123、神様にスカウトされて良かったです
白い、どこまでも白い空間。
そこをフワフワと漂う。
あれ、この感じ 前にもあったような…。
『ほいほい 十和子ちゃん。いや、今はトワリアちゃんじゃったか』
暢気この上ない声で登場したのは、笑顔の白髭のおじいちゃん。
『お久しぶりです、神様』
『うむ、元気そうで何よりじゃ』
『と言うか…このシチュエーションに思い切り覚えがあるんですが…私、また死にました?』
『いやいや、今回はちょいと話がしたくての。トワリアちゃんの夢の中にお邪魔したんじゃよ』
『それなら良かったです。まだこの世界で遣りたい事はたくさんありますし、別れたくない人も大勢いますから』
『ふむ、アーステアでの生活を満喫しとるようじゃな。良いことじゃ』
『はい、おかげさまで。…ところでお話って何です?』
『いや、トワリアちゃんに礼を言いたくての』
『お礼…ですか?』
『そうじゃ、アーステアの崩壊を阻止してくれたじゃろ』
『あれは私だけの力じゃありませんよ。この世界に生きる人達の願いが1つになったから起きた奇跡です。…それに神様も力を貸して下さいましたよね?』
『気付いておったか。ほんの少ーしだけじゃがの』
『でしたらお礼を言うのは私の方です。力を貸していただきありがとうございました。神様の助力が無ければ、あの奇跡は起こらなかったでしょう。でも良かったんですか?神力を行使して』
『ま、今回は特別じゃ。何もせんで世界が無くなってしもうたら本末転倒じゃからな。
本来は如何なる理由があろうとも神は直接、人の世に干渉してはならん。
人は祠廟に祈り、その祈りに込められた想いを吸い上げることでしか神は世の成り立ちに関与せんのじゃ。人の世は人が治めるものじゃからな』
『確かにその方が良いですね。
何の努力もなく神様が望みを叶えてくれるとなったら、人は精進も進歩も忘れて、ただ堕落するばかりですから』
『そう言ってもらえると助かるのう。
自らを研くことを放棄した者が辿るのは破滅への道だけじゃからな。
じゃが何もせんでおると「神は何事に対しても無慈悲、無関心、故にすべてにおいて平等である」と言われたりもするがの』
『神様も大変ですね。まさに親の心、子知らずですか』
『まあの、ワシはワシなりに世界とそこに生きるもの達を愛し、見守っているつもりなんじゃが』
『言いたい者には好きに言わせておけば良いです。
人にとって神様は高い崖を登る時の命綱のようなものだと思います。
崖の上を目指す時、命綱があれば安心です。
ですが命綱には登る助力は出来ません。
登ることは人が自分の手と足で行わなければならないからです。
万が一の時には助けてもらえると信じて、自らの力で登らなければならない。
神様の言う通り、人の世は人が治めるものですから』
『これは1本取られたの。
さすがはワシが見込んだ魂だけはある』
『それはどうも』
『で、お礼としてトワリアちゃんにプレゼントじゃ』
『いりませんよ。今あるだけで充分です』
『相変わらず欲がないのう』
『私にも欲はありますよ。ただ自分を知っているだけです。
前にも言いましたが、身の丈以上のものを手にしてもロクな事になりませんから』
『じゃが何か渡さんことにはワシの気が済まん。
何しろこの世界を救ってくれたのじゃ。それに見合うだけのものをやらんとのう』
『でしたら私ではなく、別のものにいただけます?』
『構わんが…』
『アーステアに点在する転移魔法陣ですが、それを争いや人を困らせることには使えないように出来ます?』
『無論じゃ。良かろう、邪な想いを持つ者には発動せぬよう加護を付けよう』
『はい、ありがとうございます』
『それでこれからどうするのじゃ?』
『私はいつも通りです。
差し当たってはサース大陸への旅ですかね。
出来たらウェルの故郷があるイース大陸にも行ってみたいですし。
後悔の無いよう神様にいただいた第二の人生をめいっぱい楽しむだけです』
『そうか、良いことじゃ。トワリアちゃんがアーステアで何を成すのか楽しみに見守ることとしよう。…では達者での』
ニコニコと手を振る神様に見送られ、私の意識は急速に覚醒してゆく。
目が覚めたら新たな旅が待っている。
きっと楽しい旅になるだろう。
私をこの世界に連れて来てくれた神様に心からの感謝を。
神様にスカウトされて良かったです。
いつも評価とブックマークをありがとうございます。
素人が書く拙い作品を気に入っていただき感謝に堪えません。
ですが最近、時間の無い中で書き続けた弊害が出まして、考えていた
エピソードを作中に入れ忘れたことが何度かあり、自分でも校正作業が
疎かになり完成度が落ちて来たと反省することが多くなって来ました。
他に書きたいお話も出来たこともあり、勝手ながら此処で一旦中締めとさせて
いただき続きを熟考することにしました。
早期再開を目指して頑張りますので、その時にはまた宜しくお願い致します。
それでは また(⋈◍>◡<◍)。✧♡




