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49、朋あり遠方より来る、また楽しからずや


「キョロちゃんー、マーチ君ー」

 ほぼ1カ月ぶりの再会に、上空から大きく手を振ります。


私の声に気付き、2人とも顔を上げて…一目散に逃げ出しました。

へ?何で。

不思議に思っていたら、サンダー君が申し訳なさそうに口を開きます。


『すまんことをしたなぁ。ワイの気配にビビったんやろ』

 

ああ、納得。

Sサイズになっているので忘れてましたがサンダー君はドラゴンでした。

それも強さランキングで2番目の。


最強と呼ばれるドラゴンの中にもランクがあり


1、光竜

2、雷竜

3、闇竜

4、氷竜

5、火竜、水竜、風竜、土竜(同列)


と、なっているそうです。


2番目な理由はアーステアには雷系の魔法がなく、自在に使えるのは雷竜だけで。

しかも雷系の魔法は、地上の魔獣のみならず魔魚などの水棲系、ゴーレムなどの土系、空を飛ぶ魔鳥とすべての相手に有効打を与えられる唯一の攻撃です。

逆に雷竜には、これといった弱点がありません。

チタン並みに硬い鱗に覆われた身体は、勇者さまが持っていたという神剣クラスの攻撃でないと傷すらつきませんし、魔法耐性もバッチリ。

まさに難攻不落のドラゴンです。


それを聞いた時『サンダー君、凄いねっ』と手放しで誉めたら、照れまくって辺りを転がり回っていました。

うん、可愛いは正義。



取り敢えずサンダー君にはこの場を離れてもらって、ハウスの前で待っていると恐る恐るキョロちゃんとその上にいるマーチ君が近付いてきます。


「お帰りなさい。キョロちゃん、マーチ君」

 そう呼びかけた途端、2人との間に見覚えのある感覚が戻ります。

『ただいまー、あるじー』

『今、帰ぇりやした。姐さん』

 私の胸元にすりすりと顔を寄せるキョロちゃんと、腕にしがみ付くマーチ君。

慣れた感触に、本当に帰ってきてくれたんだと嬉しくなります。


「お嫁さんは見つかった?」

『へい、しっかり仕込んできやしたぜ』

『たまご、うまれたのー』

「それは何よりね」

 どうやら少しは絶滅の危機回避に貢献できたようです。


「キョロもマーチも無事に戻ったか」

 ウェルも嬉し気に近付いてきて、2人の頭をグリグリと撫でてます。

そこへサンダー君再登場。


『うひぃ~』

『わぁぁん』

 逃げ出そうとするマーチ君とキョロちゃんを慌てて引っ掴みます。

「大丈夫だよ、サンダー君はおとなしいから」

『さんだー…くん? あるじー うわきー?』

『姐さんが俺らの留守にこんな野郎と(ねんご)ろにぃぃ』

 誤解を受ける言い方はやめていただきたい。


「違うよ、サンダー君とは契約とかしてないから」

 ドラゴンとではレベルが違い過ぎて使い魔契約は出来ないことを説明してあげると、2人してホッとした顔をします。


「だからサンダー君は…カッコ良く言えば『食客(しょっかく)』、簡単に言うと『居候(いそうろう)』だね。無理強いする気はないけど、何かあった時に力を貸してもらえたら嬉しいかな」

『まかしときぃ、もろうた菓子分はきっちり働くで』

 ポンと胸を叩くサンダー君に、よろしくと笑いかけてからキョロちゃんとマーチ君に向き直ります。


「再会を祝って2人の好きな和菓子をいっぱい作るね。その間はポロロの葉を食べて待っていて」

『やったーっ』

『ありがてぇ、美味いの頼んますぜ』

 言うなり2人共、木に駆け寄って久しぶりのポロロの葉を堪能し始めます。


「良かったな、トア」

「うん、ありがとう」

 無心にポロロの葉を食べる2人の姿にまったりする私とウェルでした。




『いやー、この餡子ってヤツは最高やな』

『おう、分かってるじゃねえか』

『あるじのおかし、すきー』


ハウスの1階に折り畳み式のローテーブル、またの名を卓袱台(ちゃぶだい)を用意し(マーチ君やサンダー君はともかく、キョロちゃんは体格的に地下部屋の入口を通れないので)久しぶりにみんなでお茶会です。

 

