31、王都へ 2 まずはメンバー紹介
「準備は出来ました?」
町の門前での私の呼びかけに全員が頷きます。
王都行きのメンバーは、商会からは私、ウェル、マロウさん、屋台連合からゼフさん、ジルさんとお二人のお弟子さんが1人ずつ、合計で7名。
馬車5台に分乗して王都を目指します。
先乗りしてくれているサム君やシャオちゃん他5名とは王都で合流予定です。
その馬車の護衛として冒険者ギルドから派遣されたチームが3つ。
Bランクの『赤き翼』4名、Cランクの『雷鳴の牙』3名
そしてDランクの『勇猛の剣』3名。
中二病満載な名前ばかりですが、実力は確かだとマスターからお墨付きをいただいてますので安心…と、思ったら。
「君のことは俺が守る」
何処かで聞いたセリフと共にジョエル君再登場。
「まだ私を誰かとお間違えですか?納得が行かないならもう一度お見せしますが」
言いながら服に手を掛けると、顔を赤くして千切れそうな勢いで大きく首を振ります。
「必要ないよっ。…君はマリアじゃない」
その答えに私が服から手を離すと、ホッとした様子で言葉を継ぎます。
「君には申し訳ないことをした。すまない」
私の前で深々と頭を下げるジョエル君。
そう言えばクズはどうしたんでしょうかね?一応確認してみたら。
「あの人とはあれから会ってない。
あの後、借金取りに見つかって何処かに姿を消してしまって」
財産をすべて没収されてもまだ残ってましたか。
いったいどれくらいの額を賭け事に注ぎ込んだのやら。
ダンジョンへ向かう時の食料補給基地として使っていた村の酒場で知り合い、行方不明になったマリアを必死に探して経済的にも困窮している伯父さんにいたく同情し、会うたびにお金を渡していたようです。
あの時は町に用があったジョエル君にくっ付いてきて、懲りもせずに博打場に行く途中だったとか。
「だからお詫びに君のことを守りたいんだ」
「結構です。私より積み荷を守る方を優先して下さい」
「し、しかし」
「ちょっとあんたっ。言い方ってもんがあるでしょう。せっかくジョエルが心配して声を掛けたのに」
ジョエル君の後から威勢の良い女の子が登場しました。
ピンクゴールドの髪をツインテールにして、杖を持っているので魔法職でしょうか。
「心配して頂けるのは有難いですが、その所為で好き勝手に動かれては却って護衛任務の妨げになるのでは?」
彼のような思い込みの激しい猪突猛進タイプは、周囲が見えなくなることが多いので、その辺りを指摘すると。
「それは…」
途端に彼女が口籠ります。
どうやら思った通りに、その手の前科が多々あるようです。
「いや、すまない。君の言う通りだ。だがジョエルも悪気があってのことじゃないんだ」
3人目が登場です。
「俺は『勇猛の剣』のリーダーでロズ。こっちは妹のリンナだ」
そう言うのは長剣を携えた焦げ茶の髪に青い瞳のワイルドイケメン。
年の頃は20くらいでしょうか、妹さんは16ほどかな。
「あんたとジョエルのトラブルのことは聞いてる。だから此処で名誉挽回のチャンスを与えてもらえないか?」
「別に構いませんが、あなた方を推薦したのは冒険者ギルドのマスターです。その顔を潰すような真似だけは止めて下さい」
「だからどうしてそう可愛くない言い方をするのよっ。素直に『はい』って言えばいいでしょうっ」
「生憎と可愛い性格ではないので。それにこれはビジネスです。
失礼ですが護衛任務はこれが初めてですか?人の財産を守るということは魔獣の討伐とは内容も責任の重さもまるで違います。それに今回はあなた方だけでなく他のチームもいます。私情を持ち込んで勝手に動けば他の人に迷惑が掛かります」
「そ、それは…そうだけど」
私の話にリンナちゃんが悔しそうに唇を噛みます。
言っていることは分かるけど、納得が行かないって顔をしてます。
「そのくらいにしてやってくれや、トアちゃん」
「ゴードンさん」
現れたのは隻眼の斧使い『赤き翼』のリーダーです。
ウェルが護衛についた時、ギルドで万歳三唱してくれた冒険者さんの一人です。
「まだこいつらは駆け出しのひよっこをやっと卒業したばかりでな。
ダンジョンに籠ってばっかでトアちゃんに見破られた通り、護衛任務は初めてで至らないところは多い。だが腕は確かだ」
「でしたら御指導よろしくお願いします。後輩の面倒をみるのは先輩の役目ですものね」
「そう来たか。さすがはマリキス商会の取締役だな、抜け目がない」
彼らが下手こいたら責任はそっち持ちですよと釘を刺せば、やられたとばかりにゴードンさんが頭を掻きます。
