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68、美少年ジジイの正体


「すみません。よろしければ詳しくお聞かせ願いますか?」

 思わず身を乗り出して問いかければ、しばしの沈黙の後でガリウスさまは静かに話し始めました。


「あれから百年以上経つのか…早いものだ」

 小さな呟きと共に語られたのは、魔国へ進軍する途中でこの街に立ち寄った勇者一行の話でした。


進軍と言いましたが、正確には遠征ですね。

何しろ向かったのはパーティーメンバーの5人だけなんですから。

力がすべての魔国では、当時は魔族以外の者の魔王への挑戦を受けていたとか。

魔王に勝てば、その者が次代の魔王…つまり魔国のトップになり国政を司ることが出来ます。

簡単に魔国を乗っ取り、支配下に置けるということです。


で、魔族が人族を支配しようとしていると、ある事無い事を吹き込まれた腐れ勇者一行は魔王討伐の旅に出た訳です。

真の目的である魔国鉱山の利権を求めての侵略戦争を仕掛ける為に。



しかしまだ勇者の実力が魔王と戦うには低かったので、しばらくこの竜人国にあるS、Aクラスの魔獣が闊歩する深淵の森と呼ばれる場所でレベル上げに勤しむことになり、その時にガリウスさまと美少年ジジイは親しくなったようです。


気の良い獅子獣人のイネスさんも同じように仲良くなったのですが、人族の腐れ勇者、聖騎士、治癒師の3人は、最後まで他人行儀だったとか。


と言うか、話の内容から他の2人が腐れ勇者と他者の接触を意図的に遮断していたようですね。

いらぬ知恵を付けられてはたまらないとでも思ったんでしょう。


腐れ勇者の方も、その頃は自分のレベルが上がるのが楽しくて仕方ない様子で他のことに目を遣る余裕は無かったみたいですし。

『不死鳥ラ〇ミアがいてくれたら楽なのに』など、語録には多くのゲーム用語が残されています。

これらが表すように自分がゲームの主人公になった気で、すべてが遊びの範疇(はんちゅう)だったんでしょうね。


やがてレベルが上がった勇者一行は意気揚々と魔国に向かったのですが…。



2か月後、帰りに此処に立ち寄ったのはイネスさんとシェールさんのみ。

その姿も息を呑むほどにボロボロで、負け戦だったことが丸判りだったそうです。



「でも此処に来たのは魔術師の女性のシェールさんなんですよね?」

 だとしたら美少年ジジイとは別人…。

「シェールはおじじ様が女だった時の名だな」

 私の疑問に、あっさりとウェルが答えてくれました。


そうでした、エルフは生まれた時はみんな女性でしたね。

忘れてましたよ。



戻ってきた2人は魔国であったことは一切語らず、傷が治ると早々に故郷へと帰ってゆきました。


ですが滞在中、魔術師の美少年ジジイがまったく治癒魔法を使わなかったことを不審に思い問い質すと『時止めの呪』を掛けられたことを告白したそうです。


時止めの呪…掛けられた当人の魔力を喰らって時間を止める呪い。


これを受けると呪に魔力を使われてしまうので魔法がほとんど使えなくなり、その代わりに身体年齢が掛けられた時のまま停止するそうです。


あの腐れ勇者の姿が変わっていなかったのは、同じように呪いを受けた可能性が高いですね。

だから表立って勇者の力を振るうことが出来ず、影でこそこそと活動していたと考えられます。

ですが何故、2年前の戦争からなんでしょう?

もっと早くに行動を起こしても良いはずなのに。



「どうするトア。一度戻っておじじ様に話を聞くか?」

「…無駄だと思うよ。話す気ならとっくに話してくれているはずだもの」

 ウェル経由で腐れ勇者のことは美少年ジジイの耳にも入っています。

ですが今まで勇者に関して何一つ口にしていません。


「私達の目と耳で得た情報で判断しろってことなんだと思うよ」

「…そうだな」

 私の言にウェルも静かに頷きます。


後日にウェルから聞いた話だと、男になったのは大戦から戻ってすぐだそうです。

既に男になる許可は里長から得ていたらしいので、アリウス神国の追っ手から逃れる為に早々に性別と名を変えたようですね。


しかしその後、竜人国以外とは鎖国体制を取った魔国。

腐れ勇者一行はいったい何をやらかしたんでしょうか?

