、お兄さんは此方を値踏みするような視線を向けてきます。


「失礼ですが薬師資格はお持ちですか?」

「まだ見習いなので持っていないです。これを機にぜひ取得したいのですが」

「そうですか…では御師匠からの推薦状などは?」

「それもないです。残念ながら師匠は2年前に戦争で亡くなりましたので」

 私の答えに何やら考え込むお兄さん。

このまま門前払いか?


それならそれで再チャレンジするのみ。

まずは図書館に行って資格取得に必要なことを調べて…。

とか考えていたら、お兄さんが何やら書類を取り出した。


「本来ならば推薦状もない見習いの方にはお帰り願うのですが、今は先の戦争で薬師も不足していますので」

「じゃあ」

「ええ、ここに必要事項を書いて7番の窓口に提出して下さい」

「ありがとうございますっ」

 思いっきり頭を下げる私に、お兄さんが微苦笑を浮かべる。


「私は商業ギルド主任のマロウと申します。判らないことがありましたら何でもお聞き下さい」

「ご丁寧にありがとうございます。私はトワリアです。よろしくお願いします」

 再度深々と頭を下げると、跳ねるような足取りで窓口へ向かいます。


よっしゃー!まずは第一関門突破っ。






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