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34、王都へ 5 骨のある相手

トスカの町を出て早3日。

このまま順調に行けば明日は王都に到着です。

おかげさまで初日以外、襲撃は受けていません。


「兄さんのバカぁぁっ」

 リンナちゃん渾身の叫び。

まあ、叫びたい気持ちは分かります。


この数日、私や他の冒険者さん達からの話を聞いて、自分たちが完璧に情報弱者になっていたことが判明したチーム『勇猛の剣』。


聞けば秋口からダンジョンに潜り続けていて、食料が無くなったら近くの村で補給。

レベルが上がるのが楽しくて、酷い時はその日の内にダンジョンに戻っていたとか。

町にジョエル君が来ていたのは、皮鎧の修理でたまたまだったそうです。


おかげで今までトスカの町の変貌(特に冒険者の恋愛事情)を知らず、気付けば自分たちの周囲の誰もが彼氏&彼女持ちになっていた。


ちなみにゴードンさんは妻子有り、ホッブ、テップ、ジャンプさん達も可愛い彼女がいます。

ジャンプさんから私のおかげだとお礼を言われましたが、それは違います。

きっかけは作りましたが、後は皆さんの努力の結果です。

そう伝えたら、何故かさらに感謝されました。


ミーケさん達にも彼氏さんがいますよ。

同じ冒険者で、近いうちに一緒にチームを組んで6人体制になるのだとか。

お幸せに。


もともと冒険者の男女比は8対2と圧倒的に男性が多いため、女性冒険者は引く手あまたでした。

それが(くつがえ)ってしまい、しかも良い相手のほとんどが売約済み。

この状況を知って、完全に出遅れてしまったリンナちゃんの思いは一つ。


「私が行き遅れになったら全部兄さんとジョエルの所為だからねぇぇっ」


毎回、渋る彼女を宥めすかしてダンジョンに引っ張っていったロズ君の責任は重大で。

その横で黙って見てるだけで反対もしなかったジョエル君も同罪だそうです。


お昼のデザートは彼女が食べてみたいと切望していた『かぼちゃプリン』にしてあげよう。



「そろそろ出発するか、今日中に『死の荒野』を抜けたいからな」

 お昼休憩の終わりを告げ、ゴードンさんが立ち上がります。


『死の荒野』とは先の戦争の激戦区だった場所の一つで、多くの戦死者が出たところです。

数の多さから遺体は回収されることなく今も野に晒されたまま。

その遺体を目当てに肉食の魔獣が集まり、危険地帯になっているそうです。


そんな所はさっさと通過するに限ります。

てなことで移動ペースを上げて赤土色の平原を抜けてゆきます。


「本当に草木一本ないね」

 御者台から見渡す限り続く荒野に、思わずそんな言葉が零れ出ます。

「威力の大きい火魔法を使った弊害だな。地中にあった種や虫すら焼き尽くしてしまって、命の息吹をまったく感じぬ」

 私の呟きに、手綱を操りながらウェルが顔を(しか)めます。


荒涼とした景色が続くと気持ちが憂鬱になり、誰もが意気消沈してます。

「ねぇ、ウェル。みんなを元気にしたいからアレをやってみようかと思うんだけど」

「アレか…制御は?」

「バッチリだよ。たくさん練習したからね」

「そういった努力を惜しまぬところがトアの美点だな」

「ただの負けず嫌いだよ。最初っから出来ないと諦めるのって悔しいじゃない」

 ウェルとそんな会話をしていた時でした。


ザワリと空気が変わり、オドロオドロしい黒霧が周囲に広がってゆきます。

「何だっ?」

 (いぶか)しむウェルの前方でいきなり赤土が大きく盛り上がり、その中から姿を現したのは…。

「アンデッドだとっ」

 正確に言うとスケルトンですね。

骨格標本のような骨だけの身体、黒く空いた双眸には鬼火のような赤い光が灯っています。

ウェルが望んだ骨のある、というか骨しかない相手です。

その手には骨で作られた剣や槍があり、カタカタと音を鳴らしながら此方に向かってきます。



「敵襲っ!」

 ウェルの声にゴードンさんを始めとする冒険者さん達が馬車の外へ飛び出しますが。


「くっ、こいつらっ」

 次々と土の中から現れたスケルトン達に、たちまち取り囲まれてしまいます。

それだけでなく、いつの間にか周囲はゾンビやグールと言った百を超えるアンデッド達で溢れています。


おおう、マジでシリーズ化されたゾンビ映画みたいになってる。

いきなり何でこんなことに?雨傘会社の陰謀か?


