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43、告白大会


「…トア」

「ん?何」

 衛士に引き連れられてゆくトールギスを眺めていたら、それまで黙ってことの成り行きを見守ってくれていたウェルが(おもむろ)に口を開きます。


「すまぬ、それと感謝する」

「どういうこと?」

「感謝するのはハルキスの仇を討ってくれたことだ。

今回のことでトールギスが発表した成果はハルキスのものだと証明されよう。

あ奴の名誉を回復してくれたことへの礼だ」

「あれは勝手に向こうが自滅しただけ。私はきっかけを作ったに過ぎないよ」

「だがっ」

「それより『すまぬ』の方は?」

 私の問いに、少しばかり逡巡してからウェルが言葉を綴ります。


「あの日、私はハルキスとの約束を果たす為に死の森を訪れた。

すべてを焼き払い、無とする為に。ハルキスは自分の死後、その研究が悪用される

事を何より恐れておったゆえ」

「うん、分かる。師匠の研究は使いようによっては国を滅ぼしかねないもの」

「だからトアの側にいた。ハルキスが残したものを悪用せぬよう見張るためにだ。

私は…トアに友と呼んでもらう資格は」

「関係ないよ」

「と、トア」

 バッサリ切って捨てた私に、ウェルが驚きの目を向けます。


「目的が何であれ、ウェルは私の側にいて何度も守ってくれた。

私の頼みを聞いて力を貸してくれた。

今日作った毒消しだってウェルがいなかったら作れなかった。

ウェルは私の大切な一番の友達だよ」

「…トア」

 ギュッと抱き着いてきたウェルの背中を、宥めるようにトントンと優しいリズム

で叩いてあげます。


「そんな思いを抱えて今まで辛かったよね、苦しかったよね。ずっと気付いてあげられなくてごめんね」

 私の言葉にフルフルと首を振り、さらにしがみ付いてきたウェルの姿に笑みが浮かびます。


「どうしてトアはそんなに優しいのだ。

仲間のエルフからも冷徹と呼ばれ敬遠される私を受け入れ、居心地良い場所を作って与えてくれた。楽しいこと、嬉しいこと、いろいろなことを教えてくれた。そんなトアに私は何を返せば良い」


 今日はいろいろなウェルが見られましたね。

初めて心をさらけ出してくれて嬉しいです。


ですがウェルが仲間から敬遠されていたのは知りませんでした。

確かに見掛けは怜悧ですし、取っ付きにくい印象があるかもしれません。

魔剣の姫と呼ばれる桁違いの強さも、周囲が近寄り難く思う要因でしょう。

でも何を言われようと、どんな評価を下されようとウェルはウェルです。

素敵な私の友人であることに変わりはありません。


「何も返さなくていいよ」

「しかしっ」

「その代わり側にいてほしい。凄腕のSクラス冒険者で漢前なのに食いしん坊でスイーツに目が無くて、そしてとても優しいウェルが私は大好きだよ」

 私の言葉にポカンとしてから、ウェルはその唇に綺麗な笑みを浮かべました。


「私もトアが大好きだ」

「同じくらい私が作る料理も、でしょ」

「もちろんだ。トアが作ってくれた物なら何でも残さず食べ切る自信がある」

「じゃあ、打ち上げの時にお店の厨房を借りて何か作るね」

「楽しみだ」

 そのまま笑い合って、2人して王都の町へと繰り出しました。


ちなみに師匠が亡くなって2年も経ってからハウスを訪ねたのは、その死がはっきりしていなかったからだそうです。

ドラゴンのブレスで焼かれた大地には骨すら残らず、完全に生死不明状態。

生きていれば戻ってくるはずと、しばらく間を空けてからやってきたそうです。

そこに私が住み着いていて驚いたし、何より師匠の研究が悪用されないか心配で護衛役を引き受けたと。

まあ、私が悪用しなくとも研究レポートの存在が知られたら厄介な事になるのは明白ですから正しい判断だと思います。




「ゔー、太陽が眩しい」

 打ち上げという狂乱の一夜が明け、目覚めと共にやって来た頭痛。

完全に二日酔いです。

自重したつもりなんですけどね。


打ち上げ参加者は、商会関係者10名、チョコ製作で雇った人達15名、屋台関係者9名、冒険者10名の総勢44名。


焼肉料理のお店を貸し切って宴会スタートです。


王都の市場で練り物ぽいものを見つけたので、それをおでんにして出したら大好評でお酒がどんどん進みまして、すぐにどんちゃん騒ぎとなり。

私もその勢いに引き摺られて最後の方は記憶が飛んでます。

何か仕出かしてないといいんですけど。


その昔、ロンドンのパブで飲み過ぎて気付けばトラファルガー広場のライオン像(某百貨店の入口にいる子のオリジナルですね)に乗っていて、スコットランドヤードのおまわりさんに捕まりかけた前科がありますからね。


