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16、特許認定と使用料

「いやな、トアちゃんの後を良からぬ連中が追っていったって連絡が入ってな」

 頭を掻きながらのボリスさんの説明によると。


私が薬師ギルドで特許申請したうえに高額買取をしてもらったことを聞いた町のゴロツキが、そのお金と私自身を狙って町の外で待ち伏せしていたそうです。

けれどキョロちゃんの足の速さについてゆけず断念。

諦めて町に戻った者がほとんどでしたが、何人かは余程お金に困っていたらしく追跡を続行。

そのまま誰一人として戻ってこない。


「しかもギルドから連絡要請を出してもトアちゃんから何の音沙汰もないってことだし。そいつらに拉致されたとか、もしくは金を奪われて殺されたんだろう。奴らが戻ってこないのは、上手くやって別の町でよろしくやっているからだと噂になってな」

 おおぅ、知らないところで大騒ぎになってたようです。

でも私を追って森に入ったのなら…その人達はお亡くなりになっている可能性が高いです。

なんせ『死の森』ですから。


「すみません、お騒がせして」

 慌てて頭を下げてから、疑問に思ったことを問うてみます。

「ギルドからの連絡要請って何ですか?」

「知らないのか!? カードが光っていただろう」

 言われて身分証を見てみたら、確かに右端が光ってます。

こんな機能があったなんて初耳です。

「知らなかったです。それにカードはずっとカバンに仕舞いっ放しでしたし」

 私の言葉にボリスさんの肩がカクリと落ちました。


「連絡要請なんて最近じゃ戦争の召集くらいで滅多にあるものじゃないからな

ギルドの方もうっかり話し忘れたんだろう。まあ、何にせよ無事で良かった」

 しみじみと呟くボリスさんの姿に、本当に心配をかけたのだと改めて申し訳なくなります。


けどこのカード、意外とハイテクだったんですね。

ですがこれで引き籠もりだった師匠が召集を知った訳が判りました。


「心配をおかけしてすみませんでした。

それで…あの、使い魔登録をお願いしたいんですが」

「ん?こりゃあゴアラルか!? また珍しい奴を連れてきたな」

 呆れと感心が混じった顔でボリスさんがキョロちゃんの上で寝ているマーチ君を見つめます。

「たまたま縁がありまして」

「トアちゃんには驚かされてばかりだな」

 苦笑を浮かべながらボリスさんは素早く手続きを済ませてくれました。


ちなみにマーチ君の認識票は銀色のイヤークリップです。

もちろん防御魔法が付与された物をお願いしました。

キョロちゃんの時より小さい分、少しお安く30,000エルでした。


ボリスさんに見送られ、薬師ギルドに急ぎます。

向かう途中で屋台のご亭主(ゼフさんというそうです)に見つかり、此処でも無事を安堵され、持ってけと新作のハンバーガーを山ほど渡されました。

昼には早い時間なのに長蛇の列が出来ているので、繁盛しているようです。

良かったです。



「トアちゃぁぁん!」

 ギルドに足を踏み入れた途端、悲鳴のような声を上げてカレンさんが飛びついてきました。

そのままギュウっと抱きしめられ、豊満な胸をグイグイと押し付けて来ます。

分かりましたから、ちょっと勘弁して下さい。

このままだと窒息します。


「ごめんなさい。私が不注意だったばっかりに」

 土下座せんばかりに謝ってくれますが、何が何やらサッパリです。

「不思議そうな顔をするな、この馬鹿娘っ」 

 ゴンとグーで私の頭をマロウさんが殴ってきました。

地味に痛いです。


「何で連絡してこなかったっ。危うく申請者死亡で届を出すところだったぞ」

「いや、ですから…」

 そんな機能があったことを知らなかったと伝えるとマロウさんは唖然とした後、ギッとカレンさんを睨み付けます。

「そ、そういえば…教えてなかったというか、忘れたというか」

「つまりこの騒動の根源はお前にあったわけだ」

 しどろもどろのカレンさんにマロウさんがイイ笑顔で詰め寄ります。


「だ、だって久しぶりの本物(・・)の特許申請に浮かれてたんですもの。

マロウだってそうでしょっ」

「自分のドジに人を巻き込むなっ」

「あ、あの。カードをカバンに仕舞いっ放しだった私も悪かっ…」

「こっちもかっ。ドジ&バカコンビっ」

「「ひどぉいぃ」」

「そこまでにせんか」

 思わずカレンさんとハモったら、子供の声が響きました。


 振り向くと14歳くらいの白銀の髪の男の子が此方を見てます。

耳が長いからエルフさんかな?

