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60、海辺の町の食物連鎖

 

「これで足りるかな?」

「ええ、何とかなると思います」

 薬師ギルドにある薬草の在庫チェックをして、これから作る薬の種類を算段します。


「しかし本当にトアさんが来てくれて良かったよ。サンザに感謝だね」

 ギルマスのシャーロンさんがニコニコ顔でそんなことを言ってます。


まあ、確かに今回に限っては美少年ジジイの慧眼に感謝ですね。

辛子入りロシアンルーレットチョコを渡すのは止めておきましょう。


それにデラントの町に来させてもらったおかげで見つけられましたからね。


暇をみて漁港を探して回りましたらありましたよ、鰹節ぃぃ。

出汁を取る為ではなく、非常食として作られてました。

丸1日、水に漬けてふやかしてから薄くスライスして食べるのだそうです。

戻した水は捨ててしまうとかで(もったいないっ)旨味が出切ってしまった身の味は薄いので、塩を大量に振って食べるのだとか。(本末転倒ですよー)


見つけたからには箱買いしましたよ。

定期的に商会に売ってもらえるよう仮契約もしましたし、これから作る和食が楽しみです。


それとタコですが、こちらは外道(狙っている本命以外の魚)として獲れても食べることなく捨てられていました。

港の端に山と積まれて廃棄されているタコを見た時には、不憫すぎて思わず泣けてきました。

ですがせっかく見つけたので此方もいただきましたよ。

ゴミ扱いで無料でしたので、ありったけ。


宿に帰って茹でダコにして醤油を添えて出したらウェルだけでなく他のお客様や従業員の人達にも好評でした。

次は念願のタコ焼きを作ってタコの地位向上を図ろうと決意した次第です。



クラーケンの襲撃から5日、ようやく町に日常が戻ってきました。

破壊された港の南側はしばらく使いものになりませんが、北側は無傷だったのが不幸中の幸いでした。

おかげで壊れた漁船の修理は急ピッチで進められてますし、漁も浅い海域のみですが再開されています。

このまま何事も無ければ良いのですが…。


「よし、出来た」

 薬師ギルドで分けて貰った薬草を使い、製薬したものが完成したので急いで救護施設に運びます。


「キョロちゃん、お願いね」

『わかったー』

 乗り易いように屈んでくれた身体が大きくゆれます。

「な、何っ?」

『なんか、くるー』

「へ?」

『姐さん、気ぃ付けて下せえ。でけぇ気がこっちに来やす』

『せやでー、これはクラーケンやないか?』

「ええっ!?」

「誠かっ?」

 途端にウェルが戦闘態勢に入ります。


「ウェルは冒険者ギルドに行ってクラーケンがこっちに向かっていることを伝えて」

「トアはどうするのだ?」

「私は救護施設に行くよ。まだ重傷者の人達がたくさんいるからね」

「そうか、知らせたらすぐに私も駆け付ける。その間は…」

『判っとるがな、任せとき』

 ポンと胸を叩いて見せるサンダー君に、トアを頼むと頭を下げてウェルは天高く飛び上がってゆきました。


「キョロちゃん、急いでっ」

『わかったー』

 トップスピードで走り出すキョロちゃん。

その背に掴まりながら、これからのことを考えます。


救護施設は海から離れているとはいえ、絶対に安全とはいえません。

ですが重傷者の中には、まだ動かせない人が多く避難は無理です。

つまりクラーケンを海から出さずに撃退する。

これしかありません。

そうするにはどうすれば良いか…。


しばらくすると神殿の鐘が高らかに町中に響き渡ります。

その音に背を押されるように町の住民が高台へと逃げてゆくのが見えます。

ギルマスのケイシーさんが町の顔役さん達と避難手順を決めておいてくれたのが功を奏しているようです。


「エバンさんっ、ミリアムさんっ」

「トアさん!?」

「この鐘は何事だ?」

 驚いている2人に再びクラーケンが此方に向かってきていることを伝えます。


「なんてことだ…」

 苦悩の表情でエバンさんがテント内を見回します。

「彼らを此処から動かすことは出来ない」

「はい、ですから海から出さずに撃退します」

「そんなことが出来るんですか?」

 不安でいっぱいの眼で此方を見るミリアムさんに、ええと笑みを向けます。

少しでも安心してもらえるように。


「1人、2人の力では無理ですが、皆で力を合わせれば可能です」

「…そうか」

「はい、ですから私達を信じて此処を守ってもらえます?」

「判った。信じよう」

「わ、私も此処で頑張ります」

 震えながらも毅然と顔を上げるミリアムさんとその隣で頷くエバンさんに笑みを返し、持ってきた薬を渡します。


その後、迎えに来てくれたウェルと冒険者ギルドに行き、ケイシーさんに作戦の説明とそれに伴う相談です。


まず海上に姿を現わしたクラーケンに火魔法での一斉攻撃。

相手が怯んだ隙に、弓矢、槍や銛の投擲での物理攻撃。

幾つかは刺さるはずなので其処を目掛けて再び火魔法攻撃。

この時どさくさに紛れて、こっそりとサンダー君に雷魔法を発動してもらいます。

(魔法の発動は小さいままでも威力に変化はないそうです)

