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58、海辺の町のギルド


「おお、よく来てくれた。今回は本当に助かったよ」

 日も暮れた頃、訪ねたギルドで待っていたのは50代くらいの獣人族のおじさんでした。

ぴょこんと立った三角の狐耳がラブリーです。


此処もトスカと同じく商業ギルドの中に薬師ギルドがあります。

なので美少年ジジイと一緒で双方のギルドのマスターをこの人が兼任してます。


「私はこのデラントのギルドのマスターをしているシャーロンだよ」

「初めまして、トスカからやってまいりましたトワリアです。此方は私の護衛をお願いしているウェルティアナ」

「よろしく頼む」

 軽く頭を下げる私達を、さあさあとソファーに誘導するギルマスに美少年ジジイから預かった紹介状を差し出します。

それを一通り読み終わるとギルマスから深いため息が零れます。


「サンザの予想通りになってしまったね」

「どういうことです?」

 怪訝な顔をする私にギルマスが眉を寄せながら説明してくれました。


10日ほど前から漁師たちの間で波間に巨大な影を見たという話があちこちで上がっていた。

事態を重く見た冒険者ギルドは早急に領主であるサリマンドさまに報告し、調査と討伐の陳情をするも『見間違い』の一言で却下されてしまった。

(そのためにかかるお金をケチったんですね)


それだけでなく、無暗に民に不安を与えたと冒険者ギルドに1ヵ月間の活動停止を言い渡した。

1ヵ月も仕事が無いならと、新たな稼ぎ先を求めて冒険者たちはデラントを去ってゆき、おかげで町には数人の冒険者が残るのみで魔獣に対してまったくの無防備状態。


で、それを漏れ聞いた美少年ジジイが町の治安維持のために私…というより今回はウェルですね。

派遣を決定したということらしいです。


ちなみに件のアホ領主は今朝方、王都に救済援助を求めて旅立ったそうです。

本来ならば、領主が先頭に立って復興事業を行うはずですがね。

要はクラーケンに怯えて逃げ出したわけです。

再度、襲ってくる可能性はゼロではないですから。


まったく何をやっているんだか。

すべては自分が蒔いた種でしょうが。

帰ったらレリナさん辺りにチクっておきますかね。

あ、でも王都の暗部の情報収集能力は高いですから、此処でのことは既に報告済でしょう。



取り敢えずこの町に来た目的を尋ねてみます。

「アマモの出荷量が激減したと言うのは?」

「ああ、それなら…」

 続けられた話を総合すると、アマモは膝下くらいの水深に生えていてそれを摘んで、天日で干してから出荷となります。

その仕事は漁師の妻や娘たちが請け負うのが伝統なのだそう。

ですが今回の騒ぎで恐れをなした彼女たちは海に入ることを断固拒否。

おかげで出荷量も激減したという訳です。


でも正しい判断です。

クラーケンに追われて、普段はいないような水深の海域に魚系の魔獣が逃げ込む可能性がありますからね。


「今後、クラーケンが再来することはあるんですか?」

「それが皆目。何故この海辺にやって来たのかさえ判ってないからね。本来クラーケンはもっと北の深海に生息している魔獣だし」

 確かにそんな魔獣がこんな浅い海域にやって来たのは異常事態としか思えません。


「しばらくは様子見ですね。その間、私達は救護施設のお手伝いをしてます。

何かありましたらそちらに連絡を下さい」

「分かった、よろしく頼むよ」

 頭を下げるギルマスに、そう言えばと思い出したことを聞いてみます。


「治癒師のエバンさんはずっとこの町に?」

「いや、彼が此処に来たのは2年前のことさ。ふらりとやって来て信じられないくらいの安価で治療すると評判になって。そのまま町に住んでくれて此方としては助かっているけどね」

「2年前ですか…」

 どうやら戦争絡みの事情があるようです。



ギルマスの下を辞して、歩く道々でウェルに聞いてみます。

「クラーケンにも竜乞歌に匹敵する歌とかある?」

 私の問いに少し驚いてから、いやとウェルが首を振ります。

「それほど賢い魔獣ではないからな。本能のままに動くのみだ」

「だとしたらあの腐れ勇者が関わっている可能性は低いかな」

 ドラゴンの代わりにクラーケンを使ったのかと思いましたが、人の意でどうにかなるような魔獣でないなら違うようです。


「うむ、状況は似ているが恐らく違うだろう」

「だとしたら何でこの町に来たのかな?」

「判らん」

 2人して考え込みますが、そう簡単に答えが出たら苦労はしませんね。 


『あるじー』

『迎えに来たでー』

『Zzz…』

 どうやらマーチ君は睡眠タイムに入ったようです。

此方にやって来るキョロちゃんとサンダー君にお礼を言って、ギルマスから紹介された宿に向かいます。


海から離れているため今回の被害からは免れたようで、なかなかに立派な宿が見えてきました。

建物の背後からは湯気が立ち昇っていて、西洋風ですが如何にも温泉宿と言った感じです。

聞いた話だと露天風呂もあるそうなので、期待度はMAXです。


「楽しみだね」

「そうだな、宿の食事は海の幸尽くしだそうだ」

 うん、さすがウェル。

何があってもブレない所が大好きですよ。



「ごめんください」

「頼もう」

 入口で声を掛けると、奥から出てきたのは。

「あなた方は…」

 救護施設でいろいろとお世話になったミリアムさんでした。


「私、この宿の娘なんです。昼間はエバンさんの治癒院で受付の仕事をして夜は宿の手伝いをしているんです」

 部屋に案内してくれながらミリアムさんが此処にいる理由を話してくれます。

「はい、此処です。お風呂は1階の奥にあります。2階の食堂は夜は6時から、朝は7時から空いてます。昼は事前に言ってもらえれば用意しますから。お預かりした使い魔は西の端の獣舎にいます」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げ、ミリアムさんが去った後でウェルと相談です。