「ギルドマスターっ」

 え?この子がギルドのトップ?

 

じっと見透かすように此方を見てから、ジジ臭い口調で話を始めます。

「トアちゃんじゃったか。見掛けはこんなじゃがこのトスカのギルドマスターをしとるサンザじゃ。詳しい話はワシの部屋でするとしようかの」

「は、はい」

 奥へと進むマスターの後に続くと、何故かマロウさんとカレンさんもついてきます。

「まずは謝罪せんとな。無用のトラブルに巻き込んで申し訳なかったの」

 ソファーに座るなり深々と頭を下げたマスターの話をまとめると。


特許には(特に製薬関係は)高額な使用料が発生するので、それに(まつ)わるトラブルも多く申請者の安全を図るため、その個人情報は厳重に秘匿することに決められている。

よって特許申請の話は個室で行われ間違ってもカウンターで、しかも寄って(たか)って大騒ぎしてするものではない。

それが何故、今回こんなことになったのか。


「お前みたいにホイホイ特許申請する奴はいないんだよ」

 とはマロウさんのお言葉です。

「しかも大抵が誰かのモノマネかパクリだしね」

 うんざりした様子でカレンさんが言葉を続けます。


明らかに無駄と判っていても申請されたら精査しなければならず、その面倒さとストレスは半端ないのだとか。

うん、その気持ちよく分かります。

繁忙期だというのに、どう考えても無駄と思えるプレゼン資料の作成を押し付けられた時、その上司の背に何度ヤクザキックをかましてやろうと思ったか。


そんな中、次々と申請される特許。

しかも内容は斬新で、すぐに実用化できると判るものばかり。

此処で騒がなくていつ騒ぐ? 今でしょ!。

と、ギルド上げての大フィーバーになり、規約が皆の頭から綺麗に吹っ飛んでしまったと。

なんだかみんなテンション高いなとは思いましたが、そんな裏話があったとは。


「しかもお前、他でもいろいろやらかしていったろ」

「な、何のことやらさっぱり」

「ハンバーガーにアイス。今じゃ町のそこら中に専門の屋台が出てるぞ」

「最初に売り出したゼフのハンバーガー屋とケントのアイス屋は、今では半日は並ばないと買えない人気店になってるわよ」


たった2週間でそれですか。

美味しいものが絡んだ時の人間のポテンシャルを舐めてましたねー。


「靴屋のホルンからお前の名で靴飾りの特許が20,000エルで申請されているしな」

 わ、忘れてたぁぁ、そういえばそんな話がありました。

「し、使用料は5,000エルでお願いします」

「話に聞いた通り、面白い子じゃな」

 マロウさんに向かい必死で頭を下げる私に、マスターが笑顔を向けます。

「馬鹿なだけです」

 サクッと切って捨てたマロウさん。酷くない?。


カードが光ったらすぐに連絡を入れる。

町の外だけでなく中でも油断せず、常に人の目がある所で行動する。

なるべく早く護衛を付けることを約束させられ、何とかマスターの部屋から脱出したものの。


「何処へ行く、話はこれからだ」

 マロウさんとカレンさんに別室に強制連行されました。

「まずは、はいこれ」

 差し出されたかなりの厚さの書類。

「申請されたすべての特許が認可されました。これが認可書よ。

大事にしてね。で、こっちが…」

 ドスンと置かれた大きな麻袋(たぶん中は金貨)それも3つ。

「支払われた使用料だ。取り敢えず今現在の分だけだがな」

 つまりもっと増えるってことですよね。

明細だと渡された紙の数字は…ゼロが多くてよく判りません。

「こ、こんなに…」

「ああ、新魔法の使用料がそのほとんどだ。安くした分、支払い可能な者が多くてこうなった」

 ぼ、墓穴を掘ったぁぁ。





評価ありがとうございます。

好き勝手に書いているお話ですが、楽しんでいただけているようで嬉しいです。

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