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35、王都到着

「やあっと着いた~」

 王都の入口たる東門を見上げ、リンナちゃんが嬉しそうに両手を上げます。

盗賊とアンデッドに襲われましたが、それ以外は(おおむ)ね平穏な旅だったと思います。


そう言えば『死の荒野』の外れで呪術師らしき人の遺体を見つけました。

黒いローブを着た男性でしたが、まるで乾燥野菜のように干からびていて人相、年齢は不明です。


ウェルが言うには魔力枯渇状態のリミットを超えたのだろうとのこと。

呪を媒体に魔力を注ぎ込んで変異を起こすのが呪術師。

ですが今回は予想以上に彼の地に眠る死者の恨みが強すぎて、魔力だけでなく生命力まで吸い取られてしまいこんなことになったのではと。

人を呪わば穴二つってホントですね。



「凄い列だね」

 さすがは王都、順番待ちの列の長さが半端ないです。

このペースだと門を通過するまで2時間くらいはかかりそうです。


「王都に入ったら何をするのだ?」

「まずはサム君たちと合流だね。それから王都の商業ギルドに挨拶をして、ついでに会場の下見とか出来たら嬉しいかな」

「品評会は5日後だ。それまでに関係貴族の挨拶廻りを済ませないとな」

 私たちの話にマロウさんも加わります。


「一件にどれくらい時間を取られます?」

「人による。門前で品だけ受け取ってそれっきりというところもあるが、中には話し込んで1日がかりになる場合もある」

 私とマロウさんで手分けした方が良さそうですが、中身はどうあれ見掛けは14歳の小娘です。

一人で行っても相手にされない可能性が高いです。


「まあ、お前一人でも大丈夫だろう」

「その心は?」

「また訳の判らん返しを…。お前の隣に居るのは誰だ?」

「…ああ、そう言うこと」

「私がどうかしたのか?」

 不思議そうなウェルに訳を説明します。


「ウェルはSランク冒険者だよね。それも3人しかいない内の1人」

「そうだが?」

「それだけで有り難がる人は多いんだよ。貴族みたいに肩書社会の中で生きている人は特にね」

「つまり私が側にいればトアが軽んじられないということか?」

「はい、正解。そういった相手からもウェルは私を守ってくれるってこと」

「そうか、トアの役に立つのならば嬉しい」

 微笑むウェルに、私も笑みを返します。



暇つぶしに編み始めたニットの帽子が完成したころ、ようやく私達の番になりました。


「マリキス商会です」

「届は出ている。一応、荷を検めさせてもらうぞ」

 きりっとした感じの門番さんが部下に命じて5台の馬車の中を捜索します。


「これは何だっ!」

 そのうちの一人が見慣れない壺を手に此方を睨み付けます。


中身はきっと持ち込み禁止品でしょうね。

外国の税関でたまにあるらしいですね。

隠し持っていた怪しい品を旅行者の物だと言い掛かりを付けて金品を脅し取ったりする行為が。

今回の目的は入都拒否あたりでしょうけど。


「我々の物ではありませんね。マリキス商会の品にはすべて商会の印がついております」

「出所をお知りになりたければ、此方のウェルティアナが探査魔法を掛けてくれますので」

 マロウさんと私の言葉に、壺を手にした衛士の顔から滝のような汗が流れ出します。


で、結果。

高額の謝礼につられ今回のことを引き受けたと白状させられた衛士は、同僚達に別所に連れて行かれ、上司らしき人から丁重な謝罪をいただきました。

依頼人についての捜査はこれからですが、たぶん有耶無耶になってしまうでしょうね。

相手もそこまで馬鹿じゃないでしょうし。


しかし呪術の次は犯罪ねつ造ですか。

余程、私たちに品評会に出て欲しくないようです。

だったら意地でも参加して、精々悔しがらせてやろうじゃないですか。


時間はかかりましたが門を通過して、待っていてくれたサム君達と無事再会。

犯罪ねつ造のことを聞いて、サム君とシャオちゃんが凄く怒ってくれました。


「ウチの商会に何してくれとるんじゃいっ」

「一度シメんといかんじゃけぇ」

 