「不味いね、アンデッドには武器での攻撃は通じない」

「対抗手段は火魔法と光魔法だけだし」

 ミーケさんとトーラさんが悔し気にアンデッドを睨みます。


「どちらも使えるのは私だけのようだな」

 ウェルが前に進み出ますが、多勢に無勢です。

「他に使える奴は?」

 ゴードンさんの問いに、ホッブさんとリンナちゃんが手を挙げます。

「無いよりマシの初級の火魔法だがな」

「私はなんとか中級。あまり魔力量が多い方じゃないから数は打てないけど」

「それ以外の奴は馬車を守れっ。倒せはせんが牽制くらいにはなる」


「では俺も手伝おう」

 言うなりマロウさんが構えた魔導銃が火を噴きます。

たちまち辺りに展開されるファイアウォール。

上級火魔法に多くのアンデッドが焼かれ、その姿を消してゆきます。


「さすがだな、マロウ。よくぞその銃をそこまで使い(こな)した」

 ウェルの賛辞に、ふんとマロウさんが小馬鹿にしたように鼻を鳴らします。

「この程度のこと、出来ない方がどうかしているっ」

 そんなことを言いながら続けざまに火魔法を撃ち出すマロウさん。

照れ隠しなんでしょうが、もっと素直に自分を褒めてあげていいと思いますよ。


マロウさんの活躍に気を良くしたゴードンさん達が、手にした得物でアンデッド達をぶん殴ってゆきます。

首が取れたり、腕がもげたりはしますが、その動きは止まりません。

ですが馬車に近付く事はなんとか防げてます。


その隙にウェルの光魔法とホッブさんとリンナちゃんの火魔法、マロウさんの魔導銃から放たれる光と火の魔法がアンデッドの数を徐々に減らしてゆきます。

このまま押し切れるかと誰もが思った時…。


もそりと闇の奥で何かが動きます。

「なっ!?」

 歴戦の戦士たる冒険者たちもそれを目にした瞬間、硬直しました。


それはまさに悪夢としか形容しがたいもので…。

腐ったレバーのような色をした5mほどの蚯蚓(ミミズ)に似た怪物。


うわー、絶対にしばらくはレバー食べたくない。


蚯蚓は身体の下にあった口を大きく開けると、近くにいたアンデッド達を次々と飲み込んでゆきます。

声なき悲鳴を上げて喰われて行く姿に誰もの顔に嫌悪が浮かびます。


「あれはいったい…」

「成れの果てだ、人間の」

 嫌悪も露わなロズ君の呟きに、ウェルが信じられない言葉を口にします。


「人間!?そんな馬鹿なっ」

「おばば様から聞いたことがある。恨みや(ねた)み、(そね)みといった負の感情に引き摺られ、自らを闇に染めた人の魂は醜く歪んでしまうと。…あれは自らの心の飢餓を満たす為に他人を喰らう人の魂が変化(へんげ)した怪物(もの)だ」


怪物の進路が此方へと変わり、新たな生きの良い獲物にその濁った眼に歓喜の色が浮かびます。


「こっちへくるぞっ」

 テップさんが弓を構えて矢を怪物に放ちますが、当たりはしても矢ごと体内へと飲み込まれてしまいます。


「潔く往生するがいいっ」

 気合と共にウェルの光魔法が蚯蚓を浄化すべく放たれますが。

「弾き返すだとっ」

 信じられぬ事態にウェルだけでなく周囲も呆然となります。

光魔法が効かないアンデッドなど聞いたことが無いからです。


ホッブさんとリンナちゃんが同時に火魔法を発動させますが、表面を滑るだけで有効打になりません。

身体を覆う粘液のような物に魔法を弾く力があるようです。


そしてマロウさんの魔導銃ですが…。

「すまん、弾切れだ」

 ため息混じりに銃を下ろします。

仕方ないです、さっきから連射しまくってましたものね。


通常攻撃も魔法も効かない相手。

それが遅々としてですが、確実に此方に向かってくる様は恐怖以外の何物でもありません。


「…もうダメだ」

 ジョエル君から思わず諦めの言葉が漏れ出ました。


それを聞いて、心を埋め尽くした…怒り。

「馬鹿なこと言わないでっ」

「トア!?」

「下がれ、やられるぞっ」

 驚くウェルとゴードンさんを尻目に、私は前へと進みます。


「こんなことで諦めちゃダメでしょ。

待っている人や大切な人を泣かせてどうするのっ。

出かけたら絶対に帰って、笑って『ただいま』って言わなきゃ」


 いつものように出かけて、帰ってきた時には冷たくなっていた旦那。

最初は信じられなくて、いくら待っても帰ってこないことが悲しくて。

でも子供たちの前では泣くことなんて出来なくて。

そんな時は一人でカラオケに行って、大声で歌いながら泣いていた。

もうそんな思いは誰にもしてほしくない。

だから覚悟を決めます。


「これが私の全力全か…じゃなくてON STAGE!」

 大きく息を吸い、一気に歌い始めます。

曲は私が知る最強のレクイエム、幾千の風になって。


朗々と辺りに響く歌声。

どうか安らかに、お眠りください。

そんな願いを込めてアンデッド達に歌い聞かせます。


すると次第にその姿がぼんやりとなり、次々と砂化して崩れてゆきます。

崩れた後から浮かび上がるのは…小さな光。

さながら蛍火のように宙を舞い、歌声と共に天へと昇ってゆき。


最後の一つが天に還った時、私の歌も終了。

腐ったレバーも無事に成仏出来たようで、ゆっくりと光に包まれ消えました。


「と、トアちゃん。今のは…」

「歌巫女の…」

「違いますよ」

 ゴードンさんとミーケさんの疑問を真っ向から否定します。


「し、しかし」

「あれはウェルが私の歌に合わせて魔力を放ってくれたんです」

「そ、そうだ。何しろ私とトアの仲だからな。不可能も可能に出来る」

 慌てて口裏を合わせるウェルの言葉を肯定するように、みんなの前で同じ歌を歌ってみせます。

もちろん、魔力は乗せずに。

これならばただの歌です。何の効力も発揮しません。


必死で練習して魔力制御LvをMAXまで上げましたからね。

せっかく貰った力です、使えるようにしないと勿体(もったい)ないからとオバちゃんのケチ根性を振り絞って頑張りました。


もっともこれは今回のような不測の事態解決の為の奥の手です。

滅多なことが無い限り使う気はありません。

普段はただの歌を歌ってゆく所存です。





ブックマークと評価ありがとうございます(⋈◍>◡<◍)。✧♡。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと普通に歌えるようになってる! 頑張った! [一言] スタダしそこねたリンナちゃん……(´;ω;`)ブワッ だが、焦るな。焦ってはならぬ。焦ればそのすきを狙ってろくでもないの(具体例…
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