39、品評会 2日目
はい、おかげさまで初日を無事に終え、用意していた商品はほぼ完売となりました。
どれも好評で喜んでもらえましたが、特に反響が大きかったのが食品関係です。
ハンバーガーとお好み焼きにアイスは閉会前早々にsold-out。
これが本場の味かと皆さん感激されてました。
チョコレートの方も初日分に用意したものが昼過ぎにはなくなりました。
慌てて2日目分を出しましたが、このままだと最終日分が足りなくなりそうです。
早急にカオオ豆の輸入ルートを確立したいです。
ちなみにチョコレートの作り方は特許申請しました。
認可されればいろいろなところで作られるようになるでしょう。
チョコが広がるに従ってサザンの名が悪名から美味しい物の名に変わればカロリーナお嬢様の憂いも晴れることでしょう。
さて、これから会計を一手に引き受けてくれていたマロウさんと今後について相談です。
「今日の客は平民がほとんどだったが、明日は貴族たちが主な相手になる」
つまり明日は貴族デーという訳です。
予定通りに客層に合わせて商品展開を変えないといけませんね。
「アイスやお菓子はそのままで良いとして、ハンバーガーやお好み焼きは少し手を加えましょうか」
と言うことで、ハンバーガーは四つ割りにしてそれぞれを楊枝で止めます。
これなら一口で食べられるので貴族さんもハシタナイとか言わないでしょう。
本当は齧り付いた方が美味しいんですけどね。
お好み焼きもそのまま出すのではなく一口サイズに切って出します。
歯に付く青のりは掛けるかどうか聞くようにしましょう。
ファッション関係は大きな変更をしなくとも大丈夫そうです。
ただポプリは多めに出すようにします。
常に香りを纏っている人たちですから、ポプリに興味を示すはずですとお嬢様からアドバイスをいただきましたし。
アクセサリー関係は初級魔法をエンチャントした魔石を使ったものや小粒の宝石や色石を嵌め込んだ値段が高めのものを前面に押し出します。
化粧品も中身は変わりませんが、容器を意匠を凝らした高級感のあるものに変えておきます。
同じ料理でも器を変えるだけで上品に見えるのと一緒ですね。
服も動き易いシンプルなデザインは奥に、フリルやレースが多めのドレッシーなものを前にと入れ替えます。
ファッションショーの前座も出し物を変えます。
お嬢様が言ってましたが、貴族は軽快な曲より落ち着いた曲を好むのだそうです。
ならばと選んだのが娘の御贔屓アイドルのバラード曲集です。
半強制的に観せられたライブDVDにはダンスシーンもしっかりあったので、記憶を頼りにウェル達と簡単に動きを合わせて段取りを確認。
舞台衣装もフィッシュテールスカートを採用。
前より後ろの丈が長くなったシルエットのスカートです。
つまり前から見たらミニスカート、後から見たらロングスカートというヤツです。
上品で、それでいてガッツリ脚が出るので健康的な色気で勝負です。
まずは人を集めなければ話になりませんからね。
そして迎えた2日目。
スタッフが持ち場について早々、トラブル発生です。
「火の魔石が無くなっている?」
ハンバーガーとお好み焼き屋台の魔道具コンロの燃料たる魔石がそっくり無くなっているというのです。
「昨日、片付けが終わった時には異常はありませんでしたよね」
私の問いに、ああとゼフさんが頷きます。
「その後は魔剣の姫さんが結界魔法を張ってくれたからな。夜のうちに忍び込むのは無理だ」
「それだと結界を解いた今朝のことになりますけど」
売り子の私達とは違い、屋台スタッフは早くから会場に来て仕込みに入ります。
で、仕込みが終わって作り始めようとしたら、この騒ぎです。
「あ、あの親方」
ゼフさんのお弟子さんが青い顔で近づいてきます。
「ロブルの奴の姿が見えないんですが」
「何だとっ!。まさかあいつが…」
犯人らしき相手の名にゼフさんが呆然となります。
ロブル君は王都で雇ったスタッフの一人です。
これだけの規模のイベントにゼフさん&ジルさんと2人のお弟子さんだけでは人手が足りません。
それで王都の屋台仲間から紹介してもらい、臨時スタッフとして6人ほどを雇いました。
やって来たのは本場の味を知ろうという意欲の高い人ばかりで、ゼフさんもジルさんも惜しみなくそのノウハウを教えてました。
中でも熱心だったのがロブル君で、ゆくゆくは自分の屋台を持ちたいと夢を語っていたのに。
「どこぞの商会に金でも掴まされたんだろう」
ため息混じりに言いながらジルさんが残念そうに肩を落とします。
