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46、ドラゴン襲来


ドラゴンの名に辺りはパニックになりかけましたが、すぐに王様が立ち上がり騎士団長と思われるオジさんを見つめます。


「すぐに迎え討つ準備をせよ」

 王様の下知に騎士団が大きく声を上げて応じ、持ち場を目指して走り出します。


「騎士以外は城の中へ」

 団長さんの呼びかけに、侍従さんやメイドさんが出席者を誘導してゆきます。

ですが王太子さまだけが動こうとしません。

「お逃げにならないのですか?」

「皆が逃げたのを確認したらな」

 おおう、さすがは一国の王太子。

責任感ハンパないですね。


「お前は逃げぬのか?」

「私は平民ですから貴族の方を差し置いて先に逃げるわけにはゆきません。

それに私には心強い友人がおりますし」

 そう言って後ろを見やればウェルが背後を守って立っています。

「魔剣の姫か、確かにこの国で一番頼りになるな」

 感心したように王太子が頷きます。


「聞いたか?私のことは良い。お前たちは他の者を逃がすことを優先しろ」

「し、しかし」

 御付きの人達が反論しようとしますが、構わぬと王太子がそれを封じます。

「此処には魔剣の姫がいる」

 王太子の言に御付きの人は臣下の礼を取ると、急ぎ足でまだ王城に辿り着いていない出席者のフォローに回ります。


ちなみにマロウさんですが、ドラゴン襲来の報に悲鳴を上げてしがみ付いてきた姫様たちのおかげで身動きが取れず。

抵抗虚しくそのまま姫様たちごと城内に引き摺り込まれたとウェルが教えてくれました。

お疲れ様です。


次々と王太子の下に入ってくる報だとドラゴンは確実に王都、それも王城を目指して飛んできているらしいです。


この世界の最強生物たるドラゴンですが、その生態はよく判っていません。

何を食べ、どんな習性があるのか。

そもそも目撃例が少なく、人里離れた高地か未開の原野に生息していると考えられています。

そんなドラゴンがわざわざ人の多い王都にやって来ること自体が前代未聞です。

ですがもしドラゴンが王都で暴れたりしたら、その被害は甚大です。

先の戦争が示す通り、下手をしたら国が滅びます。


その時、茂みの影から一人の女性が姿を現しました。

歳の頃は18くらい、美人さんですが着ている服は質素な平民服なので招待客ではないでしょう。

面差しは酷くやつれていて、でもその瞳は決死の意志を秘めて輝いています。

「プリメリラっ!?どうして此処に?」

 どうやら王太子の顔見知りのようですが。


「マリウスさまが教えて下さった抜け道からですわ。

わたくし、どうしても遣らなければならないことが出来ましたの」

 口調からすると貴族のお姫様のようですが、それにしては随分と貧しい生活を送っているようです。

栄養状態も良くないですし、手もガサガサに荒れています。

没落貴族…もしかしてカロリーナお嬢様の親友だったというロウズ家の御令嬢ですか?。


「やらなければならないこと?」

 首を傾げる王太子に、はいと御令嬢が笑みと共に頷きます。

「無実の罪で処刑されたお父様、失意のうちに病で亡くなったお母様、冒険者となって盗賊に殺されたお兄様の仇を討つのです」

「そのようなことに…」

 御令嬢の家族の最期に愕然となる王太子。

ですが聞き捨てならない言葉が出てきましたよ。


「無実の罪で処刑とはどういうことですか?」

 見知らぬ私の問いに軽く眉を寄せましたが、誰かに聞いてもらいたかったのでしょう。

ゆっくりと事件の顛末を語り出しました。


確かにカロリーナお嬢様の祖父である前サザン侯爵とロウズ男爵の間で揉め事は起こりました。

賄賂を必要悪と唱える侯爵と、必要なしと主張するロウズ男爵の意見が真っ向からぶつかったのです。

どうやらロウズ男爵は清廉潔白を好む人柄だったようですね。


ですが侯爵を切り付けたのは隣にいたパウエル伯爵。

しかし後ろから切り付けられた為、侯爵は犯人が誰か判らなかった。

その上かなりの重傷だったので怪我から回復し、それを証言した時には既に処刑は終わっていた。


何故、そんなことになったのか?

それはロウズ男爵が当時の賄賂撲滅の旗頭だったからです。


前サザン侯爵の政敵であるセロン侯爵家の腰巾着であり、賄賂撲滅を面白く思っていなかったパウエル伯爵は、ロウズ男爵に協力者を装って近付き、ずっと機会を窺っていました。

そして2人が揉めている時に計画を実行し、その場にいた貴族仲間と口裏を合わせロウズ男爵に罪を擦り付けたのです。


しかもその時の王城には聖アリウス神国特使がやって来ていて、貴族間の醜聞はアリウス神国に付け入れられる危険性があったので速やかな解決が必要。


おかしなことを言えば家族を殺すと脅され、まともな反論も出来ずに事件の翌日にはロウズ男爵は処刑されてしまいました。


同時にサザン侯爵家の悪名の噂を流すことでロウズ家臣下たちを煽り、屋敷を襲撃させ、その醜聞により王宮での侯爵家の発言力を削ぐことに成功。

すべてはパウエル伯爵の思惑通りに事は進んだのです。


カロリーナお嬢様を悩ませていた噂の発信元も、どうやらパウエル伯爵で間違いなさそうです。


「ターナー爺やも執事のフェルナスも、庭師のジャン、馬屋番のドーズ、料理番のダック、下働きのエルク、ティヤン、コメル。みんな襲撃の時に亡くなり。メイドのマーサもお母様と同じ病で…もう誰もいなくなってしまいました」