『クラーケン如き、ワイの雷魔法で1発や』とのサンダー君の言葉を信じます。

さて、配置に付きましょうか。


ちなみに私は港が一望できる岬の上で全体を把握しつつ、いざと言う時に眠りの歌でクラーケンを眠らせるためにキョロちゃん、マーチ君と一緒に待機です。


「来たぞっ」

「クラーケンだぁぁっ!」

 冒険者さん達の声と共に海上にクラーケンが姿を現わしました。

本当にデカいイカですね。

体長は足の先まで入れると軽く50mはあります。

ですが何だか様子が変です。まるで何かに怯えているような…。


「なん…だと…」

「馬鹿なっ」

「ほ、ホエーオルっ」

 クラーケンの背後に見えるさらに巨大な影。

それはホエーオルと呼ばれるクジラの魔獣でした。

体長は軽く200m超え、まるで山がそこにあるようです。


ホエーオルの好物の一つがクラーケン。

つまりクラーケンはホエーオルに食べられたくなくて、デラントの港にやって来た訳ですね。

前回、逃げ延びることが出来たので再び逃げ込んできたようです。


ですがあんなヘビー級達に港の近くで暴れられたら、デラントの町は簡単に壊滅してしまいます。


まったく迷惑この上ない、食事の邪魔をしたくはないですけどまさに『お前ら他所でやれっ!』ですよね。


「ウェルっ!」

 私の呼びかけに応え、ウェルが文字通り飛んできます。

その横には困り顔のサンダー君。

『ホエーオルとは参ったでー。あいつの身ぃの脂はごっつう厚くてな、ワイの雷もよう通じんのや』

 ポリポリと頭を掻くサンダー君に、だったらとプランBを持ち掛けます。


『なるほどなー』

「しかしトア、いつの間にそのような作戦を」

「何かやる時は弓の弦は2本張っておけ、1本が切れてもすぐにまた攻撃できるこれが昔からの私のポリシーなの」

 前世で大きな商談のプレゼンでは、こうしてプランをABと用意するのが常でしたから。

場合によってはCも使い臨機応変に対応してました。

社運が掛かっているので、絶対に失敗する訳にはゆきませんでしたからね。



「じゃあサンダー君、後はお願いね」

『まかしときー』

 クラーケン目指して飛んで行くサンダー君を見送ってから、私とウェルで行動開始です。


プランAはそのまま続行。

クラーケンのとどめはサンダー君にお願いしました。


そして私達はプランBを。

ウェルと2人して楕円形のボードに乗り、空からホエーオルに近付いてゆきます。

前に乗る私を後のウェルが支えてくれる様は豪華客船沈没映画のワンシーンのようです。

なので当然、曲はその映画の主題歌。

歌詞は所々がうろ覚えなので、其処はアドリブでカバー。

歌い出すと思った通りにホエーオルが後を付いてきます。


最初はクラーケンへの攻撃が上手く行かなかった時は、こうして歌で誘導する予定でしたがプランBはホエーオル向きでしたね。


地球のクジラやイルカが水中で互いが放つ声で会話をするように、やはりホエーオルも他の生き物以上に音に対して敏感のようです。

それに大型魔獣は魔力に強い興味を持つとサンダー君が言ってました。

ならば魔力を乗せた私の歌に必ず反応するはずと踏みましたが、どうやら当たったようです。


「このまま沖まで連れて行けば良いのだな。クラーケンが倒され、その気配が失せれば町に戻ることはあるまい」

 はい、それがプランBの概要です。


ホエーオルの近くで歌い続けることしばし、順調に町から離れてゆけてます。

ですが同じ歌ばかりの繰り返しだとつまりませんから、此処はこれでしょう。

と言う訳で…行きましょう『ク〇ラの歌』。

朝の子供番組でよく歌われていて、子供達も小さい頃はお風呂で歌ってました。

しかし歌詞にあるクジラの時計が9時らって…ダジャレも良いとこですよねー。


とか思ってたらホエーオルの様子が…。

「冷たぁぁ!」

「なんとっ」

 いきなり潮を吹かれましたよ。

空中に撒かれる海水から生まれた虹はとても綺麗ですが、おかげで私もウェルもずぶ濡れです。

でもホエーオルはご機嫌な様子で、尾びれをバタつかせてリズムを取ってます。

この歌が気に入ったんですか?

それは良かったです。



「あうぅ、生き返る~」

「まったくだ」

 無事にホエーオルを沖に放ち、クラーケンも倒されたのでウェルと2人して温泉を堪能してます。

春とは言え潮風は冷たく、すぐに濡れた服を【乾燥】で乾かしましたが、しばらく2人とも歯の音が止みませんでした。


『ふぃー、極楽だぜぇ』

『おゆ、きもちいいー』

『寿命が延びまんなー』

 ウチの3人組もお湯に浸かって嬉しそうで何よりです。

ミリアムさんのお父さんにお願いして、露天風呂の横に浅めの湯船をウェルの土魔法で作らせてもらいました。

温泉は大勢で入った方が楽しいですからね。


『うぁ、そこぉ、そこでっせぇぇ』

 妖しげな声を上げて悶える飛びトカゲ。

いえね、今回の影の功労者であるサンダー君の背中をお礼代わりにと洗っている最中です。

ドラゴンって首の後と尻尾の付け根が弱点なんだね、初めて知ったわ。


宿の食堂ではクラーケンを倒した冒険者さん達の慰労会が開かれていて、酔っ払った歌声が此処まで聞こえてきます。

クラーケンからはバレーボール大の水魔石が取れたとかで、旱魃の酷い地にとって大いなる助けになる物だそうです。

なので皆で山分けしても相当な高額所得になると誰もが舞い上がってます。

だからって散財しちゃダメですよ、お金大事。


まあ、いろいろと大変でしたが『終わり良ければすべて良し』です。

良い旅でした。





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[良い点] 『策士策に溺れる』のは、一つの策に拘るからだ。 策士ならば総てを策とし活用せよ。 策はばらまいてなんぼ。百のうち一つも使わないのがザラくらいでいい。 とか、昔聞いたw [一言] 〉辛子入…
[一言] 「切り札は先に見せるな」「見せるならさらに奥の手を持て」
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