「お風呂にする?ご飯にする?それとも…わ・た・し」

「…何のことだ?」

「いや、気にしないで。ちょっとしたお遊びだから。それでどうするの」

「もちろん、食事だっ」

「うん、そうだね」

 予想通りの答えに微笑みつつ、2人して食堂に向かいます。

その前にキョロちゃんとマーチ君にポロロの葉を、サンダー君に最近お気に入りのチーズタルトを渡しておきます。ゆっくり食べてね。


「うむ、美味い」

「ホントだね」

 さすがは海の側にある宿。

出てきた魚や貝はどれも新鮮そのもの、シンプルな塩焼きなのに味は抜群です。

他にも煮魚に海藻のサラダ、野菜と貝の炒め物、白身魚の揚げ物と絶品揃いでどんどん食が進みます。


「魔剣の姫じゃないか、久しぶりだな」

 奥の席にいた男の人が驚いた様子で声を掛けてきました。

40歳くらいの青髪に無精髭のマッチョなおじさんです。


「ケイシーか。こんなところで何をしている?」

「ご挨拶だな。不愛想なところは健在か」

 お酒の杯を持って近付いてくると、私に断りを入れてウェルの隣に腰を下ろします。

「これでも今はこの町の冒険者ギルドのマスターだぜ」

「謹慎中だと聞いたが?」

 ウェルの言にケイシーさんが怒りを露わにします。


「馬鹿領主のおかげでな。人の忠告をちゃんと聞かんから町はこの有様だっ」

 ケイシーさんの怒りも尤もですね。

せめてちゃんと情報を公開して、人々の危機意識を高めておけば少しは違った結果になっていたかもしれません。


「クラーケンが襲ってきたそうだが?」

 ウェルの問いに、ケイシーさんが話してくれた状況は悲惨なものでした。


襲ってきた昼頃は、夜明け前に出航した漁船がちょうど港へ帰って来た時間帯で荷下ろしや買い付けで一番人が集まっている時でもあり。

そこへ何の前触れもなく海上にクラーケンが姿を現わした。

迎え撃つにも、アホ領主の所為で町にいた冒険者は10人ほどで大した攻撃も出来ないうちに上陸され、後はその巨大な足で辺りを蹂躙されるばかりだったと。

襲撃は30分ほどで終わったが、港の半分が破壊され死傷者多数、行方不明者の数は未だに把握されていない。


「あの馬鹿領主め、今度会ったらタダじゃおかねぇ」

 私達に話して再び怒りが再燃したらしく、ケイシーさんがドンと強くテーブルを拳で叩きます。

「んー、もう会うことはないと思いますけど」

「あ?」

 私の言葉に不思議そうな顔をしましたが、続く話にケイシーさんが破顔します。


「これだけの失態、それも領主の判断ミスが原因となったら、それなりのペナルティが発生しますからね。しかも今回の調査費用を惜しんだくらいですから、内情は火の車だったんでしょう。まともな領地経営をしていればそんなことにはなりませんから、何か後ろ暗いことに手を出していたのでは?だとしたら王太子様は不正に厳しい方ですから、状況によっては首が飛びますね。物理的に。そこまではなくとも領主として此処に戻ってくることはないでしょう」


「だったらいい気味だぜ。…しかしお嬢ちゃんはスゲエな。これだけのことでそこまで見通すか」

「当然だ、トアは私の友だからな」

 得意げに胸を張るウェルに苦笑しつつ、今後の体制を聞いてみます。


「冒険者の数は増やせそうですか?」

「それがな」

 途端にケイシーさんの顔が渋いものに変わります。

「ギルドは閉鎖中のままだし、今回の襲撃で誰もが怖気付いちまってる。此処が生まれ故郷だから辛うじて残ってくれている冒険者も及び腰だ。去っていっても俺には止める術がねぇ。ましてや新たな奴を呼び込むことなんて無理だ」

「ですよねー」

 2人してため息をつく隣で、何のと大盛りの魚と貝の揚げ物を完食したウェルが胸を叩きます。

「私がいる限り、この町に害を及ぼすものを近付けたりはせん」

 変わらぬ漢前発言に、思わず拍手です。


「確かに魔剣の姫がいてくれたら心強い。それに姫がいてくれるならと他の冒険者もやって来るだろう。一緒に戦うことを誉と思うヤツは多いからな」

 基本、冒険者は脳筋ばかりですからね。

体育会系のノリの人が多いので、その状況は簡単に想像できます。


「だったらケイシーさんは他のギルドに、此処にウェルがいることを流して下さい。後は海上の警戒ですね。異変があったらすぐに町中に知らせることは出来ますか?」

「ああ、神殿の鐘を鳴らせばソイツが合図になる」

 前回はそんな暇もなく襲撃されてしまったので、周知出来なかったそうです。


その後、鐘を鳴らす手順とイザという時の住民の避難誘導を話し合い、夜も更けてからケイシーさんと別れました。


朝一で町の顔役を集めて、避難体制について決めるそうです。

頑張って下さい。






評価&ブックマークをありがとうございます。

楽しんでいただけているようで嬉しいです。


ですが大変申し訳ありません。

書き溜めストックが無くなって来ましたので毎日更新が難しくなりました。

1日おきくらいには更新したいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。

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