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24、作戦会議と忠臣蔵


「全員、揃いましたんで会議を始めますっす」

 今回の司会役のサム君が開会を宣言します。


ええ、元衛士のサム君です。

商会を立ち上げたら、何故か衛士を辞めて押しかけるようにウチに就職してくれました。

チャラい見かけですが多方面にコネがあり、情報収集にかけては商会トップという有能君です。


志望動機は名誉挽回。

『羽根目当てにキョロを追い掛け回して、印象最悪のままじゃダメでっしょ。

信用を回復しないとっすね』だそうです。

けどキョロちゃんはそれくらいで怒ったりしませんよ。

むしろ遊んでもらったと喜んでいたくらいです。


不思議に思ってそうに呟いたら『あいつも報われないな』とマロウさんが憐憫のこもった眼差しを向けてました。

どういうこと?



「まず王都での品評会に出す商品を決めたいんすが、お勧めは?」

 その問いに、何人かが手を挙げます。

洋服や化粧品、靴におしゃれ小物、ファッション関係を押す人が多いですね。

食品関係を勧める人もいますが、トスカから王都までの距離(馬車で4日)を考えると持ってゆけるものは限られてきます。


私のアイテムボックスを使えば問題はないのですが、これは企業秘密なので大っぴらには出来ません。


余談ながらアーステアにはアイテムボックスの能力を持つ人は、多くはありませんが存在します。

ですがその容量は最大で2トントラックほど、しかもそれくらいの能力者は大抵が国軍所属で一般の商会にはいません。


アイテムバッグという魔道具も存在しますが、すべてダンジョン産で自作は不可能なアーティファクトです。

なので手に出来るのは高ランクの冒険者か、それを買い取るだけの財があるお金持ちだけです。


ちなみにウェルも持ってます。

腰に下がっている小さなポーチですが、6畳部屋くらいの収納力があります。

けれど私と違って【時間停止機能付き】ではないので、食料を入れたことをうっかり忘れると…悲惨なことに。

消費期限切れに気づかずに食べて、何度か死にかけたらしいです。

いや、そこはちゃんと管理しましょうよ。

よく言う『おかんのまだイケるは、もうダメ』です。


「王都の状況はどんなものなの?」

 私の問いにサム君がちょっと得意げに教えてくれます。

「ほとんどがウチの後追いすよ。ファッション関係は特許料を払って作り始めたばかりなんで、まだまだ(つたな)い感じっす。

食品に関しては特許を出願しなかった所為でカオス状態っすね。

形だけを真似て味は二の次ってのが多いんで、此処はドンと本物の味ってヤツを王都の連中に教えてやった方がいいんじゃないすかね」


「向こうでどの程度の食材が手に入るかによりますよね。新参者には何処でも風当たりは強いだろうから」

「妨害があると想定しておいた方が良さそうだな」

 顎の下に手を置きながらマロウさんが考え込みます。


で、結果として食品関係は日持ちする菓子類とお好み焼き、アイスとハンバーガーを実演販売することになりました。

泥ソースを持ち込めば王都の食材でもお好み焼きは作れますし、他も何処にでもある物なので入手が簡単そうだからです。

ラーメンやかつ丼も作りたいところですが、そこは様子見ですね。


ファッション関係も最初の話通りに洋服、化粧品、靴におしゃれ小物で決まりました。

会場が確保出来たらショーを開くのも良いかもしれません。



「後、一番の問題は審査貴族さん達への『贈り物』すっかね」

 いわゆる賄賂(わいろ)ってやつです。

無い方が良いに決まってますが、そうはいかないのがOTONAの世界です。

何しろこれが有る無しで相手の態度が天と地ほど変わってきますから。


「相場は?」

「それが筆頭、最近は王太子がいろいろと取り締まりを強化してるんすよ。

直接金を渡すのは不味いっす。向こうも受け取ってくれないどころか最悪、通報されますって」

「なら物か」

「そうすっね。ですが宝石や貴金属は何処も同じように渡すんで」

「ウチならではの物を用意しなければ…か」


「渡す相手の家族構成は判る?」

「そ、そりゃ時間を貰えれば調べられるっすが」

「ならなるべく詳しくお願い。夫婦仲は良好か、側室はいるか、子供の歳や性別、人数構成なんかをね」

「何をする気だ?」

 人を疑いまくった目で見ないでいただきたい。

取引先のリサーチは基本中の基本でしょう。


「孫子という人も言ってます『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』と。

敵についても味方についても情勢をしっかり把握していれば、幾度戦っても敗れることはないということです。

相手が恐妻家なら奥様が喜ぶ物を渡した方が良いし、本妻と側室の仲が悪いなら、それを取り持つような物を。子供が小さければ新開発したクレヨンや折り紙を贈ると良いですよね」