「え?マリキス商会の取締役って」
驚く3人…って何でジョエル君まで驚いてるんです?。
「商会の関係者って聞いて、だからてっきり見習いの下働きだとばかり」
中身はともかく外見は14歳の女の子ですしね、そう思われても仕方ありませんが。
「それに今回の依頼人の取締役の名はトワリアって」
呆然とそんなことを呟くジョエル君に改めて名乗ります。
「はい、私がそのトワリアです。トアは愛称で、近しい人はそう呼びます。
それと私個人の護衛は必要ありません。護衛役がいますので」
「マロウが呼んでいるぞ。トア」
噂をすれば影、ウェルが此方に歩み寄ってきました。
「ま、魔剣の姫だ」
目を見開いてウェルを見る3人。
だから何でジョエル君が驚くんですか、ストリップの時に隣に居たでしょう。
もしかして夢中になると周りが見えなくなる弊害が此処でも出ましたか。
「彼女はウェルティアナ。私の護衛をしてもらっています。
ウェル、この人達はチーム『勇猛の剣』。王都まで護衛の任に就いてくれます」
「そうか、良しなに頼む」
軽く頭を下げるウェルに3人共、恐縮しきってます。
まあ、サクルラ国所属のSクラス冒険者はウェルの他に2人しか居ませんからね。
緊張するのも分かります。
「では王都までよろしくお願いします」
軽く会釈をするとウェルと共にマロウさんの下へ向かいます。
「何か問題でも?」
眉間に皺を寄せているマロウさんに問いかければ、派手なため息を吐いてから口を開きます。
「留守を頼んだセーラからの連絡だ。フランツ商会が動き出したらしい」
「思ったより早くに尻尾を出しましたね」
「向こうも一枚岩ではないからな、鼻薬を少し強めに嗅がせたら口を滑らせた。連中、呪術師を雇ったようだ」
ちなみに呪術師とは、呪を媒体に人や動物を操ったり、土地の魔素を歪めて天候を狂わせ災害を起こしたりすることが出来る能力者のことです。
中には日照りに雨を降らせたりと役立つことを行う者もいますが、残念ながら非合法なことに力を貸している方が多いのが現状です。
「それは穏やかじゃないですね」
「ああ、俺たちを事故に見せかけて殺し、商会を潰す気なんだろう」
本当にこの世界は命が簡単に消えてゆく所為か、命を軽く見る人が多いです。
気に入らなければ、目障りならば殺してしまえと短絡的に考え過ぎです。
尤もそんな連中の意に添う気はこれっぽっちもありませんけどね。
「そういえば銃の扱いには慣れました?」
「百発百中とは行かないが、自衛くらいは出来る」
コートの胸元から取り出されたのはアーティファクトの魔導銃です。
元々はウェルがダンジョンで見つけて、ずっと使われることなく死蔵されてましたが、ポーチの整理をしていた時に見つけてマロウさんに貸し出すことにしました。
あくまで貸し出しです、買い取るには天文学的なお金が必要ですからね。
使用する銃弾も、ウェルがサービスで空の魔石に魔法を付与してくれたので火、風、土、光、闇が使えます。
水の方も付与が出来る魔術師さんにお願いしてやってもらったおかげで、マロウさんは稀代の全属性魔法使いになりました。
「自衛くらいとは御謙遜を。ウェルから聞きましたけど実力はAランクの魔術師と比べても遜色がないんでしょう」
「ふん、凄いのはこの銃の力であって俺じゃない。そこを履き違えるほどガキでもない」
そんなことを言ってますが、その銃の力を使いこなせるのはマロウさんの努力の賜物です。
それは誇っていいと思うんですが。
相変わらず他人に厳しく、自分にはさらに厳しい人です。
「あんたがトアさんかい?」
掛けられた声に振り向くとメロンが6つ。
もとい、ボンキュッボンの3人のお姉さまが並んでました。
その素晴らしい肢体を包むのはお揃いのビキニアーマー。
しかも全員が可愛らしい猫耳付き。
「はい、トアです。そちらは『雷鳴の牙』のミーケさん、トーラさん、ブッチさんでよろしかったでしょうか?みなさんのことはシャオちゃんから聞いてます」
この御三方、シャオちゃんの孤児院の先輩なのだそうです。
「ああ、よろしく。シャオが世話になっているんだってね。私達からも礼を言うよ」
「いえ、お礼を言うのは此方のほうです。シャオちゃんはよく働いてくれる本当にいい子ですから」
妹分を誉められて3人共、嬉しそうに尻尾を揺らします。
その姿に猫目の泥棒三人娘のアニメを思い浮かべてしまったのは秘密だ。
さて、顔合わせも終わりましたし王都へ向けて出発しましょうか。
総合評価が250ptを超えました。本当にありがとうございます。
拙い作品ですが楽しんでいただけるよう精進します。