表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/124

2、マリアという少女

ピッ ピピッ


チュンチュン


ギューィギューィ


「うるさいっ!」

 小鳥の声で起こされるって憧れてたけど、実際には煩いことこの上ないんだね。

初めて知ったわ。

「朝か…って 何じゃこりゃあっ!」

 と、懐かしの殉職シーンと同じセリフを思わず叫んだわ。

森の中で目が覚めて、起き上がったら首から胸周りの布が無くて服がボロボロ。

2つのメロンがこんにちは!

いや、すみません。メロンは盛り過ぎでした。

グレープフルーツくらいが妥当かと。

もしかしてどこぞの男に美味しくいただかれた後かと焦ったけど。

いろいろと思い返してみて違うと判った。

美味しくいただかれたのは確かだけど、男ではなく狼にでした。


この身体の持ち主の名はマリア、13歳。

にしては発育良いな、胸だけだけど。

他はけっこうガリガリ、手足なんて可哀想なくらい細い。

彼女が何故こんな森で寝ていたかというと、それはもう聞くも涙、語るも涙のお話。


10歳までは西にある港町トレドで両親と幸せに暮らしていたマリアだったけど。

その年の夏、町は大海蛇の魔獣に襲われた。

禁じられていた大海蛇の海域に入り込み漁を行った人間に怒っての襲撃だった。

おかげで町は半壊、マリアの家は全壊、両親も亡くなってしまった。


独りぼっちになったマリアを引き取ったのが父親の兄である伯父。

これが絵に描いたようなクズだった。

この森の向こうで農業を営んでいたが、自分は殆ど働かず酒と博打の毎日。

どうやらマリアの両親が残してくれた遺産を使い込んでいたもよう。

しかもまだ子供のマリアを馬車馬のごとくこき使い、しかも仕事が遅いと殴る蹴るの暴行三昧。

食事もカビたパンだの野菜屑だの、それですら与えないこともざら。

さらに数年して女らしい身体になりだしたマリアの胸を揉んだり、尻を掴んだりのセクハラ攻撃。

シンデレラや小公女だってもう少しマシな待遇だぞ。ゴラっ!


そして昨夜、決定的なことが起きた。

博打で大借金をこさえ、その返済にクズはマリアを奴隷商に売ることにした。

それだけでも馬鹿野郎ものだが、外道にもクズは売る前にマリアのお初を頂こうと襲い掛ってきた。

だがここでマリア会心の一撃。

伯父の息子に向け前蹴りでのクリティカルヒット。


余談ながら…普通の時でも痛いけど

ギンギンの状態の時の攻撃はその10倍くらいダメージがデカい…らしい。

私は女だからよく判らないけど。


威力絶大の攻撃に悶絶している伯父を置いて、マリアは一目散に逃走。

残っていても奴隷商に売られるだけだしね。

危険なのは判っていたけど、他に行き場が思いつかなかったマリアは森に逃げ込んだ。


夜の森を当て所もなくさ迷い歩くマリアの背後に迫る荒い息遣い。

振り向いた彼女が最後に見たもの、それは…。

大きく口を開けた狼の魔獣の鋭く尖った白い牙だった。


で、あちこち美味しくいただかれた身体に私が入って…復活っと。

怪我の方は神様補正で治してくれたんだろう。


「天国でゆっくり休んで英気を養ってね。次は幸せな一生を送れますように。

この身体は大切に使わせてもらうからね」


 あの神様の下なら大丈夫だろう。

マリアの冥福と来世の多幸を願って、しばし黙祷(もくとう)


