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30、王都へ そしてしばしの別れ


ようやく寒さも和らぎ、春の足音が聞こえ始めた今日この頃、皆様いかがおすごしでしょうか?


おかげさまで元気に過ごしてます。

師匠の隠しノート?今世紀最高の聖歌師?

何のことですか?

そんなもの記憶の彼方に封印しましたよ。


私は歌好きの普通の薬師です。

それ以外の何者でもありません。



年末の感謝キャンペーンは大成功に終わり、誰もがお礼の言葉と思わぬちょっとしたプレゼントに幸せな気持ちで新年を迎えられたようです。

良かったです。


中でも評判の良かったシュークリームは、この時だけでなく常設となりました。

もちろん値段は据え置きのままです。

薄利多売を目指します。


そうそう先月、薬師としてのランクがアップしまして星が2つになって駆け出しの新人から一人前になりました。


ちなみに星3つで中堅、4つでベテラン、5つで匠だそうです。

ベテランになれば弟子を取ることが許され、後進育成に貢献すると恩給が出ます。

これは治癒師と薬師の役割の違いから生まれた制度です。


持って生まれた素養頼りの治癒師はその数が少なく、必然的に料金も高いため利用出来る人は限られています。

それに治癒魔法は患者さんの治癒力を高めて一瞬で怪我を治すことは出来ても、病気に対してはほぼ無力です。

治癒力が上がっても、病原を根絶しないと却って病状が悪化してしまいますから。


その点、薬師は怪我も病気も治せるオールラウンダーです。

少ない魔力でも研鑽次第でレベルも上がるため志望する人は多く、それに合わせて師匠役を確保するために設けられました。


ところでまだ薬師になって一年も経たない私がランクアップしたのは、作る薬の品質が良く依頼期日を破ったことがないということもありますが。

一番の理由は魔力回復薬が作れることです。


魔力回復薬は、主成分であるルルーシュ草が魔素が多い森にしか生息せず。

入手困難な上に採取した端から枯れてゆくという扱いが面倒で、製薬するのが難しい薬です。


私の場合、森の中にルルーシュ草がわさわさ生えているのですぐに手に入り、アイテムボックスで保管できるうえに、師匠のレシピは判り易いため苦労なく作れてしまうのですけど。

そんな希少な薬をコンスタントに納品できることが決め手となったようです。


師匠の遺志を継いでゆくために、これからも薬師修行を頑張ります。




さて来週には王都へGOです。

今は商会を挙げてその準備に追われています。

持ってゆく物は厳選しましたが、それでも馬車5台分になりました。

ちょっと反則ですが、ウェルのポーチに入れたことにして私のアイテムボックスに主要な荷を入れることにしました。

これで盗賊対策もバッチリです。


実演販売の方も、屋台連合の皆さんの全面バックアップをいただき、なんと連合会長のゼフさん(元祖ハンバーガー屋台店主)と副会長の一人であるジルさん(本家お好み焼き屋台店主)が一緒に来て下さるそうです。

