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21、ねぇ知ってる?エルフはね


「久方ぶりに来たが、これほどの賑わいとは」

 感心した様子でウェルが町の中を見回します。

10日ぶりにやって来たトスカの町は間もなく新年を迎えるため、いつも以上に活気付いています。


ちなみに歌ですが、キョロちゃんが走っている時は解禁になりました。

風の障壁のおかげで、その中にいる私の歌声は周囲に届かないことが判明したからです。

何より歌わないと言ったら、キョロちゃんがショックで膝から崩れ落ちたまま動かなくなってしまい、その様に私よりウェルが慌てて解禁を言い出しました。

言われた途端、すぐに元気に立ち上がりましたので良かったです。



「トアお姉さん」

「お姉ちゃんっ」

 私の姿を見るなり駆け寄ってきた2つの影。


「ジョルテ君、ミアちゃん。これから学校?」

「うん、読み書きと算術はいつもと同じなんだけど、今日は冒険者の人が剣術を教えてくれるんだ」

「それに今日の給食はゼフさんのハンバーガーセットなんだって」

 楽しそうに近況を教えてくれてから、遅刻するぅと2人して駆けてゆきました。

寒くても子供は元気です。良いことです。


「学校?給食?何なのだ、それは?」

 私の隣で不思議そうなウェルに、そもそもの始まりを話します。


町にやって来るようになって驚いたのが、その就学率の低さ。

希望者には神殿で子供に読み書きや簡単な計算を教えてくれます。

ですがこれは有料。

所得が低い家の子は通えないし、そういった子は労働力としても重視されているので行っている時間もない。


で、NPOが推進している教育の無償化と給食の実施をちょこっと真似させてもらいました。

まず大きな商店から屋台まで声をかけて回り、スポンサーを募りました。

金額は出せる範囲で結構、その代わり出してくれた店の名とマークを神殿の横に設置した看板に載せます。

もちろん出資金の額によって字の大きさを変えてますよ。

そこなら参拝に来た人達の目に留まるので、善行を施した店とのことでイメージアップに繋がります。

それに読み書きや計算が出来る子が増えれば、将来的に優秀な店員の確保になりますしね。


ジョルテ君が言ったように、最近ではボランティアで冒険者の人が剣術や簡単な魔法を教えに来てくれたりもします。

そうすると優しい人ということで女の子の受けが良いのだそう。

だからいい加減な教え方をすると、何あの人と評判がダダ下がりするので皆さん、けっこう真剣に教えて下さってます。


給食の方は屋台のご亭主達が一肌脱いで下さいました。

金は厳しいが物なら出せるということで、当番を決めて月一くらいの間隔で屋台料理を神殿に格安で届けて下さってます。

こっちも子供から美味しかったと聞いた親が、お礼代わりに買いに来てくれたりして双方得な関係になってます。


こうして私の提案に賛同してくれた方々のおかげで、1か月前から午前中だけ神殿で無料の学校がスタートしました。

無料で給食付きとなれば、子供の将来のことを考える親なら通わせるでしょう。

出来ないところは要相談ですかね。

さすがにすべてを救い上げることは神様でもない限り無理ですから。

まだ始まったばかりですが、今のところ上手く行っているようです。


「そうか、トアは凄いな」

「凄いのは私じゃなくて先達の人達、その知恵を拝借しているだけだもの」

軽く肩を竦める私の頭をウェルがグリグリと撫でてきます。

嬉しいですが止めてもらっていいですか。

ただでさえ低い背がさらに縮みそうです。



さて、まずは冒険者ギルドに行って正式にウェルに護衛依頼を出さないとですね。

ギルドメンバーである以上、勝手に仕事を受けるとペナルティ対象になるそうです。

依頼を受理してもらって手数料を払ったら、何故か職員さんやその場にいた冒険者さん全員に万歳三唱されました。

町の外で襲われたこともあるのに、私が一向に護衛を付けようとしないのでみなさんずっと気を揉んでいたとか。

暢気ものでほんと、すみません。



「それでこれからどうするのだ?」

「まず薬師ギルドで薬を買い取ってもらって、それから商会に顔を出すよ。

年末年始に合わせてイベントを計画しているから、その進行状況の確認とお手伝いかな。ウェルのことをみんなに紹介したいし」

「…薬師ギルドか」

「どうかした?」

 少しばかり複雑な顔をするウェルに問いかけると。

「いや、そこには知り合いがいるのだが…私はその方が苦手でな」

「じゃあ外で待ってる?」

「それでは護衛にならぬだろう…私も共に行こう」

 何だか一大決心をしたような様子で、ウェルが先に立って歩き出します。


「こんにちは、カレンさん」

「いらっしゃい、トアちゃん。あら、此方は?」

「今度、私の護衛についてくれることになった」

「ウェルと申す、良しなに頼む」

