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27、私の職場(シャオ視点)


私の名はシャオ。

マリキス商会に勤める15歳の猫族の女の子。


物心ついた時には孤児院で暮らしていた。

生活は苦しかったけど、同じような境遇の子達と兄弟のように仲良く過ごせて幸せだった。

それに厳しいけど優しいお母さん先生も側にいてくれたし。


でも成人である14歳になったら孤児院を出て行かなくちゃならない。

だから必死になって働き口を探したの。


最初は孤児院の先輩の姉さんが働いている食堂の下働き。

でも酔ったお客に絡まれて、思わず相手をこの爪で引っ掻いてしまって。

3ヵ月でクビになった。

姉さんは残れるように店主さんに口を利いてくれようとしたけど、無理に残っても迷惑をかけるだけだし断った。


次に働いたのは酒場。

給金が凄く良いし、仕事も食堂と似たようなものだしと思っていたら…。

甘かった。

そこは店が閉まったら男のお客さんと宿へ行くことが義務付けられてたの。

驚いて宿に行くふりをして逃げ出した。


それからいろんな仕事に就いたけど…。

孤児院の出ってことで遣ってもいないことで責められたり、他の人の失敗を押し付けられたりとか、陰で意地悪されることも多くてどれも長続きしなかった。


どうしていいか判らなくて、泣きたかったけど、お母さん先生に心配を掛けたくなくて無理して笑っていた。


でもある日、日銭稼ぎで手伝いをしていた屋台のオヤジさんが、新しく始まる商会のことを教えてくれた。

そこのオーナーは良い人だから一度行ってみなって。

どうして私にって聞いたら。

私が一生懸命に働くからだって。

見る奴が見れば、私が真面目で働き者なのは判るって…言ってくれた。

認めてもらえて涙が出るくらい嬉しかった。


それで商会がある建物に行って、驚いた。

最初は美男だけど怖い感じの人がオーナーだと思った。

そうしたらその隣にいた私とそう歳の変わらない女の子がそうだって聞いて唖然とした。


きっと親からの仕事を引き継いだんだろうと思ってたら、全部その子が稼いだお金で立ち上げたものだって聞いて…素直に凄いって思った。


履歴書ってのをその場で書かされて、私の生い立ちとかを聞かれて、やっぱり孤児院出はダメなのかってがっかりしていたら。


「じゃあ、明日からお願いね」

 笑顔でそう言われて、最初は訳が判らずポカンとしてしまった。


「おい、そんな簡単に」

「大丈夫、私の勘に狂いはないわ。それにゼフさんからの推薦もあるしね」

 目の前で交わされる会話を、ただぼんやりと聞いていた。



でも最初は商会なんてところで働いたこと無いから、何をしたらいいのかぜんぜん判らなくて…。

まごまごしてたらトアさんがいろいろ教えてくれた。


「うちがやっているのは仲卸っていうの。職人さんが作った大切な作品を買い上げて、小売店に届けて売ってもらうの。作った品に職人さんが誇りを持てるように、その素晴らしさを伝えてそれを手にしたお客様に喜んでもらえるように頑張る仕事だよ」


それを聞いて、何だか楽しくなった。

私でも人の役に立てるんだって思えて…嬉しかった。


「これからの将来、マーケット層は変わってゆきます。

だから今までのやり方を踏襲するのではなく、商会がエンドユーザーの扶けとなる集団になること。自分の利益ではなく、人々の為にどう変われるかが問われることになると思います」


 朝の挨拶、朝礼ってヤツの中でトアさんがそんなことを話してる。

何のことかさっぱり分からなくて困っていたら、それに気付いてくれて。


「簡単に言うと商会に関わる誰もが笑顔でいられるように頑張ろうってこと。

お客様はもちろん、働く私達もね」


それなら私にも分かる。

それに此処では人から言われたことを遣るだけでなくて、常に自分で考えて行動するようにって。

だけど勝手に動いてはダメで、どんなに小さな事もみんなに伝えて、みんなで考えて、みんなでするのがルールだって教えてもらった。


それが『ほうれんそう』だって。


「相手の立場を考える、それがチームワークの根源なの。

これがないとチームはバラバラになってしまうから。

お互いを判る、相手を尊重する、尊敬できることに気付くようにしないとね」

 

トアさんはよくそう言う。

相手が何を考えているのか分からないのが一番怖いことだから心を開いて付き合えば、みんな仲良くなれるんだって。

あとこれも


「みんなもっとメンバーと対話して 今、何が必要かを見極めてほしいな。

でも机の上で議論を繰り返しても良いものは見つからないと思う。

事件は現場にあり。現場で起こってることを感じ取って施策に活かすことが大事だから」


話すこと、それが一つの目標に向かってみんなで力を合わせてゆくのに一番必要なことだって教えられた。

だから一緒に仕事をする人達といっぱい話して、凄く仲良くなった。

働きながら、いつだって誰もが笑顔でいられた。


それを私に教えてくれたトアさんは、私より年下のはずなのに何故かお母さん先生と同じに思えて…何だかおかしかった。



最近、私に弟分が出来た。

コウっていう犬族の男の子。

私の助手ってことで仕事を手伝ってもらってる。

凄くいい子で、今は必死に仕事を覚えようと頑張ってる。


この前、トアさんに言われてコウ君の家に2人で行った。

コウ君の両親に今の状況と責任を持って雇うというトアさんの言葉を伝えた。


衣食住は保障するし、給金の半分はコウ君の借金返済に充てて、残りは家に仕送り出来るようにして、たまには顔を見せに家に帰させるって。


話を聞いてコウ君の両親は声を上げて泣いていた。

何度もコウ君に謝って、何度もコウ君のことを抱きしめてた。


お土産に持っていったお菓子を宝物のように抱きしめているコウ君の弟と妹達も凄く可愛くて。

また来るねって言ったら喜んで、両親と一緒に村の外れまで見送ってくれた。


それを見て、何だか私も幸せな気持ちになった。


「シャオお姉ちゃん、今日はありがとう」

「どういたしまして。でもお礼はいらないよ」

「え?」

「弟の面倒をみるのは姉の役目でしょう?」

「うん」


2人で手を繋いで帰る。

私達を必要としてくれる、私達を待っていてくれる場所へ。


「お帰りー」

 そう言って笑って迎えてくれるトアさんの下へ。






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