ちなみにクレヨンは(はぜ)の実から搾り取った木蝋を加熱して熔かして顔料(色石を粉にして作ります)と混ぜて冷やし固めたものです。


折り紙はお客様に葉箱を折ってもらうようにしたら、他も折ってみたいという要望をいただきましたので、いろいろな折り方の教本を付けて売ったらバカ売れしました。


あれ?私の話にみんなが若干引いてるようですが。

「…まったくお前は。本当に14歳か?」

 マロウさんが深いため息を吐きながら聞いてきますが、そこはノーコメントで。


「まあいい、贈答品については用意周到にしておいた方が良さそうだな。

間違っても3年前のロウズ家の二の舞は御免だ」

「ロウズ家?」

 首を傾げる私に、知らんのかとマロウさんが呆れた口調で教えてくれました。


聞いた感想は…。

「まんま、忠臣蔵だわ」

「なんのことだ?」

「いえ、こっちの話」

 

元禄15年(1702年)12月14日深夜、本所松坂町にある武家屋敷が襲撃され、その主である吉良義央が旧赤穂藩の義士47人によって殺害された。

世に言う「赤穂事件」。


そもそもの始まりは赤穂藩主・浅野長矩が旗本で幕府の行事儀礼を取り仕切る

高家の吉良義央を短刀で切りつけ、その罪によって即日切腹、お家取り潰しと

なったこと。

喧嘩両成敗が当然だった当時において、何故か吉良は無罪。

これに憤怒した旧赤穂藩士たちが「主君の仇」と襲撃した訳ですが。


事件後、彼らの行為は美談として語られ『忠臣蔵』の名で芝居の題材になると大ヒットを記録、その人気は今なお衰えていません。


しかし何故、浅野は吉良を切り付けたのか?

未だにはっきりとした理由は判らぬままですが、賄賂が絡んでるのではとの説があります。


吉良は行事儀礼を取り仕切る高家…いわゆるマナー講師のような存在で、教えに対して謝礼を渡さないといけない。

表向きは鰹節3本と木綿一反、だけど普通はその他(・・・)が付く。

けれど清廉潔白を好む性格だった浅野は、それを良しとせず、既定の物しか渡さなかった。


一方の吉良側にしたら、馬鹿にしてんのかってなもんでしょう。

例えるならテーブルチャージやサービス料を無視して基本料金しか払わない迷惑極まりないお客のようなものです。

で、江戸城で顔を合わせた時に、吉良からチクリと嫌味を言われる訳です。

常識知らずの田舎者めっと。


ですが人から馬鹿にされたことなどない箱入りボンボンの浅野はそれでガチ切れ。

思わず腰の刀を抜いて吉良に切りかかった訳です。

つまり血気盛んな26の兄ちゃんが61のじいちゃんに向けて刀で切り付けた傷害事件です。

何より場所が悪い、政治の中心の江戸城内でしかも天皇家の特使が来てるという大事な時にです。

これは即日切腹も止む無しです。

いきなり路頭に迷わされた家臣達の怒りも分かりますが、見ようによっては完全な逆恨みです。


この話の浅野をロウズ男爵家、吉良をサザン侯爵家、場所を王宮、天皇家特使を聖アリウス神国特使に変えると『ロウズ家事件』になります。

唯一の違いは、ロウズ家臣下の襲撃が失敗に終わっていること。

なのでロウズ男爵家は完全に消滅しましたが、サザン侯爵家は今なお健在です。


「サザン侯爵爵家の令嬢と言えば、お前が辞退した魔法省の功労者賞を受賞した人物だな」

 ああ、そんなのありましたね。

新魔法を発明したことを表彰するとか言ってきましたが、謹んで辞退させてもらいました。

だって私の魔法は神様から贈られたものであって、私自身が生み出した訳じゃありません。

それで賞を貰うほど厚顔無恥じゃないですよ。


「確かトアさんのすぐ後に新魔法と認められて、それが炎系の強力攻撃魔法で威力が凄いって話題になった人っすよ」

「私の【脱水】とじゃ同じ場所に立つのもおこがましいレベルじゃないですか。

辞退して正解でしたね」


「王都に行ったら、そっち関係でも面倒事が起こらないといいがな」

 不吉なことを言わないでいただきたい。


ちなみに国王陛下との謁見については、出たとこ勝負です。

先のことを今から心配しても仕方ないですからね。

困った時に考えればいいんです。






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― 新着の感想 ―
[一言] 一説では大きくなりすぎた吉良を合法的に退場させつつ、勢力と民衆の支持を失わせる為。わざと討ち入らせ、更には志士に武士の名誉を認めたことでその頃やばかった幕府の株が上がった……というのもありま…
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