夏の夜の小話
お久しぶりです。
たくさんのご感想をいただきありがとうございます。
そして私の拙い文章の誤字やおかしな点を教えていただきまして
本当にありがとうございました。<(_ _)>
取り急ぎ教えていただいた部分を訂正しました。
他にも読みやすくなるようあちこち改稿をしました。
そのお礼といっては何ですが小話を書きましたので楽しんでいただけましたら幸いです。
それでは また。
「それではトアさんの無事な旅を祈ってぇぇ。乾杯~っ」
「おおぉっ!」
サムの音頭に合わせて商会の皆が手にしたジョッキを掲げる。
神国から帰って間もないトアが今度は獣人国の一つであるアナンド国にゆくことが決まったので、商会を挙げて送別会を開くことになったからだ。
「飲んでますか…ってマロウさんはお酒はダメでしたね」
「…悪かったな」
クスリと笑うトアにムッとした顔を向ける。
大人げないと自分でも思うのだが、どうもトアを相手にすると子供のように意地を張ってしまう。
「私がいない間、商会のことをお願いしますね」
「ああ、任せておけ。何かあったら【言伝の双晶】で知らせる」
大きく頷く俺にトアが頼もし気な眼差しを向けてくれた。
「マロウさんのおかげで安心して旅に出れます。感謝してます」
ニコッと笑うその顔に嬉しくなる自分がいる。
本当に不思議な娘だと今更ながら思う。
「さて、宴もたけなわとなりましたので、ここで商会の新製品・幻灯機の登場っすよ」
サムの言葉に会場中からヤンヤの喝采があがる。
幻灯機、トアにいわせるとスライドプロジェクターのことだとか。
会議や打ち合わせの時に資料を提示するのにあったら便利だからと言いだし、魔道具師達に相談を持ちかけていた。
その結果、ライトの魔法を付与した魔石を使った見事な幻灯機が完成した。
確かに売上高や商品の在庫状況のグラフを映し出し、その情報を会議の出席者全員が共有することは、いろいろとメリットが多く助かったが。
それだけで終わらせないのが爆弾娘たるトアだ。
すぐに別の使い方も奨励しだした。
故郷である地球という場所の話…童話や昔話を此方風にアレンジしたものに合った絵を画家に描いてもらい。
次々と映し出されるその絵に合わせて講釈師達が物語を語り、楽師達が似合いの音楽を演奏する。
トアがいうところの大掛かりな紙芝居を、人が集まる場所で催したらたちまち大評判となった。
すぐに王都やトスカから引き合いがきて、来月にはかなりの数が出荷される予定だ。
これにより劇団の前座でしかなかった講釈師に新しい仕事が生まれ。
楽師も仕事が増えて生活が楽になるだろう。
観劇はそれなりの金がかかるので庶民には高値の花だったが、幻灯機を使った紙芝居ならば安価で楽しめるし良いこと尽くめだ。
会場の壁に白い布を張り、少し離れた場所に幻灯機がセットされる。
最初に映し出されたのは美しい浜辺の風景。
その横で女性講釈師が語り始めた。
「深い海の底に海の王様と6人の娘がおりました…」
「…ナイフを捨てた人魚姫は夜の海へと身を投げました。
『王子様を傷つけるくらいなら、私は消えてしまってもよいのです』冷たい海の中で人魚姫の身体はみるみるうちに泡となってゆきます。
『さようなら、王子様。私の望みは貴方が幸せであることなのです』
泡となって消えてゆきながらも人魚姫はそう言って優しく微笑みました。…おしまい」
その声を最後に絵の中の人魚姫が静かに消えてゆく。
シンとなった場内だったが、すぐに万雷の拍手と歓声に包まれる。
悲しい話に女性陣だけでなく男達の多くも涙している。
講釈師の力量もあるのだろうが、これならば十分鑑賞に値する。
「けど納得ゆかねぇっす。何であんなイイ子が消えなくちゃいけないんすか」
「ですよね、私が男だったら絶対に隣の国の王女様より人魚姫の方を選びますっ」
「やっぱ一番悪いのは王子っすよ」
「ホントですよー」
涙目のサムとシャオが何やら意気投合している。
ハッピーエンドでなかったのが不満のようだ。
その横でトアが『やっぱり原作版でなくD映画版にしておいた方が…』とか呟いている。
まだ始めたばかりだから反省点が多いようだ。
「では次の話に参りましょう」
今度は男の講釈師が前に進み出て、此方に向かって軽く会釈する。
「昔、あるところにモモタロウという青年がおりました」
「成長したモモタロウは犬族、猿族、鳥族の戦士と共にオーガキングが棲むというオニガシマへ向かって旅に出たのです」
戦記物ぽく脚色してあるからかオーガキングとの戦闘場面では勇ましい音楽の効果もあって誰もが歓声を上げて応援している。
悲しい話もよいが、俺としてはこうした楽しい話の方が好みだ。
「それでは最後に新作を…暑くなってきた今の季節にピッタリのお話です」
前に進み出てそんなことを言いだしたトアに怪訝な視線を向ける。
「聞いていないぞ。何をする気だ?」
「涼しくなる効果バツグンのお話ですよ。Mr.稲川がアップを始める頃ですから」
「…誰だ、それは?」
「まあ見てのお楽しみってことで。あ、講釈は私がやります。この手のものを話すのは得意なんです」
眉間に皺を寄せてる俺に軽く手を振るとトアが白幕の横へと立つ。
