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121、戦いの後は


「ご苦労じゃったな」

「まったくですよ」

 はあと深いため息をついて目の前で暢気にお茶を飲んでいる美少年ジジイを睨みます。


私達が無事に脱出したのでイブさんが手を離した途端、当然のことながら塔が周囲の建物を巻き込んで倒壊しました。

その中に新たな召喚陣施設も含まれていたのでそれは良かったのですが、それからが大変でした。


まずドラゴンが3頭も現れたことにより、また襲われるのではと信者さんや他国の民衆が抱いた不安解消の為に『神国を襲った闇竜を神の使いである光龍と雷竜が打ち払ってくれた』と発表。

おかげで大した混乱もなくすぐに騒ぎは終息しました。

これでお役御免、デラントに帰ろうと思ったら。

少しで良いので滞在を延ばしてほしいとエンジュ枢機卿さまから懇願されました。


『歌巫女の塔が壊れてしまって大変なの』と、暗に壊した責任は貴女達にもあるわよねと言われ(聖女面していても彼女も立派な腹黒でした)渋々ながら1ヵ月ほど神国に残って無能神官を〆たり、文官さん達の手伝いをしたり、フィナンシェを始めとする地球産のお菓子を作って振舞ったり、6歳児教皇さまと遊んだり、歌巫女さん達と歌の練習をしたりしました。

それもこれも美少年ジジイが手紙に『好きに使って良い』とか書いた所為です。


「まあ、これで神国も当分の間は安泰じゃろ。竜人国に行った枢機卿たちも戻ってくるそうじゃし」

「ええ、さすがはティール神官長さまです。あのアホ集団を見事に真面目人間に調教…いえ、(しつけ)直して下さったそうですから」

 ちなみにメタボだった体形も別人のようにスリムになったとか。

身も心もライ〇ップ並みに厳しい節制生活だったようです。



「そういえばヨウガル国に行ったカナメはどうしとる?」

「元気でやっているようですよ」

 美少年ジジイと再会した時の落ち込み方が凄かったので心配でしたが、立ち直ったようで良かったです。

あれはカナメ君が本当に気の毒でしたね。


「…誰だ、お前?」

「つれないのぉ、一緒に魔王討伐に向かった仲間じゃろ」

「は?…ま、まさか。…シェールか?」

「他の誰に見えると言うのじゃ」

「…うそだろぉぉっ!」

 その事実にまさにムンクの叫びと化したカナメ君。


「な、何で男になってんだよっ」

「おや、知らんかったのか?エルフはの」

 と、エルフの雌性先熟(しせいせんじゅく)という種族特性を説明されてムンクの叫び再び。


ちなみに雌性先熟とは、小さいうちは雌として繁殖を行い、ある程度の大きさに育ったらより効率よく自分の子孫を残せる雄に性転換することです。


「お、俺の初恋が…」

 そのままorzな態勢になって打ちひしがれるカナメ君。

「何じゃ、好きなのはルーナスではなかったのか?」

「ルーナは親身になって世話をしてくれてたから…綺麗なお姉さんって感じで憧れてただけだよ。好きなのは…シェールの方だったのに」

 初恋の相手がしばらく会わないでいたら男になってた。

私も新宿でばったり再会した好きだった同級生がニューハーフになっていた時は一瞬、頭の中が真っ白になりましたからね。

気持ちは分かります。

カナメ君もさすがにショックが大きかったようで、その後丸一日寝込んでました。

御愁傷さまです。


そんなカナメ君を見かねて旅への同行を申し出てくれたのがサラさんです。

カナメ君のヘタレなところが愛するヤサカさんによく似ているので、放っておけないんだとか。

で、今はサラさんの助手としてサミーと復興のお手伝いをしてます。


サラさんはヤサカさんの望みであった召喚陣破壊が無事に成就したので、もう用は無いと神国の治癒院を辞めてヨウガル国へ向かいました。

地球で言う国境なき医師団のように医療活動をしながら疲弊した村や町を回っています。

カナメ君のはその助手兼ボディーガードですね。


ちなみにサミーは『僕が側にいないと心配だから』とカナメ君に付いてゆきました。

人族にしたら小学生に心配される元勇者(笑)。

当人は『そんなに頼りないか、俺?』と落ち込んでいましたが、サラさんもあれで結構な天然さんなのでサミーが一緒なのは心強いようです。


治療だけでなく畑を荒らす魔獣や盗賊の討伐をしたり、恋に悩む子の恋愛相談に乗ってあげたり、偽薬を売る詐欺グループを捕らえたりと、3人で仲良く珍道中を繰り広げているようなので一度様子を見に行こうと思ってます。