余程のことが無い限り、そんなことにはならないと思うのですが。


それについてはガリウスさまも判らないそうです。

ただ一方的に魔国は竜人国を除いたすべての国との国交を断絶すると宣言し、その理由は今もって一切公表されていません。


「儂も百年以上閉じられた魔国の扉を、そなたたちが開いてくれるのを期待しておる」

「その御期待にそえるか判りませんが、全力を尽くします。国を閉じていた間に、こんなにも世界には美味しい物、楽しい物が増えたのだと知らせ、頑固な扉を開いてもらえるように」

 そう言うとガリウスさまに和三盆もどきで作った落雁を進呈します。

一緒に煎茶もどきもアイテムボックスから出しておきます。



「これは?」

「私共の商会で扱っておりますお菓子です。よろしかったらお食べになって下さい。こちらのお茶によく合いますよ」

「うむ…これはっ」

 驚きに目を見開くガリウスさま。


此処に案内してもらう途中で、使いの人にガリウスさまの好きな食べ物を聞いておいたんですよね。

そうしたら甘い物に目が無いとのこと。

でも最近は歯が弱くなって、好物の硬い甘実やドライフルーツが食べづらく難儀していると。

質実剛健が信条の竜人は食べる物も硬い物が主流で、パンですら岩のように硬いのだとか。

だったら柔らかくて甘い落雁は気に入ってもらえると思った次第です。


「口に入れた途端、溶けて消えおった。しかも何と味わい深い甘さじゃ、しかもこの渋めの茶との相性も良い」

 ご機嫌で二つ目を食べるガリウスさまに、笑みと共に言葉を継ぎます。


「他にもいろいろありますので、後で従者の方に渡しておきますね」

「おお、それは有難い。このように美味いものは久しぶりに食べた。腹だけでなく心まで満たされた気分じゃ」

「はい、美味しいは正義です。美味しい物は誰にでも幸せをもたらしてくれますから」

「確かに真理じゃな。これがそなたの武器か…。そなたなら魔国の者達も喜んで迎えよう」

 感心した様子で此方を見るガリウスさまに礼を返し、本日の謁見は終了しました。




従者の人に紹介してもらった宿に落ち着いて、今後の事をウェルと相談していたらそれまで何処かに行っていたサンダー君が戻ってきました。

「トアはん、ちょっとええか?」

「何かあったの?」

 浮かない顔のサンダー君に問いかけると、実はなーと頭を掻きながら口を開きます。


サンダー君の話を総合すると神殿の裏山に昔馴染の年老いた火竜が住んでいて、その火竜の調子が良くないのだとか。

「だいぶ耄碌しとるしなー。仕方ないことやけど、どうにかならんかと思うてな」

「私の薬学知識がドラゴンに通用するか判らないけど。出来るだけのことはするよ。今から行く?」

「ほんまか?おおきに」

 ペコリと頭を下げるサンダー君に先導してもらい、ウェルのウィングボードで山の中腹を目指して飛んでゆきます。



着いた先は大きな洞穴の前で、奥は暗くてよく見えません。

『ジイさん、連れて来たで』

 サンダー君が声を掛けると、中から細い唸り声がします。


【LED照明】の強で辺りを照らしながら進むと、最奥にガリウスさまに似た茶褐色の大きな鱗が見えました。

「…これは」

 珍しくウェルが声を無くしています。

鱗の持ち主はそれに見合った大きさで、軽く見積もっても100mを有に超える巨体でした。


「これじゃ診ようにもよく判らないね。サンダー君みたいに小さくはなれないの?」

 私の問いに、せやなと頷くと巨竜の耳元へと飛んでゆきます。

しばらくすると其の身が光に包まれ徐々に小さくなり、サンダー君と同じサイズになって私達の前にやってきます。


『世話をかけるの』

「お気になさらず、それでお体の具合はどういった感じです?」

 普通に標準語だったことにちょっとがっかりしながら体調を尋ねます。


『竜人たちが決まった日に儂の下に狩った魔獣を持ってきてくれるのじゃが、最近とみにそれを食べるのが億劫でな。じゃがせっかく苦労して持ってきてくれたものを残すのは悪いと思うての。無理して食べとるんじゃが…』

「そうしたらお腹を壊した…といったところでしょうか」

 先を続ける私に、何故判ったとばかりに老火竜が此方を見ます。


「その前にまず…失礼します」

 言うなり老火竜の口を開けさせて中を見ます。

思った通りにだいぶ歯が欠けたり、抜けたりしていますね。

これでは硬いものを食べるのは中々に難儀でしょう。

ガリウスさまと同じですね。


「巧く噛めないからと丸呑みにしていたらお腹の調子が悪くなって当然ですよ」

『…面目ない』

「ところで火竜さまは何歳におなりです?」

『…確か…七千は超えておるはずじゃ』

 さすがはドラゴンと言うべきか、凄いおじいちゃんですね。


「取り敢えずお腹の薬を出しますね。それともう丸呑みはダメですよ。喉に詰まったりする危険性がありますから」

『う、うむ』

 素直に頷く火竜おじいちゃん。


さて、根本から食生活を改善しないといけませんね。







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