どら焼き、大福、桜餅と和スィーツを作って出したら、キョロちゃんとマーチ君だけでなくサンダー君も餡子の虜になったようで、やたらと絶賛してくれてます。

ウェルも気に入ってくれたらしく、無言で彼らの3倍の量を食してますよ。


食べながらお互いに離れていた間のことを教え合います。

まずキョロちゃんとマーチ君ですが、お嫁さんを得るための熾烈な雄同士の戦いについて話してくれました。

此処を勝ち抜かないことには始まりませんから。

ですが勝ち残っても当の雌から拒絶されたら、また1からやり直し。

種を残すために最強の雄を得ないといけない訳ですから、これは仕方ありません。

頑張れ、男の子。


で、上手くお嫁さんになってもらえたら雄が巣を作り、雌を迎え入れます。

それから1週間ほどの甘い新婚生活を送り、無事に受胎したら雄の役目は終了。

もう用は無いと巣から追い出されるそうです。

それを2回ほど繰り返す頃には繁殖期が終わります。

後は雌の独擅場、子育てに追われる日々の始まりです。


中でもおもしろい育ち方をするのがゴアラルで、夏に子供が生まれたらお母さんのお腹の袋に入り、時魔法で瞬く間に成獣になります。

それから半年かけてお母さんから自然界で生き抜くためのノウハウを習い、次の春には独り立ちです。


フェアリーバードも似たような経緯で育ち、初夏に卵から雛が孵るとお母さんからいろいろと教わり、やはり次の春に巣立ちとなります。

お疲れ様です。



キョロちゃんとマーチ君の話が終わると、次は私たちの番です。

王都に行くまでに起こった盗賊とアンデッドの襲撃。

品評会での出来事に王様との謁見と盛り沢山です。


『くっそー、そんなにおもしれぇことが有ったんですかい。雌のケツなんぞ追っかけてねぇで俺っちも王都に付いていきゃあ良かったですぜ』

『ゆきたかったー』

 悔しがる2人ですが、それはダメでしょう。


特に私とウェルがファッションショーの前座でライブを行った話をしたらキョロちゃんとマーチ君が、観たかったと猛烈に悔しがり。

サンダー君までが尻馬に乗って、自分も観たいでと騒ぎ出しまして。

渋るウェルを宥めすかして2人でライブの再演となりました。

観客の3人とも奇声を上げたり、ノリノリで身体を揺らしたりと大盛況でした。


それからサンダー君と知り合った事件の顛末を語り、亡くなった御令嬢の身の上話にキョロちゃん涙目、マーチ君は号泣してました。



「はい、お茶のお代わりだよ」

 日本茶に近い感じに手作りしたなんちゃって緑茶を差し出すと、みんな喜んでカップを受け取ります。


「しかしサンダーがおとなしいドラゴンで良かった。あの場で戦いとなったら王都は壊滅しておったであろう」

 お茶を口にしながら、しみじみとウェルが呟きます。


『戦ったりせぇへんよ。他族と争うんやないと里長から言われとるしな』

「え?でも先の戦争の時は」

 私の言葉に、それなーとサンダー君が渋い顔をします。

そして知らされた驚愕の事実。


あの日、何者かが今回の御令嬢のように竜乞歌を歌い、それに誘われたまだ年若い火竜が戦場に迷い込んだ。

突然現れたドラゴンに驚いた両軍は一斉にドラゴンを攻撃。

顔面に特大のファイアランスを受けて激怒した火竜は、自分を攻撃した者すべてをそのブレスで焼き払った。


もっとも、当の火竜はその後で里長に大目玉を喰らい、50年間の謹慎処分を受けたそうです。

先に手を出したのは人族であり、ブレスは正当防衛と認められましたが周囲を焼き払ったことが環境破壊とみなされ、謹慎となりました。


『せやからトアはんには感謝や、あのまんまやったらワイも火竜の二の舞やったからな』 

 ペコリと頭を下げるサンダー君の前でウェルと2人して考え込みます。


「つまりあの惨劇は誰かが仕組んだということか?」

 硬い声で言葉を綴るウェルに、ため息混じりに私も頷きます。

「もしかしたらロウズ家の御令嬢を(そそのか)した相手と同じ人物か、関係者の可能性が高いね」

 ウェルの話だと竜乞歌が禁忌となって二百年が経つそうです。

そんな歌を知っている者が、そう多くいるとは思えません。


何より魔力増量薬は、使う薬草も製法も魔力回復薬とほぼ同じでフラン草という希少な薬草を足せば作ることが出来ます。

ですがフラン草は、この近辺ではボブス山という標高の高い山の頂にしか生育していません。

そこは大型魔鳥の巣が多くある場所でもあり、レッドゾーンの危険地帯です。

よって製薬が難しく、そうそう出回る薬ではありません。


この2つの条件をクリア出来る相手となると、相当大掛かりな犯罪組織が絡んでいるとしか思えません。


「薬師ギルドで薬草の流れを追うことは出来るけど…闇取引とかされたら無理だし」

 うーんと悩む私の肩に、トンとウェルの手が乗せられました。


「それはトアの仕事ではない。犯人捜しは衛士に任せろ」

 確かにウェルの言う通りです。

生兵法は大怪我のもと言いますからね、この情報をアランさん経由で王太子さまに伝え、対処してもらいましょう。


「でも犯人の目的は何だったんだろうね?」

「分からぬ、両軍共にドラゴンによって大きな被害を受けておる。どちらかに加担するつもりならば、戦場ではなく今回のように敵側の王都に呼び寄せるはずだ」

「そうなると2つの国が疲弊して喜ぶ相手ってことになるけど」

 ですがそれだと近隣諸国すべてが対象になり、絞り込むことは難しいです。


「此処で2人で考えても仕方あるまい」

「そうだね、結論を出すには手掛かりが少なすぎるもの」

 フウっと息を吐く私に、だがとウェルが真剣な眼差しで言葉を継ぎます。

「用心だけはした方が良い」

「うん、今回が失敗に終わった原因を突き止めようとするだろうし」

「トアに奴らの魔の手が及ばぬ保証はないからな。まあ、何があってもトアのことは私が守るが」

「ありがとう」

 頼もしい言葉に笑みを返すと、ウェルも頷きます。



さて、判らないことでいつまでも悩んでる暇はありません。

季節は春ですから。

薬草を始めとした自然の恵みがわさわさ生える時期です。

冬の間に少なくなってしまったストックを補充しないといけませんからね。


なので明日から採集生活です。

ポプリ用の花も摘みたいし、ハーブに山菜、出来たらタケノコも探したいです。

春のお菓子も作りたいな。

ベリー系がたくさん成るのでジャムを作ってケーキやパイ、マカロンなんかに

使いたいですね。

私だけでなくウェルにも春物の服を作ってあげたいし。

それに春と言えばお花見です。

桜に似た花があることは判ってますので、商会でいろいろとイベントをやりたいです。


夢が広がりますねー。





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― 新着の感想 ―
[一言] 某3つのG所属「長兄なのにランクが低い・・・。確かに後に生まれた者の方が高性能なのは無理も無いが・・・。」
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