後で聞いたらマロウさん以外の男全員が素っ裸になってお笑いの人よろしくお盆で前を隠しながら踊ってたそうで。

(マロウさんは早々に撃沈しました。意外とお酒に弱かった)

酔っぱらったウェルも参加しようとしてミーケさん達に止められ『年頃の女の子が見るものじゃない』とチョコ製作スタッフの女の子たちや私やリンナちゃん、シャオちゃんは強制的に後ろを向かされていたとか。

記憶にないはずだわ。


ちなみに…生きていたら此処にいたであろうロブル君の分の料金は、供養代として彼の家族に渡されることになりました。

魔石の持ち出しは責められるべきものですが、死者に罪は無いということで参加者の全員一致で決まりました。

後日、ゼフさんとジルさんが自らの懐から出した分と合わせてロブル君の親方の元へ届けにゆくそうです。



「いっ、たたぁ」

 もう当分お酒はいいです。

割れるような頭痛に悩まされながら、自作の回復薬を一気飲みします。

たちまち消えてゆく痛みに、薬の出来の良さを思わず自画自賛。

今日は午後からカロリーナお嬢様のお屋敷に招待されてますからね。

シャキッとしておかないと。


「うー」

 隣のベッドで小さく唸るウェルを起こさぬよう、そっと寝室を出ます。


昨日、打ち上げの前にウェルに私のことをすべて話しました。

異世界で暮らしていたこと、神様に呼ばれてアーステアに来たこと。


せっかくウェルが心にしまっておいた秘密を聞かせてくれたんですから、私も話さないとフェアじゃないですからね。


「なんと、トアはアキトと同じ世界から来たのか!?」

「魂だけだけどね。よく似た世界という可能性もあるけど、たぶん勇者さまと同じだと思うよ。…ってか信じてくれるんだ」

「私がトアの言葉を疑う訳がなかろう」

「あー、それはありがとう」

 いや、そこまで盲目的に信じられると有難いですけど、却って申し訳ないです。


「だがアキトはトアほど異世界の品を教えはせんかったぞ。やはり馬鹿だからか?」

 断言するのは止めてあげましょうよ。


「馬鹿ではなくて、たぶん知らなかったんだと思うよ。

食べ専の人はメインの食材は判っても調味料や手順とかは知らないから、料理知識が無かったら人に教えることは出来ないし。同じように道具とかも完成品は知っていても、製作工程が判らなければ作れないでしょう」

「ふむ、確かに。私も剣の扱いは知っているが、作れと言われても困るのと同じか」

 ウェルの説に同意の頷きを返す私に更なる問いが掛けられます。


「ではトアの歌も異世界のものか?」

「そうだよ。私のいた世界…地球には一瞬で遠くの人と話せたり情報や歌とかを伝えられたり出来る道具があって」

「言伝の双晶のようにか?」

「そういったものがアーステアにもあるんだ」

「うむ、ダンジョンから出るアーティファクトだ。それゆえ数が少なくてな、ほとんどは国かギルドが所有しておる。王宮と国境の砦との連絡やギルドの場合は情報の共有の為に使われておる」

 特許の情報が回るのが早いとは思ってましたが、そんな便利な道具があったからなんですね。


ちなみにアーステアでの情報伝達方法の主流は手紙です。

馬車で運ぶのですが、時間がかかる上に魔獣や盗賊に襲われることも多く、ちゃんと届くかは運任せで料金もそこそこ高額です。


緊急用にバードランというツバメに似た鳥が伝書鳩のように目的地に飛んでくれますが、此方も鳥の魔獣に襲われるリスクがあり確実とは言えません。


「地球…私がいた日本って国では双晶と同じような物を一人が一つ持っているよ。他にもテレビ、ラジオ、ネットっていう情報を発信するだけの道具もあって、それを使えば一度に億単位の人が同じ歌を聞くことが出来るの」

「何と、途方もないな」

 億単位という数にウェルが驚愕します。


「だがそう聞くとヘルズワームを撃退出来たのも納得だ」

「あの腐ったレバーのこと?」

「そうだ、気になったので少し調べてみたのだが、エルフの伝承にはこうある。

『如何なる光、如何なる火をも寄せつけぬ魔の物。助かる術は逃げるのみ』と。

奴の周囲には百を超えるアンデッドがいる故、逃げることも難しい。

出会ったならば、まず命はない」

 うわー、本当に危機的状況だったんですね。

ですが地球産の歌の力、半端ねー。

たった一曲で全部を成仏させましたからね。

でもだからこそ。


「この前みたいなことが無い限り、絶対に歌に魔力は乗せないよ」

「その方が良かろうな。私もトアが使わずに済むよう守ろう」

「よろしくお願いします」

「なんの、私たちは…」

「友達だものね」

「そうだ」


「私の秘密、ウェルに話せて良かった」

「ああ、私もだ」

 2人して笑い合って、その手を繋ぎます。

これで本当の友になれた、そんな気がしたからです。

 




総合評価 400ptを超えました。どうもありがとうございます。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。(⋈◍>◡<◍)。✧♡

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