5、クエッ、クエッと鳴いたらそれは…
異世界生活、1ヵ月と10日目。
作業台にあったソーイングセットで、ちまちま作っていたマリアのワンピースのリフォームが終了しました。
胸の辺りは狼に喰い千切られてしまったので、そこは切り落として生成りのシーツを使って足りない部分を足し、セーラーカラーの襟を付け、可愛い感じに仕上げました。
懐かしいな。
子供らが小さかった頃は、よくオリジナルの服を縫ったものです。
残ったシーツで下着も作りました。
こちらでは基本、紐パンに紐ブラです。
パンツの上にキュロット型のペチコートを履き、そしてスカートというスタイルです。
しかしながら…三角の布に紐が付いただけというブラは、マリアの胸では無理があるというか、収まりが悪いんですよね。
で、スポーツブラタイプのものを作ってみました。
胸の前でスニーカーのように紐を組んでサイズ調整出来るようにしました。
ココナッツらしき実の皮を薄く削ってパッドにし、中に縫い込めばさらに安定度アップ。
パンツの方もウエスト周りを紐で締めるトランクスタイプを製作。
色気がない?
ほっといてください。
紐パンなんて男が喜ぶだけです。
女はお尻を冷やすとロクな事にならないんですから。
これを3セット作ったところで、残念ながら糸が無くなりました。
食事の方も小魚で作った自家製アンチョビを使ったガーリックポテトとか。
ハーブ塩を擦り込んだコッケのジュシー唐揚げやスライスしたジャガイモにトマトソースとバジルと鶏皮を乗せて【オーブン機能】で焼いたピザもどきとか。
カボチャをくり抜いて鳥モツを詰めて焼いた丸ごとカボチャのモツ煮や新鮮卵を使ったスパニッシュオムレツとか白菜と鶏肉の重ね蒸しなどが続いてますので、そろそろ穀類が食べたくなってきました。
小麦か米、または大豆が欲しいところです。
それとミルク、出来たらチーズやバター。
これらがあると料理のバリエーションが革命的に増えますからね。
人里に行くことの必要性が増しました。
しかしながら問題が一つ。
此処から一番近い人里はマリアが居た村なんですが、多少容姿が変わってもあの伯父のことを考えると、近づかない方が無難です。
そうなると次は森を越えた先にあるトスカの町になるのですが。
如何せん遠い。
徒歩だと3日はかかる距離です。
野宿のことを考えると、テント等の準備が必要でしょう。
さて、今日も今日とて外で薬草&野菜の収穫です。
「よっ」
背中を覆う程の長さの髪をぐるりと一本簪で纏めます。
初めは編み込んだりしていたのですが、毎日のことなので面倒くさくなって最近ではもっぱらこれです。
箸のように先を細く削った枝で捩じった髪を一つに絡めて団子状にし、そこに先端を差し込んだら出来上がり。
ただの枝だけでは味気ないので、ナイフで模様を刻んだり。
あまり布を巻いてリボンを付けたり、薔薇型の布花を添えたりしてささやかなオシャレを楽しんでいます。
次いで魔獣避けの葉っぱをしっかりポケットに詰めて、いざ出発。
ややサイズが大きいのでシャツの袖やズボンの裾を折り上げないとダメですが、ハルキスの服はどれも採集用に大ぶりのポケットが付いているので何かと便利です。
ちなみにこの葉っぱ、鑑定したらとんでもないことが判りました。
【ポロロの葉…その匂いがドラゴンと同一な為、ドラゴン以外の獣を避けさせる効果がある。稀に例外あり】
いやぁ、もうビックリですよ。
ですが大いに納得。
長じれば人語を解し、さらに人の姿を取ることもあるこの世界の最強生物。
その匂いをプンプンさせた人間がフラフラ近づいてきたら。
そりゃどんな大型魔獣だってダッシュで逃げますよね。
しかしアーステアのドラゴンの体臭はペパーミントの香りなのか。
私的には好きな匂いなので、嬉々として身に付けてますけどね。
「おおっ、シイタケもどき発見。それとバナゴの実も」
木の根元にワサワサ生えているキノコと、その上の果実を収穫してはアイテムボックスにGOシュート。
今日も【鑑定】さんは大活躍です。
ですが野菜は地球産と色も形も味もほとんど変わらないのに、果実は何故にこうも見た目と味がちぐはぐなのでしょう?
リンゴの姿で味はバナナ、ミカンに見えて味はパイン、桃なのに葡萄味とか。
謎です。
「はえっ?何、何ぃ?」
屈み込んで鼻歌交じりにキノコを取っていたら、のしっと背中に何かがしなだれかかる感触。
一生の不覚っ、魔獣避けの葉の効果を過信してました。
後悔を噛みしめながらゆっくりと振り返ると。
「…ダチョウ?」
スカイブルーの羽根に包まれた円らな瞳がこちらを見つめています。
ですがその姿形はどう見ても体長3mのダチョウ。
いや、どちらかというとチョ〇ボか。色は青だけど。
「クェッ」
一声鳴くと嬉しそうにその頭を私に擦り付けてきます。
うぉぉ、フワフワ。
それにメッチャ人懐こい。
君の名は?
ってことで早速、鑑定さん出番です。
【フェアリーバード… Lv7 草食 風魔法の使い手、
最高時速80キロを誇る駿足、騎獣として人気、好物・ポロロの葉】
ああ、なるほど。
ポロロの葉の鑑定にあった『稀に例外あり』って君のこと。
で、大好物の匂いをさせた私に近付いてきたわけですか。
「クェッ、クェッ」
フンフンと胸の辺りに顔を寄せて匂いを嗅いでは、物欲しげな眼差しを向けてきます。
そんな目で見てもポロロの葉はあげませんよ。
これは私の生命線。
「クェ~ッ」
黄色い嘴を震わせながら悲し気な声を上げるんじゃない。
罪悪感が湧くじゃないですか。
「…仕方ない。ポロロの木まで案内してあげる」
おいでとばかりに手招けば、嬉し気に後に続きます。
うん、可愛い。
フリフリ振られる尾羽がラブリーです。
で、ハルキスハウスに到着。
「クェ~ッ♡」
歓喜の声と共にポロロの木に駆け寄りますが、寸前で見えない壁のようなもので
弾かれてしまいました。
「…どういうこと?」
不思議に思って鑑定してみたら。
【ストーンドーム…ポロロの木を使った結界に囲まれた家。
所有者の許可なく侵入は不可能。
所有者・山田十和子、入口の封印を解いたことによりハルキスより所有権移譲】
何ということでしょう、知らないうちに私のものになってました。
しかも入口以外は結界で囲われていたとは。
綺麗な五角形に植えられていたから、何か意図があるとは思ってましたがビックリです。
「クェ~ッ」
お預けを食らった状態のチョ〇ボもどきから悲痛な声が上がります。
「あ、ごめん」
すっかり忘れてたわ。
「いいよ、食べて」
「クェッ♡」
おおう、凄い勢いでポロロの木の中に顔を突っ込んで食べてます。
「ほどほどにね。私も移動で使うから」
ポンポンとチョ〇ボもどきの背を叩き…って面倒くさいな。
名前を付けてあげますか。
「うーん、名前は…キョロちゃんで」
クエッ、クエッと鳴いたらそれはキョロちゃんです。
異論は認めない。