心強いです。


おしゃれ小物に新製品のドレスと靴各種、化粧品も最高級の物を揃えましたよ。

それに好評だったポプリを加えました。

低価格でのおしゃれがウチのコンセプトですからね。


後は鉛筆と消しゴム、折り紙にクレヨンなどの文房具用品ですか。

その場での宣伝チラシ作成の為にガリ版もいくつか持ってゆきます。

出先での臨機応変には事前の準備が大切です。


先乗りしたサム君からの手紙だとマリキス商会の知名度は高く、今回の品評会に参加することに期待している人はかなり多いとか。


ですがその分、それを(こころよ)く思っていない方も多数いるようで、道中くれぐれも気を付けてほしいとありました。


妨害工作への対応もいろいろと用意する必要がありますね。

一度は言ってみたいセリフ『こんなこともあろうかと』が使えるよう頑張ります。




『姐さん、ちょっとご相談がありやして』

 そうこうしていたらキョロちゃんを連れたマーチ君が珍しく神妙な顔で話を切り出してきました。


このところ2人とも妙にソワソワしていたので何かあると思ってましたが、ようやく話してくれるようです。


『もうすぐ春が来やす』

『はるが、くるのー』

「うん、そうだね」

『春と言やぁ恋の季節で』

 うつむき加減でもじもじしている様にピンときます。

息子が彼女が出来たと報告に来た時とそっくりです。


「お嫁さんを探しに行くの?」

『実はそうなんで、そいつが野生の本能ってヤツなもんでして』

『およめさん、さがすのー』

 照れた顔で頭を掻くマーチ君と私と同じ言葉を繰り返すキョロちゃん。


「2人もお年頃だものね」

『それで厚かましいお願いで申し訳ねぇんですが、少しの間だけお暇をいただけねぇかと。俺っちはともかく、せめてキョロだけでも行かせてやっておくんなさい』

 ペコリと頭を下げるマーチ君。

種は違っても兄弟のように仲の良い2人ですが、ちゃんとお兄ちゃんしてますね。


「別に2人とも行って構わないけど?」

『へ?いいんですかい?』

『いいのー、あるじー』

「何でそんな不思議そうな顔をするのかの方が不思議だけど。構わないから頑張って可愛いお嫁さんを見つけてきなさいな」


大きくなった子供が独立するのは当たり前のことです。

寂しくないといったら嘘になりますが、一人前になってくれた喜びの方が大きいです。


それにフェアリーバードもゴアラルも希少魔獣ですからね。

この機会に少しでも増えてもらわないと、絶滅とかしたら取り返しがつきません。


『へい、ありがとうございやす。なーに、嫁なんざすぐに見つけてヤルことやったらすぐに帰ってきやすんで』

「子育ての手伝いはしないの?」

『そいつは雌の仕事でさぁ、下手に近づくと邪魔だと噛みつかれやす』

『そだてるのー、おかあさんのやくめー、おとうさん、いらないー』

 それはそれで寂しいと思いますが、人とは違うのですね。


「トアも思い切ったことをするものだな」

 それまで黙って見守ってくれていたウェルが口を開きます。

「帰ってこないことは考えぬのか?普通はそれを恐れて使い魔を手放す主はおらぬ」

「その時はその時だよ。それに戻ってこなくても森での暮らしが2人にとって幸せなら、私もその方が嬉しいし」

『姐ざーん』

『あるじぃー』

「はいはい、泣かない、泣かない」

 涙と鼻水が凄い2人の頭をポンポンと軽く叩いてあやします。


「だが野に放つならば使い魔契約を解除せぬとな」

「そんなこと出来るの?」

「ああ、使い魔を縛っているのは主が与えた名だ。それを消去…つまり他の名、大抵は種族名だが、それを呼べば契約は破棄される」

 意外と簡単に出来るのですね。


「じゃあ善は急げで」

 こういうことは早い方がいいです。

間をあけると別れが辛くなりますから。


『ウェルの姉さんに伝えておくんなさい。姐さんのことを頼んますと』

『あるじー、まもってー』

「了解だよ」

 

 2人の言葉を伝えるとウェルが大きく頷きます。

「安心しろ、トアは私が必ず守る」

 グッと拳を握り締めるウェルに、キョロちゃんとマーチ君が揃って頭を下げます。

その様を見てから大きく息を吸い、2人に向かって言葉を綴ります。


「2人を私の使い魔から解放します。素敵な子と知り合ってお嫁さんになってもらいなさい。行ってらっしゃい。フェアリーバード、ゴアラル」


 言い終わるなり、2人と繋がっていた何かが切れる感じがしました。

キョロちゃんとマーチ君が近付いてきましたが、何を言っているか判りません。

悲しいですが、これも彼らの為です。


「元気でね」

「クエッ」

「グー」

 ハグを交わし、キョロちゃんの首に掴まったまま手を振るマーチ君をウェルと並んで見送ります。


「泣いているのか?」

「ちょっとだけね」

 零れた涙を手の平で拭います。

「それに春は別れの季節だし」

 そう言ってへらりと笑ってみせたら、いきなり肩を抱き寄せられました。


「私はずっとトアの側にいる。何があってもだ」

「うん、ありがとう」

 ぎゅっと肩を掴んでくれる手の温かさが一人ではないと教えてくれます。

相変わらずの漢前です。



そんなことがあった5日後、明日はいよいよ王都へ出発です。

ちなみに家からトスカの町まではウェルが飛翔の魔法で運んでくれました。

それもお姫様抱っこで。

有難いですが、少し太ったか?は禁句でお願いします。

ダイエット頑張ろう。






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