表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/124

3、地下に秘密の部屋?

ペタペタ…ボコ。

ペタペタペタ…ボコ。


室内を歩き回っていたら足音の変化に気付く。

どうやらこの下だけ空洞になっているようです。


入り口と同じ隠し扉かと、ちょっとワクワクしながら調べたらあっさり上に持ち上がって拍子抜け。

ですが現れた下に続く階段に興奮度アップ。

状況は此処と同じでしょうから、渾身の【掃除】【イオン殺菌】を中に向けて発動。


「さて、何がでるかな。何がでるかな」

 サイコロ持ってこいとの叫びを堪えつつ、地下へと向かいます。


「わぁっ♡」

 思わず上がる歓喜の声。

地下にあったのは上と同じ8畳程の部屋。

でも此処には右隅に可愛い暖炉、隣には小さな台所。

向かいには学習机に似た作業台とその横には幅の違う5段の引き出し。

作業台の上棚にはずらりと本が並び、引き出しの上は(はかり)や擂り鉢、空のガラス瓶が並ぶ。


部屋の上部四隅に幅10cm、長さ30cmのガラス小窓。

これが明り取り兼換気口の役目を果たしていて、室内はかなり明るいです。


まずはと手近な引き出しを開けてみたら…。

おお、シャツ発見。早速、お借りして着てみます。

「男物だけど、そう大きくはないなぁ」

 持ち主は小柄な人のようです。

正直助かりました。


人心地ついたところで、探索再開です。

引き出しの中は上から タオル、生活小物、衣類、シーツ類、そしてベッド。

はい、一番下の引き出しを引いたら枕付きのベッドでした。

狭い空間を有効利用する為の知恵ですね。

こういうの好きです。


台所の下の開きの中には鍋、包丁、木製食器等が一式揃ってました。

数からすると一人暮らしだったようです。

横の大きな木蓋付きの瓶は空だけど柄杓(ひしゃく)が添えてあるから水瓶かな。

暖炉の隣にもサイズが小さいけど同じ瓶あり。

何に使うのかと思ったら…マリアの記憶に使用方法がありました。

トイレでした。ビックリです。

まさかのベルサイユ方式。

17世紀のフランスもおマル全盛で、基本垂れ流しでしたから。

それに比べればまだマシですかね。

此方では使用後のブツは外に穴掘って埋めるので。


気を取り直して次は作業台です。

ずらりと並んだ本はすべて製薬関係。

薬草の取り扱い説明書に調合レシピ、手書きの植物図鑑など。

引き出しには調合に必要な各種薬剤がガラス瓶に詰められてました。

鑑定してみたらまだ使用可能。

消費期限は過ぎてないようです。


そしてその隅に隠れるように置かれていたのは…日記。

失礼してざっと目を通させてもらうと。


この家の持ち主の名はハルキス。

職業は王都のギルドに籍を置く薬師。

王都で万能薬(エリクサー)開発のため研究に勤しんでいたが、その研究成果を親友の男に横取りされてしまう。

しかもそれを盗み出したのは恋人だと思っていた女。

2人は最初からグルで、ハルキスの研究を狙って近づいた。

以来、完全に人間不信となった彼は人里離れたこの場所に居を構えた。

つまり引き籠りにジョブチェンジしたわけですね。


大型の魔獣が徘徊するこの森は『死の森』と呼ばれ、まず人は寄り付かない。

それでも彼が無事でいられたのは、家の周囲に立つ木のおかげ。

あの葉の匂いは強力な魔獣避けで、持ち歩くだけで魔獣は近づいてこない。

人が足を踏み入れず多種多様な薬草の宝庫となっている此処は、引き籠って研究を続けるには持ってこいの場所だった。


けれどそんな彼の日常を大きく揺るがす出来事が起こった。

隣国との戦争だ。

彼の下に届いた従軍薬師としての召集状。

断れば国家反逆罪が適用され、自分だけでなく親兄弟にまで累が及ぶ。

疎遠になっているとは言え、彼らを見捨てることはさすがに出来ない。


『私が此処に戻ってこられる可能性は低いだろう。

こうなると判っていたら…もっと別の道を選んだのに。

研究ばかりでなく、既存の薬を作り人々に渡せば良かった。

私が薬師を目指した最初の思い。

それは人の役に立ちたい…そのはずだった。

今の私は薬師ですらない。

いたずらに薬を混ぜ合わせているだけの馬鹿な男だ。


もし生きて帰ることが出来たなら、今度こそちゃんとした薬師を目指そう。

人の役に立つ本物の薬師に』


最後のページに書かれたハルキスのメッセージ。

日付けは3年前のもの。

マリアの記憶では隣国との戦争はその翌年に終結している。


「帰ることは叶わなかったんですね」

 ため息を一つ吐いて日記を丁重に元の場所に戻す。


神様が言っていた通りに、此処では本当に簡単に命が消えてゆく。


「無念だったろうな」

 入口にあんな面倒な仕掛けをしてまで守りたかったもの。

それは…ハルキスという薬師の夢。

彼は此処に帰ってきたかった。

だからこそ調合道具や資料、生活用品一式をすべて置いていった。

ここで薬師を続けたかったから。


ぐるりと周囲を見回して、彼の夢の残滓を眺める。

そして決めた。


「だったらその夢、私が叶えたるわっ」

 私の力なんて微々たるものでしかないけど、知ってしまったからには何もしないではいられない。

ならば人の役に立つ本物の薬師を目指して、これから猛勉強開始です。


素人に毛が生えた程度ですが、多少の薬学知識もありますし

なんとかなるでしょう。

幸いなことに教本も素材も完備ですからね。


「ではまずは…食料調達とゆきますか」

 腹が減っては戦は出来ぬというでしょう。

人間、衣食足りて礼節を知るんです。

生活基盤を固めない事には何も始まりません。

早速、外の葉っぱを持って探索にGOです。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