 軽く頭を下げるウェルに、カレンさんが嬉し気に両手を合わせます。

「それは良かったわぁ。マーチ君は頼りになるけど、ずっと起きているわけじゃないものね」

 お言葉通り、只今マーチ君はキョロちゃんの上で爆睡中です。


「いつものように買い取りと依頼品の確認をお願いします」

「はーい、でも助かるわ。トアちゃんはきちんと発注納期を守ってくれるから」

「え?普通は守りますよね」

 発注依頼品と持ち込み品では急がせて悪かったとの意味も込めて同じ薬でも買い取り額が違います。

ですから多くの薬師が依頼を受けたがるのですが。

発注されたからには、それを必要としている人がいるということ。

遅れればあちこちに支障が出るはずです。 


「それがね、必要な薬草が揃わなかったとかなら判るんだけど。

中には気が乗らなかったって理由で遅れて持ってくる人がいるのよ。

製薬は繊細な作業が続くから大変なのは分かるんだけど」

「あー、でもそこはプロなのですから、ちゃんとしてほしいですね。

納期遅れで取り返しのつかない事態になったら大変ですし」

「ええ、だからギルドマスターが今度から遅れに対して何か罰則を設けようかと思案中らしいわ」

 確かにそれが嫌なら持ち込みだけにすれば良いわけですしね。


「懐かしい気配がすると来てみれば…久しぶりじゃな、ウェルティアナ」

 噂をすれば影、ギルドマスターの登場です。

相変わらずの美少年。

整った顔に長い睫毛(まつげ)が影を落とす様は麗しいばかりです。


ですがその姿を見た途端、ウェルの顔がうんざりしたものに変わります。

「お久しぶりです。おじじ様」

「はい?」

 思わず2人を見比べていたら、マスターから爆弾発言が。

「そろそろ男になって嫁を貰う気になったかの」

 はいぃぃ?どういうこと?



ねぇ知ってる?エルフはね『雌性先熟(しせいせんじゅく)』な種族なんだって。


と、思わず豆でシバな子犬になりましたが…聞いてビックリです。

此方に来てから驚きの連続でしたが、これは最大級です。


ちなみに雌性先熟とは、小さいうちは雌として繁殖を行い、ある程度の大きさに育ったらより効率よく自分の子孫を残せる雄に性転換することです。

地球でも桜鯛とかの魚が同じ習性を持ってますが…エルフもとは。 

 

まあ、エルフの場合は族長が認めた『心・技・体』を得た強さが備わってないと男になる許しが出ないので、女のまま一生を終える者が多いそうですが。

おかげで謎が解けました。

町中で見かけるエルフさんが女の人ばかりだったのは、そんな訳があったんですね。


「ですからおじじ様、私はまだ男になる気も身を固める気もなく」

「リンリーのところのシーラはどうじゃ。母親に似て美人で気立てが良い。

それともスラの妹の…」

「いえ、私はっ」

 さっきからマスターの部屋では延々とこんな会話が続いてます。


困るんですよね、親切心で言っているのは分かるんですが、その気がないのに強要されるのはただの迷惑です。

かく言う私も旦那が亡くなってから知人や親戚から次々と再婚話が持ち込まれて、私は旦那一筋ですと言ってるのに聞く耳を持ってくれず断るのに一苦労しました。

ウェルも困り果てているようなので、そろそろ助け船を出しましょうか。


「それくらいにしてあげてくれませんか?からかうのも程々にしないと嫌われますよ」

 普段は凛然としているウェルがアタフタする様が見ていて楽しいのでしょうが、引き際はちゃんと見極めてほしいものです。

「か、からかうっ?」

「ふむ、さすがはトアちゃんじゃなぁ。お見通しか」

 つまらなそうに口を尖らす様は可愛いですが、三百を軽く超えた人がやる仕草じゃないですよ。

でも一度()ねると長いので、此処は懐柔しておきますか。

見掛けは子供、中身はやっぱり子供なジイちゃんですからね。


「新作のお菓子・スノーボールはいかがですか」

「おお、美味そうじゃの」

 作り方は超簡単、薄力粉と片栗粉をふるい、砂糖を加えて混ぜます。

油を加えて()ねた後、生地を直径2センチ程度に丸めます。

オーブンで15分ほど焼きます。

粉砂糖入りの袋に焼き終えて冷ました生地を入れ、コロコロ回転させながら

全体にまぶしたら出来上がりです。


サクホロで、あっという間に口の中で溶けてゆきます。

濃い目のお茶によく合いますよ。


「ところでトアちゃんや」

 ウェルと争うようにスノーボールを口に入れていたマスターが、ニヤリと笑って此方を見ます。

嫌な予感しかしませんが、黙って続きを待ちます。

「春になったら王都に行ってほしいんじゃが」


爆弾発言の第二波、来たぁぁっ!





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本当にどうもありがとうございます。

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