「さて、動きますか」

 グズグズしてたらマリアの二の舞ですしね。

狼の朝食になる気はないのだよ。

「とは言え…お腹すいたな。それに喉乾いた」

 ぽつりと呟いて気付く。

「そういえば生活魔法をもらったんだっけ」

 残念ながらマリアに魔法の素養は無かったらしく、やり方についての記憶はない。


「ここは意地と根性で何とかしますか」

 まずは喉が乾いてるので…水。

水、水、水っと頭の中にコップに入った水を思い浮かべる。

「水、来いっ」

 すると…。

「おお、出たぁぁっ」

 目の前に10cm程の水球が浮かんでます。きっかりコップ一杯分。

慌てて掌で受け止めて飲み干す。

「うん、美味しい」

 某社の天然水にそっくり、クセのない柔らかな味わいでした。


「あと貰ったのは…鑑定」

 小さく呟いて辺りを見回す。

「食料発見っ!」

 近くの木に生るリンゴによく似た実。

鑑定結果は【バナゴの実…食用可、美味、疲労回復効果】


「なら早速…っと、届かない」

 マリア、意外と小柄でした。150cmくらいかな。

「だったら、行け、大風っ!」

 中二病満載の叫びと共に強風が吹き、次々と実を落としてゆく。

いいんですよ、郷に入れば郷に従え こういうのは気にしたら負けです。


余談ながら、何でゲームとかの魔法の技はみんな英語なんですかね。

製作者が『英語=カッコいい』とでも思ってるんですか?

漢字表記が難しいとかの裏話はいらんです。

なので私は技名は日本語で通したいと思います。


落ちて来た実を次々とアイテムボックスに入れてゆく。

鑑定したら【時間停止機能付き】

腐る心配は無いようです。


大きな岩の上に腰を下ろし、見かけはリンゴされど味はバナナという

不可思議な果実を齧りながら、まずは出来る魔法を検証。


で、いろいろと試した結果が以下の通り。

どうやら私が前世で持っていた家電の機能に準じたものらしい。


【冷蔵】【冷凍】【真空チルド】【スリープ保存】…冷蔵庫

【水出し】【洗い】【(すす)ぎ】【脱水】【乾燥】…洗濯機

【点火】【弱火】【中火】【強火】…ガスコンロ

【加熱】【解凍】【オーブン機能】…電子レンジ

【冷房】【暖房】【弱風、涼風、強送風】…エアコン

【掃除】【イオン殺菌】…掃除機


ちゃんと付けていただきありがとうございます、神様。


さて、お腹も一杯になった事ですし、探索再開です。

道なき道を用心しながら進むこと1時間…。


「…家?…いや、倉庫?」

 石造りのドーム状の建物を発見しました。

5本の広葉樹がその周りを囲むように立っています。

建物の高さは2mほど、直径は4mくらいでしょうか。

エスキモーの雪の家みたいです。

でも何処をどう見ても入口らしきものも、窓すら見当たりません。

不思議に思ってぐるぐると周囲を歩き回ると。


「ん?…これって」

 壁の一部が妙に摩耗してます。

引っ張ってみると、ポコッと外れました。

「やっぱり、寄木細工の秘密箱かぁ」

 秘密箱とは、パズルのようなからくり構造が組み込まれていて

特別な操作をしないと開けられない箱です。

箱の特定の部分、面を順序よく押したり引いたりしないと開けられません。

箱根土産としても有名ですよね。


「任せなさいっ。こういうの得意なの」

 試行錯誤の結果、何とか開封に成功。

それでも30分ほど掛かりました。

この手の知識の無い人にはまず無理でしょう。

「ここまでして守りたかったものって、いったい何なのかしらね」

 現れた木製の引き戸(鉄格子の付いたガラス窓あり)をゆっくりと引き開けます。


「ごめんください…って、ホコリ臭っ!」

 いったい何年閉め切ってたんですか。

思いきり咳き込んでしまいましたよ。

「ケホッ【掃除】【イオン殺菌】全開っ!」

 巨大な掃除機が駆け巡るイメージで魔法を発動させれば、一瞬で埃臭さが消え

なんということでしょう、新築同然のお部屋に生まれ変わりました。


ゆっくりと中に入れば8畳ほどの広さの木の床が広がっています。

しかも見事なまでに何も無い。

木箱一つありません。

うむーっ、出来たら服、無ければ布でも構いません。

濃紺のワンピースの胸がフルオープンのままなので、隠すものが欲しかったんですが。

まあ、今日の宿くらいにはなりそうなので良しとしましょう。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 技名は日本語で通したい!キリっ のすぐ後にアイテムボックス呼称はさすがに草
[良い点] 生活魔法っつーか家電魔法ですね。 狼は若い個体だったのでしょうか… 群れで行動していたら体に入る前に肉が消滅していたと思われるので、良かったですね… [気になる点] セクハラって「まだ結…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