「馬鹿野郎が。人を裏切るような奴が真っ当なメシなんぞ作れる訳がねえ、何でそんな簡単なことが分からん」
吐き捨てるように言うと、ゼフさんが悔し気に手を自らの拳で殴ります。
本当に彼が犯人だとしたら、ゼフさんだけでなくロブル君を紹介した人の信頼も踏み躙っていったことになります。
お金は稼げば手に入りますが、失った信頼を取り戻すのは並大抵のことではないというのに。
「それよりどうします?。もうすぐ開場しますよ」
「すぐに代わりの魔石を買ってきて下さい」
心配顔のお弟子さんにそうお願いします。
「その間はどうするんです?」
「それまでは私が何とかしますから大丈夫です」
皆を安心させるように微笑むと、どこでもコンロたる【強火】を展開します。
数か所同時でも無問題。
なんせいくら使っても使用MPは1ポイントですからね。
「よっしゃあ!お前らっ調理開始だ!」
「おおっ!」
ゼフさんの気合に屋台スタッフ一同が大声で応えます。
開場後1時間ほどで魔石が届き、その後は特に問題なくやっていけてます。
珍しさと味の良さで屋台には途切れることなくお客様がいらして、皆さま笑顔で食されてます。
貴族といえど人の子。美味しいは正義です。
ロブル君を唆した相手は、火が使えない間にお客様を自分達の方へ取り込みたかったのでしょうが、おあいにく様です。
その所為で少し遅れた前座ライブも盛況のうちに終わり、商品の方も順調に売り上げを伸ばしています。
特にポプリの売れ行きが凄いです。
仄かに香るというコンセプトが貴族のお嬢様方に受けたようです。
貴族さん達の好みを教えてくれたカロリーナお嬢様には、本当に足を向けて寝られません。
「盛況のようで良かったですわ」
噂をすれば影、お嬢様がいつものメイドさんの他に3人ほど御付きの人を従えてブースを訪ねて下さいました。
その顔はナチュラルメイクに彩られ、顔色も良くなって魅力的です。
あれから毎日、宿にやって来て貴族向けの商品の相談に乗ってくれたお礼に貧血対策とメイク術を教えました。
特に食事では野菜嫌いを治すよう、メイドさんに美味しく食べられる野菜料理のレシピを山と持たせたので、早速その成果が出たようです。
「サザンチョコレートの売れ行きは好調です。これならすぐにお家の悪いイメージは払拭されますよ」
「…あなたに出会えて良かったですわ。本当に感謝しかありません」
薄っすらと涙を浮かべるお嬢様の前でゆっくりと首を振ります。
「お嬢様が頑張って新魔法を生み出したから私たちは知り合えたんです。今回のことは全部、神様からお嬢様へのご褒美なんですよ」
そう言った途端お嬢様の涙腺が決壊しました。
それだけ辛かったんですね。
誰一人味方のいない中、必死で魔法を研究して、それなのにその努力の成果を認めてもらえなくて逆に貶められて。
さぞ苦しかったことでしょう。
無礼とは思いましたが、そっと肩に手を置いてその背を宥めるように撫でてあげます。
「もうお家の為に頑張らなくても良いですよ。
これからはお嬢様の好きなように魔法を研究していいんです」
「…ありがとうございます。それと文句を言ってごめんなさい」
「侯爵さまの御令嬢が平民に対して簡単に謝ってはダメですよ」
貴族にはいろいろと面倒臭い仕来りがあって、中でも高位の者は自分より身分の低い者に対して謝ってはいけないのだとか。
謝ることが軽んじられることに繋がるからだそうです。
「良いのです。あなたはわたくしの大切なお友達なのですから」
「光栄です」
2人して微笑み合うと、背後で派手な泣き声が。
「お嬢ざまぁぁ」
「良がったでずぅぅ」
何故か4人のメイドさんが抱き合って号泣してます。
仕える主人に似て熱い人たちのようです。
帰るお嬢様を見送っていたら、静かにウェルが近付いて来ました。
「魔石を持ち去ったロブルという者だが…」
その声は暗く沈んでいて嫌な予感が脳裏を過ぎります。
「王都の裏路地で殺されているのが見つかったそうだ。
それも惨たらしく胴の辺りで二つに切り分けられておったらしい。
しかも懐には多くの魔石が残されたままでな。口封じにしてはおかしな成り行きだ」
確かに物盗りに見せ掛けて殺す気ならお金になる魔石は持ってゆくでしょうし、そもそもそんな目立つ殺し方をする必要はないはずです。
「ミーケ達だけでなくゴードン達も呼んだ方が良いかも知れぬ。何やら雲行きが怪しそうだ」
Sランク冒険者の勘とでも言いますか。
ウェルにはこうして危険を事前に察知することが多いのです。
明日の最終日、何事もなく終わってほしいのですが。
お読みいただきありがとうございます。
これからも頑張ります。