「これからお見せするのはとても怖いお話です。そういった物が苦手な方は退席をおねがいします」
「は?ちょっと待てっ!」
注意喚起をしているトアを睨みつける。
正直、俺はこの手の話が苦手だ。
幼い頃に屋敷のメイド達から聞いた夜中に失くした首を求めて彷徨い歩く首無し男爵の話がトラウマとなっているからだ。
以来、怪談話は極力避けていたのだが…。
「大丈夫っす」
「子供じゃないから平気です」
余計なことをと舌打ちしながら勇ましく胸を張るサムとシャオを恨みがまし気に見つめる。
だがそういわれて中座するのも忌々しい。
それに所詮は紙に描かれた絵だ。
大して怖い思いはしないだろうと渋々だが頷いて口を開く。
「…始めてくれ」
「はい、それでは」
トアが手を挙げて合図すると、たちまち周囲が薄暗くなり怪しげな音楽が場内に流れだした。
「廃墟と化した屋敷の壁に一枚の絵が掛かっていました。
その絵は見た者を1週間後に呪い殺す『呪いの絵』だったのです」
「…絵にある古井戸の縁に手が掛かり…黒い物が這い上がってきます。それは…長い、長い…黒髪の女」
トアの言葉に合わせて映し出された井戸から女が姿を現わす。
「え?…何でぇぇ!?」
「う、動いてる!」
「いやあっ、こっちに来るぅぅっ!」
場内が物凄い悲鳴で溢れ返る。
そんな中、ついに俯いていた不気味な女が顔をあげた。
「ひぃぃぃっ!」
近くであがった悲鳴を聞きながら俺の意識はブラックアウトした。
引っ切り無しにあがる悲鳴。
まあ、それも無理はありません。
何しろ動かないはずの絵が動いて、しかもメッチャ怖い貞〇がゆっくりと此方に向かってきてるんですから。
タネは簡単。
〇子の登場シーンだけ絵の数を増やしてもらってアニメーションにしてあるからです。
パラパラ漫画を紹介して同じ要領で画家さん達に頑張って描いてもらい、それをウェルに頼んで風魔法で素早く動かしている訳です。
ですがアニメなど見たことのない商会のみんなは完全にパニック。
阿鼻叫喚状態です。
「彼女は自分だけが助かったのは『呪いの絵を身代わりである他人に見せた』からであるという結論に至りました。最愛の息子を救うための犠牲として彼女は他の者に絵を見せることを決意し、暗雲たちこめる暗い空の下、布に包まれた絵を持って町へと向かったのでした。…呪いの絵は…もしかしたら明日にも貴方の下へ来るかもしれません」
最後のモノローグが終わっても誰一人として動こうとしません。
完全に魂が半分どこかに抜け落ちてます。
うーむ、やはりリ〇グは刺激が強過ぎましたかね。
四谷の怪談の方がよかったかな。
そう反省していたら。
「…トア」
ちょんちょんとウェルが私の袖を引っ張ります。
「ん?どうかした?」
「マロウが…目を開けたまま気を失っておるぞ」
「はいぃ?」
慌てて其方を見れば、マロウさんが器用に直立不動状態で失神してました。
「すみません。怖い話もダメだったんですね」
会場の別室のソファーに寝ている俺に向かいトアがしきりに頭を下げている。
「こんな醜態を晒すとは…一生の不覚だ」
ため息混じりにそう呟けば、ふわりと俺の頭に乗った優しい温もり。
「弱みをみせるのは恥ずかしいことじゃないですよ」
「何っ?」
「完璧を目指すのは良いことです。ですがそれに固執するあまりに心まで完璧になる必要はないと思いますよ。弱みをみせまいと心を鎧で覆う必要はありません。自分が足りないところを他人に補ってもらいながら人は生きてゆくものですから。それにお酒が弱かったり、怖い話がダメだったり。それはマロウさんの魅力の一つだと思います。俗にいうギャップ萌えです」
「…何だそれは」
呆れたようにみつめる先でトアが微笑む。
確かに唯一の味方である母が死んでから、ずっと俺は誰にも弱みをみせたことがなかった。
周りにいるのは敵ばかりで、そうしなければ生きてゆけなかった。
だが…本当にそうだったのだろうか。
俺がそう思い込んでいただけで、今までも俺の味方は他にいたのかもしれない。
そんな相手を俺が信じなかった。
だからずっと独りだと…勝手に自分を追い込んでいたのだろうか。
「少なくとも商会のみんなはマロウさんの味方ですから。もっと自分をさらけだして良いと思います。私の大好きな言葉に『アール・ド・ヴィーヴル(Art de Vivre)』というのがあるんですけど、意味は『自分らしく生きる』です」
「自分らしく生きる…か」
「ええ、その方が毎日が楽しいですよ」
「…そうかもしれないな」
今回の醜態は商会の皆の知るところとなった。
ならば取り繕ったところで却って恥の上塗りだろう。
「…急には変えられないだろうが、俺も自分らしく生きられるよう努力する」
毅然と顔をあげた俺をトアが嬉しそうにみつめる。
ああ、本当にこいつは爆弾娘だ。
こうして俺の心を覆っていた鎧を木端微塵に破壊して、別の俺へと変えてゆく。
だがそれは俺だけではない。
この世界さえもトアは大きく変えてゆくだろう。
その力となれるよう、これから俺は俺らしく生きてゆく。
この世界にトアという爆弾娘を連れてきてくれた神に心からの感謝を。
お前と出会えて良かった。




