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36、悪役令嬢?登場


今回、参加する品評会ですが、各地のギルマスから推薦を得た商会が一堂に会して一押しの商品を展示販売する催しです。

経済の活性化と物流の促進を図ることが目的の一大イベント。


審査員資格を持つ貴族の票と、開催中の3日間にお買い上げいただいたお客様の人数と売上額をポイントにして合計した数で順位を争います。

お客様は王都に集う人すべて。

よって高額商品ばかりでなく、一般のニーズに応えられる品を揃えなくてはなりません。

つまり商会トップのセンスと商品チョイスが大いに問われる訳です。


此処で上位に入れば、商会の知名度は一気にアップし事業が拡大します。

そのキーとなる会場の場所取りですが。


「これが会場の見取り図さ。あんたらの場所は此処だよ」

「…ふざけてるのか?」

 渡された図面を見てマロウさんが低く唸ります。


何事かと背伸びして覗き込むとマリキス商会の場所は赤い丸印で示されていて、そこは入り口から一番遠い場所…会場の最奥に有りました。


図面からすると会場の広さは野球場2つ分程の野外。

しかも入口付近には名の通った老舗がずらりと並んでいます。

この広さでそれだと客足は入口に集中し、それで満足して帰ってしまいがちです。

下手をするとウチはまったく見向きもされない可能性があります。


「仕方ないさ、場所は参加回数の多い順で決まるんだ」

「そんな話は聞いたことが無いが?」

 眉間の皺をさらに深くしてマロウさんが言い返しますが、ローズさんは意にも介しません。


「そうだろうねぇ、今年からそう決まったからね」

 しれっと言い返してから愉快そうに私を見ます。

「私はあくまでオブザーバーだからさ。見守る事しか出来ないけど相談くらいは乗るよ。どうするね?」

 この人も美少年ジジイと同類ですか。

お為ごかしの親切を押し付けて、此方が困る様子を観察して楽しむという。

人をからかうことを生き甲斐にしている性悪です。


遊び相手は他で探して下さい。こっちは忙しいんですから。

エルフと言い、竜人族と言い、長命種は他にやることが無いんですか?

いいでしょう、仕掛けてきたのはそっちですからね。


「それは良かったです」

「え?」

 予想外の返事だったのでしょう、ポカンとした顔をしてます。


「図面だとウチの位置は入口真っ正面です。つまり来場してまず最初に目に入るのがマリキス商会の店舗。そこを目指してお客様に来ていただければ良い話です」

 ニッコリ笑う私に唖然としていたローズさんでしたが、すぐに不敵な笑みへと変えます。


「話に聞いた通り面白い子だね、あんたは」

「当然だ、私の友だからな」

 胸を張って自慢するウェルに、今度は苦笑を刷いてローズさんが口を開こうとした時、人数分のお茶が乗ったワゴンを押して秘書の女性が入ってきました。


「せっかく淹れていただいたのに申し訳ありませんが、私たちはこれでお(おいとま)します」

「は?いや、まだ話が…」

「良かったですねー。ローズさんが心を入れ替えて、これからは仕事に精を出すそうですよ」

「本当ですか!?」

 嬉々として私を見る秘書さんに、もちろんと笑みを返します。


「口で抵抗してもそれは全部照れ隠しですから。気にせずどんどん仕事を持ってきて大丈夫ですよ。手始めに机の横に積んである書類の山の処理ですね。今までサボっていた分を取り返しましょう」

「ありがとうございます。すぐに持ってきます」

「何を勝手にっ。待って、ステラっ」

 跳ねるような足取りで開いたままの扉の奥に消えてゆくステラさん。


「みんなっ、マスターが書類の処理をしてくれるってぇぇ!」

 扉越しに轟く渾身の叫び。

今までどんだけサボってたんですか?

