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41、薬師ギルドに行こう


騒乱から一夜が明け、只今スタッフ一同と冒険者さん達で後片付けの真っ最中です。


おかげさまであの騒ぎの中でも死人は出ず、ケガ人も逃げる際に転んで

擦り剝いた程度のもので済みました。


魔獣玉を持ち込んだ犯人は今のところ不明。

そもそも魔獣玉は国軍が所有し厳重に管理しているもので、こんな簡単に町中で

使用出来るはずが無いのです。

こうなると品評会の妨害というよりは、国家転覆を図ったテロ行為の疑いが強く。


よって今回のことを重く見た王宮が、近衛の一分団を派遣して捜査に当たることに

なりましたので、何かしらの結果は出されるでしょう。


そして肝心の品評会の順位結果は…。

今回は襲撃があったので審査不能だそうです。

確かに最後はそれどころじゃなかった、とは言え結果を出そうと思えば出せたの

ですが。

ウチが上位に入ってほしくない所からいろいろと横槍が入ったようです。


まあ、美少年ジジイの顔を立てるのと商会の名を売るのが目的でしたので

別に順位結果が出なくてもモーマンタイ。

持ってきた商品もほとんどが売れて、買い損ねたお客様から予約までいただき

ましたからね。

試算以上の利益も出たことですし御の字です。


そんなこんなで片付けも午前中に終了。

解体が超簡単なパネル工法バンザイ。

で、夜のお疲れ様会まで自由行動となりました。



「何処へ行くのだ?」

「薬師ギルドに行こうと思って。そろそろ本業の方に力を入れないとね」

「そういえばトアは薬師だったな。忘れておった」

 最近は商会に掛かりっきりでしたからね。

でも暇を見つけてはちょいちょい製薬をしていたんですよ。

特に製薬困難と言われる魔力回復薬を中心に。


え?

国王陛下との謁見はどうしたって?

言わないで下さい、忘れていたいんですから。

3日後の午後に決まりましたよ。

もうここまで来たら開き直るしかないです。

神様から太鼓判を押された図太さをフル稼働して切り抜けます。



「大きいなー」

 広々としたロビーを眺めて、思わず出た感想がそれ。

さすがは王都、トスカの3倍の規模です。


かつて師匠も此処で働いていたんだと思うと感慨深いです。


まずは今日来た目的を果たしましょう。

買い取り受付に行って、ギルドカードを提出します。


「いらっしゃいませ。トワリアさまですね」

 物腰の柔らかな美人のお姉さんがニッコリ笑顔で応対してくれます。

「はい、此方をお願いします」

 バック経由でアイテムボックスから回復丸、毒消し、目薬、傷薬を各30本ずつ

そして最後に魔力回復薬を出します。


「これは…」

 丸薬と魔力回復薬に驚きに目を見開いてから、ギルドカードを再確認し

少々お待ち下さいと奥へと走ってゆきます。


ああ、また何か面倒事の予感がヒシヒシと。

丸薬はもうあちこちで作られていてポピュラーな薬ですし、魔力回復薬も

製薬量は少ないですが、驚くようなものでは無い…はず。


「どうぞ此方へ。ギルドマスターが御挨拶したいそうです」

 王都のギルマスが一介の薬師にわざわざ挨拶?

もう嫌な予感しかしません。


「ようこそ。私がここのギルドを束ねているサーシャルです」

 出迎えてくれたのは柔和な笑顔がチャーミングな人族の60代くらいの男性でした。

「初めまして、薬師のトワリアです。こちらは…」

「知っていますよ、魔剣の姫でしょう」

 軽く手を振るとまじまじと私とウェルを見つめます。


「Sランクを護衛にするとは、さすがは飛ぶ鳥を落とす勢いのマリキス商会の

ボスですね」

 バレバレでしたか、ですが間違いはキチンと訂正させてもらいます。


「ボスではなく特別取締役です。それもお金を出しただけの小娘に過ぎません」

「良く言いますね。フランツ商会を始めとする老舗の狸たちを手玉に取ったり

あのローズに書類仕事をさせたりと大活躍じゃないですか」

「…恐縮です」

 しかしあのローズって…本当にどんだけデスクワークが嫌いだったんですか?