 寂しさに満ちた呟き、本当に独りぼっちになってしまったんですね。


「ですが何処で事件の真相をお知りになったのです?今からでも遅くありません。そのことを訴え出れば…」

「無駄ですわ」

 私の言葉を御令嬢があっさりと切って捨てます。


「事件のことをわたくしに教えて下さった方が言っていました。

お父様が無実の罪を着せられた時、誰も助けては下さらなかった。

皆、巻き添えを恐れて真実から目を背け、お父様を見殺しにしたのだと。

それは直接手を下した者と同じくらい罪深いと。そんな方たちが、わたくしの言葉を取り上げたりいたします?何を言っても無駄ですわ。ねぇ、マリウスさま?」

「それは…」

 御令嬢の言葉に王太子の顔が苦し気に歪みます。

王太子が彼女の父親の処刑を止められなかったのは事実ですから。


「わたくしの味方はもう誰もいないのです。ですからわたくしも皆の下に行きます。でもその前にロウズ家に不幸をもたらした者達に復讐いたします」

 毅然と言い切ると、御令嬢は懐から小瓶を取り出し飲み干します。

途端に膨れ上がる彼女の魔力。

あまりの勢いに全身からオーラが見えるようです。


「魔力増量薬?」

 飲めば一時的に魔力が増加しますが、その反動はヘビーです。

下手をすれば二度と魔法が使えなくなるだけでなく、最悪命を落としかねません。


人が持つ力を薪に例えるなら、少しずつ燃やしてゆくには何の問題もありません。

ですがそれにガソリンをかけて一気に燃やしてしまったら。

一生をかけて使う力を一度に使い切ってしまえば、燃え尽きて何も残りません。

後は自滅を待つばかりです。


「何をする気だっ、プリメリラっ!?」

 王太子の呼びかけに、御令嬢が薄っすらと笑います。

壮絶なまでのその笑みと共に胸の前で腕を組み、静かに歌い出しました。


「これは…」

 その歌に愕然となるウェル。

「知っているの?」

「歌を聴くのは初めてだが歌詞は知っている。竜乞歌(りゅうこうか)…ドラゴンを呼び寄せる禁忌の歌だ」

 

 つまり御令嬢はドラゴンを呼び寄せて、王城ごと仇の貴族たちを滅ぼそうとしている訳ですか。

仇だけでなく、多くの無関係の者も巻き込んで。


歌に(いざな)われ、ついにドラゴンが王城上空に姿を現しました。

コウモリに似た黒い翼、捩じれた2本のいぶし銀の角、漆黒の鱗に覆われた身体は尾を合わせると30mはあるでしょう。

眼の下と背中に鮮やかな黄色で特徴的なギザギザ模様が入っています。


「おおう、ファンタジー」

 初めて間近に見るドラゴンに、怖さより見れたことにテンションアップな私の横でウェルが暗い声で言葉を綴ります。

「なんと、雷竜かっ。剣も魔法も通じぬ難敵だぞ」

 どうやら最強のドラゴンの中でも、さらに強い種類のようです。


その姿に、歌い終わった御令嬢が嬉し気に微笑みます。

ですが次には大量の吐血と共に地に倒れ伏してしまいました。

「プリメリラっ!」

 慌てて王太子がその身を掻き抱きますが、既に虫の息です。


「クオォォッ!」

 不意に歌が途絶え、戸惑ったようにドラゴンが雄叫びを上げます。

そのドラゴンに向け騎士たちが攻撃を加えようと矢をつがえ、剣を構え、後方では宮廷魔術師たちが魔法を放つべく杖を振り上げます。

次の瞬間、銀の角が光ったと思ったら轟音と共に辺りに稲妻が落ち、その場の誰もが感電し昏倒します。


意識があるのは、咄嗟に周囲に結界魔法を張ってくれたウェルと隣に居た私。

それと近くにいて結界の恩恵を受けた王太子のみ。

うーん、これは絶体絶命ってヤツですね。


「…先に謝っておくね。失敗したらごめん」

「何をする気なのだ?」

「暴れん坊を寝かしつけてくるよ」

 剣も魔法も通じない相手に対抗するにはどうするか?

眠らせるのが一番被害が少ない方法でしょう。


「行きますか」

 結界から出ると、ふうと息をついてから心を込めて歌い始めます。

曲は子守歌の名曲・ゆ〇かごの歌。


1921年(大正10年)に作られたこの曲は子守唄として広く親しまれています。

私も子供たちが小さかった頃、よく枕元で歌ってあげたものです。


この歌には歌い継がれてきた年月の分だけ、子を思う親達の想いが込められているのです。 


歌い続けるに従って、ドラゴンの頭がゆらゆらと揺れ始めました。

そしてついにはゆっくりとその身が地に寝そべります。

と、思ったら。

「ええっっ!?」

 なんということでしょう、あれほど大きかったドラゴンが見る間に縮んで猫サイズになってしまいました。


「どういうこと?」

 思わずチビドラゴンを抱き上げた私の問いに、判らんとウェルも首を振ってます。

「これではまるで飛びトカゲだな」

 

ちなみに『飛びトカゲ』とは名前の通り羽の生えたトカゲで、そのスタンスが地球でいうカラスに似た生き物です。

町のあちこちにいますし、たまに悪戯をしたり、残飯をあさったりしてます。


どうして最強のドラゴンが飛びトカゲになってしまったのか?

誰か answer please。





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