「メルさんから連絡が来ましたが、転移魔法陣の起動に成功したそうですね」

「おお、トアちゃんの言う通り少しばかり手を加えて物流のみでの運用にしたそうじゃ。これから魔法陣がある国同士で使用料などを取り決める為の役員会を開くとか言っておったな。早ければ冬が来る前に稼働できるようにしたいようじゃ」


「楽しみですね。これで物流がスムーズになれば多くの人がその恩恵を受けられるようになります」

「そうじゃな、ノース大陸の希少な薬草やサース大陸の珍しい食材を短時間で取り寄せることが出来るようになれば、人の生活も大きく変わるじゃろ」

「ウチとしてはカオオ豆の確保が容易になるので有難いです。サザンチョコレートの売り上げは伸びる一方ですから」

「そうじゃのう。…サザンといえば少々面倒臭いことになっとるぞ」

「はい?」

 思わず聞き返して、その内容に頭を抱えます。



どうやらマリキス商会の繁栄を我が物にしたいと動き出した一派がいるようで、彼らが画策したのが私と第2王子との婚姻だそうです。


「何処のアホですか。そんな世迷言を言い出したのは?」

「中心になっとるのはセロン侯爵家じゃな。ロウズ家事件で子飼いの多くが取り潰されたり更迭されたりして弱まった勢力の回復が狙いのようじゃ」

「究極のアホですね。そもそも私は生まれも育ちも正真正銘の平民ですよ。王家に嫁入りなんて出来る訳が…」

「そこは裏技じゃよ」

「は?」

「それなりの格の家の養子とすれば身分は関係なくなるからの」

「だとしても御免被りますよ。確か第2王子はディーノさまでしたっけ」

「そうじゃ、トアちゃんと同い年の14…いや、先月15になったかの」

「王さま主催のガーデンパーティーで会いましたけど…短慮でクソ生意気なガキんちょでしたね。あれを夫にって…天地がひっくり返っても有り得ません」

 見掛けはどうあれ、中身は立派なオバちゃんですからね。

自分の息子より年下の子なんて、そもそも恋愛対象にすらなり得ませんよ。


「相変わらず王族に対しても容赦なしじゃの。…安心せい」

 私の言葉に、くくっと美少年ジジイが楽しそうに笑います。

「…何を(たくら)んでいるんです?」

「えらい言われようじゃな。婚姻などとそんなことを言っとるのはセロン侯爵とその取り巻きだけじゃ。王太子殿下も宰相さまもサザン侯爵も断固反対を唱えておる。曰く『彼女のような爆弾を抱えきれるほどの器量は我が国にはありません』だそうじゃよ」

「…失礼な」

「まあ良いではないか。トアちゃんとは付かず離れず、程よい距離での付き合いがお互いの為と国の首脳部が認識しておるということじゃからの」

「それは有難いことですが…」

「しかし、用心に越したことはないぞぃ。貴族という(やから)は我が身可愛さに思わぬ行動を取ることがあるのでの」

「御忠告ありがとうございます。気を付けます」

「くれぐれも派手に返り討ちになどせんように」

 心配はそっちですか。

ですが向こうからケンカを売ってこない限りは何もしませんよ。

自分から打って出るほどこっちは暇じゃありませんから。




「面倒事と言えばもう一つあっての。此方の方がちと厄介じゃ」

「何です?」

「トアちゃんがハルキスの名で発表した万能薬についてじゃよ」

 ああ、やっぱりですか。

如何なる病も治す夢の薬である万能薬。

これが実在するとなると、いろんな金の亡者が寄ってくると予想はしてましたが早々にトラブル発生のようです。

さて、どうしましょうね。







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