「ですが何故、私が来たことをお知りに?」

 その疑問にマスターがあっさりと答えてくれます。

「サンザから手紙が来ましたからね。上級の魔力回復薬を持ち込む娘がいたら

それがトアさんだと。その顔だと知らないようですが、上級が作れるのは

この国では今のところあなたを含めて5人しかいません」


「…なるほど、他の4人は男性か年配の方という訳ですね」

 あの美少年ジジイ、そんなこと一言も言わなかったじゃないですか。

どうせ面白そうだからと黙っていたに決まってます。

次はワサビせんべいを差し入れてやろう。


「しかもその内の一人があなたなのでしょう?」

 王都のギルマスならば、それくらいの実力者のはずです。


「これはこれは、噂にたがわぬ大したお嬢さんですね」

 柔和な笑みは変えず、それでも視線は油断なく此方を見据えています。


「で、私は何をすれば良いんですか?」

 面倒事はさっさと済ますに限ります。


「話が早くて助かります。上級が作れるあなたの腕を見込んでお願いしたい。

実は王家からの依頼で、ある毒消しを作っていただきたい」

「毒消し…ですか?」

 しかも王家からの依頼…暗殺がらみですか。嫌だーっ。


「5日前に王妃様が主催した茶会の席で、下級侍女が飲んだお茶に毒物が混入して

いまして、すぐに吐き出しましたが今も重体です。

その侍女のことを王妃様はたいそう気の毒がり、どうにかして助けたいとのことで」

 慈悲深いことですが、それだけじゃないですよね。


「またその毒が使われても効果は無いと周囲に知らしめる為にも…ですね」

「ええ、実に聡明でいらしゃいますね。先が楽しみですよ」

 そんな風に褒められても嬉しくも何ともないですよ。


「ですが何故、私に?上級が作れるというのなら他にもいらっしゃるのでは」

「それが3人は今、王都におりません。それに私は毒消し作りは不得手で」

 んな訳ないでしょうがっ。

いい機会だから私の薬師としての実力を測ろうって魂胆が見え見えです。

どうせ既に他の薬師に解毒剤の製薬依頼は出しているのでしょう。

そちらが本命で、私は大穴程度の認識で。

巧く作れたらめっけもの程度の気持ちなのかもしれません。


断ったところで、今回以上の面倒事を押し付けられるに違いありません。

それに被害にあった侍女さんの容態も気になりますしね。



「分かりました。そのお茶は?」

 ため息交じりに承諾すれば、マスターが良い笑顔で言葉を返します。

「ギルドで保管していますよ」

「見せていただけます?」

「そっくりお渡しするので、じっくり研究なさって下さい」

「ありがとうございます。侍女さんの詳しい症状が判ればそれもお願いします。

出来る限り早く作りますので」


それからすぐに渡されたお茶のサンプルと症状を書いた紙が届けられ

私とウェルは即、行動開始です。


ギルドの一室を借りて、まずはお茶を鑑定。

結果は…。


【レンナ草とリルル草、ミザン草の混合毒が入ったお茶】


うわー、えげつなー。

どれもじわじわと生体機能を破壊する毒ばかりです。

内臓や神経をやられ、摂取から10日で死に至ります。


発熱に全身の痺れ、肌に赤い発疹…症状からも間違いないようです。


「ウェルにお願いがあるの」

「何だ?」

「他の薬草は手持ちにあるけど、シシリー草だけが無いの」

「分かった、それを取ってくれば良いのだな」

「ごめんね、無理を言って」

「なんの、それくらい苦にもならぬ。待っていろ、すぐに採ってくる」

 マスターから王都近辺の生息地を教えてもらい、場所を確認するとウェルは

高々と飛び上がり、山の向こうへ消えてゆきました。

マジ、ヒーローです。



「帰ったぞ」

「お帰りなさい。怪我とかしていない?」

 ものの1時間ほどでウェルが帰ってきました。

しかもついでにAクラスの魔獣を数頭、狩って。


「大丈夫だ。これで良いか?」

 その手にあったのは間違いなくシシリー草。

「ありがとう、すぐに薬にするね」

 ウェルから受け取り、製薬開始です。


この毒については師匠が残したレポートに詳細がありましたので

解毒剤作りの手順は取得済みです。


まずは揃えた薬草から薬液を絞り出します。

本来なら時間をかけて行う作業なのですが、此処は【脱水】で時間短縮。

で【撹拌】を使って魔水とむらなく混ぜ合わせ。

再び【脱水】でエキスを抽出したら出来上がり。

念のため鑑定したところバッチリOK。


「出来ました」

急いでマスターの下に持って行き、あまりの速さに驚かれましたが

説明は後と王宮へと急がせます。

あの薬で毒は消えても、毒によって受けた身体のダメージは消えません。

弱った身体を元に戻すには回復薬だけでは補えず、時間もかかるのです。

一刻も早い対処が望まれます。



「買い取りの精算をお願いできます?」

 マスターを見送った後、受付のお姉さんにそう告げると慌てて支払い窓口へ

向かってくれました。

うん、私もさっきまで忘れてたから貴女が気にする必要は無いですよ。 


ちなみに全部で950,000エルになりました。

やっぱり魔力回復薬は何処でも高額買取してもらえますね。

金貨が95枚もあると重いので、黒金貨9枚と金貨5枚にしました。


良し、これを今日の打ち上げ資金の足しにしよう。

頑張ったみんなと美味しいお酒と美味しい料理でパァッと。


「今回の毒消しの報酬ですが」

 そんなことを考えていたら、お姉さんが申し訳なさそうに話しかけてきました。

「正確な金額が判りませんので、後日でよろしいでしょうか?」

「構いません。5日後まではセントラル亭に宿泊していますので、御用の際は

そちらに連絡を下さい」

 マスターがいつ戻るか判りませんし、用も済んだので今日はこれで失礼しますよ。



「会が始まるまで王都見物でもしようか?

品評会の準備に追われて、まだ何も見てないものね」

「そうだな。王都の屋台も試してみたい」

 嬉々としているウェルに、食べ過ぎないようにねと一応忠告しつつギルドを

出ようとしたら。


「もう毒消しは作られただってっ!?そんなはずはない、あれは僕にしか

作れないんだ!話にならないっ。ギルドマスターを呼んでくれっ」

 何やら受付カウンターでトラブルが起きてます。


「むっ、あいつはっ!」

 途端に気色ばむウェル。

剣の柄に手をやり、今にも斬り掛かりそうになってます。

付き合い出してまだ半年ですが、こんなに怒っているウェルを見るのは初めてです。

しかも薬師相手に。


となると彼は…。


「久しぶりだな。トールギス」

「う、ウェルティアナ」

「ハルキスを裏切ったお前と此処で会えるとは思わなんだ」


 やっぱりですかー。 





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― 新着の感想 ―
[一言] 〉いい機会だから私の薬師としての実力を測ろうって魂胆が見え見えです。 俺「あ〜。そういう。まぁでも精々「既に治療は終えてるけど、表向きは臥せってることになってるだけ。薬さえ作ってこれれば問題…
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