すぐさま壁の向こう側で職員たちの万歳三唱が響き渡ります。


「こうなったらもう引っ込みはつきませんね」

 ホント日頃の行いって大事ですねー。

「ぐぬぬ」

 ローズさんが恨みがましい眼で此方を見ますが、知ったこっちゃありません。


「それと私の信条は『やられたら倍返し』ですので、それをお忘れなく。

ではこれで失礼いたします。ごきげんよう」

 ガックリと机に突っ伏すローズさんを残して、マスター室を後にしました。



「これでしばらくは仕事漬けになるから、私たちに構ってる暇はなくなりますよ」

「…鬼だな」

「失礼な、私はただ膨らみ切った風船をちょっと突いただけです。それで破裂したのは完全にあちらの自業自得ですよ」

「うむ、さすがはトアだ」

 ポソリと呟くマロウさんにそう言い返し、うんうんと頷くウェルを連れて王都の外れにある会場の下見へと向かいます。


「此処ですか…」

 到着して、その広さにしばし呆然。

確かにこの規模だと最奥まで行くのは一苦労です。

ですが良いこともありました。

奥にある分、他の店舗より敷地がかなり広いのです。


「人目を集めるのに必要なものって何か判ります?」

 私の問いにウェルもマロウさんも首を傾げてます。

「視覚と聴覚を刺激するものですよ」

「…巨大看板でも作って音楽でも流すのか?」

 マロウさんの答えに、ええと頷きます。

「ほぼ正解。でも誰も見たことも聞いたことも無い物になると思いますよ」

 どっちも地球産ですからね。


「貴族への挨拶回りはマロウさんに任せていいですか?私は会場設置に専念しますから」

「好きにしろ。貴族の扱いには慣れているからな、此方の心配は無用だ」

「さすが頼りになります。よろしくお願いしますね」

「私は何をすればいい?」

 勢い込んで聞いてくるウェルに、私はニッコリと笑いかけます。


「と、トア」

「何?」

「どうしてかトアの笑顔が恐ろしくてならぬのだが」

 さすがはSランク冒険者、空気を読みますねー。


「ウェルには特別にやってほしいことがあるの。

それにはミーケさん達やリンナちゃんにも協力してもらうけど」

「…戦いでも始めるのか?」

「戦いと言えば戦いかな。ウェルが経験したことのない戦いになると思うけど」

「ほう、それは楽しみだ」

「頑張ろうね」

 そうなると、まずは小規模でいいので楽団をスカウトしないとですね。

後は必要な小道具に、大工さんの手配もしてと。

忙しくなりそうです。



そんなこんなで3日が経ちました。

事前の入念なリサーチのおかげで、マロウさんが持参した品は貴族さん達に(いた)く気に入られ、掴みは上々とのことです。

やはり『貴方が最初です』『誰も持っていません』は此処でも魔法の言葉のようです。


で、私たちの方はというと。

ミーケさん達やリンナちゃんに趣旨を説明し、協力を快諾してもらえました。

ウェルは未だに渋ってますけど。


楽団の方も手配が付き、私が教えた地球の曲を必死に練習中です。

仮店舗は大工さんと画家の卵さん達を集めて、只今私の描いた設計図通りに鋭意製作中です。

大量に必要となった小道具は、近所の奥様たちに協力を仰ぎ、内職として発注しました。

お小遣い稼ぎになると皆さん頑張って下さってます。


誰もが新しいことに挑戦できて楽しいと喜んで参加してくれてます。

時間が無く厳しい作業になっていますので、そう言ってもらえると嬉しいです。


 

午後になり、宿で在庫をチェックしながらシャオちゃん達と商品のディスプレイの相談をしていたら、来客ですとの知らせ。

ちなみにウェルはミーケさん達とオープンセレモニーに備えて特訓中で此処にはいません。


はて、今日は誰とも会う約束はしていなかったはずですが?

不思議に思って広間に行ったら、凄い人が待ってました。


「お初にお目にかかりますわ」

 手にした扇を閉じながら立ち上がったのは、フリルとレースがたっぷりと使われた豪奢なドレスを身に纏った貴族のお姫様。

髪は栗色、それもドリルを連想させる見事な縦ロール。

顔はガッツリ厚化粧、しかもシャドウの入れすぎで眼の周りが真っ黒。

もっとナチュラルメークにした方が可愛いしお肌にも良いのにと、その残念さにため息すら出ます。


「わたくしはカロリーナ・レリナ・サザンですわ」

 その名に覚えがあって慌ててスカートを摘まんで淑女の礼を取ります。


サザン侯爵家、あの忠臣蔵の吉良役だったお家の姫様で魔法功労賞受賞者です。


「このような所にお出で下さいましてありがとうございます。

マリキス商会取締役のトワリアと申します。この度はどんな御用でしょうか?」


「あなたに文句を言いに来ましたの」

「はい?」

 無礼かもしれませんが、思いっきり聞き返しました。

初対面の姫様に文句を言われるようなことをした覚えは無いんですが。





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