 ええ、言語中枢が壊れるくらいに。

でも頭にヤがつく自由業の人みたいな口調は止めときなさいね。



「トアちゃん、俺らは王都の屋台仲間に顔見せをしてから仕入れのルートを決めて来るんで、此処からは別行動でいいか?」

 ゼフさんの問いに大きく頷きます。


「よろしくお願いします。宿は判りますか?」

「王都には何度か来ているからな。昔馴染みに会ってゼフがハメを外さんよう見張っとくさ」

「お前に言われたくはないぞ、ジルっ」

「判った、判った、ほれ行くぞ」

 人情家で男気のあるゼフさんと俯瞰(ふかん)で物事を冷静に見られるジルさん。

良いコンビです。


「お疲れ様でした、ゴードンさん。帰りもお願いしますね」

「おう、それまで王都で羽根を伸ばさせてもらうさ。俺らは冒険者ギルドの隣の宿に居るからな。何かあったら知らせてくれ」

「はい、ありがとうございます」


「しっかりやるんだよ、シャオ」

「困ったことがあったら宿においで」

「力になるからね」

「うん、ありがとう姉さんたち。頑張るよ」


思い思いに会話を交わした後、冒険者さん達とは此処でしばしのお別れです。

盗賊退治の臨時収入があるので豪遊するぞと、皆さん上機嫌で雑踏の中に消えて行きました。


「何か忘れ物ですか?」

 一人(たたず)むジョエルにそう問えば、意を決したように顔を上げます。

「俺、トアさんを守れる男になる。まだ全然ダメダメだけど、いつか必ず」

 言うなり此方に背を向けて走って行ってしまいました。


「一途なのは評価しますが、もう少し落ち着いて行動して欲しいですね。

それに『いつか』という日は永遠に来ないとよく言われますから、あまり使わない方が良いですよ」

「それは言ってやるな。…お前の周りは報われない奴ばかりだな」

 憐憫を刷いた眼差しでマロウさんが遠くを見つめてます。

何で?。


 

 サム君達に馬車を頼み、私とウェル、マロウさんの3人で王都を歩きます。

さすがは王都、人も物もトスカとは桁違いの量で(きら)びやかです。


「まずは予定通り商業ギルドに行きましょうか」

「そうだな。…マスターのババアには気を付けろ」

「お知り合い?」

 首を傾げながら問えば、マロウさんの眉間に日本海溝並みの深い皺が。

「あのジジイといい勝負の性格ブスだ」

「…なるほど」

 まあ、それくらいでないと王都のギルマスは務まらないでしょうけど。


マロウさんに案内してもらって着いた先は、トスカのギルドの3倍はある大きな建物でした。

ちなみにその隣が薬師ギルドです。

トスカでは両方のマスターをあの美少年じいちゃんが兼任してましたが、王都ではそれぞれにマスターがいるそうです。


広い受付に行き、来訪目的を告げるとすぐにギルドマスターの部屋に通されました。


「よく来たね。お前さんがトワリアかい?」

 そこに居たのは見事な角と首下と手の甲にある赤い鱗が綺麗な竜人さんでした。

縦長の瞳孔の金の瞳が印象的な美女さんです。


「初めまして、マリキス商会のトワリアです。品評会に参加するため王都に参りました。どうかよろしくお願いいたします」

「そんな堅苦しい挨拶はいらないよ。アタシはローズレイア、ローズでいいさ。そっちはマロウの坊やだね。飼ってる猫は健勝かい?」

「私の前では会ってすぐに放し飼いになりましたけど」

「そりゃいい」

 カラカラと笑うと、今度は私の後に立つウェルに視線を向けます。


「そっちが魔剣の姫かい。噂通りの別嬪(べっぴん)さんだ」

「容姿より剣の腕を誉められた方が嬉しいがな」

「そいつは失礼したね」

 そっけなく言葉を返すウェルを見返すローズさん。

見つめ合う美女2人、絵になりますな。


しかしこのマスター。

センスの良い調度に囲まれ、ついでに書類にも囲まれています。

しかもその上には薄っすらと(ほこり)が積もっていて、昨日や今日に溜めたものでは無いことを示してます。

周囲の苦労が偲ばれますね。


前の上司がそうでした。

有能なのにデスクワークが嫌いで、ついでに面倒臭がり。

書類を溜め込む癖があって、そのフォローに回る部下の苦労は並大抵ではなく、穴の開きかけた胃を宥める毎日でしたね。


そんなことを思いつつ、マスターの話に耳を傾けます。


「あんたらは今回の台風の目だからね。期待してるんだよ」

「過分な期待ですね」

「どの口がそれを言うかね。秋口から次々と発売される見たこともない新しい物、珍しい物を求めてトスカから荷が着くたび、そりゃあ凄い騒ぎになるんだよ」

 評判が良いとは聞いてましたが、そこまでですか。


「二百年生きたアタシですらワクワクが止まらないんだ。仲卸でこれだってのに、今回そのマリキス商会が王都に乗り込んで来て、小売りを始めるって言うんだ。他の商会にしたらたまったもんじゃないだろうね」

 

思った以上にマリキス商会は脅威になっていたようです。

ならば実力行使に及ぶ(やから)が現れても不思議ではないですね。


だからと言って大人しくしているつもりはまったくないですけどね。

手を出したことを後悔させてあげましょう。







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